『外患容疑者監察任務』③
クロガネマガイの六丁の小銃が、激しく火を吹く。
しかしサザンは瞬時にジェット・ギアを使用し、空中に飛び上がった。
六丁あるとはいえ、その銃口の向く先は全て一定。一つを避けようとすれば、自然と全てを避けることが出来る。
「Speedy!」
「この程度ッ!」
サザンは鋏を振り被り、鉄紛を破壊しようとする。
彼の攻撃力なら、一撃で仕留めることも可能だ。
「But …」
「!?」
「……攻撃は…… Slowly …」
サザンの鋏の重さは、十四・二キログラム。
身体能力が鍛え上げられているサザンだから軽快に動くことが出来るが、それでも攻撃する時だけは鈍さが生まれてしまう。
特にジェット・ギアでの高速移動を目にした後では、その動きはより遅く感じられる。
サザンが空中で鉄紛を両断しようとしたその瞬間、鉄紛は光を放った。
それは、視界を一瞬だけ防ぐが、その後の目に悪影響を与える程ではない光。
「エレクトロ・ギア」
その光の正体は、『電撃』だ。
「ッ!? が……あァァァァァァァァァァ!?」
背を狙ったサザンだったが、それが良くなかったのかもしれない。
鉄紛の背から放出された電撃は、サザンに直撃した。
たまらず彼はそのまま地上へと落下する。
彼を受け止めるものも何もない、広い荒野の一点に。
「ハッ……ハッハッハ! その通りだサザン・ハーンズ! この重装備は飾りッ! 『見ろ』と言っただろう!? それ以上は望んでいない! ただそちらを誘き寄せるためだけの、餌だったのさ!」
わざとこれ見よがしに小銃を同時に複数出現させたのは、こちらが遠距離戦闘を好むと思わせるためのブラフ。
結果として近距離戦に持ち込もうとしたサザンは、近接武器の電撃を食らうことになった。
「……エレクトロ・ギアは、燃費がイカレてる失敗作らしくてな。普通のノイドが使えばエネルギーの消費が激しくて、その場で気絶してしまう。だがッ! この鉄紛はそんなギアを使用可能にする! 知っているかサザン・ハーンズ! ノイドと鉄のつくりはよく似ているのだと! そして古代の鉄は、自身がギアを取り付けることはできないが、ギアを取り付けたノイドと同化すれば、そのギアにエネルギーを注いで使用することが出来る! この鉄紛はそんな古代の鉄と、ほぼ同質に造られているのさ!」
本来ノイドと同化できる鉄は、古代にしか誕生していなかった。
加えて大半の量産機である鉄紛は、費用や技術の観点から、現代の鉄すら完全に再現していない。
口傷の男が操縦するこの鉄紛は、それだけ異質の機体だった。
地面に落下したサザンは、それでもまたすぐに立ち上がることが出来た。
「ぐ……」
「Can you still do it? 想定よりも頑丈だな。既に……至ろうとしているのか?」
「……貴様は……貴様は一体何者だ……? 何故そんな鉄紛を持っている……?」
鉄の体が少しだが焦げている。しかし、まだサザンは戦える。
「……You don't need to know. だが……これだけはそちらが死ぬ前に教えておこうか。俺の本当の名は……『N・N』。覚えておくといい」
「エヌエ……?」
「さあ! This is it!」
鉄紛を操縦しようとしたその時、サザンは再びジェット・ギアで飛び上がった。
「ハッ! 無理やり体を動かしてッ!」
「舐めるな連合のスパイッ!」
「!?」
サザンの動きは、電撃を食らう前と何も変わらない。
油断していたN・Nはこの一瞬で、その攻撃を避けなけれ機体が落とされると理解する。
「キィッ!」
舌打ちのように息を吐き、避けられてすぐにサザンは身を翻す。
「Damn it!」
N・Nは、弾丸を吐きながらサザンを躱す。逃げる。上昇する。
「逃げるなヌエ!」
「N・Nだ!」
いくら弾丸を注いでも、サザンには当たらない。移動速度だけならほぼ同等で、このままでは避け続けることもできないだろう。
「Tsk, tsk!」
「これで終わりだッ!」
「……! いいや! 終わるのはそちらだサザン・ハーンズ!」
それまで逃げ続けていたN・Nは、そこで急に笑みを作る。
予備動作は無かったが、サザンはここで察知した。
敵はもう一度、あの電撃を繰り返してくると。
「チッ!」
サザンはまだN・Nが何も仕掛けていないにもかかわらず、ここで電撃が来ると気付いて距離を取った。
だがしかし、まだN・Nの笑みは解けない。
「Watch out! ……エレクトロ・ドメイン」
バリバリバリバリバリバリバリバリィ
「…………何……!?」
電撃は、まるで蜘蛛の巣を張るようにしてクロガネマガイを中心に広がり、辺り一帯を巻き込もうとする。
距離を取って逃げようとしたサザンも、追って来た電撃の蜘蛛の巣によって搦め捕られる。
「!?」
電撃は、近距離だけではなかったのだ。
「がァァァァァァァァァ!」
再びサザンは、落下していった。
「……流石に察知能力が高い。エレクトロ・ギアが連続で使えないと、まさか初見で看破するとはな。向かって来たときは驚いた。しかも、そのインターバルの時間予測まで完璧だ」
そのままN・Nの鉄紛は、倒れたサザンより少し離れて着地した。
「だが残念。エレクトロ・ギアは遠距離でも使える。さっきわざわざ機体の傍まで誘き寄せたのは、近距離でしか使えないと思わせるためさ」
これだけ強大な力を持っているにもかかわらず、N・Nには油断がなかった。
敢えて相手に勝機があると思わせて、その希望を叩き潰す。仮に奥の手をサザンが持っていたとしても、それを使う必要はないと勘違いさせる、
徹底した、隙のない戦い方だ。
「……」
サザンはうつ伏せに倒れたまま、動かない。
「……That's a wrap. You're no match for that person. Get out of my face」
そして、N・Nの鉄紛はサザンに近寄っていく。
電撃で倒したサザンの息の根を、直接止めるためだ。彼は確実に、この場でサザンを仕留めようとしていた。
「Fuck off」
銃を使わなかった理由は、それでは煙が舞って視界が奪われ、生死の確認まで時間がかると考えたからだ。
今すぐにサザン・ハーンズの死を確認したかったため、鉄紛の鉄の拳を、彼の頭に叩き込もうと目論んだ。
それが────────────彼のミス。
ザンッ
「ッ!?!?」
鉄紛の鉄の腕が、真っ二つに切り落とされた。
「……急ぎ過ぎたな」
「サザンッ!」
サザン・ハーンズは、ボロボロの状態で立ち上がっていた。
N・Nと鉄紛が接近してきたのは、彼にとって幸運。
鉄紛の腕を切り落とした勢いを落とさず、そのまま切れた先端から上って頭部へ向かっていく。
「インターバルは残り五秒か? 電撃を使う前に……斬るッ!」
「Shit ……サザン……ッ! サザン……サザンッ!」
「……キィー……」
「Negative … Negative trash!」
「シザークロス」
その一撃で、勝敗はついた。
十字の傷で済まない威力。鉄紛を破壊され、その衝撃を浴びたN・Nは、そこで戦闘不能になった。
サザンは右腕を元の状態に変形し直し、バンダナについた埃を払う。
「貴様の全ては断ち切った」




