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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
七章【残心の死鋏】
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『fate:ナイン・テラヘルツ』②

「アナライズ・ギア」


 ナインの右目は、ゼロのように義眼で出来ていた。金色で、機械仕掛けのギアなのだ。

 そして右手の指で目を開けままたサザンを捉えると、左手の人差し指をサザンに向ける。


「ライジング・ギア」

「!?」


 似たような攻撃を、サザンは知っている。

 これは雷撃。雷の如き一撃だ。しかし、サザンが以前に見た電撃よりは、遅く感じられる。


「くッ!」


 初見で躱せるのは、ひとえにサザンの驚異的な才能に由来している。

 だがこの攻撃は、躱すことに意味を持たせない。


「無駄だよ」


 雷撃は、サザンに躱されてすぐに方向転換した。

 光とエネルギーの塊のはずだが、この攻撃には追尾性能が備わっているのだ。


「ッ!? ぐ……がァァァァァァァァ!」


 そして、サザンは空中でもろにそれを食らってしまう。

 そのまま落下した彼は、若干痺れてすぐには立ち上がれない。


「……ライジング・ギアの雷撃は、アナライズ・ギアで分析した敵を、絶対必中で捉え、貫く。避けることに意味は無い。そして、防御も意味はなさない。雷撃だからな」

「…………キィッ!」


 しかし、サザンはまだまだ戦える。

 全身から砂色の光を溢れ出させて、『覚醒レイズ』の状態に至って立ち上がる。


「……へェ。『覚醒レイズ』か……凄いじゃん。ますますもったいない。君がコアを持てば、シドウ君以上の『超過ネクスト』も使えたかもしれないのに」

「……それが、貴様のオーバートップギアか?」

「? ああ……いや、違うよ。この二つはただの、便利な武器。……いや、違わないか。テラヘルツ波分析の出来るアナライズ・ギアも、エレクトロ・ギアの派生であるライジング・ギアも……エネルギー消費が激しいのは確かだ」

「……オーバートップギアを二つ……?」

「勘違いするなよ? 武器と言っても、アナライズ・ギアは基本的に戦闘では使わないんだ。これはまあその……俺を『使う』時に、役に立つモンでさ。分析しきった相手をライジング・ギアで追尾できるって効果は、研究者の連中には知らせてないんだ。知ってるのはノーマン君だけ」

「…………」


 ナインがどのような存在として帝国の裏で扱われているかなどは、呑気に今尋ねることではない。

 サザンがしなければならないのは、この男の攻略法を知ること。


(今のがオーバートップギアなら、その前のは何だ? まさかアレもオーバートップギア……? コアというのは……オーバートップギアをいくつも使えるものなのか?)


「いいや」

「!」


 また、ナインはすぐ目の前に移動していた。


「……言いたいことは分かってる。まあでも、教えたら帰ってくれるってわけでもないよな? どうする? まだ……戦うか?」

「言うまでも……無いッ!」


 『覚醒レイズ』状態のサザンは、鞭のように変形した腕をしならせ、伸び縮みさせられるようになった。

 そして先端の巨大な鋏を、敵との距離を無視して自由自在に操ることが出来る。

 サザンは鋏を不規則に暴れ回らせる。その動きはとても速く、目で捉えるのは至難なものだ。

 ナインの攻撃を警戒し、自分自身は動かずに中距離攻撃を仕掛ける。

 しかしナインは、避けようともしない。


「なるほど……〝顎鋏がくばさみ〟……」


 あまりにも激しい動きを見せている所為で、避けることが出来ないのかもしれない。

 サザンは相手が何も仕掛けられないよう、この攻撃一発で決めようとも考えた。


「シザー……」



 が──



「…………………………………………?」


 三度目だ。

 サザンはまた、地に伏せていた。

 それも、場所を移動している。真っ白な壁が破壊され、その下で倒れている。

 三度目だからか、何が起きたかは少しだけ理解している。

 確かに突然蹴り飛ばされ、壁に衝突したのだ。しかし、そんなことがあり得るはずがない。

 背に蹴りの衝撃が入るその時まで、確かにサザンの眼前にはナインがいた。


(……何……だ……? 今……いた……。目の前に奴は……確かに()()……。なのに背後から……誰かが蹴りを……? 敵は……二人いるのか……? 速すぎて移動の瞬間が見えなかっただけ……? 見えていたのは……奴の残像……? …………いや、違うッ!)


 ここでサザンは再び立ち上がって、真っ直ぐナインに向かっていくことにした。

 ナインはまた庇の上にいて、アナライズ・ギアとライジング・ギアを使用する気でいるようだ。


「……詳細分析完了。ライジング・ギア」


 やはり右手で右目を開き、左手の指で攻撃をしようとしている。

 絶対必中だと分かっているのならば、避けることに意味は無い。

 まるで無策であるかのように、サザンはただ直進する。

 鞭のようにしなる腕を伸ばし、ナインの方に鋏を向ける。


「オートトミー……シザークロスッ!」


 伸びた腕の先から、巨大な鋏を切り離し、自動で飛び掛からせる。

 同時にナインも雷撃を放っているが、サザンの攻撃には影響がない。

 だがそれは、逆も然りという話でしかなく──


「がァァァァァァァァァッ!」


 サザンはナインの雷撃をまともに食らった。

 そしてサザンの方の攻撃はというと──


「……直撃だ。君の体の弱点にね」


 当たっていない。ナインがいつ避けたのかすら、サザンは分からなかった。

 そして、今の雷撃のダメージは先程の比ではない。

 サザンはうつ伏せの状態になり、なかなか痺れも取れない。


「……ッ!」

「アナライズ・ギアで君の弱点を把握したんだ。雷撃は急所を逃さない。……これで……」


 だが、サザンはまだ意識を失わない。それどころか、ナインのことを強く睨みつけていた。


「……驚いたな。まだ意識があるんだ。これはもう……コアさえあったら、シドウ君よりも上だったのは間違いないな」 

「ハァ……ハァ………。………()()……か」

「!?」


「……二パターンの移動。私の視界から消えてから背後に現れるだけならば、『瞬間移動』で説明できた。だが同時に、貴様は私の視界に映ったまま攻撃を仕掛けてきた。そんなのは……私と別の時間を生きている場合しか、考えられない……!」

「……気付いたんだ。そうだよ、君の想像通りだ」


 するとナインは、自らの着ている衣服を脱ぎ捨てた。

 そしてサザンは、自身の予感が的中しないことを祈る──



「タイム・ギア。俺は────()()()()()()()()()()()



 ナイン・テラヘルツというノイドは、完全にこの世の理を超えた領域に足を踏み入れていた。

 一個体に許された力の範囲を逸脱している。

 『最強』と呼ばれることに意味は無い。

 彼がいればそれだけで、『戦い』などというものは成立しない。

 『強さ』を語ることすら、出来はしない。


「……………………」


 露わになった彼の体はとても、他のノイドと同じ様には見えない。

 彼の体の表面は、人間のような表皮で覆われていない。完全な、金属部分がそのまま曝け出されていた。

 加えて、ノイドにも見られるような生殖器なども無い。

 まるで、生物というよりはロボットそのものであるかのような──


「…………いや、違うな」

「え」


 サザンには理解できた。恐らくナイン以上に、ナインの力のことを。

 ナインの胸にはコアのような物がある。確かに黄色い光を放つ、コアと思われる物が。

 間違いなく、オーバートップギアはそのコアのすぐ傍に埋め込まれている、三つ目のオーバートップギアと思われるフラスコ型の機械に違いない。

 だが、違う。『オーバートップギア』として一括りにしていいものではない。

 ナインの持つその力は……。


「貴様を軸にして、時間と空間が動いたのならば……それは、貴様が移動したのではない。移動したのは……世界の方だ。貴様のそのギアは、()()()()()()()()()のだ」


 サザンがそう言って、拒絶反応を示すかのような厳しい視線を向けると、ナインは少しだけ眉間に皺を寄せた。


「……俺が怖いか?」

「……貴様は何者だ? ゼロのような……あり得てはならん力を使えるのか?」

「ゼロの力は知らないが……向こうも俺の力は知らないだろうさ。知っているのは、俺とノーマン君……そして、君だけだ」

「何だと……?」

「他の連中は、ライジング・ギアとアナライズ・ギアのことしか知らない。そもそも戦ったことないからね。俺」

「……」

「……もう一度聞く。────俺が怖いか? サザン・ハーンズ君」


 知らないとナインは言っているが、それは、彼がそう思っているだけ。

 ガランやエヴリンを始めとする六戦機の面々は、彼の超絶的な高速移動の正体が、時空に関連した能力によるものだと推測できている。

 戦闘行為を働いたことはないが、多少は味方の彼らに、自分に出来ることを見せている。

 そして最強と謳われる六戦機の誰もが、その推測の所為でナインに恐れを抱いている。

 だが──


「……もう一度言う。私を止めるな」


 サザンの目は強い瞳を持ったまま。しなる腕で鋏を構え、障壁を乗り越えることに何の恐怖も抱いていない。


「…………ハハッ! そうかよ……最高だな!」


 恐れられなかったことが、少しだけ嬉しく感じていた。


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