ウィストル酒場
レオナルドは自身が信用をおいている騎士や護衛にプロストン大臣を常に見張らせていた。
私達が城内を案内してもらっていると、その内の護衛の一人が静かにやって来てレオナルドに報告した。
「動きがありました。
たった今、レティロ一等兵がプロストン大臣と接触後に私服に着替え、街へと向かいました。
ご指示通り道中の森で捕らえ、街の外れのウィストル酒場へと移送する手筈は整えてあります。
もうそろそろ捕らえられる頃合いかと…」
「やはり街へと使いを出したか…分かった。
俺様もすぐに向かう。
街の外れに行くに相応わしい馬車と、庶民に紛れられるような服を…4着用意しておいてくれ」
「はい、すぐに手配致します」
レオナルドの指示を聞くと、護衛は足早に去って行った。
私はレオナルドに聞こえるようボソリと言った。
「……4着ですか」
「私…たちも…行く…んですか……?」
私が呟くのとほぼ同時に、カリーヌも不安そうに呟いた。
その様子を見たレオナルドが、カリーヌの頭をわしゃわしゃと撫でながら言った。
「いちいちビビってんじゃねぇ。
別に危険なところに連れて行くわけじゃねぇよ。
ただ、なるべく目立たずに向かいたい場所だからな…民間人の姿に着替えてから向かうぞ」
私達は用意された服に身を包み、ウィストル酒場へと向かった。
馬車に乗り込むと、レオナルドがノエルをじっと見つめ舌打ちをした。
「……ちっ、服装だけじゃダメかよ。
いちいち癪に障るヤツだぜ」
「おい、いきなり何だ。不愉快だ」
「お前なぁ…もっと庶民らしく紛れろよ。
もっとだなぁ、こうして、こうやって、おらっ!」
「ぅわっ…!おい、やめろっ…!」
レオナルドはノエルに覆い被さると、頭や服を揉みくちゃにした。
髪はボサボサ、服は所々破けたり糸が出ていたりと、先程よりも随分様変わりしたノエルの姿を見て、私とカリーヌは思わず笑ってしまった。
「……っ…ふふふっ」
「……ははっ…」
見るからに不機嫌そうな顔でノエルが言った。
「おいレオナルド、後で覚えていろよ?
ロゼールとカリーヌも…笑い事じゃないんだが?」
それを聞いたレオナルドが呆れた顔で答えた。
「ああん?これだから世間知らずの坊ちゃんは…むしろ感謝してほしいくらいだぜ。
あんなんじゃ、良いとこ育ちがバレバレなんだよ」
「確かに、気品の良さが全く隠せていませんでしたね…っ…ふふっ…すみません、褒めているつもりなんですが……見慣れないせいで…ふふっ」
フォローしようとしたつもりだったのだが、私はいつもとかけ離れたノエルの姿が新鮮すぎて、笑みを抑えきれなかった。
「……分かった…もういい」
ノエルが少し不貞腐れ始めたところで、馬車が目的地へと到着した。
目の前には古びた1軒の建物が建っており、小さく掲げられた看板にはウィストル酒場と書かれていた。
周囲には他に建物は見当たらず、薄暗い森が広がっていた。
レオナルドが先頭に立って扉を開けると、中にいた人達が一斉に鋭い目つきで入り口の方を振り向いた。
その中の人物の一人が、レオナルドの姿を見るなりパッと明るい表情になり、嬉しそうに近づいてきて言った。
「………!!ひっさしぶりだなぁ、レオナルド!」
「よぉ、ウィストルのおっさん」
「しばらく見ないうちにお前…生意気に図体ばっかりデカくなりやがってよぉ!」
ウィストルと呼ばれた人物は、自分よりも頭一個分以上は背の高いレオナルドを見上げ、豪快に笑いながらわしゃわしゃと頭を撫でた。
レオナルドは嫌そうにウィストルの手を払う素振りを見せながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべて言った。
「はっ、アンタらおっさん達と違って成長期なもんでね」
「相変わらず憎たらしい坊主なのは変わってねぇなぁ!」
がはははっ!とウィストルと奥にいた仲間達の笑い声が店内に響き渡った。
笑いが静まった後、ウィストルが後ろにいた私達を見て、ニヤッと笑いながら茶化すようにレオナルドに問いかけた。
「…んで?どっちがお前の愛しの婚約者ちゃんなのよ?」
「ちっ、なんて質問してんだ…別にどっちでもねぇよ」
レオナルドが舌打ちしながらめんどくさそうに答えると、ウィストルはますます嬉しそうに茶化して言った。
「またまた〜お前が婚約者ちゃんを連れて、仲睦まじく城内を歩き回ってたって情報は得てんだぜ?」
「ハッ、そりゃ残念だったな!
情報屋のくせに、偽情報に踊らされてんじゃねぇよ」
「…ちぇっ、つまんねぇ小僧だぜ。
おい、お前さん達。よく来たな。
俺はこの酒場の店主ウィストルだ、よろしくな。
ここにいる奴ら皆、ちょっとばかし強面だが悪い奴はいねぇ…あんまり怖がらないでやってくれな」
ウィストルは入り口に立ちすくんだままの私達に向け、にこやかに挨拶をしてくれた。
それに付け加えるようにしてレオナルドが説明をした。
「俺様は一時期、城での生活に嫌気が差してな…城を抜け出してはこのおっさん達の世話になっていたんだ。
うるさくてガサツなおっさん達ばかりだが、信頼のおける人達だ。
一人で来れば十分だったんだが……何となく、お前らにも会わせてみたくなってな」
「それでみんなで行こうとしたんですね。
ウィストル様、初めまして。
レオナルド様の学友として日々切磋琢磨させていただいております、ロゼールと申します」
私は失礼の無いようウィストルに挨拶を返し、ここに連れて来られた理由を話す意外なレオナルドの姿に少し驚いた。
「はじめ…まして……カリーヌ…です」
カリーヌもペコリとお辞儀をしながら挨拶を返した。
「……初めまして、ノ」
ノエルが少しの沈黙の後、話し始めようとしたところでレオナルドが遮りながら言った。
「こいつはノイジーだ。
友達じゃないが、仲間だ」
「レオナルドの仲間じゃ、俺達の仲間も同然だ。
よろしくな。ロゼールちゃん、カリーヌちゃん、ノイジー」
ウィストルとの挨拶がひと通り終わると、レオナルドは真剣な眼差しになり静かに言った。
「……例のヤツは地下牢か?」
「ああ、ちゃーんと繋いであるぜ。
これを届けに行こうとしていたみたいだな」
そう言ってウィストルはレオナルドに一通の手紙を渡した。
レオナルドは手紙を受け取ると、一人きりで酒場の地下へと続く階段を降り、地下牢へと向かった。
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