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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
四章【孤島の勇】
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『デウス島の一件』③

 ユウキ、サザン、アウラとソニック。彼らの中で、まだ戦意が足りていないのは──アウラだった。


「ユウキ・ストリンガー! 僕はまず、貴方に聞きたいことが──」


 そして最も戦意で満ち満ちているのは、やはり当然まさしくユウキ。


「オラァッ!」

「!?」


 完全無欠の不意打ちで、『超同期オーバーシンクロ』の威力を発揮する間も与えない。

 彼の伸ばした糸は、確かにソニックの装甲にまとわりつく。

 そして捉えてすぐに、いつもの技だ。


「ストリングバースト!」

「「ッ!」」


 だが、ソニックの速さは糸で抑えきるレベルを超えている。

 彼のサンダークラップで、ユウキの必殺技はあらぬ方向に飛んでいった。


「……くッ! 話し合う気はやっぱり無しか……!」

「アウラッ! 『超同期オーバーシンクロ』する意味あるか!? この敵相手に!」

「僕らの敵は、『油断』だけだよ」

「……! なるほどなァ!」


 アウラは至って冷静だ。目の前のユウキとサザンを相手に、今も『全力』で『手加減』している。

 そしてサザンはここで、一瞬の思考を働かせた。


(連合軍も反戦軍を……!? ならば……ッ!)


 そして、すぐさまユウキに向かっていく。鋏を広げ、声も上げて。


「ユウキ・ストリンガァァァ!」

「あァッ!?」


 そうなると困るのはアウラ。彼はユウキと、反戦軍と話をしに来ただけだ。

 ニュースにもなったエルドラド列島での民衆攻撃の事件が、捏造ならば彼らを見逃し、そうでないならここで壊滅させる。

 そして事実かどうかを決めるのは、反戦軍の受け答えを見た自分自身。

 途轍もなく勝手な話だが、とにかくアウラはそんな身勝手を許される『力』を持っている。

 唯一困るのは、『力』をぶつける相手を消されること──


「ま、待て! 〝顎鋏がくばさみ〟ッ!」


 アウラはソニックを操り、サザンを軽く殴り飛ばすことにする。

 驚くことに、サザンはされるがまま殴り飛ばされてくれた。


「がッ……!」


 それがサザンの策だと気付いたのは、このすぐ後。


「「!?」」


 サザンを殴り飛ばした後、アウラは一瞬ユウキの姿を見失った。

 しかしすぐにその在処は分かる。

 彼は今──ソニックの背中に乗っていたのだ。


「へへッ! さっき括りつけといた。俺よかすげェ速ェがよォッ! お前にくっつきゃ俺も速いぜ!? お前と同じくれェになァッ!」


(……しまったッ! 〝顎鋏がくばさみ〟サザン・ハーンズ……なんて奴だッ! 自分がユウキ・ストリンガーを襲えば僕が隙を作ると判断して……僕らをユウキ・ストリンガーに攻撃させる!? 一瞬で思い付く発想じゃない! この状況で、この場所で、この人が、一番判断力を持っている!)


 だがサザンの方に目を向けている暇はない。アウラはソニックの速度を上げて上昇し、ユウキを振り落とそうとする。

 しかし彼は糸で自分を括りつけているので、全く振りほどけそうにない。


「放さねェぞオイ! 覚悟しろよソニック! そしてアウラ・エイドレスッ!」


 ユウキはここで、後のことよりもまずここで、全力の必殺技をソニックにぶつけるべきだと考えた。


(まだ速くなんのかよッ! この機を逃しちゃもう終ェだ……ッ! 畜生間違いねェ……! この中で、この戦いで、コイツらが、一番潜在能力を持ってやがる!)


 ならば、全力を出さない意味は無い。


「ストリングゥゥゥ……」


 殴り飛ばされたサザンは、すぐにその場で立ち上がり、上空で揺れ動くソニックの様子を窺う。


(最初に倒すべき相手……貴様は私と同じ判断だったようだな、ユウキッ! さァ食らわせろッ! この瞬間、この局面において、貴様が一番……躊躇いを持っていない!)



「バーストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」



 ユウキの糸は、ソニックの装甲を貫通する。コックピットの中にいたアウラのことも、襲い掛かった。


「うあァァッ!」

「があァァァァァァッ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 アウラの精神力は、多少の傷では屈しない。

 攻撃を食らってもなお、すぐにユウキを振り払う手を思い付く。


「この……ッ!」


 ソニックの背を地面に向けて落下する。こうして背にくっついたユウキを機体と地面で挟もうとすれば、ユウキは押し潰されるのを回避するしかない。


「チィッ!」


 ユウキは、後方宙返りをしながらソニックから離れた。

 おかげで傍から見れば、ユウキの攻撃に耐えかねて落下したかのような形だ。


「ぐォォ……」

「大丈夫? ソニック」

「……そ、そういうおめェはどうなんだよ……」

「……まだまだいける。油断しないようにしていたけれど……この二人は僕より、戦闘経験が多いらしい……!」


 眩しく光を放ちながら、ソニックはゆっくりと立ち上がった。サザンはそれを見て動揺する。


(……ッ! 今のを食らってもまだ……戦えるのか……!?)


「……なんて奴だ。〝連合の疾風〟……!」


 立ち上がる姿に愕然とした二人を見て、アウラはこれを好機と見る。無論、話し合いの為の好機だ。


「……どうして、先に攻撃してきたんですか? ユウキ・ストリンガーさん」

「あァ!? やらなきゃやられるだろうがよォ! お前は何しにここに来たんだ!? 俺らを潰すためにだろォ!?」

「……場合による。貴方たちが『悪』でないのなら、僕は貴方たちを見逃すつもりです。それが許される『力』を、僕らは持っていますから」

「ハッ! 力がありゃあ偉ェのかァ!? お前は自分が『正義』のつもりか!? 誰の差し金で動かされてるのかも、知らねェだろうによォ!」

「……! そ、それは一体どういう……」

「……ッ!」


 ユウキはまたすぐに攻撃を仕掛け始める。考えなしに突っ込むのが、彼のスタンダード。


「馬鹿ッ! 正面から──」

「「オフショット」」

「「!?」」


 ソニックは、高速移動で残像をいくつも生み出した。

 これでユウキは突っ込むべき相手を見失う。そのままソニックは、上空高くに飛んでいった。


「逃げるなよアウラッ! ソニックッ!」

「おいアウラッ! 逃げんのか!?」

「君まで何言ってんだよソニック。……今の反応で大体分かった。帰るよ」

「「何ィ!?」」

「ソニック……」


 ユウキと声を揃えるソニックに、アウラは呆れて溜息を吐いた。

 『同期シンクロ』状態では、アウラの方がソニックの体の動きを支配している。

 彼の意志は無視して、そのままユウキとサザンの視界から去ることにした。


「あの野郎……」

「本気で勝つ気でいたのか? ユウキ」


 そしてアウラとソニックがいなくなれば、再びユウキとサザンがぶつかる番だ。


「あ? どういう意味だよサザン」

「相手の力量も測れないのか?」

「ンだとてめェ……!」


 サザンはその鋏状の右腕を振るう。


「……本当に、貴様らは関係していないのか? エルドラド列島の事件に」

「だからッ! 俺の言葉を信じんのかよお前はよォ!」

「……自分の意見も言えんのか?」

「…………知るわけねェだろ。お前だって……分かってたはずだぜ? なのに来た。信じるべきじゃない奴の言葉を信じてなァ!」

「私は私の信念に従って生きている」

「じゃあ何しに来たんだよオラァッ!」

「貴様と決着をつけに来た。いずれにしろ貴様らの活動も、この辺りが引き際だ」

「……決着? ああ決着か。何だよだったら初めからそう言えよこの野郎! だったら話は簡単じゃねェか!」

「貴様は簡単に捉えすぎだ」

「お前は複雑に捉えすぎなんだよッ! 喧嘩に理由は要らねェだろッ!? なァオイッ!」

「それはそうだ……!」


 互いに理解を終えたのち、それでも彼らは衝突する。

 ただひたすらに、目の前の一人の男に対し、己の力を見せつけるため。

 一度生まれたしこりのような何かを、発散させてみせるため。

 それが、この二人という生き物だった。


     *


 そんな二人の戦いを、上空のアウラとソニックはまだ見ていた。


「戦う必要がないと知って……何で戦うんだ……」

「それが男だからよッ! 混ざるか!?」

「混ざらないよ。帰るフリして二人の様子を窺うって、言ったろ? いやでも……何で戦ってるんだ……」

「男の意地って奴だろ!?」

「……僕、自分が同じ『男』なのか不安になってきた」

「混ざるか!?」

「ソニック……」


 混ざれば自分たちが勝利すると分かっていた。だが、必要なのはそんなことではない。

 島の東側の岸に停泊している反戦軍の母船を視界に入れ、アウラは冷静にこれから先の行動を思案する。


(反戦軍の他のメンバーに話を聞くべきか……。いや、ユウキ・ストリンガーは幹部だ。彼が知らないと言っている以上、他のメンバーも同じ答えを言う。彼らのやり方が正しいわけじゃない。でも、僕らのやり方も……正しいとは言えない。……一体誰が……何を狙っているんだ……?)


     *


 ユウキとサザンの戦いは、そこまで長くはならなかった。

 明らかに、ユウキの動きが鈍くなり始めたからだ。


(ユウキ……何故だ? 何故私以上に疲労を抱えている……? あのクロガネもどきのような物に手こずったのか? ……いや、違う!)


 サザンは頭の回転が速い。すぐに先程地下に向かったカインの存在を思い出せた。

 ユウキは恐らく、カインを守って傷を負っていたのだ。サザンはすぐにその結論を出してみせた。


(あの帽子の子どもを庇って……戦っていたのか!? クソ……ッ!)


 ここで苛立ってしまうのが、彼の愚直なところ。

 対等な条件でぶつかり合えないというのが、わだかまりを生んでしまう。


     *


「……サザン・ハーンズが優勢だね。ソニック」

「だいぶ疲れてやがるな。ユウキ・ストリンガーの方は」


 二人の見守る中、ユウキは一切弱音を吐きはしない。

 そもそも自分の方が不利を被っているなどとは、微塵も思っていない。

 彼は、対等な条件で戦っているつもりでいるのだ。


     *


「がッ……!」


 ユウキが後方確認を怠り、木に背をぶつけた。その瞬間に、サザンは鋏で襲い掛かる。

 ユウキの体力は既に限界に近い。いつもの技を溜めても、そこまでの威力は出せない。

 だが、出さないわけにはいかない。


「ストリングバーストッッ!」

「シザークロスッ!」


 そして、勝負は決した──


     *


「……終わったね」

「今度こそ帰るのか?」

「『混ざるか?』と言われなくて良かった」

「ばァか。漁夫の利ってのァ、野暮ってモンだぜッ!」

「それはそうだ…………うぐッ!」

「おいおい大丈夫…………がッ!」


 二人とも、先のダメージが今更になって痛みとして出てくる。


「……くッ。肩に穴が開くのって……こんなに痛いんだね」

「!? だ、大丈夫じゃねェじゃねェかッ! 急いで帰る……う、ぐぐぅ……ッ!」

「……取り敢えず、また僕らに足りないものが分かった。状況判断能力と、即断即決する能力……だね」


 そして、アウラとソニックはここで帰還することに決めた。

 作戦は無視しているが、関係はない。気になっていた情報は得られた。

 確かに連合の上層部には、『何か』を企んでいる者がいる。


     *


「……貴様の全ては断ち切った」


 そしてサザンは、悔しげに歯を軋ませた。

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