転落事故の犯人
覗き込んできたシャルロットの可愛い笑顔の圧に押され、私は先程の言葉の理由を話すほかなかった。
「あ、えっと…落ちた衝撃のせいなのか、記憶喪失になってしまいまして…」
「えっ、記憶喪失!?
それって今までの事、ぜーんぶ忘れちゃったってこと!?……私のことも?」
私がコクンと頷くと、シャルロットは悲しそうな表情で俯いた。
先程話を先延ばしにされたジェラールも意図せずして聞くこととなり、驚きを隠せない表情で言った。
「おお…それはちょっと、予想外な爆弾だったな…」
シャルロットとジェラールが驚くのも無理はないだろう。
知っていた人に急に記憶喪失になったと言われたら、誰でも戸惑うだろう。
するとエクトルが真剣な表情でシャルロットに言った。
「…そういう訳なんだ。
ダランベール嬢とは昔から仲の良い関係だったと聞いている。
すまないが、ロゼのことをしばらく気にかけていてもらえないだろうか?」
(もしかして、エクトルはそれを伝えるために教室まで…?)
「もちろんですわ、エクトル様。
ロゼールの記憶がなくなってしまったのは寂しいですが…以前からも私達はずっと行動を共にしていましたもの。
たとえ記憶が無くとも、それは変わりませんわ。
ロゼールもそれを望むのであれば…ですけれども」
(ん〜ぶっちゃけ集団行動って苦手なんだよねー…
でも、今のところ学園のこと何も分からないしなぁ。
ここはしばらくご一緒させてもらうべきだよね)
私はエクトルの想いとシャルロットの好意に、素直に甘えることにした。
「ありがとうございます、シャルロット様。
お言葉に甘えて…この学園に慣れるまでの間で構いませんので、しばらくご一緒させてください」
「ふふふっ、こんなに話すロゼールは初めてで何だか新鮮ね。
何も覚えていないってことは、転落した時に何があったのかも忘れちゃったの?」
「……?侍女からはシャルロット様とリディアーヌ様との歓談中に起こった事故だったと聞いております」
「……そう。
いきなりこんなこと言うべきじゃないのかもしれないけれど…あの時、ロゼールはリディアーヌ様に突き落とされたのよ。
だから…リディアーヌ様には気をつけて」
シャルロットのその言葉を聞き、私の頭の中に戸惑いが走った。
(えっ!?どういうこと…?
ロゼールの転落は不慮の事故じゃなかったってこと?
リディアーヌって悪役令嬢の名前だよね…なんでロゼールを?)
ただの転落事故ではなかったというシャルロットの衝撃発言に驚いたエクトルも、すかさず話を聞き出そうとする。
「ダランベール嬢、その話をもっと詳しく聞かせてくれ」
(可愛い妹が故意に突き落とされたかもしれないだなんて…そりゃ放っておけないよね)
緊迫した表情で前のめりに話を聞き出そうとするエクトルを、ジェラールが緩い話し方で遮った。
「さあさあ皆さーん、その話はもちろん詳しく聞く必要があるけれど…そろそろ始業の時間ですよ〜!
とりあえず早く席に着きましょうね〜?
お嬢様方も教室に入って入ってー」
ジェラールがそう言うと同時に、始業5分前の鐘が鳴り響いた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン……
「ほらエクトルも、急いで教室行くぞー」
ジェラールがエクトルを引きずるようにして連れて行こうとする。
「ちょっ…と、待っ…!」
「気になるのは分かるけど、俺らの立場で遅刻は色々とマズイだろ?
続きは放課後にしようぜ」
「……ああ、そうだな。すまない」
ジェラールの正論を聞き、冷静に戻ったエクトルはシャルロットに言った。
「ダランベール嬢、放課後に生徒会の集まりがある。
そこで皆にロゼールの記憶喪失のことを話そうと思っていたのだが…先程の話も詳しく聞かせてほしい。
すまないが、ロゼールとともに同席してもらえないだろうか?」
エクトルの問いかけに、シャルロットは目をキラキラと輝かせながら答えた。
「分かりました!ぜひ参加させていただきますわ。
生徒会の皆様が集まられるということは、レアンドル殿下もいらっしゃるのですよね…?
直接お会いするのは初めてで、緊張してしまいそうですわ」
(レアンドルはもちろん主要キャラだから、ジェラールと同じくシャルロットに惚れてしまうはずだけど…今の時点ではまだ出会っていないってこと?
二人はどんなストーリーだったっけ…?)
放課後に話の続きを聞くことが決まり、ジェラールとエクトルは急いで自分達の教室へと向かって行った。
私とシャルロットも教室に入り、自分の席へと着席した。
(今日は家に帰るまで、長い一日になりそうだなぁ…)
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