レアンドル・リヴィエのストーリー
レアンドル・リヴィエはこの王国の第一王子で、順当にのちの国王となるだろうと言われていた人物だった。
(これがリアル王子様かぁ…
やっぱり主要キャラで王子ともなると、ひときわオーラが違って見えるな)
王族らしい気品のあるキラキラとした金色の髪で、肩よりも少し長さのある髪をリボンで後ろで一つにまとめ、にこやかに微笑むその姿はまさに王子様そのものだった。
だが、完璧すぎる程のレアンドルの王子スマイルは、その笑顔の奥に潜む何かに全てを見透かされているかのような恐怖を感じた。
私は失礼の無いよう気を引き締め、レアンドルを重要な取引先の人だとイメージしながら、深々と会釈をして挨拶を返した。
「本日はお招きいただきありがとうございます、レアンドル殿下。
わたくしはロゼール・ディディエと申します。
兄のエクトルがいつもお世話になっております」
「ふふふ、もちろん知っているよ。
急に改まってどうしたのかな?
それに…今日の君は、僕が知っている君とは随分異なるようだ」
「そ、それは…後ほどお話しさせていただきたく存じます」
(なんだ…レアンドルとは既に知り合いだったのね)
私が挨拶を終えると、シャルロットも続いて挨拶を返した。
初めてのレアンドルとの対面に少し緊張した様子を見せていたシャルロットだが、そこはさすが侯爵家の息女、スカートの裾を美しく持ち上げた見事なカーテシーを披露しながらにこやかに言った。
「お初にお目にかかりますわ、レアンドル殿下。
わたくしはクレティア侯爵の娘、シャルロット・ダランベールでございます。
本日はお招きいただきありがとうございます」
(わ〜綺麗な所作だなぁ…さすが貴族って感じ)
シャルロットの美しい所作と可愛らしい微笑みに、私は思わず見惚れてしまった。
「へぇ〜、君がシャルロットか!
噂には聞いていたけれど…確かにとても可愛らしいご令嬢だね。
なんだか好きになってなってしまいそうだよ」
「…………!!!?」
レアンドルが放ったその言葉に、その場にいた全員が驚き動揺した様子が伝わってきた。
生徒会室にはエクトル、レアンドル、ジェラールの他にも男子生徒が2人、女子生徒が2人集まっていた。
そのうちの女子生徒の1人が耐えかねて口を開く。
「レアンドル様、今のその言葉はどういった意味でしょうか!?
レティシア様がいながら、他の令嬢にそのような発言をするなど…一体どういうおつもりですか!?」
(……レティシア?
そうか!レアンドルには許嫁がいたんだった。
ということは、レアンドルのストーリーは許嫁を巻き込んだドロ沼三角関係ストーリー!?
…だったような…それだけじゃなかったような……)
何かが引っ掛かり必死に思い出そうとしていると、突然頭の中に"ロザリー"という名前が浮かび上がってきた。
(ロザリーって誰だっけ?……ロザリー!?
ヤバっ!もっと早くに思い出しておくべきだった…!)
レアンドルのストーリーに出てきたロザリーという人物の正体を思い出し、私は何の対策も考えずシャルロットとレアンドルを出会わせてしまったことを強く後悔した。
主要キャラの中でもトップクラスの存在感であるレアンドルは、もちろんジェラール同様シャルロットに惚れてしまう。
ただしジェラールの場合は、誰かを一途に愛することを覚えていく微笑ましい平和的なストーリーなのに対し、レアンドルのストーリーでは悲劇が起きる。
ロザリーというのは、レティシアの親友の名前だ。
ロザリーは幼い頃に孤児院からヴィルトワ男爵の元へ養子として迎え入れられたのだが、周りからは生まれによる差別でイジメを受けていた。
そんな時に救いの手を差し伸べてくれたのがレティシアだった。
ルベルジュ侯爵家の息女であるレティシア・ブリュネは、幼い頃からレアンドルと許嫁関係を結んでいたことでも有名で、周囲からも一目置かれる存在だった。
そんなレティシアの隣にいるようになったロザリーを虐めようとする者は、自然といなくなっていった。
レティシアも裏表のない心優しい性格のロザリーを信頼し、二人は身分差など関係のない対等な親友として互いに良い関係を結んでいた。
しかし、なんとレアンドルのストーリーでは、そのロザリーとレティシアが二人とも死んでしまうのだ。
シャルロットに惚れてしまったレアンドルと、その許嫁であるレティシアの関係は次第に壊れてゆき、レティシアはだんだんと心を病んでいく。
そんなレティシアを側で支え、共に苦しんできたロザリーは、美しかったレティシアの心や風貌までもが変わってゆく様子に耐えかね、最終的には元凶であるシャルロットを刺し殺そうと襲いかかってしまう。
シャルロットはレアンドルの護衛に守られ無事に済むが、レアンドルの怒りに触れたロザリーは罪を課せられ処刑されてしまう。
レティシアもまた、愛していたレアンドルと、かけがえのない親友ロザリーを失った悲しみに耐えきれず、海に身を投げてしまうという悲劇のストーリーなのだ。
(出会ってしまった事はもうどうにも出来ないけれど…行く末を知っている身としては、そんな事件は起こってほしくない。
レティシアとロザリーの為にも、せめてレアンドルがシャルロットに惚れてしまうことだけは、全力で阻止しないと…!)
女子生徒に厳しい指摘をされたレアンドルは、不思議そうな顔で呟いた。
「………?おかしいな。
どうしてそんな言葉が出てきたのか、僕にもちょっと分からないんだけれど…」
(………!?本人の意思とは関係なく、シナリオ通りに心を動かされてしまうのだとしたら…かなり厄介だ。
どうにかして、レティシアとロザリーの死を回避する方法はないのだろうか…)
レアンドルが呟いた言葉に、女子生徒がより一層怒りを露わにしながら反応する。
「ご自分が何を仰っているのかお分かりですか…!?
まるで誰かに言わされでもしたかの様にとぼけるだなんて…!最低ですっ!」
「う〜ん、今回ばかりはいつもの様にとぼけている訳では無いのだけれど…リシェの言う通り、僕の発言は良くなかった。
すまない、気をつけるよ。
レティシアのことは、もちろん大事に想っている」
(いつもの様にって、普段は意図的にとぼけてるんかい…)
どうやら女子生徒の名前はリシェというらしい。
腰まで伸びた真っ直ぐで艶やかな黒髪に、目鼻立ちの整った美しい顔は、ちょっと近寄りがたいくらいのクールビューティーという印象だ。
だが先程の発言の様子を見ると、そのクールな見た目と中身にはギャップがある人なのかもしれない。
(リシェという名前には、聞き覚えがないな…)
レアンドルが謝罪をした後、話を続けて言った。
「それで、わざわざ二人を連れてきたのには意味があるんだよね?エクトル」
「ああ、ロゼの転落事故の件で話があるんだが…」
エクトルは頷くと、淡々と業務連絡のようにこれまでの経緯を説明し始めた。
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