『side:ユウキ・ストリンガー』
◇ 界機暦三〇三一年 七月二十七日 ◇
◇ 午後九時四十二分 ◇
■ ノイド帝国 アスガルタの丘 ■
移動要塞マキナの進行ルートを読んでいたユーリは、仲間と共にその先回りをしていた。
まだ移動要塞マキナは姿を見せていないが、計算通りならば翌朝が決戦の時となる。
ゼロを始めとする、世界を滅ぼそうとする者たちとの、最後の戦いだ。
反戦軍の陸上戦艦の中で、全員がその時に備えて体を休めている中、ユーリは外に出て何も無い広々とした荒野を見つめていた。
「どうした? 寝ねェのかよ」
そんな彼女の傍に現れるのは、無地のハチマキを捲いた黒髪黒目のノイドの男、ユウキ・ストリンガー。
見た目こそまるで違うが、彼はこの世界における、彼女自身。
そのことも含め、これまでの自身の境遇の全てを、ユーリは既に話し終えていた。
「……ユウキ……」
「お前もユウキなんだろ? 違和感とかねェんだな」
「……もう……慣れた……」
ユーリは、両膝を両腕で抱えながら座っていた。
そしてその全身は、寒くもないのに震えている。
震えを止めることが、出来ない。
「大丈夫か?」
「…………『大丈夫』…………?」
他の者は、この先の戦いのためにまだ冷静さを保って、理性的に休むことが出来ている。
しかしユーリは違う。もしかしたら、この隙を狙ってゼロが何らかの手段を用いて攻めてくるかもしれないと考え、眠ろうにも眠れない。
いや、それだけではない。ただシンプルに、恐怖で眠ることが出来ずにいた。
ユーリはもう、ずっとずっと前から、限界を超えている──
「大丈夫なわけが…………ないでしょッ!?」
ガチガチと歯を鳴らしながら、怯えた表情でユウキの方に振り向く。
全てをさらけ出した今、もう取り繕う余裕はない。
「もう何度失敗したか分からない……。何人死んだか分からない……。今回だって、上手くいってるのは偶然に偶然が重なったおかげでしかない。いや、上手くいってるように見えているだけかもしれない。結局最後にはみんな……みんな……」
「死なねェよ」
「……」
「俺は死なねェ。お前が教えてくれたんだ。お前のおかげで俺は……『生きたい』と思えるようになったんだ。死に場所を求めていた俺に、辛くて逃げだしたかった俺に、お前が寄り添ってくれたんだ。だったら俺は……死ぬわけにゃいかねェだろッ! なァオイッ!」
「ユウキ……」
「絶対に生きて……みんなで生きて…………生きるんだッ! そう言ってくれたのも! お前じゃねェか! 相棒ッ!」
ユーリは目から涙を溢れ出させていた。
いつか彼が自分に弱音を吐いた時と同じ様に、気付かぬうちに、自分も彼に弱音を吐いていた。
「……後悔しかない。私の今までの全ては、後悔しか存在してない……。目の前で頭を吹き飛ばされた『ユウキ』もいた。恐怖に負けて自死する『ユウキ』もいた。希望を信じて惨たらしく肉塊になる『ユウキ』もいた。絶望に屈して私を殺そうとする『ユウキ』もいた。……私は、その全てを捨てて、次の世界へ、次の世界へと逃げ続けてきた。私が……私だけが、『生きたい』と思ったから。私だけが……幸せになりたいと……思ってしまったから……」
「……けど、お前はそう選択したんだ。正しいかどうかは問題じゃない。俺はお前が幸せになるべきだと思ってる。思ってねェわけねェだろがッ! だから最後まで貫けよッ! その選択をした『覚悟』を、貫き通すと誓うんだッ!」
そして、ユーリは立ち上がる。涙を拭って立ち上がる。
目の前の『ユウキ』は、別に異端でも特別でもない。
ただたくさんの存在の、想いという名の糸を紡ぎ、撚り合わせられた一条の紐でしかない。
その思想の根源にあるのは、また誰かの持つ思想。
その言葉の根源にあるのは、また誰かの放った言葉。
彼の全ては、彼だけのものではない。
だがだからこそ、彼は他の誰でもない、ただ一人の存在だった。
「……私は、幸せの意味を知りたい。それを教えてくれるかもしれなかったあの子と、あの子を殺したゼロのことを、知らなければならない。たとえそれが無理だと分かっていても……分からないままではいられない」
「ああそうさ。分からねェからこそ、立ち止まることなんか出来ねェんだ。それが俺達って存在だ。たとえ無駄でも、無意味でも、進み続けるしかねェんだッ! なァオイッ!」
「そうだね…………相棒」
二人のユウキ・ストリンガーは、運命によって導かれる。
そして……最後の戦いが、始まった──
*
◇ 界機歴三〇三一年 七月二十八日 ◇
◇ 午前十一時十一分 ◇
■ ノイド帝国 アスガルタの丘 ■
移動要塞マキナは、敵を発見してすぐにその城のような巨大な内部から、無数の『存在』を放出させた。
人間の乗る鉄と鉄紛。自立稼働する未来兵器のクロガネマガイ。そして幾人ものノイドたち。
全員が、ゼロによって異世界から呼び出され、ゼロに従っている存在だ。
空中を飛びながら、ユーリたちゼロを倒すために集まった共同戦線の方に、今まさに向かってきている。
「オイオイ……すげェ数だな……ッ!」
そう言って早速出撃態勢に入っているのは、鉄・ソニック。
もちろん搭乗者は、アウラ・エイドレスだ。
「まずはコイツらを倒さないと……ゼロの元には辿り着けないってわけか」
「どうする!?」
指示を出すのはユーリの役目。彼女はユウキと共に鉄・ブレイブの中に入って、通信を全員と繋いでいた。
「当初の作戦通りだよ。ただ……予想以上に敵が多い。みんなは……」
ユーリはまだ、手を震わせていた。彼女はユウキの真下に席を用意して座っていたが、様子はユウキからすぐに窺える。
だからこそ、ユウキはユーリに覆い被さるように前のめりになって、その震える手に触れた。
そのおかげで彼女は少しだけ安堵する。必ず上手くいくと信じられる。
それに勝機もある。何故ならここには、あらゆる世界を知る彼女がこれまで見たことも聞いたこともない『奇跡』が、いくつも存在しているのだから──
「いや、僕らで十分だよ」
アウラは、強い声色でソニックを動かそうとする。
「待ってエイドレス君。私達も」
「いいや幽葉。向こうには他にもまだ、三人の逸脱した脅威がいる。雑魚に手数を割くべきじゃない。そうでしょ? デンボク。灰蝋」
「……大丈夫なのか?」
「不要な心配だ。コイツらは強い。そうだろ? ……そよ風ども」
幽葉・ラウグレー、デンボク、灰蝋と、彼らの乗る鉄であるクロロ、マスクド・マッスラー、α《アルファ》も、皆出撃態勢が整っている。
だがここに集った共同戦線の中で、最初に向かう者を誰にするかは、既に決まっていた。
「……うん。さ、行こうかソニック」
「あたぼうよォッ!」
「頼むよアウラ。ソニック。……死なないで」
そうして、二人は出撃する。
すると大量の敵を前にしてすぐ、彼らはつい昨日知ったばかりの、自分たちの最も秀でた能力を使用した──
「「『共存』ッッッ!」」
全身から激しい若緑色の光を発し、ソニックは機械の体から肉体に変貌する。
光背を出現させたその状態は『完全同化』と同質のものなのだが、見た目には違う点が一つある。
それは、ソニックだけでなくアウラ自身も、若緑色の光を発しているという点だ。
「「アクセルマッハスパーダァァァァッ!」」
光の二刀を音速で振るい、二人は敵を次々に戦闘不能にしていく。
鉄も鉄紛もノイドも関係ない。
全力で、全ての敵を相手にするのだ。
「アウラッ! 手加減の必要はねェぞッ! 今回の敵は、死ねば元の世界に戻るだけだッ! 殺すことにゃァならねェ!」
「ああ分かってるッ! 僕らの本気を……見せてやろう! ソニックッ!」
自分なりのルールに基づいて、今までは敵を殺さないように、加減をしながら戦っていた。
二人が本気を見せるのは、この戦いが初めてのことになる。
出撃から数秒で、五体の鉄と五十六体の未来製のものも含む鉄紛、そして二百七人のノイドを戦闘不能にしてみせた。
だが、敵も一筋縄ではいかない。
アウラを強敵と判断すると、空中に無数の『光』が溢れ出した──
「……ッ! 『超同期』……ってかァ!?」
「『覚醒』まで……ッ! でも……やるしかないッ!」
鉄数体とノイドの何人かが、限界の力を引き出して向かってくる。
だが、それでも今の状態のアウラとソニックならば、相手には出来る。
限界を遥かに超えて、誰にも捉えられない速度で、一人ずつ処理をしていくのだ。
*
「凄い……。ここまでだなんて……」
「驚いてる場合じゃないわ、エヴリン。私達も……行かないと!」
エヴリン・レイスター、アカネ・リント、それに反戦軍の他のメンバーも、空に飛んで要塞の方に向かおうとする。
ユーリたちの作戦は、もう始まっていた。
「アウラとソニックが多人数を相手にしている間に、私達は要塞に突撃するッ! 目標はゼロただ一人ッ! 良いね!?」
「「「「「了解ッ!」」」」」
アウラたちがいつまで耐えられるかは分からないが、超スピードで動く彼らなら、本丸を狙うこちらに敵を向かわせるような隙は、そう簡単に与えないだろう。
時間は限られている。止まっている暇など無い。
「さァ行くぜユーリッ! ブレイヴッ!」
「ああ!」
「うん!」
そうして空中を飛んで移動できる者達は皆、要塞の方に向かって行った。
その場に残るのは、反戦軍の母船である陸上戦艦、ディープマダーZだけだ。
「……さて。みんな行っちまったなってんよ」
メインブリッジでグレン・ブレイクローは一度小さく息を吐き、そして台に強く手を置く。
「さァ出るぜッ! アウラとソニックの援護だってんよッ!」
そして陸上戦艦はゆっくりと動き出す。
攻撃手段はいくつも用意してある。地上から、空を飛ぶ敵を攻撃するのだ。
「足手まといにならなきゃいいですけど……」
「だが、戦わないわけにはいかんでしょう」
「いい? アネモネ。こっちが追尾弾で、数が限られてるから……ま、好きに撃っていいよ」
「限られてるなら好きに撃つべきではないのでは!?」
「出し惜しみするよか、マシさねぇ」
無謀な戦力ではあるが、アウラたちだけに任せるわけにもいかない。
グレンたちもまた、戦う覚悟は済んでいた。
「……頼むぜみんな。必ず、生きて勝つんだってんよ……ッ!」
*
アウラが多数の敵を引き付けている間に、ユウキたちは要塞に接近していた。
巨大な要塞だが、中にいた者は現在ほぼ外に出張っている。
叩くならば、今しかない。
「ゼロはどこだ!?」
「探すしかない。まあどう見ても……あの一番大きな建物が、怪しいけどね」
移動要塞マキナは、巨大な城と城下町そのものが、やはり巨大なサイズの四本の足で動いている、常識外れの異様な建造物だった。
ゼロがいるのは恐らく、その城の中。要塞の動きは鈍重で、そこまで近付くこと自体は何ら難しくはないはず──が。
「去れ」
ブレイヴのことを、『何か』が急に襲い掛かる。
それは、彼の感覚では確かに、人間の素足による『蹴り』の衝撃だった。
「ぐッ……! 何だ……!?」
「クソ……大丈夫か!? ブレイヴ!」
「出たね……」
ユーリはその『蹴り』を行った者の正体を既に知っている。
金髪で、全裸の人間の男。どこからどう見ても、機械の体であるブレイヴを蹴れば、自分の方がダメージを負ってしまいそうな、普通の人間に見える体をした男だ。
だが、普通なのは見た目だけ。この男は、ゼロに迎合する『異端』の一人だった。
「……」
「アマネク……ッ!」
いきなり要塞の城下町から、ブレイヴの方まで飛んで来て、おまけに蹴りまで食らわせた。
そしてそのまま地上に着地し、何事もなくこちらの様子を窺っている。
まるで、またいつでもこちらにジャンプして攻撃できるかのように。
……いや、実際に出来るのだ。
この男の身体能力は、『人間』の域を逸脱していた。
「ユウキさん。ここは私達に」
「! 幽葉か! 頼んだ!」
ユウキたちは幽葉とクロロにここを任せ、先に向かおうとした。
「!?」
だが、その時目の前にアマネクがジャンプして現れる。
いや違う。空気を蹴ってここまで上がって来たのだ。
「去れと言ったはずだ」
「貴様がなッ!」
そこでユウキたちを救ったのは、デンボクとマスクド・マッスラー。
残念ながら拳は容易く避けられたが、邪魔を出来ただけで充分。
「デンボクッ!」
「行けよォッ! ここは俺らに任せろッ! 最高に目立てる良い機会だぜッ!」
「……頼むぞッ! クロロ! マスクド!」
「死なないでね……!」
ユウキたちが先に向かうと、アマネクは更に上空まで飛び上がり、そして自然落下しながら二体の鉄を見下した。
「……人間の力無くして戦えん鉄……。悲しく、愚かで、劣悪な存在……」
「わ、わわ悪口言われてるよぉ。幽葉ァ……」
「……」
幽葉はこの男が普通でないことをあらかじめユーリから聞いてはいたが、実際にそれを目の当たりにして、かなり動揺していた。
(……本当に……どう見てもただの人間……。なのに……一体何……? この身体能力は……)
「さァ行くぜデンボクッ!」
「……ああ。面倒だが、やるしか──」
刹那。
「「「「ッ!?」」」」
一瞬で、二体のクロガネのすぐ傍まで、アマネクは接近してきた。
背後を取られ、そのまま何の変哲もないただの回し蹴りを、浴びせられる。
「がッ……!?」
「ゴォッ……!?」
ただの蹴りのはずが、途轍もないまでの威力。
そしてアマネクは様子を見ることもせず、空を蹴って連続攻撃を仕掛けようとする。
体勢を崩された状態で今の攻撃を続けられれば、とてもでないが耐えられたものではない。
「「ファーストテリトリーッ!」」
そこで、α《アルファ》の弾丸がアマネクに直撃する。
灰蝋とα《アルファ》の二人も、ここでアマネクの相手をすることにしたのだ。
「灰蝋君!」
「……油断するなよ、雑魚ども。コイツは……俺達が束になっても、勝てるかどうか分からない相手だ……!」
「「……!」」
幽葉とデンボクは、ここで気合いを入れ直して手すりを握る手に力を入れる。
α《アルファ》の弾丸の炸裂で発生した煙は、空中で留まったまま。
それが表すのは、一つの単純な事実。
α《アルファ》の弾丸は確かにアマネクに直撃したというのに────彼は無傷だった。
「……何故鉄の力を借りる? この世で最も優れた生物は…………人間だというのに」
当たり前のように空中で足踏みし、そこに留まっている。
それはまるで走り出す前の予備動作のようで、次の行動を予見させた。
「来るぞッ!」
そして、アマネクはまた空を蹴って、途轍もない速度で攻撃を仕掛ける。
改造人間二人に、人造人間一人。そして、鉄が三体。
彼らはこれから、ただの人間一人と戦うことになった──
*
要塞に到着したユウキたちは、すぐに城下町から入って城の方に向かう。
だが、そう簡単に辿り着けるわけはなかった。
「危ないブレイヴッ!」
唐突に、どこからか攻撃を仕掛けてくるノイドが一体。
アカネが火を纏う足で何とか弾いたが、ここでまた戦力は分散させることになる。
「コイツは……──ッ!?」
アカネの頬が、切れていた。
一瞬弾いたその時に、彼女もまたダメージを受けていたのだ。
「大丈夫ですか!? アカネさん!」
「……大丈夫よ。エヴリン」
現れたのは、包帯で三叉槍を手に括りつけている、皺だらけで目も見えない老人の男ノイド。
既にユーリから話は聞いている、危険な『異端』の一人だ。
「マシヴァ……」
「エヴリン! ここは任せていいか!?」
「もちろんです!」
だが、残るのは彼女だけではなかった。
先に進んだのはブレイヴとトルク、その搭乗者のみ。
他の者は皆、ここに残る判断を下した。
「……良かったんですか? 皆さんまで残って」
残った全員とは、すなわち反戦軍の戦闘部隊メンバーだ。
「貴方だけじゃ心配だしね」
「そうだぜ!」
「まったくそうだぜ!」
「まったくマジでその通りだぜ!」
動物姿の鉄紛に乗る、猛獣三兄弟。
「行くよボタン!」
「行くよ~。マツバ~」
動物の体に変形する双子のノイド、ヒーデリ兄妹。
「まさか、役に立たねェとか思ってねェだろうなァ!? エヴリン・レイスターッ!」
そして、人型の鉄紛に乗るバラ。
フレイム・ギアを操るアカネを合わせて、彼らはかつての敵と、ここで共闘を始める。
「……そうですね。皆さんは以前、私一人に負かされていましたから」
「「「「何だとコラァッ!」」」」
「……でも、前と同じ様にはいかないですよね? 頼りにします。だから……絶対に、死なないでください……ッ!」
「「「「「「「当然ッ!」」」」」」」
そしてマシヴァは三叉層を握りながら、前項姿勢になる。
「…………生き急ぐか。小僧ども」
*
そしてようやく、ユウキたちは城の前に辿り着く。
「おしッ! ぶっ壊して入るぜッ! ブレイヴ!」
「!? 待てッ! 下から──」
「YEAHHHHHHHH! 俺様登場ッ!」
地面……というよりは、要塞の内部から現れた、四つの頭を持つ、光背のある未来の『クロガネマガイ』。
「ラフッ!」
不意を突かれたブレイヴに対し、ラフは荷電粒子砲を放とうとする。
だが──
「「「スピンオンッ!」」」
声を揃えるのは、カインとマリア、そしてトルクの三人だ。
「WOW! 驚かせるぜ亡霊風情がッ!」
「……コイツが、クロガネマガイ……? どう見ても……私達と同じ、鉄にしか見えない……」
トルクはラフのことをずっと鉄だと思っていたので、ユーリの話を聞いた後だからといって、再び相まみえた今でもまだ信じられない。
どう見ても意思があり、生きているように見える。ロボット兵器だとは思えない。
そうしてラフを相手取ったトルクを操る中のカインに対し、ユウキは声を掛けた。
「……カイン。行けんのか?」
「大丈夫。だって俺は一人じゃない。だから行ってくれよ兄貴。世界を……守るためにッ!」
「……ハッ! 頼れる弟じゃねェか! マリア! トルク! そいつを頼んだぜッ!」
「言われなくとも」
「任せてください!」
*
城の中へ侵入したユウキたちは、そこでついに相対する。
眼前にいるのは、邪悪な顔面に鋭利な装甲を持つ、藍鉄色の鉄・カワード。
そして、わざとらしく開けたそのコックピットの中には、『彼』の姿がある。
それを見てユウキは、こちらのブレイヴのコックピットも開けた。
ユーリは彼の姿を確認し、身震いをまた激しくさせる。
「ゼロ……ッ!」
「……誰かな? 折角……もうすぐのところだったというのに」
ノイド・ギアの完成に必要な資源は、彼にとっては残念ながら、ここまで届くことはなかった。
望みを叶えるためには、まず目の前の邪魔者を排除しなければならない。
だが全てが解れた彼は、もう目の前の男が何者か覚えていない。
……だからこそ、彼はいつものように、名乗りを上げる──
「数多の糸を撚り合わせッ! 紡いで結ぶは紐一本ッ! 情熱千条、ユウキ・ストリンガーとは──」
「俺達のことだァ!」「私達のことだッ!」




