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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
九章【糸を紡いで紐を成す】
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『after:再会』②

◇ 界機暦かいきれき三〇三六年 十二月三十一日 ◇

■ 機人きじん共和国 旧・金科きんか省 辺境 ■


 ここは、語られぬ戦いを始める前に、カインたちが集まって作戦を話し合っていた小さな村落。

 世間から隔離された辺境の地なので、自国の変化に対して無頓着なところがある。

 国は形を変えたが、そこに住む者は何も変わらない。

 元から貧窮した暮らしをしていたこの村落の人々にとっては、変化が少ない。

 だからむしろここの者達には笑顔が溢れている。しかし、理由はそれだけではない。

 祭日の今日。この村落に限らず、どこの人々も日々の辛苦を忘れて祭りに興じている。

 この一日だけは、皆が羽を伸ばしているのだ。



「……久しぶりだね。ここに来るの」


 そんな小さな村落の祭りに、マリアとカインは訪れた。


「うん。あの戦いの前に……ここでみんなとご飯を食べたんだ」


 ただ、今日に限っては以前と村落の様相がまるで違う。

 核誓祭かくせいさいが開かれており、どこもかしこも屋台を出している。

 村落の中心部には高い舞台が設営されており、出し物が行われていた。

 それぞれの家々の方でも、この日のために用意された小さなネジで出来た人形が置かれている。

 これはデウス神を象った偶像で、祭りの最後に砕いて食べ物にする。

 ……もっとも、人間には食べられないが。


「あの『電気シュー』って何?」

「電気と鉄の混じった、シュークリームみたいなの」

「……食べるの?」

「? ああ、人間には食べられないんだよね。大丈夫だよ。ほら、普通のシュークリームもある」

「お、美味しいの? 電気シュー」

「え、ああ、人に寄るかな。俺はそこまで……」


 ノイドは別に、何も食べなくても生きていけるので、基本的に好きな物しか食べない。

 だからこそ、彼らは互いの好きな食べ物が何かを気にすることが多かったりする。



「カインッ! マリアッ!」



 すると突然、電気シューの屋台から名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 目をやるとすぐ、二人はその声の正体に気付いた。


「グレン!」

「グレンさん!」


 屋台を開いていたのは、青髪で上裸にマントの人間の男──グレン・ブレイクローだった。


「久しぶり。二人とも」


 赤髪のノイドの女性──アカネ・リントも、二人の背後から現れる。


「お久しぶりです! アカネさん!」

「本当に久しぶり。二人とも」

「二人だけじゃねェってんよ」


 見渡すと、ぞろぞろ二人の周囲に数人の人間とノイドが集まって来る。

 少しだけ見た目や背丈が変わっているが、ほとんどは変わりない。

 元・反戦軍の皆々だ。


「よォ」

「バラ!」


 変わらぬモヒカン頭の男は、バラ・ローゼクト。

 一緒にいる元鉄紛(クロガネマガイ)乗りのジャンバール三兄弟も、以前のまま動物のような姿だ。

 いや、何なら以前より動物っぽくなっている。


「久しいな!」

「まったく久しいな!」

「まったくマジで久しいな! ご両人ッ!」

「コウバイさん! ヤマハギさん! セキチクさん!」

「よく猛獣三兄弟の名前覚えてるね、マリア」

「「「何ィッ!? 覚えてないのかカインッ!」」」

「冗談だよ」


 カインは再会に喜び、穏やかに微笑んだ。

 一応……ライオンのような鬣の生えた男がコウバイで、トラのような髭の生えた男がヤマハギで、クマのような耳の生えた男がセキチクだ。


「お、大きくなったね。カイン君……」

「マツバよりね~」

「ボタンッ!」


 鋭い目付きに眼鏡のマツバと、垂れ目でフワフワな髪のボタン。

 双子のヒーデリ兄妹も背は伸びているが、カインの成長幅がこの中では最も大きい。

 何なら反戦軍のメンバーの中でも、一番背が高くなっている。


「……もしかして、招待状を送って来たのってグレン?」

「いいや。でもま、小遣い稼ぎにはなってるってんよ」

「こら」


 グレンはアカネに優しく頭を叩かれている。

 屋台を出しているが、彼が発起人というわけではないらしい。


「じゃあ誰が……」

「え? か、カイン君、聞いてないんですか……?」

「? どういう意味? つばき」


 つばきは以前までの眼鏡を付けていない。

 一方のペンタス・ヘラライは前と同じ眼鏡を付けているが痩せており、アネモネ・ルーアに至ってはトレードマークのお団子頭がロングヘアになっている。

 ちなみにロケア・ベントは眼帯に渋い顔。以前のまま、再会の喜びで涙を流している。



「いたいた」



 不思議に思って首を傾げていたカインとマリアの傍に、今度はまた別の見知った顔が現れる。

 そよ風になびく、綺麗な若緑色の髪をしたその男は──


「アウラさん……? あ、アウラ・エイドレスさん!?」

「『さん』は要らないよ。カイン君」

「……なら、『君』も要らないよ」

「フフ」


 彼と共にいるのは、艶やかな黒い長髪の女性と、ガタイの良い老け顔の男、それに鼠色の髪をした、傷だらけの風貌の男だ。


「これはまた……だいぶデカくなったな」

「デンボクの方が大きいけど」

「小生は変わっていないが」

「元から大きいって話」

幽葉ゆうはも変わっていないぞ」

「そこはね」

「…………どうでもいいが、一体誰が俺達を呼んだんだ? アウラ」

「え? 灰蝋はいろうに言ってなかったっけ?」

「あ?」


 どうやら、何も知らずにいるのはカインとマリア、灰蝋の三人だけらしい。

 微妙な伝達ミスが起きているということはつまり、差出人の正体が雑な性格の人物ということ。



「奴はまだ来てないのか」



 そこで現れたのは、砂色のバンダナを首に巻いた、茶髪の男。


「サザン・ハーンズ…………さん……!?」

「……悩んだな。『さん』を付けるか」

「あ、あはは……」


 彼と共にいるのは、元・帝国側の知った顔。

 相も変わらず仮面を付けた、露出の多い赤いドレスを着た女ノイドに、貴族服を着た老人の男ノイド。

 それに加え、皺のないスーツを着た優男のノイドもいる。


「お元気そうですね」

「うむ! 善き哉、善き哉!」


 エヴリン・レイスターとヴェルイン・ノイマン、そしてクロウ・ドーベルマンだ。


「……あのクズは、まだいないようだな。サザン」

「……その様ですね、クロウ大佐」

「いつまで軍人のつもりだ貴様は」

「……すみません。つい。しかし……何と呼べばいいか……」

「『クロウさん』でいいだろうが」

「……」

「何故悩む」



「……姿が見えないねぇ。まったく……しょうがないったらないよ。()()()()は」

「? 誰のことですか? キクさん」


 マリアが尋ねると、全く以前と変わらない姿をした老婆ノイドのキクの代わりに、何故かこの場でも以前と同じ給仕用のメイド服を着たノイドの女性、アイが答えた。


「もちろん、お二人のよく知る『あの人達』のことです」

「……え?」

「分からないか? マリア。カイン」

「オフコース……」


 反戦軍で整備担当を務めたツツジ・タータズムと、操舵を務めたザクロ・アンダスタン、それに他にも裏方で共に戦った者が大勢、この場にいた。

 そしてツツジとザクロの視線の先、どうやら高い舞台の方で、何かがあるらしい。

 期待と不安を抱えながら、カインたちは同じ方向に体を向ける。

 これだけ大勢の者を集めた者が何者か、実は心の奥底では既に予想がついている。

 そしてその予想は────外れていない。



 バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン



「「!?」」


 突然、舞台の上に煙幕が上がる。そしてそこにスポットライトが浴びせられれば、何が始まるかは明白だ。

 要するに──サプライズ。



「明るみズバッとすり抜けてッ! 人機を貫く糸一本ッ! 勇気一条、ユウキ・ストリンガーとは俺のことだァ!」



 いつもと変わらぬ、白い無地のバンダナを捲いた姿。

 彼は人差し指を高く突き上げ、糸を溢れ出して自らクラッカーを浴びたかのように演出している。

 その傍らで、煙が入らないよう目を閉じながら拍手をしているのは、宝石のヘアアクセサリーを付けた、ブロンド髪の女性。もちろん、ユーリだ。



「「「「「………………」」」」」



 一瞬絶句していた皆々だったが、カインは溢れ出てくる感情を抑えることが出来なかった。


「兄貴ッ! ユーリッ!」


 二人だけではない。上空から、舞台の裏に降りてくるクロガネも一体。

 蒼色の装甲で、首に赤い布を巻いた巨大なクロガネは、この世に一体しかいない。

 それを見てマリアも、カインに続いて声を上げる。


「ブレイヴさんも!」


 サプライズは、大成功に終わったらしい。


「よォ! 久しぶりじゃねェかッ! なァオイッ!」

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