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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
二章【常しえを穿つ風】
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『カールストン侵攻阻止作戦』③

◇ 界機暦かいきれき三〇三一年 五月二日 ◇

■ カールストン共和国 ◾️

▪︎ 西方軍事警戒区域 ▪︎


 カールストン共和国は、北インドラ海を東に進んだ先にある大陸の、西端にある国。

 ノイド帝国からすれば東方にあり、帝国の西側にあるオールレンジ民主国からすれば、むしろ西方にあると表現されることの方が多い。

 帝国は国家連合に宣戦布告しているので、理事国は全て敵。このカールストンも理事国の一つであり、オールレンジと挟み撃ちにされる前に、帝国側から攻める方向に出たのだ。


「……ソニックにしては、長旅だったね」

「シシシッ! 無駄に体力消費することもねェだろッ!? アウラよォ!」


 アウラとソニックは、このカールストンの西端に辿り着いていた。

 そこは戦場。上陸作戦を成功させた帝国軍は、カールストンへの侵攻を進めようとしているのだ。


「良いかアウラッ! 帝国軍は、このカールストンに早くも基地を作りやがった! 侵攻を進めるためになァ!」

「つまり僕らの目的は、帝国軍の駐屯基地を破壊すること……だね」


 二人は、上空から帝国軍の駐屯基地に向かっていく。

 当然それを看過する帝国軍ではない。彼らの前にはノイドたちが立ち塞がることになる。


「……来たかッ! あれが音速のクロガネ……ソニック!」


 実はこのカールストンの西方軍事警戒区域では、もう既に何度も、帝国軍が連合軍によって撃退されている。

 しかし、それでも帝国軍は侵攻を成功させようとして止まらない。『個』以外の兵器を必要としないどころか、その『個』の回復力が異常に高いからだ。

 止めるにはもう、圧倒的な力の差を思い知らせるしか方法は無い──


クロガネ部隊を出してきたか……! 当然と言えば当然ッ! だが何故ピースメイカーではない……!?」


 帝国軍第二師団のヒルゲン・アクティブ准尉は、小隊を率いて駐屯基地付近の上空を防衛している。

 アウラたちと帝国軍の戦闘は、今まさに始まろうとしていた。


「さァいくぜアウラッ! ようやっと二度目の戦場に……いや! 違ェな! ここァアレだ! あー……そう! 音楽会場だッ!」

「随分無骨な楽団だ」

「指揮伝達は上等だぜ!?」

「タクトが無ければ烏合の衆さ」

「さえずる奴らに聴かせてやるかァ!」

「僕らの演奏?」

「俺らの二重奏デュオよッ!」

「とにかく目標、侵攻阻止だ」

「駐屯基地をぶっ壊す!」

「誰も殺さず」

「当然死なず!」


「「これより作戦を遂行するッ!」」


 ソニックの速度はやはり途轍もなく、ヒルゲン准尉の小隊はその初動で半数を吹っ飛ばされる。


「がッ……! くぅ……怯むなァ! 止めろォッ!」


 しかし、そんなことを叫ぶヒルゲン准尉の背後に、既にソニックはいた。


「グボァ!」


 ヒルゲン准尉はソニックの平手打ちを受け、落下していく。


「安心しろアウラ! ノイドはなァ、この高さから落ちても死なねェんだよ! マジで!」

「……信じるよ。ソニック」


 前回の作戦を経て、アウラはわざわざ落ちていくノイドをキャッチしようとはしないことにした。

 それによって、以前よりも高速で動き続ける。


「ば、馬鹿な……速すぎる……! これが『ソニック』……!? こんなの……どうしろって……ガハッ!」


 そんなことを言っている間に、そのノイドも倒される。


「オーケー、アウラ! このまま基地もぶっ壊すぜェ!」

「中にいるノイドを出すのが先だよ!」


 二人はそのまま基地に突っ込んでいく。

 カールストン仮占領基地。そこは港から少し先にある台地に建てられたカールストンの軍事基地を、帝国軍が乗っ取った場所。

 周囲を森林が囲っているが、上空から攻め入る二人には関係ない。

 ──と、思われたが。



 キィィィンッ



「「!?」」


 突如、森林の中から『何か』がこちらに飛んで来て、ソニックの装甲に攻撃を仕掛けた。

 そしてその『何か』は、クルクル上空で回転しながら、一本の一番高い木のてっぺんに着地する。


「うぐッ……!」

「チッ……大丈夫かアウラァ!」

「……平気さ。アイツは……」


 攻撃してきたのは、一人のノイド。その手段となった武器は、一本の刀だ。


「あぁぁぁ……んんぅ………………良いッ」


 胡桃色の長髪で、戦闘服は帝国軍全体で共通であるはずなのに、明らかに反物で仕立てられている衣服に見える。

 一応元の戦闘服の面影はあるが、格好だけで、完全に異様な存在なのだと判断された。


「何だァコイツァ……」

「……」


 アウラは冷静に相手の出方を窺っている。

 すると、その男は突如カッと目を見開いた。


「某の名はァッ! ムラサメ・オクバースッ! 帝国軍第二師団曹長ッ! 畏くも元帥閣下より与えられたこの肩書きでもって、此方とご相伴に預からせて頂くッ!」

「…………」

「此方も名を名乗れいッ!」

「俺ァソニックだ!」

「存じている! 中の人間……此方の名を聞いている!」

「……行こう、ソニック」

「え、あ、そうか。そうだなァッ!」


 アウラの方から名乗る義理は無い。彼は今、若干だが安堵していた。


(……帝国軍曹長……そこまで階級は高くない。さっきは油断していた? ……分からないけど、速攻で終わらせる!)


 アウラはソニックと共に、木のてっぺんにいるムラサメを無視して、駐屯基地に向かおうとする。

 こちらの目標は基地の破壊なので、ムラサメの相手をする必要は無い。

 危険度不明な男を相手取るより、目標最優先で作戦を即刻終了させたい欲が、彼には出てしまっていた。


「どこへ行くのだッ!」

「!?」


 再び、ムラサメの刀による攻撃が通る。

 高速で移動するソニックの体に、通すことが出来るのだ。


「かッ……!」

「ンだ畜生ッ! アウラ! 放っておけるタイプじゃねェぞ!」


 アウラはソニックと『意志』を重ね、ソニック以上の判断力でムラサメに平手打ちを狙う。


「面白い!」


 だが──防がれる。

 ソニックの攻撃が、刀一本で防がれ続ける。


「何なんだコイツ……曹長って言ってたのに……!」


 何度も弾かれるので、一旦二人は距離を取った。

 同様に、ムラサメもまた木の上に着地する。


「気ィ付けろアウラ! 階級に強さなんざ関係ねェ! 人望や事務能力のが関わってくんだ! コイツにそんな長所あるように見えるか!?」

「……いや、分からないけど……」

「失礼なクロガネだな!」


 取り敢えず『曹長』の肩書きはあるので、帝国の士官学校卒業レベルではある。

 ムラサメも一応、それなりの事務能力は持っているのだ。無論、この場では関係無いが。


「……しかし何故名乗らない!? 人間ッ! 某は名乗ったぞ! そのクロガネも名乗った! 此方だけが名乗っていない! 名を……此方の名を名乗れィ!」

「……そんなことに、何の意味があるのさ」

「意味……? 意味だと!? 某らの生に意味など無い! 全てが無意味! 全てが虚無なのだ! で、あるからして、某は死後にこそ意味があると考える! これから殺し合うというのだから、最後に此方の名を聞いておくと言っているのだ! 某が死すれば、此方の名の意味を死後の世界にて明らかにしてみせよう! 同様に此方も、死すれば某の意味を知れ! 知ろうとするのだ! 全ては知ろうとすることから始まるのだ! 某や此方が互いを知ろうとしなければ、かくのように虚無に満ちた世界にて我々は、無為に命を落とすことになる! さあ名乗れ! 某に分からせろ! 此方の存在を! 某の魂に……此方の名を流し込むのだァッ!」



 アウラは呆然としていた。

 これが相手の作戦かと思い込むほどには、呆然としていた。


「……アウラァッ!」

「な、何? ソニック」


 ソニックの掛け声で、アウラはようやく開いた口を塞ぐ。


「問答してもしょうがねェぜ。俺らの目的は、基地の破壊なんだからな!」

「……うん。そうだね」


 今すべきことは、目の前の強者を戦闘不能状態にすること。

 会話することに意味は無い。意味は無いと……自身に思い込ませる。


「ふむ……名乗らないか」


 アウラはソニックと共に、木の上に立っているムラサメに向かって突撃する。

 だが攻撃が単調だった。真っ直ぐ向かってくるだけなら、いくら速くとも予測が出来る。


 キィィィィン


「「!?」」

「真っ直ぐ来ると分かっていれば……容易く防げるぞ!」


 いつものように、気絶させる技の『クラップショック』を決めるために、ムラサメの目の前で両手を勢いよく合わせようとした。

 だがしかし、ムラサメは刀の端と端で、その二つの手の平を抑えてみせた。


「そうらッ!」


 ムラサメは、そのままソニックのことを弾き飛ばした。


「ぐッ……!」

「折角の速さが勿体無いッ! 攻撃するなら後ろを取りにいけ! 牽制動作を忘れるな!」

「な、何でアドバイスを……」

「戦いだぞ!? 殺し合いだぞ!? 死なすまいとする攻撃が、通るなどと思うな!」

「だからじゃあ何でアドバイスを……」

「ゆくぞッ!」


 今度はムラサメから攻撃が来る。

 その言葉とは裏腹に、真っ直ぐ正面からの突撃だ。


「フンッ!」


 ソニックはその手の甲で、ムラサメの刀を止めてみせた。


「ほうら簡単だろう! 防げるだろう! こういうことだ!」

「舐めるなッ!」

「ぐおォッ!?」


 そろそろアウラも苛立ちを見せ始める。

 それと同じくして、ソニックの性能もより引き出しつつあった。


「ソニック……もっと速くだ」

「おめェ…………おうよッ! いくぜェッ!」


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