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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
四章【孤島の勇】
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『北大帯洋の戦闘』⑤

(…………………………まだ……まだだ……。我はまだ…………目を閉じるわけには……いかない……)


 ブレイヴはまだ意識は失っていない。

 海に落ちるまであともう少しだが、まだ終わってはいない。


「……何やってんだよブレイヴ。まだまだだろ? 全部終わらせて……俺達の行く末を見届けるんだろッ!? そのためにお前は島を出たんだろうがッ!」

「……そうだ。その通りだ」

「なら動けよッ!」

「……聞けユウキ。我が何故……『伝説のクロガネ』と呼ばれているか……」

「あァッ!?」

クロガネは……搭乗者がいなければ戦えない。そして搭乗者は、生まれつきそのクロガネと適合している者でなければならない。しかし……我だけは違う」

「知ってるよそんなこたァ! だからお前に会いに来たんだろうがッ!」

「フッ……。だが、それだけではない」

「!?」

「我だけは搭乗者を選ばない。だからこそ長きに渡り戦い続けることが出来た。だがそれだけでは勝ち続けることは出来ない。それだけでは、『伝説』とまでは呼ばれない」


 その時点で、ユウキは何故か察することが出来た。

 適合などとは無縁だとしても、二人はどこかで通じ合っていた。


「…………俺はいつでもオーケーだぜ」

「大勇を掲げろユウキ。それが唯一の条件だ。我に限っては……な」



 そしてシドウは、確かにブレイヴの体から、自分のコアに近い()()()()()()()()()()()ことに気付いた。


「……ッ!? シャハ……シャハハハハ!」


 彼らの途方もなく熱い感情が、氷を完全に溶かしきる──



「「『超同期オーバーシンクロ』ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」」



 それを受け、シドウのコアの光は輝きを増し始めた。


「良いぜオイッ! 笑えるじゃねェかッ! こっちも応えねェとなァ! 『覚醒レイズ』ッッ!」


 体からも青い光を溢れ出させる。

 限界に到達したクロガネに対し、ノイドの限界を放出する。

 お互いがお互いに、限界の力をぶつけ合うことになる。


 そして光に溢れたクロガネとノイドが、上空で激突した。

 その衝撃だけで、大気は張り裂け、波は暴れ始める。


「「ストリング」」

「ハイドロ」

「「ブレイヴ……!」」

「シャーク……!」

「「バーストッ!」」

「キャノンッ!」


 巨大な糸の放出と、強烈な水の大砲がぶつかり合う。

 だが、打ち消されたのは────糸の方。


「「!?」」

「飲まれろォォォォォォォォォ!」


 二人は威力を増したシドウの高圧水流をもろに食らい、そのまま吹っ飛ばされる。


「「ああああああああああッ!」」

「シャハハハハハハハハハ!」


 しかし、二人はすぐに体勢を立て直し、また次の攻撃へ移ろうとする。


「「まだ……まだァ!」」

「硬ェじゃねェか! だが俺には勝てねェ! 何故か分かるか!? 久々に出したクロガネの限界と、日頃から出し続けてきたノイドの限界ッ! 戦い方の問題じゃねェ! シンプルに出せる力が違ェんだよッ!」

「「おおおおおおおおッ!」」

「シャハハハハハ! 分っかんねェかなァッ!?」


 笑いながら、どこか苛立ちを感じさせるような声だった。


「「ストリングブレイブレットッ!」」

「ハイドロシャークショックッ!」


 巨大な二つの糸弾と水弾は、ぶつかってすぐに相殺される。

 確かにブレイヴはまだ、その力の限界を上手く操り切れていない。

 だがしかし、特別強大な力を持つ彼は、勘を取り戻すのも早かった。今度は打ち消しも相殺もされない。彼はそう確信していた。


「……ッ! ここまでやるたァ驚きだッ! たいしたクロガネだぜッ! 『伝説』は伊達じゃねェってかァ!?」

「我だけの強さではない。我の固有能力は、『ハイディメンジョン』。これはただ……搭乗者の持つエネルギーを、高次元に増大させるだけの能力。搭乗者に元々のエネルギーが備わっていなければ、我の限界値もそれに伴い低くなる」

「……ハッ! そいつはどうも!」


 ブレイヴは誰が乗っても『超同期オーバーシンクロ』に至ることが出来るため、個の能力は並外れている。

 ただ、彼の限界を決めるのは、彼に乗るヒトだ。

 次第にユウキとの同化による限界を理解し始めると、もうブレイヴに不安はない。




「……俺に勝って、それでどうする?」




 ここでシドウは、突然また笑みを解いた。


「……? 何を言っている?」

「中の奴ッ! テメェにも聞いてんだッ! 顔出せよッ!」


 企みの読めないユウキは、それでも一度、コックピットを開けた。

 開ける必要が、ある気がした。


「……何が言いてェんだ?」

「……ハチマキ野郎……。テメェがアレか。確か……いや、忘れちまった。まあいい。俺を倒して、エヴリンもぶっ飛ばして、そして逃げて、そんでどうする?」

「だから何が言いてェんだよ」

「俺は、テメェらを全員殺す気で来てるぜ」

「……!?」


 そして、またシドウは笑い出す。これだけ水を潤わせておきながら、非常に渇いた笑い声だ。


「シャハハ……。どっちかだろ? 俺らが死ぬか。テメェらが死ぬか。二つに一つだ。それが戦争だぜ」

「俺は……その戦争を止めるために──」

「舐めてんじゃねェぞッ!」

「……ッ」

「俺はテメェらの前に立ちはだかったッ! だったらもう俺を殺しに来ないわけにはいかねェだろうがッ! 俺はテメェらを殺すッ! ここで負けても、命が助かったなら皆殺しに行ってやるッ!」

「何でだよ……ッ! お前にそこまでする動機はねェだろ……ッ!?」

「何も分かってねェ……分かっちゃいねェ! 戦わずにいりゃ何も手に入らねェってのァ、先史時代から決まってんだよッ! そうだろ!? ブレイヴッ!」

「…………ッ!」


 ここで言葉を返すことが出来ない。ブレイヴは、そんな自分を腹立たしく感じている。


「……俺は必ず手に入れてやる。テメェらに教えてやるよ。…………()()って奴をな」


 シドウから溢れ出る光が、一瞬消えた。





「…………『超過ネクスト』…………」





 シドウの後ろに、光背のようなものが出現する。

 そして再び、彼の全身から光が溢れ出す。光沢のある、青色の光が。


「……何だよ……それは……」

「……馬鹿な……」


 光の所為か、瞳や髪にも光沢が出ているように見える。

 いや、実際に色が変化している。機械の血管も、所々浮かび上がっている。


「……クロガネの限界を突破した姿が『完全同化シンクロ・フル』なら、ノイドの限界を突破した姿がこれだ。『完全同化シンクロ・フル』は本体が死ぬ恐れがあるが……俺達の『超過ネクスト』はそうじゃない。逃げ続けても、逃げ続けても、戦いってのァ終わらせられねェんだ。……覚悟の準備を、済ませておけよ」

「「…………ッ!」」



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 右手を高々と掲げ、これまでの出力を遥かに上回る、巨大な渦潮を出現させる。

 同時に左手を掲げ、巨大な氷の刃を作り出す。

 いずれもブレイヴの大きさを遥かに上回る、途方もない大きさだった。


「二つの異なる状態変化を同時に使えるのは、『超過ネクスト』の状態になった時だけなんだ。じっくり味わえよ……シャハハッ!」


 それらを生み出した所為で、周囲の雲は消え失せてしまった。

 そして海には、巨大な影が生まれる。


「……」


 ユウキはもう、表情すら動かす余裕を失っていた。

 これまでの高圧水流とはわけが違う。津波も巨大だったが、大きさが比べ物にならない。

 遠くにある二つの船を合わせても足りないほどの、巨大な渦潮と氷の刃。

 避けるには範囲が広すぎる。糸でどうこう出来るものではない。

 渦潮で飲み込まれ、氷の刃で貫かれたなら、待つのはただの────『死』のみだ。

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