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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
四章【孤島の勇】
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『デウス島の一件』②

 襲い掛かる鉄屍クロガネゾンビを粗方片付けたユウキとカインは、島の中心に辿り着いていた。


「ハァ……ハァ……」

「兄貴……俺……」


 ユウキは多少の疲労を抱えているが、無事でいるのは確かだ。


「あァ? おいおい一丁前に心配すんなよ。そういうのはよ、男上げてからにしようぜ。なァオイッ! カインッ!」

「男を上げる……?」

「お前は強くなれる。なにせ、俺の女にオリジナルギアを託された男なんだ」

「……!」

「……ま、急ぐこたねェよ。いつか……ああ、いつかの話さ。……っと、結んでおくぜ」


 緩んだハチマキを結び直す。ユウキは前しか向いていない。

 カインは未熟な自分自身を歯痒く感じ、拳を強く握り締めた。


 二人の目の前には、巨大な像がある。

 島の中心にある巨大なドラゴンの像。そのすぐ下には、小さな遺跡があった。『地下』に繋がる道がある、小さな遺跡だ。


「……何だあの遺跡は……」

「あ、兄貴。もしかしたらあの下に……」

「ああ。『伝説のクロガネ』ってのが、いるのかもしれねェな……」


 一番に怪しいのは間違いなくここ。二人はそのまま遺跡の地下に向かおうとした。

 その時──



「ユウキ・ストリンガーッ!」



 その声の正体を、刹那で理解するのがこの男。


「サザン・ハーンズッ!」


 当たり前のように話し合うこともなく、二人はそこで衝突する。

 鋏と糸の、二度目の衝突。


「な……」


 一人反応が遅れるのはカイン。彼はその場で尻もちをついた。

 ユウキは鋏の打撃を糸で防ぎ、笑みを見せる。


「……ハッ! また会うたァな! なァオイッ! 〝顎鋏がくばさみ〟ッ!」

「ッ……仲間はどこだ?」

「言うと思うか馬鹿バサミッ!」


 ユウキはサザンを押しのけて、後ろのカインに声を掛ける。


「……おいカイン。先に下に行ってくれ」

「え!? で、でも……」

「……頼むぜ。弟分」

「……ッ! わ、分かった!」


 カインはズレたハンチング帽を被り直し、走り出した。

 額に汗をかくユウキは後のことをカインに任せ、目の前の敵に集中する。

 集中しなければ、たとえユウキでも相手に出来る敵ではない。カインも自分がまた足手まといになると考えて、ユウキの指示に従ったのだ。


 サザンは仲間を逃がすユウキの姿を見て、やはり先日の事件が捏造であるような気がしていた。


「……聞くがユウキ・ストリンガー。あの事件は……」

「ハッ! 聞くってこたァ、お前は分かってるってことだ! ……自分を信じろよ。お前はきっと、間違えねェぜ?」

「……そうか」


 それは最早、答え合わせと同義だった。


「ストリングバーストッ!」

「!?」


 だがユウキは、己の最大技をこのタイミングで撃ち放つ。

 この流れで驚いたものの、サザンはすぐさま避けてみせた。

 ユウキの糸は木々いくつか貫通して、それらをなぎ倒すだけで済む。


「貴様何故今!?」

「うっせェ! 油断を誘おうったってそうはいかねェぞ! 俺の話なんざ、お前が信じる道理もねェしなァッ!」

「い、いや、私は……」

「ここに来たってことはそういうことだろッ!? 仲間を危険な目には遭わせられねェ! 今ここで……ぶっ飛ばす!」


 ユウキからすれば、喧嘩を売って来たのは帝国と国家連合。

 だが彼は理解できていない。喧嘩を売ってきた相手は、そんなに膨大な数の相手ではない。

 そもそも事件の詳細すら知らず、敵を絞り切れていないのだ。


 糸弾の攻撃を始めるユウキと、それを鋏で弾くサザン。

 防戦一方でいるのは性に合わないので、サザンの方もユウキに攻撃をする。


「ユウキ……ストリンガー……!」

「切れねェよッ! 俺の糸はァッ!」

「切れんわけがないッ! 私の鋏でッ!」


 森の中を駆け回りながら、ユウキとサザンはぶつかり続ける。

 ユウキは地の利を得るために、攻撃しながら木々に糸を張り巡らせようとするが、サザンはそんなユウキの意図を理解して、攻撃しながら木々を切り落とす。


「蟹みてェなくせして機敏じゃねェか! 真っ直ぐ進めるたァすげェな、サザンッ!」

「蜘蛛のようなくせをして、害虫の区別もつけられない! 巣作りで忙しいらしいな、ユウキッ!」


 近接を狙うサザンに対し、ユウキは距離を取って戦おうとする。

 そのためサザンは鋏で木を掴み、ユウキに向かって投げつける。

 避ける方向は限られる。追い詰め、鋏で攻撃すれば、今度は糸で防いでみせた。

 それでも鋏の威力は高い。鋏は確かに──糸を切った。


「ッ!?」

「キィッ!」


 近接ではサザンが有利。距離を取ろうとするユウキの判断は正しかった。

 だが、ここで一度追い詰められたのは、ユウキの様子見の一環。

 すぐにユウキは、ジェット・ギアで自分を飛ばしてサザンを躱す。

 リスクを負い、ここで糸で防げるかどうかを確かめただけ。

 本来彼は、投げつけられた木を避けるべきではないと、そう判断していた。

 糸で木を破壊すれば避ける必要はない。距離を詰められないように戦い続けることは出来る。

 体力の上限は拮抗している。だが今のユウキは、だいぶ疲労を抱えていた。

 微妙な間合いを保ちながらの戦いは、決着まで時間が掛かる。

 そうなればユウキが不利。だから彼は今ここで……小さく舌打ちをした──



「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



 その時。二人の間に地中から、巨大な鉄屍クロガネゾンビが現れる。

 これがこの島の、防衛システムの第二段階。同時に、侵入者を排除するための最終手段だ。

 鉄屍クロガネゾンビは意志を持たないが、プログラムでヒトを乗せずに自立稼働している。

 この巨大な一体もそう。目の前の敵を躊躇なく屠ることが出来る、完全な兵器だ。


 が──



「「邪魔を」」



 二人は共に、先に倒すべき相手を見据えていた。



ドガァァァァァァァァァァァァン



「「!?」」


 巨大な鉄屍クロガネゾンビは、唐突に破壊された。

 だが二人ではない。

 鉄屍クロガネゾンビを破壊したのは、ユウキとサザンの二人ではない。



「「『超同期オーバーシンクロ』」」



 乱入者を倒したのは、また別の乱入者。

 アウラとソニック。強大なはずの敵を一瞬で倒した二人は、そのまますぐに『次』の段階に移る。

 若緑色の光が、ソニックの全身から溢れ出していた。


「お前は……ッ!」

「コイツは……!」

「この人達は……」


 この場にいる全員が、全員それなりの知名度を持っている。

 加えてユウキは全員に会ったことがある。分からないわけがない。力むのも当然。

 火蓋はここで、開かれた──


     *


 カインは遺跡の地下に降りていた。

 そこはとても広々とした空間で、暗闇で周囲はよく見えない。


「ここは……」


 キョロキョロしながら辺りを探るカインだが、気配が降りてすぐ感じ取った。

 その、細身で真っ白な装甲を持つクロガネの気配は──



「……ノイド……か」



 頭に布を巻いている姿は、カインには暗くてよく分からない。


「……ッ!」

「……何故この島に来た。目的は……何だ?」

「……で、『伝説のクロガネ』の……ち、力を……貸して……ほしくて……」

「……馬鹿馬鹿しい」

「え?」

「人間にも、ノイドにも、力を貸すつもりはない。……去れ。子どものノイド」

「…………え?」


 カインは、思わず勢いよく頭を上げた。その所為でまた帽子がズレる。

 そして、ズレを回転させて直した。


「……何だ?」

「いや……だって……」


 カインは純粋な瞳のまま、そのクロガネの目を確認した。

 濁りは無いが、明るさは消えているその目を。



「……君は違うよね? 君は……『伝説のクロガネ』じゃない……よね?」



 まるで、当たり前のように疑問に思っているカインを見て、そのクロガネは体をピクリと動かした。


「……お前……!」

「え? そうだよね? その……出来れば、本人に会いたいんだけど……」


 真っ白なそのクロガネは、少しずつ前に出てくる。それが、動揺の表れだ。


「何故……そう思った……!?」

「? え、そりゃだって…………。……確かに……」


 自分で言っておきながら、疑問を抱いたことに疑問を持つ。

 カインは何故自分が目の前のクロガネを『伝説のクロガネ』だと思えなかったのか、分からなかった。

 顎に手を当てて思索するが、その理由は見つからない。


「……何なんだお前は……」

「……ま、まあそれはともかくとして、どこなの? 『ブレイヴ』っていうクロガネは……」

「黙れ。去れ」

「うぅ……」


 しかしカインは、ここで帰るわけにはいかない、



 ──「……頼むぜ。弟分」



 ユウキが自分を家族のように扱ってくれた。家族が一人もいなかった自分にとって、その一言がどれだけ嬉しかったか。

 彼の役に立ちたいと思っていた。だから、まだ引き下がるわけにはいかない。


「……じゃ、じゃあ……名前を教えてよ」

「何?」

「そっちの……名前。それくらいは聞いても……良くないかな? ……なんて」

「……」

「な、何だよ! それくらい良いじゃん!」


 もうやけになっていた。何かをしなければならないという感情だけで、カインは目の前のクロガネと対話しようとしている。


「……ク……」

「え?」

「…………トルク……だ」

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