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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
六章【風は感じられるか】
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『帝国本土最終戦』⑦

 クロロを操り、この場を一旦離れようとした幽葉ゆうはは、追いかけてこないガランに違和感を持つ。


「……逃げられそう。あの人、追いかけて来ないよ」

「よ、よよ良かった! 逃げよう幽葉!」

「……うん……」

「……」


 ガランは見逃してくれているだけだ。他の場所で戦おうとしたら、また飛んでくることだろう。

 彼の役目は、永代の七子(エターナルセブン)を食い止めることにある。

 幽葉は他の戦っている者達を置いて逃げることに躊躇いつつ、方向転換を──



 ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ



「「「!?」」」


 巨大な光の弾が、クロロに向かって飛んでくる。

 全く予想していなかった方向からの、攻撃かどうかも分からない『何か』。

 クロロはそれを避けることが出来ず、直撃させられてしまう。


「うああああああああああああ!」

「きゃああああああああ!」

「……ッ!?」


 クロロは光の弾を受けて倒れ込んだ。そしてガランまでもが、目の前で起きた出来事を理解できない。


「……な……なに……?」

「幽……葉……」


 そしてガランは、この場に現れた『異端』の存在を視認する──




「YEAHHHHHHHHHHHHHHッ!」




 それは、クロガネのクロロを攻撃するはずがない存在に見えた。

 何故ならそれは、どこからどう見てもクロロと同じ、クロガネのような機械生物の姿をしているから──


「HEYッ! エビバディッ! 俺様の活躍する時が来たなァ! そうだろ!? ローテクの亡霊どもッ!」


「……何だ……コイツは……」


 どこか他のクロガネよりも光沢があるような装甲に、常に電気が流れているような光の線が広がっている。

 光背を背負っていて、溢れ出る光は無い。『完全同化シンクロ・フル』とはまた違うのか。何も分からない。

 不思議なのは二つ。一つは体がスリム過ぎて、腹にコックピットのスペースが無いという点。

 もう一つは頭部が四つあり、それらが同時に声を発しているという点。


「殺すのはコイツらか!? HEYHEY! 楽勝だなァ!」


 ……不思議なのはもう一つ。

 明らかに、このクロガネのような存在は、六戦機ろくせんき永代の七子(エターナルセブン)の両方を狙っている。

 自分に対して手を向けてきた姿を見て、ガランはこの存在が『異端』だと理解した。


     *


 そして『異端』は、デンボクとヴェルインのもとにも現れていた。


「何だ……あれは……」


 六戦機と永代の七子(エターナルセブン)の戦いの近くには、普通のノイドや鉄紛クロガネマガイはいない。

 邪魔になるのもあるが、シンプルに命の危険があるから避けているのだ。

 そしてデンボクは確かに、少し遠くで戦っているノイドや鉄紛クロガネマガイたちが、瞬く間に地に落ちていく姿を確認した。

 まるで殺虫剤を浴びた羽虫のように。唐突に、静止して落下するのだ。

 その原因が殺虫剤でなく『ヒト』であると気付けたのは、ヴェルインだけ。


「ッ!? 少年ッ!」


 ヴェルインは、まるでそうすることが自然であるかのように、敵に対してあり得ない行動を取った。


「ヴェルイン・ノイマンッ!?」

「何だァ!?」


 デンボクは何も見えていなかった。マスクドマッスラーもそうだ。

 そして、唯一反応したヴェルインは──


「ぐふッ……!」


 口から血を吐き、腕は切り落とされていた。

 それをやったのは、さっきまで少し遠くの者どもを地に落としていた存在。

 空中に浮かぶ、一体のノイド。




「…………外したかのう」




 ヴェルインよりも老けた男性のノイドだった。オールバックの白髪で、顔面は皺だらけで目が見えない。

 そして前屈みになって、三又槍を握っている。

 いや正確には、包帯のようなものでグルグル巻きになった状態で、右の手の平と接着しているように見える。

 彼はこの三叉槍で、刹那でノイドや鉄紛クロガネマガイを落としていたのだ。


「何故庇った……? そんな面倒な真似を……!」

「うぐ……面倒こそが……人生よ」


 ヴェルインは根性だけで、新手の敵と向かい合った。


「……ッ! お主は何者だッ!? 何故両軍を攻撃する!?」


 彼の問いを受けても、その老人ノイドは答えない。


「……無礼じゃのう。小僧」


     *


 郭岳かくがく省における戦いのステージは既に、鉄壁の千里塚せんりづかの内側に移っていると言っていい。

 だがしかし、千里塚せんりづかの外側では、連合軍と帝国軍が消耗戦を続けていた。


「クソッ! クソッ! 連絡が取れない……。いつまでここで戦えばいい!? 総司令は何を考えて……」

「無駄な戦いだ……。もう帝国は負けているのに……」

「弱音を吐くなッ! 戦えノイドの戦士たちよッ!」

「何故退かないッ!? 永代の七子(エターナルセブン)はもう壁を超えたじゃないか! 帝国軍は何故退かない!?」

「ここでノイドたちの戦力を減らせ! 命令がなくともそれが最善だろう!?」


 連合軍からすれば主戦力が壁を突破した時点でここに戦力を注ぐ意味はほぼなく、帝国軍も壁を突破された以上、最早ここの防衛には意味がない。

 だがそれでも、無駄な戦いは終わらなかった。

 激しすぎる戦いの最中で、完全に統率が取れていなかったのだ。


 そして、そんな中──




「……ピースメイカー……?」




 ノイドの一人がその姿を確認すると、他の者達も少しずつ気付き始める。


「そんな……何でこんなところに……」

「おお……! 我々に……加勢に来てくれたのか……!?」


 帝国軍は絶望し、連合軍は希望を手にする。

 だがしかし、彼らの目的は絶望でも希望でもなく───────────混沌だった。



「「「うああああああああああああ!」」」


「何をッ!」「馬鹿なッ!」       


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」


「「ぎゃああああああああああああああ!」」


「そんな……」 「止め……」     


「何をするッ!?」


「「「がああああ」」」         

        「どうして」


「ピースメイカァァァァ!」   

 「ぐああああああああああ!」



 ピースメイカーは、()()()()()()()()()()()()()()()


「…………分かっていない」


 御影・ショウは、この夜の闇の中で、何も見えていない。

 長い夜はまだ続く。彼は一度だって、闇の中から出て来たことがない。

 視界を奪われたあの日からずっと。一度だって。


     *


「……何……だって……?」


 アウラは、完全に瞳孔が開ききっていた。

 この世で最も憎らしい男の言葉など、信じるに値しない。だというのに……最初に否定の言葉を出さなかった。……出せなかった。


「聞こえなかったかい? ……()()()()()()()()()()()()()()()()


 『信じられない』という言葉が、喉から出てこなかった。

 アウラはずっと、ショウが何を考えているのか分からなかったからだ。

 いや違う。分かろうと……してこなかっただけなのだ。


「…………お前と組んだのか? ショウが……」

「いいや? 別に。私のことは知らないんじゃないかな? そもそも私だって、彼がどこまでこちらに協力してくれる気かは知らないんだよ。ただ、まあ……この世界を掻き消したいってのは……本望だろうねぇ」


 実のところを言うと、既にショウはゼロの作戦を無視して動いている。

 六戦機や永代の七子(エターナルセブン)を狙うのではなく、ただむやみやたらに、無意味に戦いを続けていた者どもを殺し続けている。

 最早、彼はゼロよりも心が壊れてしまっているのだ。


「……」

「絶望しただろう? おたくには誰も助けられない。虚しいだろう? 安心しなよ。どうせこの世界の全ては、みーんな一緒に消えてなくなるんだ。……私以外はねぇッ!」


 確かに、アウラは絶望で顔を上げられなくなっていた。

 だが、まだ彼は───『()()()()()()


「……アウラ。忘れちまったのかよ」

「…………ソニック…………」

「俺達には、大層なことは出来ねェらしい。俺はともかく、おめェは分かってたことじゃねェか。……俺らは何だ? アウラ」

「……僕らは…………風……」

「世界を戦がす……ただ一陣の風……だろ?」

「…………僕は…………」

「覚悟を思い出せ。完全同化シンクロ・フルでコイツを殺す気か? こんな野郎に、おめェの『殺さない覚悟』は揺るがされるのか!? 揺るがすのは俺らだろ!? 俺達なら、殺すまでもなく終わらせるられるッ! 違うかよッ!? アウラッ!」

「………………………………ああ。そうだ」


 そして、再び立ち上がる。彼らは何度でも、立ち上がる。


「諦めないねぇ……気色悪い。何も出来やしないんだよッ! おたくにはッ!」

「僕だけなら……そうかもしれない。でも僕は…………一人じゃない」

「じゃあ二人かッ!? 同じだろうがよッ! クヒヒヒヒヒッ!」

「……『()()』は負けない。お前ら如きに……ッ!」


     *


 クロロは動けるくらいには回復してみせていた。その間に、ガランが異端である敵の攻撃を受け続けているからだ。


「にに、逃げよう幽葉。逃げないと……殺されるッ!」

「……ごめん」

「幽葉ッ!」

「ごめんクロロ。…………震えが止まらないの。上手く貴方を動かせないの……。ごめん……ごめん……クロロ……」

「幽葉……」


 他の仲間には大人びた雰囲気を見せる幽葉だったが、恐怖には勝てない。

 彼女はまだ、他の永代の七子(エターナルセブン)と同じ幼い少女でしかないのだ。

 そしてダイヤモンドに体を変化させるガランは、謎の敵の攻撃を受けることは出来るが、相手の隙を見つけることが出来ずにいた。


「何なんだ貴様は……!」

「俺様の名か!? 俺様は『ラフ』ッ! ()()()()()()()の『ラフ』だッ! YEAHHH!」

鉄紛クロガネマガイ……だと!?」


 明らかに、量産ロボット兵器である鉄紛クロガネマガイとは違う。

 彼の攻撃手段は、光る粒子を放つ荷電粒子砲。

 それは砲口のように変形した両腕で、装甲に広がる電線のようなものと繋がっているようだが、こんな攻撃が出来る仕組みは他の鉄紛クロガネマガイには無い。

 そして荷電粒子砲の光弾は、ヴェルインのミサイルのように無限の如く降り注ぐ。

 身体能力も異常で、ガランは攻撃を受け続けるだけで、何も出来ない。


「そろそろでっかいのいこっかな!? HEY!」


 荷電粒子砲を構え、光弾を巨大に膨らませようとした、その時──



「ぐぼえッ!?」



 その『自称クロガネマガイ』は、()()()()()()にぶつかり巻き込まれ、クルクル回って吹っ飛んだ。

 そんなことが出来るのは、あの『円盤スピン』しかあり得ない。


「何だァ!? HEY! カモンッ!」


 向かって来たのももちろん、頭に布を捲いた、白いクロガネ。


「あれは……」


 幽葉は、自身の体の震えが止まったことにまだ気付いていない。彼らの姿を見て、恐怖が消えていたのだ。


「吹っ飛ばす敵はアイツで良いよねッ!?」

「両軍に属さない、怪しいクロガネッ!」

「倒さない理由は……どこにもないな」


 コックピットにいるのは、ハンチング帽を被った、一人の少年ノイド。

 その少年の膝の上に座るのは、赤褐色の長髪が特徴の人間の少女。

 カイン・サーキュラスとマリア、そしてトルク。

 ノイドと人間、クロガネが共に手を組み、戦場に現れた──


     *


 マスクドとヴェルインに攻撃を加えようとした謎の老人ノイドは、その三叉槍を意外な相手に止められた。

 三叉槍を受けたのは、()()()()()女ノイドの足。


「!?」


「オラァァ!」

「食らえッ!」

「食らっちまえッ!」

「マジで食らっちまえッ!」


 あらゆる方向から、鉄紛クロガネマガイによる攻撃が飛んでくる。

 ハンマーを持つ完全な人型の鉄紛クロガネマガイに、ライオンやトラ、クマのような獣ベースの鉄紛クロガネマガイだ。

 老人ノイドは華麗に避けるが、避けた先にはまた別のノイドが二体。


ウィングッ!」

「スネイクバイト~」


 羽根や蛇の頭が飛んでくるが、これも恐るべき速さで避ける。

 しかし、老人ノイドは皺だらけの瞼の隙間から覗く目を、僅かだが鋭くさせた。


「何奴」

「あらお爺さん。人に名前を尋ねる時は、そちらから名乗るべきじゃない?」


 炎を纏う赤髪の女ノイドに言われ、老人ノイドは溜息を吐く。


「……無礼じゃのう」


 デンボクとマスクドは、老人ノイドと違って『彼ら』のことを知っている。


「デンボクッ! コイツら……!」

「……面倒な連中が……来たようだな!」


 そう言いながら、少しだけ語調は明るかった。

 彼らにとっては苦汁を舐めさせられた相手ではあったが、混沌に塗れそうになった今では、明るい希望に見える。


     *


 そして希望の光は、闇を照らす。

 ピースメイカーの枝による攻撃は、同じように多岐にわたって広がる、()()()()()防がれていた。

 防がれたものの、ショウは微笑みを崩さない。

 そんな彼の心は既に、どうしようもないほどに崩れてしまっているにも関わらず。


「…………誰ですか?」


 ピースメイカーの視界を共有してその姿を見たショウは、もう何となく気付いていた。

 頭にハチマキを捲いたノイドが、わざわざ自身の乗る蒼色のクロガネのコックピットから出て、指を一本高く掲げている。

 この戦場で、こんなことをする愚かな勇者は、他にいない──



「枝を鳴らさず闇夜を抜けてッ! 一糸乱れぬ糸一本ッ! 怒涛一条、ユウキ・ストリンガーとは俺のことだァ!」



 その時。ピースメイカーは、数千年ぶりに感情に任せて口を動かした。


「ブレイヴ……ッ!」

「ああそうだッ! 紡げよ俺らの名。お前らの魂と共になァ!」


 そして彼らのすぐ傍には、巨大なスナイパーライフルを持った一体の量産型の鉄紛クロガネマガイがいる。

 無論、その中にいるのは紐の付いた機械の腕輪を付け、宝石のヘアアクセサリーをブロンドの髪に付けた人間の女──ユーリだ。


「……出なくて良いんだけどな……」


 そんな彼女の溜息混じりの言葉は聞こえていない。

 ショウは、『彼ら』がこの場に来たことを理解する。


「……反戦軍……ッ!」


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