ロゼール・ディディエの人物像①
(死んだはずの私が、何で小説の世界なんかに…
これから私はここでロゼールとして生きていかなければならないってこと?
そもそも、ロゼールってどんな人物なの…?)
「ナディーヌさん、私はシャルロットと友達なんですよね?」
ナディーヌは、やはり記憶が…と一瞬悲しそうな表情を見せて言った。
「……わたくしに敬語は使わなくて良いのですよ。
わたくしのことはいつも"ナディ"と呼んでくださっていました。
これからもどうぞナディと呼んでいただけたら嬉しいです。
それから、親しきご友人という間柄ではあるのですがお家柄のことを考えると、今まで通り"シャルロット様"とお呼びした方がよろしいかと思います」
「分かったわ。ありがとう、ナディ」
私が笑顔で感謝を述べると、ナディーヌも柔らかい笑みを浮かべた。
(小説でのイメージしかないけど、貴族って身分によって差があるんだもんね。
貴族らしい振る舞いかぁ〜…近所のお嬢様学校に通っていた人達のイメージしか出てこない…
とりあえず口調だけでもお嬢様らしくしておくか)
「ナディ、もう少し色々聞いても良いかしら?」
「はい!もちろんでございますよ、ロゼール様」
ナディーヌは私の質問に応え終わると、夕食の時間まで少し休むよう言って部屋を出て行った。
それからナディーヌに聞いた話とすり合わせしつつ小説の内容を思い出してきた私は、実写化された登場人物達を見てみたい一心で、明日からロゼールが通っていたという名門貴族学校"セントブリューヌ学園"に行くことにした。
(まずはこの世界のヒロインを見に行かなきゃね…!
それにしても、ロゼールってどんな立ち位置のキャラなんだろう…?
"ヒロインの友達"というだけの、ただのモブ?)
私はロゼール・ディディエという名前を記憶の中から探ってみたが、思い当たることは何もなかった。
この世界についても自分の状況についても分からないことだらけだが、とりあえず考えていてもしょうがないので、まずは馴染みながら毎日を過ごしてみようと私は決めた。
(ただのモブなら目立たず平和に過ごせそうだし…
貴族の暮らしを経験出来るなんて、案外ラッキーかもしれないな)
ロゼール本人には申し訳なく思ったが、今まで社畜として働きづめだった自分の人生とあまりにも違いすぎるこの世界観に、私は少しだけワクワクしてきてしまった。
そんなことをあれこれと考えているうちに夕食の時間になったらしく、ナディーヌがやってきて言った。
「ロゼール様、そろそろご夕食のお時間ですが…お身体の具合はどうですか?
今日はお部屋で召し上がられますか?」
「身体はもう大丈夫よ。
お腹もすごく空いているわ…!
いつもはどこで食事をしているのかしら?」
「皆様がお揃いになられてから、ダイニングルームにてご一緒にお食事をされていますよ。
旦那様もエクトル様も先程ご帰宅なされたそうです。
お二人ともロゼール様のことを大変心配しておりましたので、目覚められたことを知ったらご安心できると思うのですが……記憶喪失に関しては、私同様にショックが大きすぎるかもしれません」
(ロゼールはこの家の人達にすごく愛されているんだなぁ。
本物のロゼールは今どうしているんだろう…)
私という存在が、仲の良い家族の日常を壊してしまったのかもしれないと気づき、先程までのワクワクしていた気持ちは罪悪感へと変わっていった。
「そう…よね。
夕食をご一緒しながら、ゆっくりお話ししてみることにするわ。
私はお二人のことを何と呼んでいたのかしら?」
「お父様、お兄様とお呼びしていましたよ。
お二人とも既にダイニングルームへと向かわれていると思いますので、少し急いでお支度させていただきますね」
そう言ってナディーヌは、乱れていた私の髪を手際良く綺麗に整えてくれた。
私はナディーヌに言われるがまま用意された服に着替え、ダイニングルームへと向かった。
(それにしても…ただ夕飯を食べるだけなのに、こんなにしっかりしたドレスに着替えなくちゃならないなんて……貴族も大変なんだな…)
さっきまで着ていた薄手のワンピースは、いわゆるパジャマだったらしい。
(自宅でも実家でも、普通にパジャマのままでご飯食べてたけどな〜……お母さんもお父さんもにーちゃんも、元気にしてるかなぁ…
こんな事になるなら、無理にでもこの間の休みに会いに行けばよかったな…)
ふいに仲が良かった自分の家族を思い出し、後悔と寂しさが押し寄せた。
色々な感情が巡っているうちに、長い道のりを経てダイニングまでたどり着いたらしい。
ナディーヌが先に中で待っていた二人に声を掛け、私を席まで案内してくれた。
「旦那様、エクトル様、お待たせして申し訳ございません。
さあロゼール様、こちらにお掛けください」
「ありがとう、ナディ。
お待たせしてしまってすみません、お父様、お兄様」
私もリシャールとエクトルに声を掛けてから、用意された席へと座った。
「あ…ああ、大丈夫…だよ」
「…ああ、そんなに…待ってない」
特に変な行動はしていないつもりだったが、リシャールとエクトルは互いに戸惑いの表情を浮かべながら、顔を見合っていた。
(………?私、何かやらかした…?
というか…この一家、美形すぎでしょ!?)
リシャールは、ロゼールと同じ銀色の長髪をリボンで一つにまとめ上げた優しげな印象のおじさんで、エクトルは茶髪のマッシュヘアーをした切れ長の目がクールな印象のイケメンだった。
纏っている雰囲気はそれぞれ違っていたが、二人ともロゼールと同様に驚くほど目鼻立ちが整っていた。
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