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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
六章【風は感じられるか】
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『帝国本土最終戦』⑩

 完全に戦闘態勢を解いたアウラたちは、ショウとピースメイカーの亡骸の傍で立ち尽くしていた。


「……恨むか?」


 ユウキは自分たちがトドメを刺した事実を受け止め、強い眼差しで尋ねた。


「……いえ。ありがとうございます。ショウを……止めてくれて」

「……救ったのはお前だ。礼言ってたろ?」

「…………そう……ですかね……」

「つーかお前らさ、さっきまでのあの状態何だ?」

「我も気になっていたところだ。『完全同化シンクロ・フル』のように見えたが……」

「あ、ああそれは……何だろう? ソニック」

「そりゃおめェ! …………何だろうな」


 二人も何故『完全同化シンクロ・フル』のような状態になったのか理解していない。

 全力を出して、それでも死なないだろうことは確信していた。ただそれも直感に過ぎない。


「何だそりゃ」


 そうしていると、周囲で逃げ回っていたノイドや鉄紛クロガネマガイたちが、ユウキたちを囲む。

 攻撃してくるのかと思ったが、どうやら敵意は感じられない。


「反戦軍のアンタ! 助けてくれてありがとう!」

「ユウキ・ストリンガーだよな!? ありがとう……! 何も出来ず死ぬのかと……!」

「救われたッ!」


 彼らは皆、敵も味方もなくただ純粋に感謝を述べてきた。


「……何で俺の名前バレてんだ?」

「いや、自分から大声で名乗っていたぞ」


 ブレイヴが呆れて溜息を吐くと、ソニックはシシシと笑い出す。

 が、その時──



「ユウキッ! 危ないッ!」



 ユーリの声だ。彼女は鉄紛クロガネマガイのコックピットを開けて叫んでいる。

 だが、声の方向よりも先に、目の前の出来事に目を奪われた。


「「「「「ぐあああああああああああああああああああああ!」」」」」


 巨大な光弾によって、両軍の者どもが吹き飛ばされる。

 それを行ったのは、一体のクロガネのような存在。


「何だッ!?」

「兄貴ッ!」


 同時に、カインたちがこの場に到着する。



「YEAHHHH! 外しちまった! この俺様としたことが!」



 光背を背負い、光沢の多い電線の入った装甲をしている、スリム過ぎる体型のクロガネ……のような、『自称クロガネマガイ』。

 カインたちが相手をしていた敵が、こちらに移動してきたのだ。

 だが来たのは、彼だけではない。



「ユウキ・ストリンガー……」



「させないッ!」


 三叉槍でブレイヴごとユウキを狙った老人ノイドを、炎を纏った蹴りで止めたのは、アカネ・リント。

 彼女と共に、その老人ノイドと共に戦っていた者達も集まって来る。

 反戦軍だけではなく、永代の七子(エターナルセブン)六戦機ろくせんきもだ。

 そして──




「─────────やあ。この世界の諸君」




 ユーリは誰よりも早く、その声の正体に気付く。


「ゼロ……ッ!」

「……出やがったな……ゼロォッ!」


 クロガネ・カワードに乗ったまま上空から降りて来た彼は、この場に集結したこの世界における最大と言っていい戦力を前に、悠然と笑みを見せていた。

 自然な調子でコックピットを開け、誰よりも高い位置から全てを見下ろす。


「!? アレは……」

「国家連合貿易事務局長……」


 敵を追いかけてきていたデンボクと幽葉ゆうはは、すぐに彼が何もか理解した。


「ぐ……どういうことなのだ……?」

「……まさか……」


 止血しただけで腕を失ったままのヴェルインと、ダイヤモンドの体がボロボロに傷付けられたガランも、彼の姿は見えている。


「……ふむ。『一応の作戦』は、流石に時間が掛かり過ぎるか。あるいは……君らでは足りないか」

「「!?」」


 『自称クロガネマガイ』のラフと老人ノイドの男は、ゼロに対して畏れているかのような表情を向けた。


「まあいい。それならば……もう一人、呼んでおこうか」


 その時、ゼロの前髪が風によってなびく。

 ずっと長い白髪で隠されていた彼の右目が、露わになる。


「……ユウキ。ゼロの能力は……」


 そしてユーリは、彼が今からやろうとしていることが何か、分かっていた。


「さあ……来い」



 ゼロの右目は──

 


 ────────()()()()()()()()だった。



 そして、その義眼から光が放出される。

 その光が地上に向けられると、『あり得ない出来事』が起きる。


「……ッ!? な……ッ!」


 この場の全員が、『それ』に愕然とさせられた。

 放たれた光は丁度アウラとソニックの正面に注がれていて、『それ』は光の中から現れた。



「…………ここは…………」



 現れたのは、『人間』。全裸の男性と思われる人間が、出現した。

 つまり、ゼロの義眼の能力とは──



「…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ユーリの言葉を聞いても、誰もその意味を理解できない。

 言っている意味が、分からない。


「『ワールド・ギア』。あの義眼によってこの男は……無尽蔵に自身の言いなりとなる存在を、増やし続けることが出来る」


 全裸の男は、出てきてすぐにゼロに気付くと、彼に対して跪いた。


「……今回は、如何様にされますか? ゼロ様」

「やあアマネク。マシヴァとラフもいるよ。もちろん今回も目指すところは同じだ。……私に、従ってくれるね?」

「仰せのままに」


 そして男は立ち上がり、たまたま正面にいたアウラとソニックの方に目をやった。


「……ッ!」


(何だコイツ……!? 人間……!? いや、でも……何だ……? コイツは何か……何かが…………僕は……)


 金髪で筋骨隆々な人間の男性。別に、何の変哲もないように見えるが、アウラは彼から何かを感じ取った。恐らくは、この場にいる者の中で、彼だけが。

 そしてアウラたちを一瞥だけして、すぐにアマネクはゼロに近寄った。マシヴァと呼ばれた老人ノイドとラフもだ。

 だが、その刹那──



「……そうか。それが……貴様の持つ力かッ!」



 瞬時に、ゼロの背後に一体のノイドが現れる。

 一瞬でユウキは気付く。

 巨大な鋏を操る、バンダナを首に巻いた男のノイドだ。


「サザンッ!」

「シザークロスッ!」


 が、しかし、彼の攻撃は容易くカワードに避けられる。


「チッ!」


 初撃を外したサザンは、冷静に一旦距離を取る。クルッと回転しながら、ユウキらの傍に着地した。


「サザンさんッ!」


 彼が来たとほぼ同時に、まだ回復しきっていないエヴリンが飛んできた。


「エヴリン……!? 無茶をするな! まだお前は回復しきって……ぐッ!」

「自分だって……!」

「何してんだお前無鉄砲だなッ!」

「何だと……!? 貴様がそれを言うかユウキッ!」

「……敵はあっちですよ。二人とも」

「おいおい! みんなボロボロねェじゃねェか!」

「何のことはない。敵は目の前だ」

「ブレイヴ様ッ! 大丈夫ですか!?」

「見たところ大丈夫そうですよ、トルクさん。それで……ねぇカイン。あの人って……」

「ユーリッ! コイツらが……全部の黒幕なんだよね!?」

「……そうだよカイン。コイツが……ッ!」


 ゼロはやはり、悠然とした態度のまま。これだけの脅威を前に、たった三人と二体でどうにかなると考えている。

 ……いやむしろ、どうこうしようとすら思っていないほどに、歯牙にも掛けていない。


「……皆々上手く踊ってくれたよ。私の目的は……直に果たされる」

「!? どういうこと!?」

「私の流した情報で、君は勘違いしてくれた。……ノイド・ギアが、()()()()()()()()()()()()()


「……ッ!」

「ノーマン・ゲルセルク元帥との密約で、ギギリー・ジラチダヌと通じていた私は、()()()()研究機関を掌握していた。全ては『()()()()()()()()()()……密かに進めていたのだ」


「な……ッ!? そんな……」


 アウラは愕然としていた。そこまでノーマンが与えていたのならば、彼と(イクス)の企んだ作戦は意味を成さない。

 初めから、ゼロは完全に兵器開発の中枢にいたのだ。

 そして皆驚いているが、中でもサザンは特に嫌な予感を抱いていた。

 ノーマン・ゲルセルクという男が、世界の消滅を許容するはずがない。

 だとすれば何か、あの男はゼロとはまた違う何かを、『切り札』として握っている可能性がある。

 恐らくそれは、仮にノイド・ギアがゼロの手に渡っても、関係ないような『何か』。


(元帥……)


 何となくサザンは察していた。何故ならノーマンは、ノイド至上主義でありながら、誇りを失ったノイドにも命の価値を見出していなかったからだ。

 そして彼は確かに言っていた。我々は誇りを奪われたと。

 ならば彼はもしかすると、世界の全てが消えた後に何かを──


「この戦いの全ては、そこから目を逸らすためでもあった。疑問に思わなかったか? 私なら……いくらでも、『ノイド』という資源を()()()()()のに」

「貴様……!」

「だが他の資源は足りなかった。戦争もそのために続けた。とにかく……時間切れだ。もう君に出来ることは何も無い」

「…………………………舐めないで」


 ユーリの瞳には、希望が灯っている。ゼロが理解できない、明るい希望だ。


「……何だって?」


 その時、ゼロの持つCギアが鳴り出す。彼の部下からの連絡が来たのだ。

 それは、彼の言う『移動要塞マキナ』で、ノイド・ギアを開発している部下からのものだ。


『ゼロ様! こちら、移動要塞マキナです!』


「どうした?」

『ノイド・ギアの完成が……遅れそうです!』

「…………何故?」

『申し訳ありません! 最終段階に必要な資源の物流ルートが……()()()()()()()()()阻まれているようで!』

「…………なるほど。ならば、新たなルートを考えよう。私が戻るまで……待っているといい」

『は、はいッ!』


 ゼロは微塵も感情を出していない。初めから虚無に向かっている彼は、どのような事態でも出すべき表情を出せない。


「……反戦軍の、本隊か」


 そしてユーリは、仲間たちの活躍を誇らしげに思って口元を緩める。

 既に解散した反戦軍は、誰も彼も解散したくせにまとまって動いているのだ。


「私がどうして、貴方の言葉通りに物事を考えると? 移動要塞マキナの座標は既に掴んでる。まあ、全部数日前に分かったばかりのことだけど」

「流石だね。フフ……だが、所詮は時間稼ぎだ。ここに人員を割くのではなく、あちらを全力で潰すべきだった」

「それだと貴方に行動を読まれて、私達は向こうで、永代の七子(エターナルセブン)や六戦機はここで、分散した所為で皆殺しにされていた」

「……六戦機や永代の七子(エターナルセブン)を、死なせたくなかったと?」

「ええ。だって、ここに集まっている全員がいれば…………貴方も倒せる」

「…………無駄だよ」

「ならどうして向かって来ないの? 少なくとも、ここで決着をつけるのは時間が掛かるって……そう思っているからでしょ? 私達が負けても、その隙に向こうを潰せられればそれで良い」

「…………」


 ユーリはゼロの油断を誘い、移動要塞マキナの防衛を手薄にさせた。

 それによってゼロは、今ここで全員を相手にしてしまうと、その間に他のユーリの仲間に移動要塞を破壊される可能性が生まれると考える。

 実際にそこまで出来る人員は物流ルート遮断に動いているグレンたちの方にはいないのだが、彼女のブラフは上手く刺さっている。


 反戦軍は、実はその凄まじい執念によって、ほんの数日前に移動要塞マキナの存在を発見してみせていた。

 ノイド・ギアが完成すればゼロはすぐにそれを使用できるのだと知って、そこからユーリとキクを中心に作戦が組み立てられることになる。

 六戦機と永代の七子(エターナルセブン)という世界最大級の戦力を味方にするために、この帝国本土最終戦に乱入する作戦と、同時並行で情報操作を行い、ノイド・ギアの完成を遅らせる作戦だ。

 彼らは完全に、虚無に支配されているゼロの行動を、全て読んでいた。


「……どうやら決着は、向こうでつけなければならないようだ」

「……」


 そして、冷静なユーリは本気でここでゼロを倒せるとは思っていない。

 もちろん彼らが移動要塞に戻るところを止める気はなかった。


「待てこらてめェ!」


 そしてユウキは、そんな自分たちの作戦を忘れている。


「……君は……」

「ハルカをやったのは……てめェか?」

「………………」

「オイッ! 聞いてんのかッ!?」

「そうだが」

「!? てめェ……!」


 ユウキは気付いていない。この男が今、どういうつもりで頷いたのか。


「ユーリ。彼には何を話したのかな?」

「……」

「フフ……凄惨な過去を話すのはつらいだろう。分かるよ」

「……ッ!」

「オイこらてめェ! 話してんのは俺だッ! お前にユーリの何が分かるってんだッ! このクソ野郎がッ!」

「……面白い事を言う。ならば、君は分かるのか?」

「分からねェが……分からねェままでいたいとも思わねェ。コイツがいつか、自分から話すまで俺は──」



()()()()()庇ってもらえるとは、実に面白いな。ユウキ」



 そして、ゼロはカワードのコックピットを閉める。

 ユウキは今、自分の耳を疑って立ち尽くしてしまった。

 だが今の彼は、怒りの所為で頭が通常の状態ではなく、むしろいつも以上に回転が素早く動き、そして──


「……()()……()()……?」


 ここでユーリは決意した。最早、隠す気など毛頭ない。

 そしてユウキは、その真実の一端を推測する。

 ゼロが『ワールド・ギア』などという世界の理を破るようなものを持っているのならば、推測は出来る。


 異なる世界から存在を呼び出すのならば。

 異なる世界にも自分のような存在がいるのならば。

 ユーリが『その名』を初めて聞いた時、息を飲んだその理由は──

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