表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
5章 エブリバディ・プレイザフール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/292

5-8話 王都到着

 


 白を基調とした立派──では到底説明不足なほどの迫力がある王都の城壁。


 その城壁の外からは、これから王都に入ろうとする商人や旅人で、中からは王国祭という大イベントに熱狂する人々の声が聞こえ、既に混沌した様相を呈していた。


 そんな中、5時間にも及ぶ列待ちを乗り越えてアウルムとシルバは王都に入った。


「ダァ〜! 疲れた! 何もせんと立ってるだけが一番キツいわ」


「目立つのを避ける為とは言え、想像以上だったな」


「ユニバでもこんな混まへんからな」


 そこそこ質の良い宿を見つけることにも苦労して、朝から城壁外に並び、宿に到着してベッドに転がり込む頃には既に日が傾いていた。


 国家治安調査官、またはVIP待遇の来賓などは別の入り口から比較的スムーズに入都手続きが可能だが、立場上少しでも人目につくリスクを避けたかった。


 結果として、王国祭の始まる2日前には到着出来たが疲労困憊の2人は宿から一歩も出ようと言う気にはならなかった。


「……にしても、荷物検査やらセキュリティめちゃくちゃ厳しかったな?」


「各国の要人も招待して、国の威信をかけた祭りだから不測の事態に備えるのは当然だろ……確かに兵士はピリピリしてたな」


「調べるにしても明日にしよ。今日は流石にキツい」


 ここまで、国の中心から東西に伸びるマジックロードを真っ直ぐ進み、ほぼ休みなしで馬を走らせた。


 馬をシルバの『理不尽な速さ』で回復させながら移動していたので、休息が必要なのはアウルムも同意する。


「明日中にキラド卿とフレイには接触しておきたいが……」


 この人混みと兵士の忙しさを考えれば時間を取れるかは不明である。


「二手に分かれよ、俺フレイな」


「それはお前がフレイに会いたいだけだろ」


「俺キラド卿苦手やからな。そりゃ美人の姉ちゃんの方がええやろ」


「俺だってそうだ」


「嘘つけ、美人かどうかなんて興味ないやろうが」


「というか、会うまでの手続きが面倒なんだよ」


 トーマス・キラドほどの重要人物となると国家治安調査官、それも彼の子飼いとして接触するまでのプロセスが慎重に慎重を重ねる必要があり、理解はあれど面倒という事実は変わらない。


「それに、お前まさかとは思うがフラッと出向いてフレイに挨拶するつもりじゃないだろうな?

 フレイの方がキラド卿よりも関係があると知られるとマズイんだぞ?」


「うっ……じゃあどうすんのがいいんや?」


 まさにアウルムの言う通り何も考えず探し回ってフレイを発見しようとしていたシルバは声を出す。


「騎士は宿舎にいるだろうから夜中に寝室に侵入するのも難しいし、路地裏で拉致るのが確実だと思っていたが」


「お前とんでもないこと考えてるな!? 思考が犯罪者そのものやねん」


「とんでもないのはそっちだろ。俺たちの迂闊な行動次第でフレイが死ぬぞ」


「じゃあ辞めとくわ」


 明日の行動の指針として、朝一でトーマス・キラドとの面会のアポイントを取っておく。時間が取れるかは不明だが、以前に手紙で王国祭に足を運ぶ旨は伝えていたので可能かも知れない。


 次にフレイがどこで何をしているのかを探る。接触出来そうなポイントがあれば接触し内部の事情や勇者についての情報を聞き出す。


 フレイを探しながら王都に関する情報を集めて土地勘を得る。


「そんなところか。メシ食ってさっさと寝ようや、何読んでるねん?」


 予定が決まり宿屋の食堂に向かおうとするシルバはベッドの上で何か読むアウルムを呼ぶ。


「王国祭の観光客向けのパンフレットだな。流石に勇者がいるんだから活版印刷はあってもおかしくないが平民に無料に近い金額でバラまくほど技術が定着してるとはな……文字だけじゃなくて絵もついてるしクオリティも高い。詳しいやつがいたんだろう。

 お前も読んでいつどこで何があるのかは頭に入れとけよ」


「祭りに来たのに宿題かよ……」


「馬鹿、遊びに来たんじゃないだろ」


「遊び『も』しに来てるねん」


「そんな時間あるとでも?」


「期待くらいしてええやろ」


「ま、あるといいな」


「無いんやろうなあ……」


 食事中もパンフレットを熱心に読み込むアウルムとは対照的にシルバは重い瞼を持ち上げることが出来ず、眉だけ上げ半目の状態で食事をただ口に運んでいた。


 ***


 翌朝、しっかりと休息を取り体力を回復させた2人は早い時間に宿を出て街に繰り出す。


「ん〜なるほどなあ、このパンフレット大したもんやな」


「何が大したもんだよ、絶対娼館のページ見てるだけだろ」


「安全で適正価格の優良店しか紹介してないんやで? いつもは店の情報を集めるところやのに便利過ぎるのがお前には分からんのか」


「そりゃ国が発行したものなんだからダメな店は紹介しないだろ。注目すんのはそこじゃねえよ。貴族が出入りするエリア以外の地図が公表されてることに気がつけよ」


「ん? ああ……そうか言われてみたら凄いことしてんな」


 シルバはてっきり遊園地にでも来たつもりになっていたが、国の中心である王都のかなり詳細な地図を一般に公開するというのは普通はあり得ないことだ。


 防衛という観点から、地図によって街の弱い部分など丸肌になることなど、大した問題では無い。それほどの自信を持つ武力を誇示する目的も見え隠れしてはいるが、それでも思い切った判断をしている。


「もう頭の中には入ってるんやろ?」


「バッチリだ。『解析する者』でルート検索やナビも出来るぞ」


「ガイド顔負けやな」


「と言っても王都特有の文化なんかは分からんから都会人と会話してボロを出さんように気をつけないとな……」


「俺らは王都でデカい仕事ないかって出てきた冒険者、そうやろ?」


「表向きは、な」


 2人は誰が見ても冒険者に見える格好をしている。シルバは帯剣し、アウルムは刃の部分を布で巻いた槍を担いで街中を歩く。


 知らぬ者から見れば、明日から始まる武闘大会で名を上げて仕事を得ようとするありふれた冒険者だと思われるだろう。


 しかし、アウルムのような諜報活動をする際は王都に慣れていないと知られるだけで足元を見られた交渉をされかねない。

 少ない時間で出来る限り王都の情報を集めることも本日の重要な仕事だ。


「あったぞ……」


 アウルムがキラド卿に会う為に必要な手続きを踏む為の目印を街の中から見つける。そこに誰にも気付かれぬよう目印を描く。


「これで終わり?」


「今はな」


「マジで面倒やな」


 目印を探す為の目印を探す。これを繰り返すことに7回。ようやく、こちら側の情報を伝える場所に辿り着いていた。


 後はその情報を確認して伝える者が、トーマス・キラドまで情報を持っていき、時間や場所の指定の連絡が入るまで待機となり、確認の間隔は約6時間。ここから最低でも6時間は待つ必要がある。


「これから自由時間とする。フレイを探しながら街の雰囲気を把握するんだぞ?」


「分かってるって! 俺が南側。お前が北側やろ?」


 宿の位置が南側で平民や商人の暮らすエリア。北側が比較的裕福な商人などが暮らすエリアで貴族街に繋がる門がある。


 既に『虚空の城』のゲートを宿の中に設置しているのでシルバが南側にいればアウルムは合流がしやすい。


「んじゃまた後でな」


「トラブルを起こすな。知らない人間についていくな。女は特についていくな」


「俺はガキかっ! ほっとけ!」


 アウルムからクドクドと注意を受けるシルバは唾を飛ばす勢いで返答しながら右腕をブンと振る。


「痛っ!?」


「あっ、あ〜! マジごめんなさい! 大丈夫でした?」


 その腕が通行人に当たってしまった。


「言ったそばから……」


「クッソ〜お前の戯言の説得力が増してしもうた……」


「おい、お前人を殴っておいてごめんなさいで済むと思ってんのかぁ!?」


 シルバの肩を掴んだのは、腕が当たった片目に傷のある男。


「いや、わざとじゃないねんけど反省してる。すまんかった!」


「だからよお〜分かるだろ? ごめんで済むと思ってんのか?」


「……なんやぁお前? ゆすってんのか? オラァッ!?」


 男が金を意味するジェスチャーをすることで腰の低かったシルバの態度も一変する。


「迷惑料払って当然だろうが! 何逆ギレしてんだテメェ!」


「そもそもお前何しに俺に近付いて来てんねや!? 財布スリに来たのをグーパンで無かったことにしたろうってこっちの配慮に気が付かんのか間抜けがぁっ!」


「は、はぁ〜? 言いがかりつけてんじゃあないぞッ! このタコッ!」


 シルバの対人における気配察知能力は並のレベルではない。足音や仕草からスリかどうかの判別はつく。


 アウルムとのやりとりは、先ほどから周囲をチョロチョロしていた男にお灸を据える為の小芝居をしているに過ぎなかった。


「そこっ! 何を揉めている!」


 周辺の巡回にあたっていた騎士が騒ぎを聞きつけてやってくる。


「いや騎士さん、こいつがいきなり殴ってくるものだからちょっと口論になっただけでね」


「こいつスリや。身体検査してくれスリじゃないなら問題ないよな? もしホンマにスリじゃなかったらお前の言う通り迷惑料払ったるわ」


「……テメェ!?」


「失礼、身体検査をさせて頂きます……ふむ、冒険者殿、犯罪者検挙にご協力ありがとうございます。連れて行け!」


「ふっざけんな! チクショー! 覚えてろよお前ぇっ!?」


 男の服の中からは財布がいくつも出る。すぐさま取り押さえられ男は連行されながら捨て台詞を吐く。


「軽く調書を取るのに協力していただけますか?」


「えっ? え〜これから予定あるのにな〜。なあ、どうする……ってアウルムどこ行ったんや!?」


 スリを見逃すのが嫌だったので行動したが、それは面倒だなと思い振り返ると、アウルムはどこかに消えていた。


「あいつ逃げよったな……はあ、分かった分かった、行きます〜」


 騎士と共に詰所に向かうことになるシルバ。


(よく考えたら騎士から自然に情報聞くチャンスやん)


 だが、ただでは転ばないのがシルバだった。


「王国祭って結構警備凄いんすね〜他の街じゃこんな早くに兵士の人来てくれんから助かりました」


「この人だかりですからね、揉め事も多くそれを放置すると大変なことになりかねませんから、通常時よりも多くの人員を割いています」


「へ〜王国祭は初めてですけど毎年こんな感じですか?」


「いえ、今年は例年以上……いや、私の知る限り過去最大規模です。復興も順調に進み勇者を一目見ようとやってくる外国人が特に多い。

 それだけ世界全体で余裕が生まれ始めたってことなんでしょうが、我々騎士や兵士からすれば悩みの種が増えるというものです」


「大変ですね、お手数かけて申し訳ない」


「いやいや、スリの被害報告がかなり多いので助かります。検挙しないことには騎士団も舐められて治安が悪化しますからね。感謝こそすれど迷惑なんてことは……」


 世間話と王都に関する話を聞く他国出身の冒険者の男という振る舞いを意識しながら情報を集めていく。


 騎士の詰所に到着すると、簡単な聞き取り調書協力を求められて虚実入り混ぜながらそれっぽい証言をする。


「なるほど……流石はAランクの冒険者といったところでしょうか。やはり武闘大会が目当てで王国祭に?」


「いえいえ……まあ、そんなところです。強い奴は職業柄気になるもんで」


「もうエントリーはお済みですか? 受付が昨日までですが、もしまだならお礼にねじ込むくらいは出来ますよ」


「えっ? あ〜いやまだですけど……」


「それは丁度良い! エントリーの手続きしておきます!」


「あ〜……どうも……」


(なんか流れで参加することになってもうたけど、これ怒られ発生するやつやん。どうしよ? でも前から興味あったし……ええわ、参加しよ。怒られたらその時はその時やな。ここで断るのもAランク冒険者的に不自然やし)


 と、自分の中で納得できるだけの理論を展開させていき武闘大会に出ることが決まる。


「んじゃそろそろこの辺で……」


「あっと、お忙しい中ご協力感謝します!」


 騎士は立ち上がり敬礼をしてシルバを見送る。


 詰所から出て、アウルムの言い訳の内容を練りながら歩いていると声がかけられる。


「シルバ殿?」


「……俺凄え」


 いつものことながら出歩く度に何かしらの問題が発生してそれが結果的に良い方に転がるという強運、または悪運とも言える謎の能力により、フレイと再会を果たす。


「何を言ってるんだ?」


「……久しぶりやな、フレイ」


「何故背を向けて話す?」


「俺と接触したと第三者に知られるとお前にも危険が及ぶからや。今日暇な時間あるか?」


「3時間後に休憩がある」


「んじゃ、そこの路地裏に3時間後」


「あ、ああ……」


 振り返ることなく最低限の会話で再会の挨拶を終わらせ、その場を立ち去る。


(アウルム、良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?)


(……最悪の方からで)


 すぐさま念話で連絡を取ると、アウルムは沈黙の後に口を開いた。


(おい、最悪って決めつけんなや)


(なんだそんなことか、で終わった試しがあったか?)


(あるやろ!)


(驚くべきことにない! なんならこっちに来てからお前のやらかしを羅列しようか? 全て記録されているぞ)


(ちゃんと良いことも加点してくれよな。犬も歩けば棒に当たるって言うやろ! 悪いこともあったら良いこともあるのが俺や!)


(それを言うなら人間万事塞翁が馬だし、お前の場合、災い転じて福となすで、その災いが厄介なんだよ!)


(辛辣〜……んじゃ2時間後に宿前集合で)


 念話を終了させ、屋台の並ぶ通りに出る。


 子供達が不思議な見た目の菓子を親にねだったり、日本人の影響を感じさせる料理を興味深そうに眺める大人たちがいたりと、シルバは生まれ育った土地、京都の祇園祭りを彷彿とさせられながら、屋台通りを歩き回った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ