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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
5章 エブリバディ・プレイザフール
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5-1話 ようこそデスゲームへ

5章開始します。よろしくお願いします。


「ちっ……また来やがった」


「帰れ帰れ、どうせ賞金取るのは俺たちなんだからよ!」


 とある建物の中に入ったアウルムとシルバが浴びせられたのは、歓迎されぬ敵意の満ちた視線と罵声。

 室内は何本ものロウソクに火がつけられ、薄ぼんやりとしたオレンジに染まっており、既に到着していた参加者と思われる者たちが睨みを効かせる。


「ほーん、冒険者に盗賊、貴族の家系の次男三男、学者……商人までおるんか。バラエティに富んどるな」


 シルバが中にいる者たちを観察して、メンツの多様さを鼻で笑う。


 迷宮都市から馬を走らせること3日。掲示板にて発見した謎の暗号が指し示す場所へと向かった。


 人の気配がほとんどない、街外れの道を進んでいくと明らかに周辺の風景から浮いている巨大な洋館が突如として姿を見せた。


「俺たちが最後か。時間的にもギリギリに到着だからな」


 現在の時刻は23時52分。アウルムが時計を確認して、これ以上の駆け込み参加者はいないだろうと推測する。


 一体どうやって、この場所にたどりついたのか。はたまたどうやって知り得たのかは皆目健闘もつかない多種多様な参加者が丁度100人。


 壁際に並べられたソファに寝そべり仮眠をとる者、壁にもたれ掛かりジッと他の参加者を観察する者、数人の仲間とテーブルで何かゲームをしている者など、待機している方法も様々だった。


 部屋の中央に置かれた食べ物は、主催者側が用意したものだと推測される。水、ワイン、果物、干し肉などが置かれている。


 しかし、それらに手をつけた形跡はなかった。


「なあ、あのテーブルの飯食うて大丈夫やんな?」


「大丈夫だな。毒を警戒して手をつけないのは正しいが、主催からのただのサービスだろうから、全く意味が無いな」


 シルバは得体の知れない食べ物について敏感になっており、アウルムに鑑定してもらってから口にすることが多くなっている。


 お墨付きをもらったところで、テーブルの方に歩いていきシルバはワインと果物を口にした。


 シルバは音を鳴らしながらワインを飲み干し、果実を食べる。干し肉にまで手を出す。

 その様子を他の参加者たちはジッと見ていた。不用心な間抜け(シルバ)が毒味をして人柱となってくれるのを待つ程度の狡猾さを持つことが分かる。


「毒はねえのか……」


「チッ、警戒して損したぜ。腹減ってたんだよな」


 シルバの体調に異変がないことを確認してから、テーブルに近づき、シルバが手をつけた同じものを食べた。


「ウッ!?」


 シルバが胸辺りを押さえて苦しそうな声を出す。それを見て、ピタリと動きを止め、安心してテーブルの食べ物を口にした男たちの顔色が悪くなる。


 やはり毒か!? もっと様子を見ておけば。そんな後悔が表情に現れていた。


「ゴホッゴホッ……喉に詰まった」


「なんだよビビらせんじゃねえよ!」


「舐めてんのかお前!?」


 胸を叩いてワインを呷り、食べ物を流し込むシルバに悪態を吐いたものが数人いた。


「はぁ!? 俺に毒見させてから食うた腰抜けが何文句言うてんねん、筋通ってへんやろうが!?」


 シルバとしては文句を言われる筋合いがない。自分がリスク承知で食べたものを喉に詰まらせようがそっちが勝手にビックリしただけであり、自己責任でしかないからだ。


 しかし、これはワザとだった。便乗して手に取ったものたちへの意趣返しかつ、他の参加者の反応を見る目的があった。


 アウルムも、今の出来事に不自然な反応を見せる者がいないかチェックしている。主催者と思わしき人物が見当たらない現状では、主催者が参加者として紛れ込んでいる可能性を想定して炙り出しを目論んでいた。


 残念ながらそれは空振りに終わるが、他の参加者がどういった性格なのか。それについては多少の収穫はあった。


「どうやった?」


「主催者及び、そのアシスタントのようなやつがいない。元々キナ臭い話ってのは分かってたが後から来るのか……」


「どっちしろ、後1分で時間や。ちょっと待ってたら分かるやろ」


 部屋の隅に立っていたアウルムに近づいたシルバは茶番も良いところだと自嘲気味に笑う。


「お、おい……」


「なんだこいつは?」


 部屋の真ん中の方から声が騒がしい声が聞こえる。


「始まったか」


 壁にもたれかかっていたアウルムが、テーブルに歩いていくのでシルバもそれについていく。


 テーブルの上にはサングラスを装着し、葉巻きを咥えたぬいぐるみのようなサイズの不気味な顔をした二足歩行の犬が立っていた。


 どこから現れたのか。移動の気配を誰一人感じられなかったことから、突如として出現した得体の知れない存在に部屋の人間たちは警戒を強める。


「あっ、はいっ……やっと気付いて頂けたようで良かったっす、どもっす! 俺っちは、このゲームの主催者の『支配人グゥグゥ』って言います。よろしくおなしゃーす」


 犬のぬいぐるみのような物体は自身を『支配人グゥグゥ』と名乗り、軽薄さを感じるへりくだったような口調で喋り出した。


「な、なんだこいつはモンスターか!?」


「でも喋るモンスターなんかいねえだろ……」



「いやっ、あの〜俺っち、このゲームの支配人って今言ったのが聞こえてなかったのか、理解出来る頭がないのかどっちなんすかね?

 知恵と力のある人来てくださいって言ったのに、それが理解出来てないってことは頭悪いってことですよね?」


「はぁ? ぶっ殺されたいようだな?」


「どけ、俺がやる。その喋り方もムカつくぜ」


 露骨な煽りを受けて、冒険者風の男二人が武器を手に取り、乱暴に振り回すが有効なダメージは通らなかった。


「効かない!? なんだこの手応えのなさは!?」


「……という訳で、ルール説明の邪魔されると困るんで、すんません! 死んでもらいます!」


 支配人グゥグゥは両手の人差し指を男二人に向ける。犬のぬいぐるみのようで、手は白い手袋をした人間のようなデザインになっている。


「じゃ、お疲れ様でっす」


 バンッ! と発砲音が聞こえると、血飛沫が舞い、先ほど騒いで男二人が崩れ落ちる。


「流石に、この状況で俺っちに逆らおうなんてバカなことする人はいないと思うんすけど、賞金欲しくて来たなら黙って話聞いてもらっていいすか?

 えっ、これそんなに難しいことすか?」


「「「…………」」」


 異様な姿、異様な振る舞い、異様なテンション。


 参加者たちはそれ以上喋ることなく、支配人グゥグゥの一挙手一投足を見逃すまいと静かに観察を始めた。


「あ、良かった大丈夫そっすね。え〜と、俺っちが各地にばら撒いた暗号読み解いて来てくれたってことはそれなりに知恵があって、ここまで来れたんだから実力はあるんだとは思うんすよ、はい。

 で、金貨100枚も欲しいと。まあ普通に生きてて得られる額がじゃないからそりゃ、来ますよね。失敗しても死ぬだけだから大したことないですよね。


 と、言うわけでね早速説明に入りたいと思い……まっす!

 簡単に言うと5つの試練を用意してるんすよね。で、その試練クリア出来た人に賞金として金貨100枚差し上げます。試練の内容はやってみてからのお楽しみなんで今の時点では言えないんすけどね。


 あっ、他の参加者に直接危害加えたりする行為は禁止しまーす。じゃないと今から殺し合い始まっちゃっても興醒めっすからね……ここまでで、何か質問ありますか?」


 捲し立てるようにペラペラと喋り続けた支配人グゥグゥはテーブルの上に座り込み、首を一回転させながら参加者の事を見まわした。


「クリア出来た者が複数居た場合は山分けか?」


 一人の男が、質問をした。


「山分けしなくてもクリアした人数に金貨100枚出すんで、安心してください。あ、別に生き残った人がその賞金を仲間と山分けしようが、それは俺っちが関知することじゃないんで、はい」


「失敗したらどうなる?」


「まあ死にますね、なんか問題ありますか?」


「あるだろうが!」


 続いて質問した男に、淡々と失敗が死を意味する事を伝えると、質問した本人だけではなく、他の参加者も不満の声を上げた。


「えっ、ちょっと意味が分からないんですけど〜……皆さん例えば冒険者ギルドで依頼受けた時って常に死ぬリスクありますよね?

 それ分かってて依頼受けて成功したらお金を得る。これと何か違いますか?

 仮に成功報酬金貨100枚の依頼があったとして、それって死ぬリスクなく安全なものな例があったら教えて欲しいんですけど、何かそういう根拠ありますか?


 ノーリスクで大金得られると思ってるなら都合良すぎませんか? ちょっと能天気過ぎると思うんすけど……」


 正論だった。少なくとも、この場にいる人間たちに正論だと思わせる事には成功していた。


 この世界において大金を得るリスクとは、借金などではなく、もっとも直接的なもの。


 つまり、死。


 賞金の大きさに目が眩んだが、よく考えれば自分たちはそうやって綱渡りな生活で日銭を稼いでいる身だと思い出させられた。


 そして、全員が無根拠に俺なら賞金が得られる。成功するのは俺だと確信をする。


 失敗するのは、自分では無い誰かであり常にそうやって生きて来たという自負が正常な判断を放棄していた。


「他にないっすか? 無かったら早速始めたいと思うんすけど……」


「最後に一つ、聞きたい」


 アウルムが声を上げる。


「お、どうしました?」


「企画の内容や趣旨は理解した。だが、お前に一体どんな利益がある? 何が目的でこんなことをする?」


 そこで、他の参加者たちもこのゲームの不自然さに気がつく。中にはそんなことは良いからさっさと始めろと言いたげな顔をするものもいたが、目的が分からない相手というのは不気味だ。


 アウルムの質問の答えを聞きたがった参加者は支配人グゥグゥが何を語るのかと注目する。


「楽しいからに決まってるじゃないっすか!」


 ブハッと吹き出すような笑いを上げて、支配人グゥグゥはお腹を抑えながら、パタパタと短い毛の生えた足を振り出した。


「あ〜すんません。初歩的な質問過ぎて笑っちゃいまし……ブハハッ! ダメだ〜! あ〜おかしい〜! ハハハハッ! いや、俺っちが金欲しさに必死になって命賭ける人間の愚かさとか見るのが楽しくて、楽しませてくれたそのお礼に細やかながらお返ししてるだけなんで心配しなくて良いっすよ!

 賞金も過去の参加者の身ぐるみ剥いで売ったものとかで賄ってるんで、全然懐も痛く無いし大丈夫っすよ! ブフフッ!」


「そうか……もういい」


 聞きたいことは聞き終えたアウルムは笑い転げる支配人グゥグゥから興味を失ったように目を逸らしてソファに座り込んだ。


 しかし、他の参加者は顔を青くしていた。


 支配人の純粋な邪悪さを肌で感じ取ったからだ。

 ぬいぐるみの身体で表情もどこか読み取りにくい単調なものだが、その言葉や目の奥にある狂気は間違いなく伝わって来た。


 冗談で言ってるのではない。こいつは、本当に人が困っていたり、必死になっているのが面白くてこんなイかれたゲームを金を払ってまでやろうと言うのだと、理解出来た。


「今から30分後にゲーム開始するんで、それまではゆっくりしてくださいっ! あ、テーブルの食べ物はご自由にどうぞ、別に毒とか入ってないんで大丈夫っすよ」


 それだけ言って煙と共に支配人グゥグゥは姿を消した。


 困惑を隠せず互いに目配せをする参加者たちだったが、次第に解散していく。


 今のうちに力をつけようと、沢山食べ物を口に運ぶ者。

 寝転んで仮眠する者。建物の中を探索する者。落ち着きなく、周囲を歩き回る者。


 行動はそれぞれだった。


「は〜笑うの我慢するの大変だったぜ」


「せやな、如何にもデスゲームって感じの奇妙なマスコットキャラと安いモチベーションの演説。何もかもが、二番煎じでチープやからな」


 転生する前の日本で、漫画や映画など様々なコンテンツにて見たことのあるような展開に思わず吹き出しそうになったとアウルムは息を吐いた。


 この世界の人間からしたら新鮮かも知れないが、アウルムとシルバにとっては、食傷気味ですらある痛々しい喋り方とデザインのマスコットは特にツボに刺さった。


 逆に見てるこっちが恥ずかしいからやめてくれと、笑い転げ回りそうにもなったがなんとか我慢した。


 他の参加者に「あいつビビって震えてるぜ」なんて小さい声で囁かれたものだから本当に辛かったと、アウルムは目に浮かぶ涙を指で拭いた。


 30分後、赤と青の色違いの二人の支配人グゥグゥが姿を現した。


「「お待たせしましたっ! んじゃ力に自信があるよ〜って人は赤の扉、知恵に自信があるよ〜って人は青の扉に入ってもらうと助かります!

 得意不得意によってゲームのジャンルも違うの用意したんでバラけてもらえる方が嬉しいっすね!」」


 一言一句ズレのない喋りで赤と青の支配人グゥグゥは建物の奥にある二つの扉を指差した。


 先ほどまでは暗闇で見えなかった場所にロウソクの火がつき、明るく照らした二つの色違いの扉を見ながら参加者はそこに向かっていく。


「お、やっと始まったか……ん〜俺は赤かな。お前は青やろ?」


「いや、そうじゃない……あいつの話聞いてなかったのか?」


「俺がちゃんと話聞いてないのはいつものことやが、なんか間違えてるか?」


「間違ってはないが……あいつが誘導してる事に気が付かなかったか?」


「どういうこと?」


 ゾロゾロとそれぞれが得意分野であろう色の示す扉に入っていく中、アウルムはシルバを引き留めたのだった。

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