登校初日
堂々とそびえ立つ学園の姿を見て、この先の学園生活が少し不安になったが、覚悟を決めて馬車から降りようとしたその時…
「ロゼ、気をつけて降りて」
先に降りたエクトルが私の手を取り、足を踏み外さずに降りられるようエスコートをしてくれた。
(お兄様、やっぱり出来る男ね…!?
ってか、イケメンすぎでしょ…
それとも貴族の息子って、こういう行動が出来る様に小さい頃から叩き込まれているのかな?
なんだかそれも大変そうだな〜)
男の人にエスコートされた経験など微塵もなかった私は、貴族にとっては当たり前なのであろうエクトルの行動に少しだけときめいてしまった。
そんなことを考えていると、辺りが急に騒がしくなっていることに気づいた。
「はああ、ロゼール様が羨ましい…!」
「もしあの手を取れたら…なんて、夢みたいだわ!」
「エクトル様ー!わたくしもエスコートしてくださいませ〜!!」
馬車からの降車や慣れないエスコートなど、自分のことに精一杯であまり気に留めていなかったが、どうやら先程から「キャーー!!」という黄色い悲鳴が聞こえていたのは、エクトルが原因のようだった。
よくよく周りを見渡してみると、校舎まで続く道はたくさんの令嬢たちで溢れかえっていた。
(もしかして…エクトルってかなりの人気者?
そりゃあこんなイケメン中々いないと思うけど…小説に出てきた覚えはないんだよなぁ。
これでモブだったりして……って、そんなのアリ?)
私が覚えている限りでは、ロゼールもエクトルも名前が出てきたかどうかも分からないくらいの存在だった。
エクトルは私を無事に馬車から降ろした後、ロベルトの元へと歩み寄り、にこやかに微笑みながら言った。
「ありがとう、ロベルト。帰りも頼む」
(へ〜!ああいう風に笑ったりもするんだなぁ…)
エクトルの意外な表情に驚いたその瞬間、先程とは比べものにならないくらい、周囲が沸いた。
「きゃあああ!!朝早くからスタンバイしていた甲斐がありましたわ!!」
「ああっ、わたくしもあの瞳に微笑みかけられたいっ…!」
「これを見るために学校に来ているようなものですわ!!」
(いや…勉強しろよ!!
まぁ、気持ちは分からなくもないけども)
心の中でつっこんでいたらロベルトが帰ってしまいそうだったので、私も慌てて追いかけお礼を言った。
「あ、あの!ありがとうございました、ロベルトさん」
「フフッ、さん付けはご無用ですよ…ロゼール様。
また後ほどお迎えに上がらせていただきますね」
周りに違和感をもたれないように気遣ってくれたのか、ロベルトは小声でそう話すと屋敷へと帰っていった。
学園前には次から次へと送迎の馬車が到着し、それに合わせて時々黄色い悲鳴が聞こえてくる。
どうやら令嬢達は、お目当ての人物が通学してくる様子を見て楽しんでいるようだった。
(エクトルもお目当ての内の一人だったってことか。
………!!そうか!ロゼールが一緒に登校したくなかった理由は、これが原因!?
確かにこれは目立って嫌だなぁ…)
別々に登校していた理由に気づき、エクトル自身に問題があった訳ではなさそうなことに少しだけホッとした。
(まぁ、結局エクトルのせいではあるんだけどね)
校舎へと続く道を歩いている時、エクトルが先ほど送迎をしてくれたロベルトについて教えてくれた。
「ロベルトは昔から俺にとって、兄のように慕っている大事な存在なんだ。
ロゼも何かあった時には、積極的に頼るといい。
必ず力になってくれるはずだ」
ロゼールにとってナディーヌがそうだったように、幼い頃に母を亡くしたエクトルにとっても、ロベルトは家族と同じくらい絆の強い存在なのだと感じた。
すると、エクトルが少し照れくさそうに言葉を付け足した。
「……でも、一番初めは俺を頼って欲しい」
(くっ…!相手はお兄様…相手はお兄様…)
私は再びときめきかけた自分に言い聞かせるようにしてそう唱えた。
中身である私にとってエクトルの存在は、兄ではなくただのイケメンに優しくされているというリアルな乙ゲー展開でしかない。
エクトルとロゼールに迷惑をかけないためにも、きっちり線引きしておかなければ…と私は心に強く誓った。
(ロゼールのこと、すごく大事に想っているんだなぁ)
「ありがとうございます、お兄様。
ナディがお兄様は全ての科目において、とても優秀な成績を修めていると誇らしげに話していました。
学園でのこと、色々と教えてくださいね」
私はロゼールの分まで感謝の気持ちが伝わるように、満面の笑みでお礼を言った。
何年かぶりに見た突然のロゼールの可愛い笑顔に思わず胸を打たれたエクトルは、その後しばらく放心状態になっていた。
そうとも知らず、私は近くで見る校舎の迫力に再び圧倒されていた。
(こうやって近づいてみると、ますます迫力ある建物だなぁ〜大きすぎて絶対に迷いそう…!!)
そんなことを考えながら校舎を見上げていると、窓の外を覗いていた金髪の美少年とふいに目が合った。
(うわ…綺麗な男の子……)
その容姿に思わずじっと見つめてしまい、そのまま顔を背けるのも失礼かと思ったので、私はペコっと軽く会釈をしてその場を離れた。
いよいよ校舎に入ろうとした瞬間、誰かがいきなり私とエクトルの間に割り込みながら、肩を組んで話しかけてきた。
「よぉ、お二人さん!
今朝は珍しく兄妹仲良くご一緒じゃないの〜
いやぁー羨ましいね〜可愛い妹が同じ学園にいるだなんてよぉ」
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