第1話 約束の再会
自殺を試みたあの日。助けてくれた、隣の中学校の男の子。
自由を求めて死ぬんじゃなくて、2年後に期待しようって。風ノ葉でまた会おうって。
彼は中学校をサボって独学を極めてたみたいだけど、私はそこまで器用じゃないから、中学校も通って朝から夜までたくさん勉強した。
私の事わかってくれた先生や、塾通いのアイ、一番仲良しで意外となんでも出来るヨシノを頼って、なんとか風ノ葉合格レベルまでの学力をつけた。
そして、3人で風ノ葉学園に入学したんだ。
「にしても、自殺未遂を助けてくれた上に風ノ葉紹介してくれた男の子ねぇ…」
「王子様じゃーん!きゃーっ!いいなぁマキちゃん!」
「別にそんな関係じゃないよ、まだ…」
「「まだ!?」」
「んもぅ…。」
教室でそんな話をする。教室と言ってもカッチリした感じじゃなくて、机も椅子もカフェみたい。自由度の高さがよくわかる。
ちなみにアイは前から自由を求めてたから風ノ葉狙ってて、ヨシノは風ノ葉にはイケメンが多いとの噂を聞いて狙いだしたらしい。初耳だけどね、そんな噂。
「あ!早速イケメン!ほらあそこの3人!」
一人女の子だけどイケメンはイケメンだよね、と付け足すヨシノ。彼女が指さした方向を見る。アイは、なるほどねと言いそちらに向かい、すぐ3人をこちらに連れてきた。
「アタシ、この人たちと同じ塾だったんだよ。」
アホ毛がぴょこんと特徴的な彼は桜空シンヤ、中性的な色気を纏う彼女は霧嶋ウメ、そして色黒で彫りの深い彼は常陸トモサダと言うらしい。
「どーも、オレがシンヤです!いやぁ、アイちゃんやっぱ顔広いね~!美少女ふたりと友達になれて最ッ高!」
「シンヤあなた、2人を同時に口説きたいの?」
「ウメ姉貴、その言い方は人聞きが悪い。マキちゃんとヨシノちゃんだって、オレみたいなイケメンと友達になれて嬉しいっしょ?」
「自惚れも大概にしなさい、気持ち悪い。」
「まぁまぁ…2人ともごめんね。シンヤとウメは昔からこうなんだ。そして毎回、俺が巻き込まれてね…」
これがイケメン達のノリなのかと、目をキラキラさせるヨシノ。いやこの3人は単に幼なじみだからと説明するアイ。
まぁ、そこそこ楽しい学園生活にはなりそう…。だけど。
「マキちゃんどったの?」
「え、いや別に何も…」
「マキちゃんはね、王子様を待ってるんだよ!」
「ちょっとヨシノ!?」
「なるほど彼氏」
「違いますシンヤさん!」
「違う!?ならオレにもチャンスあるね!」
「シ~ン~ヤ~!」
勝手に盛り上がるヨシノとシンヤさん、そしてウメさんに回収されるシンヤさん。
そんな彼らを苦笑いで見守りつつ、トモサダさんは言う。
「まぁカップルはそこそこ多いと思うよ、ここ。例えばそうだね…、あ、今入ってきたあの二人とか。」
言われてドアに顔を向ける。その瞬間、驚いた。視界に入ったのは、
(タツミくん…!?)
タツミくん、とタツミくんの腕に抱きつく可愛い子。
「……、死にたい」
「わかる、俺もリア充見ると死にたくなる。」
「オレも!なんか心に来るものあるよね!」
「流石に死は大袈裟ですけど、羨望は隠しきれませんね。」
この美形3人組非リアなんだ、意外…って少し思ったけれど、それどころじゃない。
自分が待ち侘びた人に既に恋人がいるなんて…いや確かに居ないとは言ってなかったが。すっかり気持ちが沈んでしまう。
もう帰って死にたいな、3人みたいに冗談じゃなく本気で…。そう思った矢先にチャイムが鳴り、5人は前の席へと急いだ。
私は、動く気力がない。前の席の方が、話がよく聞けるとは思うけれど…。
タツミくんと一緒にいた子、可愛い子だった。思い出しまたへこむ。
そんな私の隣から、「なんだ、友達いるんじゃねぇか」と知った声がした。
声の主へ振り向く。
彼こそ、ずっと会いたかった仁武タツミだった。
彼は薄く微笑み言う。「また会えて嬉しいよ、マキさん」
<人物紹介のコーナー>
・千石 マキ(せんごく まき)
決心した時の行動力は高く努力家。しかし嫌なことがあるとすぐ死にたがる。
・竹宮 ヨシノ(たけみや よしの)
マキの数少ない友達。イケメンに目がない。女でもいい。恋バナ大好き。
・赤野 アイ(せきの あい)
マキ、ヨシノと同じ中学出身。塾や習い事がたくさんあり、ものすごく顔が広い女の子。誰とでもそれなりには仲良くできるタイプ。
・桜空 シンヤ(おうぞら しんや)
アイと同じ塾に通っていた。顔は良いがそれ以上にナルシストな男の子。すぐ女の子にちょっかいをかけてはウメに回収される。ウメとトモサダとは幼なじみ。
・霧嶋 ウメ(きりしま うめ)
アイと同じ塾に通っていた。中性的な色気を纏う女の子。ヨシノのイケメン判定に入るくらいには顔が整っている。シンヤのツッコミ役で回収役。シンヤ、トモサダと幼なじみ。
・常陸 トモサダ(ひたち ともさだ)
アイと同じ塾に通っていた。色黒で彫りが深い男の子。もちろんヨシノのイケメン判定に入る。幼なじみのシンヤとウメのやり取りに、よく巻き込まれる。
・仁武 タツミ(じんぶ たつみ)
中学生の頃、歩道橋から飛び降りようとしたマキを助け、風ノ葉学園を勧めた男の子。まだまだ謎が多い。可愛い子と一緒にいる…?