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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
4章 ソウルキッチン
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4-10話 面接

 

 アウルムが1日だけ、今日の面接の為に借りた街外れの小屋に入り、面接の準備をする。


 念の為、シルバの『不可侵の領域』を展開してそこを面接会場とする。


 約束の時間になると数人が小屋の前に到着し、一人一人、個別に面接する運びとなる。


 ドアをノックされ、入室を許可するとそこにシルバの見覚えのある男が入ってきた。


「あ、あんた……」


「あの時の……虎の兄ちゃんか」


 ブラッドが冒険者と揉めていた際に証言をした獣人だったとすぐに気がついた。そして虎の獣人もシルバを覚えていたらしく驚いたようだった。


 シルバはアウルムの顔を見ると、口角が微妙に上がっており、イタズラに成功したと満足そうにしている。


「さて、面接を始めるか……自己紹介を」


 一瞬、互いに顔見知りであったことで空気が緩んだが、アウルムの一声で、真剣な場であったことを思い出し、二人とも襟を正して面接に挑む。


「俺は元冒険者のライナーだ。種族は白虎族のビースト、こんな俺でもやれる仕事を紹介してもらえると聞いてきた。こんな身体だから仕事がねえから、雇ってくれるなら、なんでもやる」


 片目が失明しており、片足も引き摺るライナーは生活に困窮しているのは誰が見ても明らかで、職を得る機会を逃すまいと真剣にやる気を訴える。


「よろしく。改めて名乗るがアウルムだ。こっちはシルバ」


「アウルム、仕事内容について説明してないんか?」


「してない。悪いことや違法なことではないとは説明している」


「だからここに来た」


 なんでもやるとは言うが、悪の道に堕ちるつもりはないとライナーは付け加えた。


(もし護衛として雇うと決めたら原初の実を食わせて回復させるつもりだが、お前の『破れぬ誓約』で縛らん限りは教えるつもりがない)


 アウルムは念話でライナーには聞こえないように事情を説明する。


(俺はこいつの人となりを見て雇うか判断したらええんやな?)


(そうだ、好きに質問してくれ)


「ライナー、仕事内容は雇うと決めて契約するまでは明かすことは出来ひんが、それはお前を騙す為ではないし、理不尽なことを要求するつもりではないことを先に約束する。それでも構わへんか?」


「ああ、構わない。俺には仕事が必要だ。人は殺したりしないが、素手で糞を集めろって言われたってやる」


「よし……今現在、どういう生活してるか教えてくれるか? あの娘さんか、一者に居た子とはどういう関係や? 種族が違うよな?」


「キーラだ。あの娘の名前はキーラ。血は繋がっていないが、実の娘として世話してる。捨て子でな……ビーストの子供が一人で生活するのは難しい国だ。

 普段は日雇いのドブ掃除や荷運びをやっているが、安定した仕事が欲しい」


「じゃあ、ビースト以外の種族、ヒューマンやエルフその他の種族は嫌いか? どう思ってるか率直に話してくれ」


「ヒューマンは俺たちを差別するし、この国じゃ俺たちの立場は弱いから同胞とは仲良くやることが何より大事だ。エルフもドワーフもその点では同じだと思う」


「じゃあヒューマンは?」


「それは人による。ドワーフの子供を庇ったあんたみたいなヒューマンは立派だと思う。だから、あの時発言した。

 逆にあの冒険者のようなヒューマンはクズだ。だから、ヒューマン全部が悪人とは思わないが、信用しているわけでもない」


「なるほど……」


 一通り、聞きたいことを聞いてみたが、ライナーの返答はしっかりとしたものだった。


「他に何か聞きたいことあるか?」


 アウルムがシルバに聞く。


「冒険者時代の実力は?」


「Bランク。この街の上級者向けダンジョンで怪我をして路上生活になっちまったが、元々はそれくらいの強さだ」


 ここでシルバは鑑定をしてライナーのステータスを確認するが、どうやら見栄を張って大袈裟に言ってる訳でもないようだ。

 というより、もう過去のことだとライナーにとってどうでも良さそうに答えたように思えた。


「じゃあ最後に一個だけ。仲間一人一人の稼ぎよりもデカい価値のある商品、宝物でもいい……それが狙われたとしよう、お前なら仲間か宝物どっちを優先して守る?」


「仲間だ。仲間を失っても取り返せないが宝は形あるものなら壊れない限り取り返せる」


 ライナーは迷わず即答する。


「じゃあ、宝物を壊す為に襲われたら宝物守るんか?」


「それも仲間だ。俺はダンジョンで仲間を失ったから分かる……仲間より大事なものはない。断言出来る。

 今でも後悔している。


 身も心もボロボロになった時にあの娘と出会った。娘が今の俺の生き甲斐だ。キーラに少しでも良い暮らしをさせてやりたい。

 キーラを守る為なら持ってるもの捨てても良い。そう思ったからトラブルを避ける為にあの冒険者に金を払った。

 あんたなら俺の行動が嘘じゃないことは知ってるはずだ」


 ライナーは真っ直ぐにシルバの目を見て言った。その目にはこれまでの苦労や後悔が映り、それでも前を向いて生きるしかないという決意が見えた。


「そうか、もう良いわ。答えてくれてありがとう」


「それで……どうだ?」


「お前は何も質問せんでええんか?」


「問題のあるやつはそもそも呼んでないし、何ならお前が許可したら全員雇用するつもりでいる。

 残りの志願者もライナーが信用出来るまともな奴を紹介してもらい、俺が独自に調査しているから今更聞くことはない」


 アウルムに話を振ると、シルバ次第だと言う。


 そしてシルバの考えは既に決まっていた。


「合格や。ライナー気に入った。お前を雇う」


「本当か!?」


「嘘はつかん。ただし、俺がこれから提示する条件を飲んでもらい、秘密を絶対に守るという約束をしてもらう。約束破った瞬間分かるスキルがあるから絶対に俺に誤魔化しは通じひん。それでも引き受けるか? 最後の確認や」


「月に金貨2枚だったな? 」


 アウルムから最低限の賃金は聞かされていたライナーが確認をする。


「そうだ。働き次第で上げていくがやるか?」


「ああ、やるぜ……!」



 シルバは『破れぬ誓約』を発動させながら、アウルムが条件を書き記した紙を読み上げて契約する。


「エルフの女たちがやってる店の護衛!? それはちょっと予想外だったな……こんな身体でやれるかどうか……」


 内容を聞かされたライナーは素っ頓狂な声を出した。


 結界が張られているので、声は他の志願者には聞こえていないのだが、ライナーは慌てて口をつぐむ。


「俺は正直で筋通すやつにはとことん優しくする男やねん。ライナーお前は信用出来る奴とは俺は思った。アウルムもやな。で、俺らが信用してる証拠を見せたるわ。勿論秘密やで? はい、これ食べて」


 シルバはライナーの前に美しい黄色をした原初の実を差し出す。


「これは!? 果物じゃないか!? 腹減ってるから食い物くれるってんなら助かるが……でもキーラの為に持って帰っていいか? 果物なんて滅多に食わせてやれねえからな……」


「いや、これは今食べてくれ。キーラにはお土産に何個か果物包んだるから」


「なら、ありがてえ……」


 安心したライナーは原初の実を取り、かじりつく。


「何だこれ……めちゃくちゃ美味え……ッ!? な、なんだ!?」


 ライナーは自身の身体の異変に気が付き、顔に手を当てる。


「目が……見える……それに足も動く、痛くない……なんだ!? 何が起こった!? 何を食べたんだ俺は!?」


 動揺するライナーに原初の実であることを説明した。するとライナーは涙を流しながらシルバとアウルムの手を力強く握った。


「ありがとう……! ありがとうッ! アウルムの兄貴! シルバの兄貴! 俺はあんたらに忠誠を誓う! この恩は忘れねえ!」


「兄貴ィ?」


「これから俺を雇うならあんたらは兄貴みたいなもんだろ? 俺らビーストは尊敬する相手を兄貴って呼ぶんだ。二人は恩人だから兄貴って呼ばせてもらう!」


 真面目な顔つきをしていたライナーは破顔して今日一番の笑顔を見せた。


 残りの志願者も同じような反応を見せて6人の護衛を雇うことになった。


 ライナーだけ娘がおり、後は同じく独り身の怪我をしたビーストの元冒険者で、現在は路上生活者だった彼らはライナーが面接を受けている間、キーラの面倒を見てやっていた。


 ビースト間でも種族は異なる。それでも助け合いの精神が強くシルバはその光景を見て感動した。

 アウルムが彼らを雇う候補に入れていたのはそういった理由があった。


 路上生活者でも、まともな者はいる。そしてまともな者同士で助けあって生きていたことを、シルバとライナーが出会ったあの日に尾行して、隠遁を使いながら観察していたのだ。


 今いるメンバーならば間違いなく信用出来るやつらだとライナーだけ接触した際に太鼓判を押されたが、それでもアウルムはしっかりと素行を調査して、クリアした。




 護衛たちが共同で住む、家は既にアウルムが賃貸契約を済ませており早速引っ越しが始まる。


 まずは生活を建て直し、護衛として仕事が出来るように訓練をする。それが終わってやっと商会で護衛の仕事につくことになる。


 ラナエルたちと合流し、店に馴染む頃には二人が『兄貴』と呼ばれることにもすっかり慣れていた。

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