『語られぬ戦い』③
未来を巻き込み吹っ飛ばす、輪廻の円環が駆け巡る。
「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」
「YEAHHHHHHHHHHHHH!」
移動要塞マキナの内部。その中心の城の城門付近。戦っているのは、四種の存在。
世界を守るために戦うのは、ノイドのカインと人間のマリア、そして鉄のトルク。
世界を終わらせるために戦うのは、未来の『クロガネマガイ』のラフ。
「HAHAHAッ! エビバディセイホーッ! ノリに乗って来たなッ! 亡霊どもッ!」
ラフは荷電粒子砲を無差別に撃ちまくる。
しかし、カインのスピニング・ギアとトルクのモーメントによって放たれる円盤は、荷電粒子砲を完全に無力化しながらラフに衝突する。
「これで終わりだッ!」
空色の光と錆色の光を放ちながら、トルクは叫ぶ。
壮絶な破壊力を誇る、この状態の彼らにとって唯一にして最大の技・スピンオンモーメントで、トドメを刺しにいった。
だが、しかし──
「終わらない……その程度じゃあ終わらないッ!」
確かに円盤は直撃していた。だが、ラフはまだ倒れない。
機械の体には、傷一つ…………いや、違う。
「……装甲の裏に……また装甲……」
光沢のある装甲は剥がれ、錆びた装甲が露わになる。加えて、四つあったはずのラフの頭は、一つ減って三つになっていた。
「海底撈月。私は死なない……終わりがない。何故なら私は初めから、生きていないのだから」
「……!?」
(何だコイツ……。急に口調が……)
疑問に思いながら、カインはトルクを操って一度距離を取る。
「画竜点睛。最後を飾るのは、貴様らの方だ。そして……装飾を担うは、私の役目」
そして、もう一度最大技をぶつけようとする。もとより彼らに出来るのは、それだけなのだ。
「「「スピンオンモーメントッ!」」」
「悠悠閑閑。避けるのに……一切の難儀も無しッ!」
明らかに、先程までよりも速度が上がっている。ラフの移動速度が上昇している。
まるでこちらの動きについてこられるように、トルクよりも少しだけ速く。
「避けられたッ!」
「逃がすかよッ!」
被っているハンチング帽のズレを無視して、カインは意識を集中させる。
そしてカインの意識に基づいてトルクは動かされる。
トルク自身の意志で動くよりも、圧倒的に反応速度が速い。
『覚醒』状態のカインの身体能力は、それだけ上昇しているのだ。
「磨穿鉄硯。逃げる腹積もりはない。防ぎきれない無尽蔵の攻撃を……食らって耐えてみせろッ!」
「「「!?」」」
「サンサーラキラナ」
トルクの放つ円盤は、一度の攻撃に一つのみ。
先程までのラフの荷電粒子砲は、無差別かつ多方向への攻撃だったが、それでもその円盤一つで全て無力化させることが出来た。
しかしこの攻撃は違う。トルクに対する、一極集中の連射砲。
円盤は全てを巻き込みその回転エネルギーで無力化させようとするが、途切れない。攻撃の雨が止まない。
ぶつかり合う攻撃に掛かるエネルギーは、ほぼ互角同士。
回転による無力化が……追いつかない。
「雲散霧消。私と貴様らの能力は……これで同等になった」
「クソ……!」
お互いの攻撃は、相殺して消えてしまった。
そうなると、再びラフは同じ攻撃を繰り返す。相殺が続けば、先にエネルギーが尽きた方が敗北することになる。
ラフは、自身が最後に立っているだろうことを確信していた。
「私の荷電粒子砲は、空気中に無限と存在する粒子を取り込み、この機体の中で圧縮、加速して撃ち放つもの……。円盤はあといくつ出せる? 限界が先に来るのは……貴様らの方だッ!」
「このォ……ッ!」
どちらの攻撃手段も、この世界における科学力の粋を結集しても、再現できるようなものではない。
この世界のハルカ・レイが生み出したスピニング・ギアは、彼女以外には決して作り出せない代物。
全てを回転に巻き込むスピニング・ギアの能力に、トルクの回転エネルギーを増幅させる固有能力が合わされば、もう完全に規格外の兵器の誕生だ。
一方でラフの荷電粒子砲も、他に類を見ない代物。仕組みはこの世界の科学者の誰も分からない。そして集中砲火すれば、破壊力はカインたちの円盤と大差がない。
ただ、ここでカインが気になったのは、『何故今まで一ヶ所に集中砲火しなかったのか?』という点。
まるで、頭が一個消える前までは、それが出来るようプログラミングされていなかったかのような──
「カインッ! このままでは埒が明かない!」
「……ああ! けどシンプルな話だ。俺が……『セーブ』しなきゃ良いってだけのことッ!」
「……ッ! フッ……向こう見ずめ!」
「行くぞ……!」
『覚醒』状態のカインのエネルギー供給が増せば、この集中砲火をも凌駕することは出来る。
もっとも、その場合は早期決着が必須で、まだ向こうに奥の手があれば、力を使い果たしたこちら側が不利を被ることになる。
だがトルクは、判断をカインに任せる。無論、膝の上にいるマリアもだ。
「「「食らえェェェェェェェェェェェェ!」」」
複数の回転する円盤を、同時に放出する。
「ッ!?」
奇跡的に集結した三人の力は、この戦場の中でも相当に抜けていた。
複数の円盤による攻撃は何度も出来るものではなく、長時間大多数を相手に出来る力ではないが、敵が単体ならば話は変わる。
回転に巻き込まれて引き寄せられると避けることは叶わず、その破壊力はユウキとブレイヴのストリングブレイヴバーストも上回っていた。
円盤が一個ならば避けることも出来たが、複数ならばそれも絶対に不可能。
集中砲火する光弾を全て無力化し、ラフの錆びた装甲に直撃し──
「…………データ修正。分析……適応……形態変化……」
「「「!?」」」
ラフの錆びた装甲は剥がれ、真っ白なゴムで出来た、人工筋肉とでも呼べるような機体が、姿を見せる。
そして三つあった頭は、また一つ減って二つに変わっていた。
「どうなって……」
「……そういうこと……」
「? マリア?」
「カイン。トルクさん。このクロガネマガイは……私達に適応して、『進化』しているんだよ。自ら敵のデータを分析して、自ら望ましい方向に変わっていく……」
「な……!?」
「そんな馬鹿な……。それは最早ロボットでも、我々のような生物ですらない……ッ!」
そして、ラフは大きく咆哮を上げる。
「ぉPじょcjアdしjfAでゅdキbdfksんsdkんsfhカづdhKEvぬdhチュvんづbMOvふいvhjそdhづhfdDメsfんvds────────」
この世のものとも思えないような声を上げると、唐突に静まってカインたちの方に視線を向けた。
「……僕が貴方を葬ります。亡霊は……亡霊は……ぼ、ぼう……ぼ、ぼ、ぼ、う、ううう、ううううう……」
「何なんだ……コイツは……」
「亡霊はッ! 亡霊らしくあれッッッ!」
両腕の砲口をトルクに向け、撃ち放つ。
「……ッ!」
今までの光弾と、何かが違う様な気がする。だが、だからといってこちらの打つ手が変わるわけでもない。
複数の円盤を投げつけ、その光弾を全て無力化させるだけ。
が、しかし──
ギュオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ…………
消えた。
いや、飲み込まれたのだ。
その光弾は円盤に直撃すると、ブラックホールのようなものを生み出して、その空間ごと円盤を飲み込み、消えた。
「!? 何だよそれ……ッ!」
「貴方たちの分析は終わりました。『反粒子砲』によって、全ての攻撃手段は対消滅に至ります。勝機は消えました。僕は今、最も最も最も最も最も未来の存在です。古代の亡霊は……決してもう、僕には届かない」
「…………ッ」
そして、たった今見せた反粒子砲を連射し始める。当たれば即死で、一発でこちらの円盤を消滅させる。
あまりに理不尽な攻撃を前にしても、まだカインたちは留まることを知らない。
「……分かった。カイン。これは、私がやるしかないってことだね」
「……いけるの?」
「カインが一緒なら……きっと」
「私もいるが」
「あああ! もちろん分かってますよ!? いきますよトルクさん!」
「……調子が良いな。馬鹿馬鹿しいまでに」
そしてマリアは、ここに来る前に灰蝋から聞いていた、『自分の可能性』を引き出す──
「「「『共存』」」」




