表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
三章【月夜の帝座】
45/158

『外患容疑者監察任務』③

 クロガネマガイの六丁の小銃ライフルが、激しく火を吹く。

 しかしサザンは瞬時にジェット・ギアを使用し、空中に飛び上がった。

 六丁あるとはいえ、その銃口の向く先は全て一定。一つを避けようとすれば、自然と全てを避けることが出来る。


Speedy(スピーディ)!」

「この程度ッ!」


 サザンは鋏を振り被り、鉄紛クロガネマガイを破壊しようとする。

 彼の攻撃力なら、一撃で仕留めることも可能だ。


But(バット) …」

「!?」

「……攻撃は…… Slowly(スロウリー) …」


 サザンの鋏の重さは、十四・二キログラム。

 身体能力が鍛え上げられているサザンだから軽快に動くことが出来るが、それでも攻撃する時だけは鈍さが生まれてしまう。

 特にジェット・ギアでの高速移動を目にした後では、その動きはより遅く感じられる。

 サザンが空中で鉄紛クロガネマガイを両断しようとしたその瞬間、鉄紛クロガネマガイは光を放った。

 それは、視界を一瞬だけ防ぐが、その後の目に悪影響を与える程ではない光。



「エレクトロ・ギア」



 その光の正体は、『電撃』だ。


「ッ!? が……あァァァァァァァァァァ!?」


 背を狙ったサザンだったが、それが良くなかったのかもしれない。

 鉄紛クロガネマガイの背から放出された電撃は、サザンに直撃した。

 たまらず彼はそのまま地上へと落下する。

 彼を受け止めるものも何もない、広い荒野の一点に。


「ハッ……ハッハッハ! その通りだサザン・ハーンズ! この重装備は飾りッ! 『見ろ』と言っただろう!? それ以上は望んでいない! ただそちらを誘き寄せるためだけの、餌だったのさ!」


 わざとこれ見よがしに小銃ライフルを同時に複数出現させたのは、こちらが遠距離戦闘を好むと思わせるためのブラフ。

 結果として近距離戦に持ち込もうとしたサザンは、近接武器の電撃を食らうことになった。


「……エレクトロ・ギアは、燃費がイカレてる失敗作らしくてな。普通のノイドが使えばエネルギーの消費が激しくて、その場で気絶してしまう。だがッ! この鉄紛クロガネマガイはそんなギアを使用可能にする! 知っているかサザン・ハーンズ! ノイドとクロガネのつくりはよく似ているのだと! そして古代のクロガネは、自身がギアを取り付けることはできないが、ギアを取り付けたノイドと同化すれば、そのギアにエネルギーを注いで使用することが出来る! この鉄紛クロガネマガイはそんな古代のクロガネと、ほぼ同質に造られているのさ!」


 本来ノイドと同化できるクロガネは、古代にしか誕生していなかった。

 加えて大半の量産機である鉄紛クロガネマガイは、費用や技術の観点から、現代のクロガネすら完全に再現していない。

 口傷の男が操縦するこの鉄紛クロガネマガイは、それだけ異質の機体だった。



 地面に落下したサザンは、それでもまたすぐに立ち上がることが出来た。


「ぐ……」

Can(キャン) you(ユー) still(スティル) do(ドゥ) it(イット)? 想定よりも頑丈だな。既に……()()()()()()()()のか?」

「……貴様は……貴様は一体何者だ……? 何故そんな鉄紛クロガネマガイを持っている……?」


 鉄の体が少しだが焦げている。しかし、まだサザンは戦える。


「……You(ユー) don't(ドント) need(ニード) to(トゥ) know(ノウ). だが……これだけはそちらが死ぬ前に教えておこうか。俺の本当の名は……『(エヌ)(エヌ)』。覚えておくといい」

「エヌエ……?」

「さあ! This(ディス) is(イズ) it(イット)!」


 鉄紛クロガネマガイを操縦しようとしたその時、サザンは再びジェット・ギアで飛び上がった。


「ハッ! 無理やり体を動かしてッ!」

「舐めるな連合のスパイッ!」

「!?」


 サザンの動きは、電撃を食らう前と何も変わらない。

 油断していた(エヌ)(エヌ)はこの一瞬で、その攻撃を避けなけれ機体が落とされると理解する。


「キィッ!」


 舌打ちのように息を吐き、避けられてすぐにサザンは身を翻す。


Damn(ダム) it(イット)!」


 (エヌ)(エヌ)は、弾丸を吐きながらサザンを躱す。逃げる。上昇する。


「逃げるなヌエ!」

(エヌ)(エヌ)だ!」


 いくら弾丸を注いでも、サザンには当たらない。移動速度だけならほぼ同等で、このままでは避け続けることもできないだろう。


Tsk(チェッ), tsk(チェッ)!」

「これで終わりだッ!」

「……! いいや! 終わるのはそちらだサザン・ハーンズ!」


 それまで逃げ続けていた(エヌ)(エヌ)は、そこで急に笑みを作る。

 予備動作は無かったが、サザンはここで察知した。

 敵はもう一度、あの電撃を繰り返してくると。


「チッ!」


 サザンはまだ(エヌ)(エヌ)が何も仕掛けていないにもかかわらず、ここで電撃が来ると気付いて距離を取った。

 だがしかし、まだ(エヌ)(エヌ)の笑みは解けない。


Watch(ウォッチ) out(アウト)! ……エレクトロ・ドメイン」


 バリバリバリバリバリバリバリバリィ


「…………何……!?」


 電撃は、まるで蜘蛛の巣を張るようにしてクロガネマガイを中心に広がり、辺り一帯を巻き込もうとする。

 距離を取って逃げようとしたサザンも、追って来た電撃の蜘蛛の巣によって搦め捕られる。


「!?」


 電撃は、近距離だけではなかったのだ。


「がァァァァァァァァァ!」


 再びサザンは、落下していった。


「……流石に察知能力が高い。エレクトロ・ギアが連続で使えないと、まさか初見で看破するとはな。向かって来たときは驚いた。しかも、そのインターバルの時間予測まで完璧だ」


 そのまま(エヌ)(エヌ)鉄紛クロガネマガイは、倒れたサザンより少し離れて着地した。


「だが残念。エレクトロ・ギアは遠距離でも使える。さっきわざわざ機体の傍まで誘き寄せたのは、近距離でしか使えないと思わせるためさ」


 これだけ強大な力を持っているにもかかわらず、(エヌ)(エヌ)には油断がなかった。

 敢えて相手に勝機があると思わせて、その希望を叩き潰す。仮に奥の手をサザンが持っていたとしても、それを使う必要はないと勘違いさせる、

 徹底した、隙のない戦い方だ。


「……」


 サザンはうつ伏せに倒れたまま、動かない。



「……That's(ザッツ) a() wrap(ラップ). You're(ユア) no(ノー) match(マッチ) for(フォー) that(ザット) person(パーソン). Get(ゲット) out(アウト) of(オブ) my(マイ) face(フェイス)



 そして、(エヌ)(エヌ)鉄紛クロガネマガイはサザンに近寄っていく。

 電撃で倒したサザンの息の根を、直接止めるためだ。彼は確実に、この場でサザンを仕留めようとしていた。


Fuck(ファック) off(オフ)


 銃を使わなかった理由は、それでは煙が舞って視界が奪われ、生死の確認まで時間がかると考えたからだ。

 今すぐにサザン・ハーンズの死を確認したかったため、鉄紛クロガネマガイの鉄の拳を、彼の頭に叩き込もうと目論んだ。

 それが────────────彼のミス。



 ザンッ



「ッ!?!?」


 鉄紛クロガネマガイの鉄の腕が、真っ二つに切り落とされた。


「……急ぎ過ぎたな」

「サザンッ!」


 サザン・ハーンズは、ボロボロの状態で立ち上がっていた。

 (エヌ)(エヌ)鉄紛クロガネマガイが接近してきたのは、彼にとって幸運。

 鉄紛クロガネマガイの腕を切り落とした勢いを落とさず、そのまま切れた先端から上って頭部へ向かっていく。


「インターバルは残り五秒か? 電撃を使う前に……斬るッ!」

Shit(シット) ……サザン……ッ! サザン……サザンッ!」

「……キィー……」

Negative(ネガティヴ)Negative(ネガティヴ) trash(トラッシュ)!」


「シザークロス」


 その一撃で、勝敗はついた。

 十字の傷で済まない威力。鉄紛クロガネマガイを破壊され、その衝撃を浴びた(エヌ)(エヌ)は、そこで戦闘不能になった。

 サザンは右腕を元の状態に変形し直し、バンダナについた埃を払う。


「貴様の全ては断ち切った」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ