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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
九章【糸を紡いで紐を成す】
139/158

『語られぬ戦い』⑦

「……逝ったか。マシヴァ」


 移動要塞の外の地上。

 アマネクが隙を見せたその瞬間、マスクドは拳を叩き込む。

 しかし、アマネクはやはり片手でその拳を受け止めてみせる。


「クソッ!」

「……威力が上がっているな。まあ……それほどではないが」


 マスクドは殴り殴られ合うことで、力を増す固有能力を持っている。

 だがその力でも、アマネクには及ばない。再び投げ飛ばされ、追撃を狙われる。


「……私とマシヴァ、そしてラフを合わせ、三つ前の世界では『三身トリムルティ』と呼ばれていた。それぞれが、それぞれの世界における最大の『異端』……。本来ならば、我らを凌駕する存在など、どの世界にもいるはずがなかった……」


「「シャドウハウス」」


 アマネクの言葉など、聞く余裕はない。

 クロロは持ち前の能力で周辺一帯を影で飲み込み、その中に隠れる。

 そして読めないタイミングで、アマネクを背後から叩きにかかるが──


「ッ! 駄目……なの?」


 それでも防がれる。いや、防がれたのとはわけが違う。

 防御したのではなく、ただその頑丈な体で受け止めただけだ。


「……ワールド・ギアを使い続けた弊害で、ここを含めた残された世界に影響を与えたのかもしれない。二人が共に倒れた世界は……ここが初めてだ」

「倒れるのは……お前もだッ!」


 そこでα(アルファ)の撃ち放った無数の弾丸が降り注がれる。

 必中だが、アマネクはそれを避けようとはしない。

 そして全て受け止めておきながら、彼はまだ無傷だった。


「どうなってるの……?」

「硬すぎる……。どこが『人間』だ。化け物め……ッ!」

「化け物? 私は人間だ。お前たちの方こそ、人間としての矜持を失っている。だが……それも仕方のないことだ。父は世界を増やし過ぎた。時も長く流れた。のちに生まれた人間は、寄り添わなければ生きていけない……そんな零落に成り果ててしまった」

「訳の分からんことを……」


 次の瞬間。



「「ッ!?」」



 アマネクはα(アルファ)の眼前にいた。瞬間移動ではない。

 恐ろし素の脚力だけで、高速で距離を縮めてきたのだ。


 ガンッッ


 そして素手でα(アルファ)を殴り倒す。ただの人間の拳で、α(アルファ)は地面に叩きつけられた。


「かッ……!」

灰蝋はいろうッ! α(アルファ)ッ!」


 今度は叫ぶデンボクとマスクドの方に狙いを定める。また一瞬で距離を縮めると、アマネクは同じようにマスクドを地面に叩きつけた。

 当然その次はクロロの方。

 三体とも『超同期オーバーシンクロ』しているというのに、あっさりと全員地に伏せさせてみせた。


「ぐッ……! ごちゃごちゃと……うるさい奴だな……! 何が『父』だ。本当に神の子のつもりか……ッ!?」

「……つもりではない。私達三人は、あり触れた『異端』とは一線を画している。直接『父』から……神託を受け取っている」

「世迷言を……ッ!」

「傲慢なマシヴァだけはそれを認めなかった。奴は、マキナ・エクスが父の現身だと信じていない。そしてラフのことも……生物と認めていない」

「傲慢なのはお前もだ。勝手に自分を特別に思い込んでいるだけ……。お前らは、ここで俺達に負ける程度の存在だッ!」

「行くよ、灰蝋」

「行くぞα(アルファ)ッ!」

「「『完全同化シンクロ・フル』ッ!」」

「…………………………無駄だ」


 性能を百パーセント以上で発揮しても、アマネクにダメージを与えることが出来ない。

 アマネクは確かに、彼の世界における『マキナ・エクス』という存在によって生み出された、その世界での原初の人間。

 そして彼の世界のマキナ・エクスこそ、『最初のマキナ・エクス』。唯一本物の神の現身。世界を無数に生み出した張本人。

 他の世界のマキナ・エクスとは、むしろ彼の分身でしかないアマネクと同質の存在だった。

 だが確かに、アマネクは最初に生み出された分身体。

 特別かそうでないかと言われたなら、彼はまさしく特別な存在だった。


 故に────以降の存在を、圧倒する。


「ごッ……」

「うッ……!」


 再び、α(アルファ)は倒れてしまう。

 膂力だけで、クロガネを容易く戦闘不能に追い込んでしまう。

 何故ならこの世界のクロガネを生み出したのもアマネクと同じ、神の分身体。

 生みの親と同等の男に、ただのクロガネで敵うはずもない。


「……殺しはしない。ゼロ様によって滅ぶ世界と、共に眠るがいい」


 三体とも、クロガネはもう動けない。

 中にいる人間三人も、動かすための精神力がもう足りていない。


「…………何故…………」

「?」


 口を開くのは、幽葉ゆうはだった。


「……どうして……そんな貴方は……『神の子』の貴方は…………ゼロに従うの……?」

「……マシヴァも、ラフも、ワールド・ギアも、父が直接手掛けたものだ。だが……ゼロ様は違う。彼こそが……父が望んだ存在。ならば、彼の望みこそが、父の望み。それこそが──」



「違う」


 そして灰蝋は、コックピットの中で倒れながら何とか声を発する。


「……幽葉・ラウグレーは、お前に聞いているんだろ……? お前の意志を……聞いているんだろ……? お前の父親の意志などどうでもいい。お前はお前だ。お前を生み出した存在の意志など……関係ない。生み出した奴のことなど……関係ない……はずだ……ッ!」

「…………」

「本当にお前の父が……神が関わっているのか? お前はそれを、又聞きしただけだろ?」

「私は父の声が聞こえる。脳の中に響いている。『異端』の中でも、私を始めとする父の分身……無数の世界のマキナ・エクスを名乗る存在と、マシヴァとラフを生み出したのは父だったと、伝え聞かされている。ワールド・ギアのこともそうだ。当然……ゼロ様のことも」

「……だったら……『アイツ』は何なんだ……?」

「? 誰のことだ?」

「この世界の……『()()』のことだ」

「?」


     *


 確かにアマネクには、頭の中に響く神を名乗る存在の声が聞こえている。

 だが、それが本当に彼の言う父の言葉なのかどうかは、決して分からない。

 それでもアマネクは、その言葉が父のものだと信じて疑わない。

 何故か? それは単純に、恐ろしいからだ。

 未知に対して恐怖を抱く……彼は、そんなあり触れた人間とそうは変わらない。

 特別なのは──彼だけではない。




「ソニックッ! 僕は気付いたことがあるッ!」

「アウラッ! そいつは一体何なんだッ!?」

「世界にはッ! 殺さなければならない存在もいるッ!」

「ギギリーみてェな野郎のことかッ!?」

「違うッ! この世を生きる存在に……殺していい奴なんていないッ!」

「そいじゃあ一体誰なんだッ!?」

「既に死んでる奴のことだッ!」

「なるほどそいつァ納得だッ!」



 そして──────二人は揺るがせる。



「さあ見えたッ! ソニックッ! ここは一体どこなんだッ!?」

「これはおめェの初陣よォッ! ここは最初の戦場だッ!」

「死ななきゃならない奴がいるッ!」

「殺さなきゃならねェ奴がいるッ!」

「殺す覚悟は出来ちゃいないけどッ!」

「地獄に還す覚悟は出来たッ!」

「ただ一陣の僕らの風でッ!」

「世界を戦がす時が来たッ!」

「目標、死人ッ!」

「原初の人間ッ!」

「アイツを還してッ!」

「俺らが生きてッ!」


「「これより戦いを終わらせるッ!」」


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