ロゼールの学園生活
学園内でロゼールとして過ごすのは、思っていたよりも簡単だった。
「今まで通り、私に付いてくれば大丈夫だから」
シャルロットにそう言われた通り、私は一日中後ろを付いて回ってみることにした。
同じく取り巻き仲間だったのであろう令嬢ABCが、私を見るなりサラリと言った。
「ご無事で良かったですわね」
「お元気そうで何よりですわ」
「今日から学園へと戻られたのですね」
令嬢ABC同士はとても仲が良さそうで、シャルロットを取り囲みながら積極的に会話を楽しんでいたが、きっとロゼールはこの輪の中には混ざっていなかったのだろうと直感的に私は思った。
クラスで過ごしていても、たまにシャルロットと令嬢ABCに話を振られることがあるだけで、他に話しかけてくる人は誰もいなかった。
(別に無視されているわけじゃないんだけど、なんか…
ここに居るのに、居ないみたいな……)
経験したことのない周りの静けさや無関心さに、私は少しだけ心が虚しくなった。
シャルロット達を見失わないよう追いかけることに集中していた為、こちらからも誰かに話しかけることはないまま時間が過ぎていった。
(ロゼールはいつもどんな気持ちで過ごしていたんだろう…別になんとも思わなかったのかなぁ?
それとも、少しは寂しく思っていたのだろうか…)
共有フロア内での授業を終えて1-Aの教室へと戻る途中、私は廊下に展示されていた美しい女神の絵画に目を惹かれ、しばらくその場に立ち止まって眺めているとシャルロット達を見失ってしまった。
(わぁ〜綺麗な絵だなぁ…
……ヤバっ!?教室まで戻らなきゃいけないのに…どうしよう。
ここは誰かに聞くしか……って、誰もいない!?)
最終授業も終わり、生徒達は帰り支度のために速やかに各教室へと移動したのだろう。
キョロキョロと辺りを見渡してみても、共有フロアの廊下には私以外に生徒は一人も見当たらなかった。
とりあえず下の階へと降りる階段を探そうと、しばらく一人で彷徨いながら歩いていると、不意に現れた一人の女子生徒がボソッと呟きながら、颯爽と私を追い抜いていった。
「良かった…大丈夫だったのね」
顔は見えなかったが、その女子生徒の上品かつ堂々と歩く美しい後ろ姿に、私は一瞬で目を奪われた。
透き通るような薄むらさき色の長い髪を縦巻きロールにし、左右に結んだツインテールが歩きに合わせて優雅に揺れていた。
(今のって…私に話しかけた?
周りには誰もいな……あっ!?いなくなっちゃう!)
女子生徒が少し先の道を曲がろうとする直前、私は大声で呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待って!!……くださいませ!」
「!!?」
すると女子生徒は勢いよくこちらを振り返り、髪の色とは異なる金色の眼をまんまるくさせて驚いていた。
「あっ…急に大声を出してすみません。
そんなに驚かせるつもりはなかったのですが…お聞きしたいことがありまして」
私がそう話しかけると、女子生徒はますます怪訝そうな顔をしながら答えた。
「あなた…そんなに大きな声も出せたのね。
それに、あの女以外の人とはまともに話すことが出来ないのかと思っていましたわ。
その様子なら大事には至らなかったようだけれど……それで?一体わたくしに何の用が?
わたくしが突き落としたと、皆に言いふらしていることに対しての謝罪かしら?」
(ん…?もしかしてロゼールと知り合い…というか、なんだか怒ってる?
……!?わたくしが突き落としたって…もしや、この子が悪役令嬢リディアーヌ!?)
シャルロットから注意するようにと言われたばかりのリディアーヌ本人との遭遇と、剥き出しにされた私への敵意に、全く心構えが出来ていなかった私の頭はパニック状態に陥った。
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