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予知夢〜子供たちの集い〜

「本当に泊めていただけるんですか?!」

 一ノ瀬は身を乗り出して言う。

「本当だよ。こんな田舎じゃホテルなんて無いからね。客室も空いてるよ」

 本当だったら、夜間バスにでも乗ってホテルにでも行こうと思っていたが、一番近いホテルまで3時間は掛かるらしく、困っていたので本当に助かった。

「夕食まで時間があるから、ツケルと屋敷を探検でもしてきてください。私は社長室にいるからね」

 沢倉が小さな背を向けると、一ノ瀬は沢倉と逆方向に歩き出す。それを矢野は慌てて追いかける。

 行きたい場所があった。それは庭だ。

 先ほど、遠吠えしていた狐の真ん中にいた狐の像の指元がキランと光った気がしたのだ。その光の正体が気になって夢中になり早足で歩いていた一ノ瀬は我に帰り、後ろを振り返る。すると、さっきまでいたはずの矢野はいなくなっていた。

 またやってしまった!

 一ノ瀬は自分を追い詰める。夢中になって考えすぎると、周りが見えなくなるのが、悪い癖だ。

 だがもう庭に着いてしまったため、外で矢野が出るのを待つことにした。

 庭の正面にどっしりと構えている、大きな狐の像の前に来た。

 像は犬などがお座りをした形で座っており、少々錆びているが、白いそのボディはわかる程度で、ツルツルとしている。尾は4つあり、架空の姿をしている。目には緑色の水晶玉が使われており、どこにいっても見つめてくるその瞳に謎の恐怖感と安心感があった。

 さっきキラキラと光っていた狐の前足を見てみると、金色でなにかが刻んである。まるで、刺青のように。

 そこには、『空狐(くうこ) 1301年沢倉富 ここに刻む』とクネクネとした字で書いていた。

 この狐は空狐というのか。日本の昔の守神でそんなのいたのか。と思いながら、矢野が玄関のところで走ってくるのが見えた。

 一ノ瀬が慌てて手を振ると、矢野はこちらに気付き、フラフラと近づいてきた。

「...一ノ瀬さん、どこにいってたんですか...歩くのが早すぎですよ」

 矢野は深呼吸の間に言葉を挟みながら言う。

「すまない、矢野くん。ちょっと気になってしまってね」

 一ノ瀬は像の方を見ると、それに釣られて矢野も像の方を見る。

 2人して狐の像を見ていると、目線の奥にある大きな門の奥からスーツを着た男がいることに気づいた。

 矢野の方を見ると、矢野は目を見開き、まるで威嚇するように男をじっと見つめていた。

「あの人、毎日ここにくるんです。沢倉さんに会いたいって。でも沢倉さんはそれを頑なに断っていて、でもあいつ、全然懲りなくて困ってるんです」

 あぁ、世にいう迷惑セールスマンってやつか。

 一ノ瀬は矢野と共にスーツの男を眺めた。

 男は遠くから見てもわかるほどに大柄で、ゆうに2mほどある体で黒いスーツを着こなしている。

 見ていると、スーツの男がこちらに気付き、後ろの森へと歩いていった。



 沢倉家の屋敷に泊まらせてもらって2日後、一ノ瀬はスマホを片手に階段から降りると、沢倉と矢野に向けていう。

「今日の11時ごろに堀川が来るそうです。この事件を解決するには彼の力が必要なので、ご理解願います」

 一ノ瀬が頭を下げると、沢倉はパチンと手を叩き、言う。

「そんなことは決してないですよ。さあ、堀川さんがくるまで一ノ瀬さんは子供達と遊んできた方がいいと思いますよ。あぁ、これはパスワードの意味でね。さあ、ツケル。案内なさい。私は社長室で仕事をしているからね」

 沢倉は一ノ瀬と矢野に言うと、背を向け、廊下を進んでいく。

「子供たち...?ここには子供がいるんですか?」

 一ノ瀬が首を傾げると、矢野は首を左右に振った。

「違いますよ。この前も言ったように、沢倉家では、沢倉家の隠語のようなものがあるんですよ。それが『パスワード』です。例えばこの前にいった『唄う』みたいにね」

「じゃあ、この『子供』というのも沢倉家のパスワードなんですか?」

 矢野はYESというように首を縦に振ると、玄関の方向に向かって歩き出す。

「行きましょう。すぐにわかりますから」

 一ノ瀬は矢野を追いかける形で玄関の前まで来ると、目を疑った。

 目の前に広がっていたのはたくさんの狐たちだった。まだこちらに気づいていないらしく、ゆうに2メールを越すほどの狐が多かった。側から見たら熊だった。その大きな狐を囲むように子犬ほどの小さな狐たちがキャッキャと走って遊んでいた。

 一ノ瀬は一歩後ずさる。その時に足が後ろの花壇にあたり、ガタッという音が庭中に響き渡った。

 するとさっきまで穏やかな顔をしていた狐達が一斉に一ノ瀬の方を見た。

 狐たちは戸惑っている一ノ瀬を見て、まるで会話をするかのようにお互いを見た。すると、狐たちの間を通り1匹の黒い狐が出てきた。

 尾は2本あって、身体中の毛という毛が逆立っており、体の倍、大きく見えた。その黒い大狐が一ノ瀬の前まで来ると、大きく口を開けた。

 噛みつかれる!と思った一ノ瀬は身構える。だが、狐は不自然に口を歪める。その大きな口からは不思議な音が聞こえた。

「私の名は気狐(きこ)。今宵、お主を待っていた」


 3章へ続く。

最後まで読んでくれてありがとうございます!

ep.2「予知夢〜子供達の集い〜」が好評だったら、ep.3も出そうと思います!

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