『extra:旅の途中』②
◇ 界機暦三〇三七年 五月十二日 ◇
■ ロイド・アクアランド ■
ロイド・アクアランド。
それは、屋外、屋内のプールを含んだ色とりどりのウォーターアトラクションと、国内随一の水族館を内包する、最新鋭のテーマパーク。
ユウキとユーリは水着をわざわざ購入し、テーマパークに登場する。
「水の中で体力を奪われることの……一体何が楽しいんだか……」
そう言いつつも、ユーリは白いビキニタイプの水着をしっかり購入してきていた。
ただ、何故かユウキの方がどちらかというとやや苦い表情をしている。
「さァな。ま、気晴らしに泳いで来いよ。『流れるプール』だとよ」
「? ユウキは泳がないの?」
「あー……遠慮しとく」
「……? ……そ」
少しだけ残念そうな顔をするユーリだが、彼女自身、実はプールに来るのは長い長い人生の中で初めてのこと。
目の前の物珍しい水溜まりの中に、飛び込んでみたくて仕方がなかった。
無論、飛び込みは禁止されているようだったので、ゆっくりと入る。
*
そしてそんな二人のことを遠くから双眼鏡で眺めているのが、フール・B・アンリファイン。
「……前情報通りだ」
「何がです?」
「ノイドは水に弱い。ギアと核の連動が鈍くなるからだ。だからマキナ・エクスは水中でも生きられる鉄を生み出したとか言われてたりするようだが……まあ、どうでもいい。とにかくッ! 作戦はこうだッ! 奴をプールの中に誘い込みッ! 落として流して動きを鈍らせるッ! 管理室に潜らせた仲間に、『流れるプール』の流れを劇的に速くさせて、さらに水中に潜らせた仲間に、流される奴の足を引っ張らせて、そのまま溺れさせるッ! 完璧な作戦ッ! ……いや、本当にそうか……? 言うほど完璧か……? 問題あるよなァ? お前ら」
「「「「「……」」」」」
「ありますね」
「あんだとてめェ!」
フールはその辺に落ちていた空気入れを投げる。
だが、同調した男はそれをスッと避けて、そのまま問題点を語り始めた。
「どうやって奴をプールの中に誘い込むんです? 見たところ、奴は泳ぐ気がないようですが」
「ハッ! ノイドの分際で泳いでいいわけねェもんなァ!」
ここもオールレンジの都市にあるテーマパーク。
当然ながら、ノイドの客はほとんどいない。
それだけで泳ぎづらいのだが、ユウキは何かあった時にギアが使えないと困るからという理由で、泳がないでいる。
つまり、ユーリに気晴らしを進める一方で、警戒心は強い状態なのだ。
「……誘い込む手段はあるんですか?」
「ウキャキャキャッ! まあ、任せとけよ!」
*
フールの仲間たちは、全員ドン引きさせられていた。
その理由は、すぐにユウキの眼前に現れる。
「こんにちはぁ。お一人ですかぁ?」
現れたのは、女装したフール・B・アンリファイン。
元々女顔であるが、その正体が彼だと知っている仲間たちは皆、『マジかよあの人……』と、心の中で呟いている。
ツインテールはそのために。痩せた体もそのために。彼は他人を騙すためだけに、普段から女装がいつでも出来るようにと生きていたのだ。
そしてその完成度は、気味が悪いほど高かった。しかも水着だ。
「……あ?」
「ウキャキャッ! 一緒に遊びませんかぁ?」
一瞬眉をピクリとさせたユウキだったが、すぐにフッと微笑む。
「逆ナンか? へへ……悪ィな。今日はツレと来てんだ。だから……まあ、他の奴を誘ってくれ」
「……」
「可愛い子に声掛けられたのは嬉しいけどなッ! ハハッ! いやマジで!」
フールは一瞬、目を伏せる。
「…………ウキャキャキャキャキャキャッ!」
「ウキャキャ……?」
「嬉しいよなァ! 『可愛い』って言われたらッ!」
「お、おう……?」
「オラァッ!」
「!?」
フールはその辺に落ちていた浮き輪を破壊する。
空気が吹き出し、虚しく萎んでしまった。
「……ウキャキャキャッ! 嬉しくねェだろ断られたらッ! いいからこっちに──」
「君一人―?」
そこで、フールは三人ほどの見知らぬ男に絡まれる。
「あ? いや、俺は別に……」
「俺っ子じゃーん。かわいー」
「いやだからッ! 俺はそっちの奴を──」
「ノイドより俺らと遊ぼうぜー」
「ちょ、だから俺は……コラオイッ! どこ触ってんだッ!」
仕方なく、フールは男たちから逃げ出した。
見た目が完全に若い女性だったので、ナンパ男を釣ってしまったのだ。
「……行っちまった」
一瞬にして、フールの作戦は水泡に帰すのだった。
そしてフールが立ち去ると、見計らったかのようにユーリが現れる。
少しだけ泳いでいたのか、若干濡れていて、水着からも水滴が垂れていた。
「……つまりそういうこと」
「あ? 何だ? ユーリ」
「可愛い女の子を散策したいってわけ、か」
「……節穴だな」
「?」
「俺が泳がねェのは、水が苦手だからだよ。見ろよ。周りにノイド一人もいねェだろ?」
「……それは分かってるけど」
「つーか、お前と来たのに、他の子に俺から声掛けるわけねェし」
「……」
ユーリは自分自身に呆れて溜息を吐いた。ついでに額に手を当てる。
(……あーあ)
そして、自分自身の愚かさを嘆いた。
「……つーか、今更だけどお前って……」
「?」
「年取らねェのな」
「……ああ。どうも……ワールド・ギアの影響で。けど、記憶を司る脳と魂は衰えてるよ。……ゆっくりと」
「ふーん……。まあ、俺より長生きしそうだな」
「……どうだろうね」
ユーリは少しだけ肌寒さを覚えた。体を拭く物が、何故か今はどこにも見当たらない。
*
泳がないユウキに気を遣ったユーリは、水族館の方に行こうと言い出した。
当然ながら、もう水着ではない。
「……水族館とやらの魚を見るのは初めてだぜ」
「そうなの?」
「ああ」
「……私も、そこまで多く見たことがあるわけじゃない」
「来て良かったろ?」
「……そだね」
ユーリは戦い続けていたため、娯楽を享受する余裕がなかった。
一方のユウキはリーベル自治区から出る機会が少なかっただけで、知識自体はかなり持っている。
「知ってるか? アレが『キカイザメ』。金属を食べるんだ」
「……へえ。ユウキも食べられるってこと?」
「食べられるなァ! ハハハ!」
「ハハ……」
*
そしてやはり、フールたちはそんな二人を監視カメラの映像から確認していた。
「……面白いよなァ? ノイド食いザメ……。最高にクールでイカす、俺好みの面白いサメだよなァ!?」
「「「「「……」」」」」
気のせいか、かなり人数が減っている。
プランCの方に人員を割いていた所為であり、そちらが破綻した今、若干士気も下がっている。
「プランGッ! ノイド食いザメを利用して、奴をぶっ殺すッ!」
「どのように?」
「餌やりのイベントがある。面白いよなァ?」
「いいえ」
「そうだッ! クソつまらねェゴミみてェなイベントだッ! そこで事故に見せかけて奴を水槽に落とし、サメちゃんのお昼ご飯にするッ!」
「お腹壊さないと良いですが……」
「ウキャキャキャッ! ノイドなんて食わせちまって申し訳ねェ……。腹下しちまったらそん時は、俺の方が腹斬るぜッ!」
ノイドに対して以外は、割と彼らも慈愛の心を見せることが出来る。
戦後の連合の対応がもう少し良ければ、彼らの今の立場も変わっていたかもしれない。
それなら心の広さも増していただろう。慈愛を向ける相手も増えていただろう。
ただ、それでもノイドに対する差別意識が消えることは、恐らくない。
*
「餌やりだってよ」
ユウキはフールの講じた策に、自ら足を突っ込んでいく。
水槽の上から餌を放るだけのイベントだが、一番近くで魚が食事をしている姿を見ることは出来る。
水槽は大きいので、普通は室内の順路から、水槽内の上部における魚の食事の場面は見えない。
この水族館ではそんなデメリットを、逆に特別感を出すイベントで補填していたのだ。
「へー、そう」
「行ってみるか?」
「……え? 何で?」
「!? な、『何で』……だと……!? ……うっせェ! 行くぞオラァ!」
「お、おう……」
無理やりユウキに腕を引っ張られ、ユーリは連れて行かれた。
淡々とした誘い方だったが、彼の方は行きたくて仕方なかったらしい。
「鉄片を投げるんだとよォ! 見せてやるよ俺のサメ調教ッ!」
周りの人間の目をまるで気にせず、ユウキは与えられたイベントを楽しむ。
その姿を微笑ましく思えているのは、ユーリだけ。
だが彼女としてはむしろそのことが、どこか誇らしく思えた。
「おっと危ないッ!」
フール・B・アンリファインは、背後からユウキに突撃してきた。
先程は水着だったが、今は飼育員の装いをしている。無論、女装だ。
「お前もやってみろよ、ユーリ!」
「ッ!? うォォォ!?」
ユウキが急に体勢を変えた所為で、フールは彼を水槽に落とすことが出来なかった。
いやむしろ、背を押そうとした勢いで、彼の方が水槽に──
「ウキャ、ウキャキャおぼ、おぼぼぼごぼぼぼ……」
彼が落ちて焦るのは、ユーリだけ。
「ユウキッ!」
「だいじょぶだいじょぶ。キカイザメは人を食ったりしない」
「いや、溺れてるけど……」
「……ハハハハハッ! じゃあ助けねェとじゃねェかッ! なァオイッ!」
*
殺すべき相手に助けられても、フールは感謝の意を示さない。
ウェイトレスの格好に扮し、パーク内のレストランで仲間たちと次のプランを考慮していた。
「無事ですか? フールさん」
「……無事だよなァ? ノイドに助けてもらったんだから」
「「「「「……」」」」」
「無事だよなァ!?」
「無事で済んで良いわけねェだろこの恥知らずがッ!」
一人の男は、その辺に落ちていたナイフを拾ってフールに投げた。
フールは刃の部分を片手で掴むと、そのままクルッと回して柄の方を握り締める。
「ウキャキャキャッ! その通りッ! ノイドに助けられて……恥だよッ! これはッ!」
「……で、次はどうされるおつもりで? それとも諦めますか?」
「諦めるわけねェだろバァたれがッ! プランQだッ! 奴に毒を食わせて殺すッ! ここでノイドが食べるモンなんざ、『電気カレー』くれェだぜッ! そこに毒を混ぜて……暗殺だァ!」
そのために、わざわざ残りの仲間たちを使って、レストランを初めから支配していた。
あとは、ユウキたちが来るのを待つだけ。
*
想定通り、ユウキとユーリはフールの待つレストランにやって来た。
屋外のパラソル付きのテーブルで、二人は昼食をとることにする。
「ご注文はどうされますかぁ?」
キャップで少し顔を隠しながら、フールは自分で注文を取りに来る。
「ちょっと待ってくれよ姉ちゃん。今メニュー見てるとこだからよォ」
「……失礼しましたぁ」
フールは先程から、わざとユウキには目を合わせていない。ユーリの方にだけ一礼して、一度引き下がった。
「……ユウキは、ホントに周りを気にしないね」
「オイオイ急に褒めんなよ」
「褒めたい気分になった。……オールレンジは駄目だね。政府はノイドの為の処置をいくつも出してるけど、国全体のノイドを見る目は……簡単に変わらない」
今もなお、周りの客はユウキのいる席をなるべく避けようとしている。
ただ、二人の選んだこの店は、一応ノイドが来ることも想定して、彼らしか食べないような食べ物を出したりしている。
「まあゆっくりと変わってもらうしかねェさ。……なんだ。オイルはねェのか」
「え……飲むの?」
「ハハハッ! 冗談冗談! 金属は食えても、オイルは飲めねェよ!」
「……まあ、ノイドの体も、五十パーセントは水で出来てるからね。お酒は?」
「電気ビール飲むか!」
「……私は普通ので」
そしてユウキは、フールの計画通り『電気カレー』も注文する。
「……来たぜッ! オラッ! 作ってやれッ! ついでに俺も普通のカレー食うからッ! 一緒に作れッ!」
フールに言われ、彼の仲間たちは若干面倒そうに例の毒入り電気カレーを作りにかかる。
傍から言わせれば、彼らは普通に働けているようにし見えない。
少しだけ歯車が食い違っていれば、今頃こんな彼らもどこかで社会に溶け込めていたことだろう。
「お待たせしましたぁ」
そしてフールは、毒入り電気カレーをユウキに差し出す。
後は彼が、それを口に運ぶだけ。
(さァ食えッ!)
心の中でそう念じながら、ユウキが食べる所を隠れて見つめる。
そしてとうとう、彼はその毒を体内に──
(いったッ!)
…………だが、ユウキに変化は見られない。
「……あれ?」
「どうしました?」
「馬鹿なッ! 何で効いてねェんだッ!?」
「また失敗ですか。役立たずがよォ」
「……そ、そうかッ! 奴の体は普通のノイドよりも強化されている……。鍛えられた内臓で、毒をものの見事に分解しやがったんだッ!」
「あらら」
残念ながら、フールの策はまたも失敗に終わってしまった。
「クソ……ムカつく……いや、ムカつかねェよなァ? こんなんじゃ……」
怒りを鎮めるため、フールは自分用のカレーに手を付ける。
「あ」
「あァ?」
「……それ、フールさんのじゃないです。余りの電気カレー」
「ッ!? ぐ、おぉ……う、ウキャキャキ……う、うぶぇぇ……ッ!」
金属の混じったカレーは、当然ながら人間にとって毒になる。
腹を壊すのはサメでもユウキでもなく、フールになるのだった。
*
◇ 数刻後 ◇
■ ロイド・アクラランド 出入り口前 ■
テーマパークでは色々とあったが、それなりにユウキたちは楽しむことが出来た。
ただ、元々楽しむことがここに来た目的ではあった。
少なくとも、ユウキの方は。
「……上手くあしらったもんだね」
「やり方が甘いんだよ」
「わざと誘いに?」
「あ? いや……気付いたのはさっきだけど」
「え?」
「ん?」
「じゃあ何で今日はここに……」
「あァ? そりゃお前……」
歩みを一瞬止めようとした、その時──
「待ちやがれユウキ・ストリンガーッ!」
何人かの人間たちが、ユウキたちを囲む。周囲には他の帰宅途中の客がいるというのに、お構いなしだ。
つまり、フール・B・アンリファインたちは、自暴自棄になっている。
「……大丈夫か?」
「ノイドに心配される筋合いはねェんだよォッ! 行くぞお前らッ! こうなったらもうノープランだッ! 悪くねェよなァ!?」
「「「「「悪くねェわけねェだろッ!」」」」」
どうやらまったく統率が取れていないが、皆ユウキを敵視しているのは確かだ。
そして何より、玉砕覚悟でここにいる。初めから、ほとんどのメンバーはやけになっていたのだ。
「止めとけよ。つーかホント顏は女だな。口調を変えた方がもっとらしくなれるぜ? なァオイ」
「うるせェよッ! 好きで女装してるわけじゃねェんだよッ!」
「それは嘘ですよね」
「うるせェよッ! ってか女装バレてるって、コイツ初めから気付いてたんじゃねェかッ!」
「そりゃそうでしょ」
フールの仲間の一人は、暴言を吐かれても涼しい顔をしていた。
他の者達もそうだが、熱意を無くさずにいるのはフールだけらしい。
「バレちまったなら仕方ねェ。俺達はやるしかねェんだッ! 衆人環視の中なら、朝みてェにコイツも喧嘩を買えねェだろッ! 行くぞうおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
*
そして、あっさりとユウキに全員吹っ飛ばされた。
「かッ……。な、何で……衆人環視で喧嘩は……しねェんじゃ……」
「? いや、朝のはただユーリに止められたからってだけさ」
「ッ!? そ、そうか……その女が……弱点……だったの……か……」
「……良くねェこと考えてんな。死にたくなかったら止めとけ」
「……ッ」
ハッキリ言って、朝の時とは状況がまるで違う。
これだけ大勢に囲まれていては、周りの者達はユウキを恐れるよりも前に、フールたちの方を危険視する。
正面から現れ、ユウキだけを狙っているのが明らかだった朝のゴロツキと違い、今二人を囲うこの連中は、どう見ても人間のユーリも狙っているようにしか見えない。
だからこそそんな彼らを撃退するユウキは周りからすればヒロイックに見えるし、ユーリからすれば止める理由がなかったのだ。
「……十数人で囲んで、ユウキに非があるようには見えないでしょうに。それで、頭は誰?」
ユーリはしゃがみ込み、淡々と倒れたフールに対して尋ねる。
「……ッ!? 俺だッ!」
「……『頭』は誰かって聞いたんだけど」
「…………」
ユウキではなく人間の女に尋ねられれば、答えるのもやぶさかではない。
少なくともフールは、自身の敗北と失敗は認めていた。
一瞬だけ目を伏せ、どこか気に入らない表情で、彼はその名を告げた。
「──────────スナイプ・ヴァルト」
それを聞くと、ユーリは大きく溜息を吐いて立ち上がった。
「……そう」
彼女の方が先に背を向けて歩き出すと、ユウキも彼女に付いて行こうとする。
だが、その前にフールたちに対して、笑みを向けた。
「じゃあな! 正直……こういう面白い戦い方してくれた方が、俺も楽だった。名乗れよ元・連合軍ッ!」
「てめェ……。…………フール・B・アンリファインだ」
「そうかッ! 紡ぐぜお前の名……。だから、お前も俺の名を紡げッ! その魂と共になァ!」
いつものように名乗るため、ユウキは人差し指を天に突きつけた。
「宇ち──」
「うるっせェッ! 知らねェわけねェだろ今更ッ!」
「…………そう? いや、でもほら、何ていうかいつもの流れっつーか……」
「……もう良いんだよ。鉄屑がァ……」
「……それも、そうかな」
そして、ユウキは人差し指を下ろして立ち去った。
彼らがこの場からいなくなると、フールの仲間の一人が、倒れたまま彼を睨み付ける。
「……まさか、絆されてませんよね?」
「……馬鹿が。殺せねェことくれェ、初めから分かってんだこっちは。だが……そうッ! チャンスは見えた! 武力戦争は終わったわけで、そもそも殺し合う必要なんてねェ。決めたぜ俺は……」
そして無様にも倒れたまま、彼は決意を表明する。
「何とかして奴を辱めようッ! そうだッ! なんかいい手段があるはずだぜェッ!? ノイドよりも人間の方が、陰湿でしたたかな戦い方出来るってことを……奴に教えてやろうッ! いずれ必ず、奴らノイドの鉄屑を全員ッ! 人間の前に跪かせてやらァ! 悪くねェよなァ!?」
「…………確かに、悪くない」
*
恐ろしく小物染みた決意表明を掲げている男がいることには気付かず、ユウキとユーリはこの先の旅の行き先を思案していた。
「……私の生まれた世界にも、スナイプ・ヴァルトという名前の人がいた。ここの連合軍総司令官と違って……最後まで一緒に戦ってくれた、戦友だった」
「……そうか」
「きっと、あの馬鹿な連中くらいしか、もう総司令に操れる人材はいないんだよ。自分がパトロンになって、ユウキをどうにかして殺させる……そう考えているんだ。……むしろもう、それしか考えていないのかもしれない」
「いずれ、本人ともぶつかるかもしれねェってわけだ」
「……」
予言通り、これから先の人助けをしながら世界を見て回る旅の中で、二人は何度もフールたちの馬鹿馬鹿しく下らない嫌がらせを受けることになる。
そうしてそののち、彼らの上に立つ破綻した男にも会う。
戦いの形は国同士の間だけではなく、彼らの中でも変わっていた。
その結末は虚しくとも、生きようと進み続けたことに意味はある。
「……で? 何で今日はこんなに遊んだの?」
「あ? いや、遊びたかったから以外にねェだろ?」
「あの連中と?」
「……なァに言ってんだ。お前とだろ」
「………………そ…………そう」
肌寒さはもう感じない。そして旅は、まだまだ続くことになる。
「……おっと。ハチマキが……」
少し暴れたからだろうか、いつものようにユウキのハチマキが緩んでいる。
それを見てユーリは、小さく笑った。
「結んであげる」




