帰りの馬車の中で
怒涛の初登校が終わり、ロベルトが迎えに来てくれた馬車の中で、私は先程気になったことをエクトルに聞いてみることにした。
「あの、お兄様。
生徒会の皆様は、互いにとても親しい関係性のように見えましたが…長く交友がある方々なのでしょうか?
レアンドル様は私のこともご存知のようでしたし…」
「ああ。俺達3年の生徒会員は皆、初等部の頃からの付き合いだ。
俺達は突然レアンドルに集められ、初めは強制的に王子の気まぐれに付き合わされている気分だったが…自然と行動を共にするようになり、身分差など関係なく対等に分かり合える仲間になっていった」
「そうだったのですね。
皆様が今日のレアンドル様はいつもと違った様子だと言っていましたが…お兄様から見たレアンドル様は、普段はどんな方なのですか?」
私の質問にエクトルは少し考え込んだ後、冷静に分析して言った。
「俺から見た、普段のあいつか……まず、基本的に何を考えているか分からない奴だな。
誰に対しても馬鹿みたいにニコニコと愛想よく振る舞っているが、その奥では常に冷静に物事を見通しているというのがまたタチが悪い。
まあ…次期国のトップとしては有望な証なのだがな」
(エクトルよ…
仮にも王太子に向かって、"馬鹿みたい"とは…
でも、的確に物事を見ることが出来るエクトルが言うのだから、レアンドルもエクトル並かそれ以上の切れ者なのだろう)
「確かに先程の様子からは、お兄様の言う冷静さというものはあまり感じられませんでしたね…
皆様が戸惑っていらっしゃったのも、いつものレアンドル様とはかけ離れた言動をしていたから…ですよね?」
「ああ。あいつが本当の馬鹿になっているところは初めて見た。
何よりレティシアへのあの態度…いつもならば絶対にあり得ない。
あいつは誰よりもレティシアのことを大事にしてきたはずなのに…」
「お二人は幼い頃から許嫁の関係だったのですか?」
「そうだな。少なくとも俺が出会った初等部の頃には、既に許嫁の関係だった」
そこまで話したところでガタガタと揺れていた馬車が止まり、ロベルトに声を掛けられた。
「エクトル様、ロゼール様、さぁ到着しましたよ」
気まずさですごく長く感じていた朝の道のりとは違い、帰り道は時間があっという間だった。
馬車を降りようとする私の手を取ったロベルトに、エクトルが言った。
「ロベルト、今後はロゼールのことも色々と気にかけてやって欲しい。
俺が留守にする時など、力になってやってくれ」
そう真剣に頼み込んできたエクトルを見て、ロベルトはクシャクシャっとエクトルの頭を撫でた後、微笑みながら明るく言った。
「も〜そんなに畏まって言われなくても、いつもちゃんと気にしていますよ。
僕ら使用人にとっては、ロゼール様も大事なお嬢様ですから。
ただ…ロゼール様の希望もあったので、ナディーヌ以外の使用人達はひっそりと遠くから見守ることにしていたのです」
「そうだったのか…
ありがとう、これからもよろしく頼む」
エクトルは少し驚いた表情を見せた後、ホッとしたように優しく微笑んだ。
(うっ…!これは出待ち令嬢達の気持ちが分かるかも…)
ロベルトの前でだけは豊かな感情を表すエクトルを、少しだけ可愛いと思ってしまった。
屋敷に入ると、玄関ホールでナディーヌが出迎えてくれていた。
私は着替えをする為、ナディーヌと共に自室へと向かった。
制服から着替えて鏡台の前に座ると、鏡越しにナディーヌがニコニコしながら興味深そうに言った。
「それで…学園はどうでしたか?お友達には会えましたか?」
私は今日の出来事や出会った人達を思い出しながら、ナディーヌに話をした。
「シャルロット様と、それからリディアーヌ様ともお話をして…お兄様たち生徒会の方々にもお会いしたし…色々ありすぎて、目まぐるしい一日だったわ」
そう言いながら疲れた仕草をする私を見て、ナディーヌは嬉しそうに笑いながら言った。
「ふふふっ…楽しかったようで何よりです。
でも、大分お疲れのようですから、ご夕食の時間までゆっくりなさっていて下さい。
また後で呼びに参りますね」
ナディーヌが部屋を出て行った後、私はベッドの上に寝転びながら天井を見上げ、ボーッとしながら過ごしていた。
すると…ひとり静かなはずの部屋の中で、どこからか微かな声が聞こえた気がした。
『……て。…み……て。……み…て!』
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