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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
4章 ソウルキッチン
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4-9話 プラティヌム商会開店

 

 迷宮都市に来て約二週間、開店準備とその合間にダンジョンでのレベルアップと忙しい毎日を送っていた。


 そして、本日とうとうプラティヌム商会が迷宮都市で開店する運びとなる。


 商品の陳列は完璧にされて、掃除もチリひとつないほどに清潔な店内で開店式を執り行う。


「皆、よくここまで頑張ったな。俺らは誇りに思う! これは俺とアウルムからの餞別や。受け取ってくれ」


 店内で集まったエルフたちに一人一人、各自の名前が刻印されたペンと手鏡、それにアウルムが作成した通信用のマジックアイテムを渡す。


「そんな! 私たちの為にそこまでして頂く必要はありません! もう十分過ぎるほど受け取っています!」


「これからは何か書き記したり、自分の身嗜みも細かくチェックしなあかんやろ? 必要なもんやからオーナーとして用意した。それだけや気にせんでええ」


「これは魔力を少し込めると俺たちが持つマジックアイテムに連絡が行く仕組みだ。緊急時には3回で赤に光り、特に急ぎではないが、用事がある時は2回魔力をこめれば青に光る。本当は会話出来るようにしたかったが、間に合わんかったから改良出来ればまた渡す」


「何かあったらいつでも飛んでくるから安心してええで!」


 シルバが贈り物を選んだ理由を説明して、アウルムがマジックアイテムの使い方を説明する。

 渡された贈り物をジッと見つめる彼女たちの目には涙が浮かんでいく。


「これから開店だってのに……そんな顔でどうする店長代理」


 ラナエルが特に激しく泣き出すのを見て、アウルムは仕方なさそうにハンカチで涙を拭いてやる。


「すみ……ませんっ……!」


「いいか、相手に弱みを見せるな。付け入る隙を与えるな。お前たちの商人としての能力は確かだ。それはここまで付き合ってきた俺たちは分かってる。だから自信を持って仕事をしろ」


「何かあったら地下室に逃げ込んだらええ。俺の結界も張ってあるし、アウルムもそこにおること多いやろう。困ったらすぐ相談して頼ってくれ、俺らは家族なんやからな」


 アウルムは忠告を、シルバは安心を与える。


「というわけで、これから困ったことがあれば来るとはいえ、ここからは別行動が多くなる。話した通りだが、俺たちの存在は出来るだけ内密に頼む。冒険者がオーナーだが、具体的に誰かは一般的に知られてない方が動きやすい。

 勿論、オーナーとして出てくる必要がある時は出てくるがな」


「なんかあったら責任は俺らが取る。皆は雇われてるだけ、詰められたらそう言うてくれ。危ないこと任せるんやから、ちゃんと筋通すからな」


「そもそも、店を持つというのは私たちの悲願です。自分たちの願いを何から何まで叶えてもらっているのに、切り捨てるようなことは出来ません……」


「ラナエル、皆は俺とアウルムの頼れる味方やねん。でも何かあったら俺は悲しい。この国のエルフの権利はやっぱり弱い。

 国家治安調査官でAランク冒険者のヒューマンってだけで、解決出来ることもあるんや。

 使えるものは全部使って身を守ってくれ。商人ならそれが普通やろ? 俺らも頼られた方が嬉しいからな!」


 シルバはアウルムの肩に手を回して笑う。


「そういうことだ」


 アウルムはシルバのボディタッチをやや鬱陶しそうにするが、振り解くこともなく、シルバの意見に同意する。


「さあて! プラティヌム商会の始まりや! ガッポガッポ稼ぐで!」


「「「はいっ!」」」


 シルバの掛け声と共にエルフたちの元気な声が返ってくる。皆の顔はやる気に満ち溢れて、自信が見て取れる。


 さあ、開店も間も無くで邪魔になってはいけないと二人が店を出ようとした時、エルフたちに引き止められる。


「皆、いいよね?」


 ラナエルの合図と共に息を揃えるエルフたち。


「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」


 力一杯、これから接客しようと言うのに、喉が枯れてしまうことを心配するほどの大きな声で感謝を伝えた。


 床にはポタポタと涙が落ちていく。

「おうっ! 皆頑張ってな!」


「まだ始まったばかりだ……やれることをやればいい」


 そう言い残して店を出る。

 いよいよ、プラティヌム商会が迷宮都市で市民に知られることとなった。


 ***


 店を出た二人は歩きながらも、やはり皆のことが心配でならないようで、どこか落ち着きがない。


 何度か店の方を振り向いて確認してしまう。


「とは言え、店を空けるのは不安やわ。俺らが不安そうな態度してたらあかんから、強気で言ってたけどな」


「だから護衛の仕事をするやつを俺がリストアップして今から面接するんだろ」


 シルバがバルバランの工房で鍛治師としての修行をしている間、アウルムはマジックアイテムを街で探したり、錬金術の練習をしながら護衛を任せられそうな者のスカウト業務を行っていた。


 候補の予定を合わられたのが、開店当日ということでやや遅れてしまったが、必要な人員なのでシルバと共に面接を行うことになっている。


「どんなやつを選んだんか楽しみやな」


「先入観を持たせたくないから黙っていたが、一応、先に言っておくと全員ヒューマンではないぞ。

 ただ、店に一人もヒューマンがいないと面倒なことになりそうだから、現状はヒューマン人員は奴隷を雇うしかないんだよな」


「ヒューマン入れるのってちょっとリスクあるやろ? 問題起こってから検討でええんとちゃうの?」


 光の神の創造物であるヒューマンを自陣営に引き入れると、情報漏洩の懸念がある。


 この国では、過去の魔王の戦争の歴史から他人種を奴隷にして徴兵したり、誘拐する事件が起こってからはヒューマン種以外の奴隷を禁止している。

 つまり、奴隷はヒューマン種しかいない。


「何かあれば、副ギルドマスターに対応してもらう話はつけてあるがパッと見で舐められやすい店というのは間違いなくあるんだよ。

 いくら人種の多様なこの迷宮都市でもな。治めてるのはヒューマンなわけだし」


「じゃあ、その中でもどういう人間を雇う……つーか奴隷にするわけ? 俺同じ種族を奴隷として買うって嫌なんやが」


 雇用するのと、奴隷として所有するのとでは話が全然違う。人をものの様に扱うという文化は受け入れ難いと、シルバは難色を示す。


「そうだな、まず普通に素行に問題がないやつだろ。商人としての知識があるやつ、それに出来れば男の方が舐められにくいが……」


「あんな美女エルフに囲まれる環境で人間の男が正気で居られるかは疑問やな」


「そうなんだよな……お前は本当によく我慢してると思うよ」


「もう今となっては、可愛い妹みたいな感じで手出すの凄い悪い気するようになったけど、最初の方はキツかったな」


 女好きで性欲の強いシルバは恋人を作るような生活は出来ず、行く街の娼館に通い発散させてはいるが、エルフたちを改めて見ると恐ろしい美しさだと思う時があると言う。


 我ながらよく筋を通したものだと自分を褒める。


「後これが更に難しい条件なんだが、勇者を信用していない、そして信仰を捨てたやつじゃないとな」


 この世界のヒューマン、知恵ある人間たちは神を熱心に信仰している者が非常に多い。


 日本ではまず考えにくいような敬虔な者たちであり、どうなるか分からない。といったシチュエーションの時に「神の導き次第ですね」なんて言葉がポロッと自然に出てくる。


 実際、神の奇跡で勇者が召喚されており、幽霊退治や高位の聖属性魔法で欠損まで治療出来てしまうのだから、神の存在は疑う余地もない。


 神を信じ、敬うのは別に教会の人間だけではない。一般市民にその考えが浸透している。


「おるか? そんな都合良く条件揃った人材が」


「居ないから困ってる。だが、居ないと困るのも間違いないから引き続き探しておく。今日のところは護衛だ」


 だからこそ、信仰を捨てるのはよっぽど不幸な目に遭った者しかおらず、探すことがそもそも難しい。


 不幸な目に遭っても、それでも信じるのが『信仰する』ということなのだから。


「せやな、まずは皆を守るやつをしっかり見極めやな」


 シルバは気持ちを切り替えて面接会場に向かう。

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