ぐるぐると、ぐるぐる動く、観覧車
『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『観覧車』
ふと思い立って地元の公園へと遊びに行ってみた。
駐車場に入るとお盆の連休中にも関わらず、直前まで雨が降っていたせいもあってかまるで人がおらず、どこか廃墟のような雰囲気を感じてしまい、経営状況は大丈夫なのだろうかと心配になってしまう。
雨上がりの湿った空気の中、ほんのりと差し始めた陽光を感じながらのんびりと園内を歩いていれば、とこどどころに彫刻が置いてあり、これは一体なんだろうか、と思うようなものがたくさんあった。
「そう言えば長く続いてる屋外彫刻展でギネス認定されたって言ってたっけ」
それを知った時は子供の頃から自然と公園にも町中にも彫刻が置いてあるせいか、ギネス認定されるほどのことだったということにびっくりだった。
彫刻を眺めながら歩いていると、公園の中の遊園地コーナーに辿り着いたがやはり人がいない。
「誰もいない、か。まぁ、さっきまで雨が降ってたから仕方ないか。とはいえ、スタッフすらいないってどうなんだ?」
来園者が誰もいないからスタッフも待機しないで何処かで雨宿りしていて、そのまま休憩でもしているのだろうか。
そう思いながらゆっくりと懐かしさと寂しさを感じさせる園内を歩いていると、観覧車の前を通りかかった。
色々な遊具が入れ替わっていたが、この観覧車だけは色を塗り替えられたりゴンドラのデザインが変わっていたりするが、ずっとここにあってこの遊園地の代表的な遊具になっている。
ただ、今は客がいないせいか動いていないので、遊園地のもの寂しさを増してしまっているのだが。
「某声優とか、この町出身のお笑い芸人が故郷に錦を飾りに戻って来てた時に、これに乗ってたなぁ」
自分もまだ子供の頃には何度か乗ったことがあるものの、もう何十年も乗っていない。
久しぶりに乗ってみようかという誘惑に駆られるが、動いていないものをわざわざ自分の為だけに動かさせるのは申し訳ない気がする。
それにいい歳をした男が一人で乗るというのも恥ずかしい。
やはり観覧車に乗るのは辞めて、そろそろ帰ろうと駐車場に向かい歩いていけば何組かの子供連れの家族とすれ違う。
そして駐車場に到着し、ふと振り返るとあの観覧車が動き始めていた。
錆ついてしまい、動かないのではないかと心配していたがちゃんと動いていることに安心する。
時間が止まってしまっているかのような公園の中で、観覧車は回り続けている。
ぐるぐると、同じところを、ぐるぐると。