表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
3章 ドゥユーワナダンス?
63/255

3-19話 おかえり


「今戻った」


「ふ〜う……疲れたわ」


 アウルムとシルバは、宿屋に戻った。


 その声に気がついて、エルフたちはドタドタと走りながら2人に駆け寄る。


 彼女たちは目を赤くして泣いていた。


「終わったで……ヴァンダルは殺した」


「安心しろ、追放者も殺すからな……だから、そう泣くな……なんで女はすぐに泣くんだ……対処に困る」


 泣く彼女たちを宥める為、背中をポンポンと叩く。


「そうではありません!」


「私たちは心配していたから泣いているんです!」


 全員でキッとアウルムを睨みつける。


「だからって……いや、そこまで泣くことか?」


 確かに、短くない時間を共に過ごしてきた。主従というよりは、親しいけれど、ビジネスパートナー的な関係だと思っていた。


 そう思うようにしていた。無意識のうちに距離を遠ざけ、失った際の心理的ショックを和らげる為の防衛措置。


「アウルム、皆もう俺らの家族なんや」


「……」


 アウルムはハッとする。そうだ、この感覚は家族だ。


 家族に心配をかけまいと強がる。その強がりは優しさの裏返し。自分も知らず知らずのうちに、彼女たちを大切に思っていた。


 彼女たちも同じ気持ち……いや、境遇を考えればもっと強い気持ちだろう。


「追放者は最悪、殺さなくていいんです……二人が無事なら……それで……」


「あいつを倒す為に二人に何かある方が辛いです……!」


「いや、俺らは勇者を殺す事は辞められへん。でも、心配してくれるのは嬉しい。だから、慎重に戦うつもりや。

 その為にも、俺たちには情報が要る。情報を得る為にはもっと力やコネが必要や……皆、力を貸してくれ。

 こうしてる間にもお前らみたいに、悲しい思いしてるやつがどこかにいる。増えていく。

 そんな奴らを助けられるのが俺たちや。それが俺たちの仕事や」


 シルバは皆をギュッと抱えて、そう語る。


 エルフたちはハッとして、口々に任せてください、頑張りますと強い決意を目に浮かべていた。


「改めてよろしく頼む……それから…………ただいま」


「「「おかえりなさい」」」


 アウルムはポリポリと頬を掻いて、やや恥ずかしそうに小さな声でそう言った。


「よしっ! この街でやることを終わったし、次は迷宮都市に向けて準備や……あれ……」


「お前は激戦だったんだから寝てろ。準備はこっちでやっとくから」


 元気だったはずのシルバがフラフラとし始める。


 ヴァンダルとの戦いはダメージを回復する『再設定』を使用したが、精神的な疲労までは回復出来ていなかった。


「アウルム様も寝てください! また徹夜するつもりですか!?」


「ああ、そう言えば舞踏会から寝てなくて、もう朝だったのを忘れてた……5時間経ったら起こして……くれ……」


 アウルムもまた、慣れない女装とヤヒコ・トラウトの遭遇、ヴァンダルと戦うシルバの見守りと、神経をすり減らす時間が長かった。


 二人は宿屋のベッドに倒れ込むと、いつの間にか寝息を立てていた。


「……どうして男の人って強がるのかしらね?」


 グッスリと眠り、いびきをかく二人を見てエルフたちはクスクスと笑う。


「静かに……今は寝かしてあげよう」


「勇者と戦うのがなんでもないはず、ないのにね」


「こうやって眠っているところを見ると二人とも無邪気な子供みたい」


「じゃあ、私たちは私たちの出来ることを……」


「始めましょうか、迷宮都市出店計画を……」


 エルフたちは別室で、机を囲み資料を広げる。


 ここまでやってるシルバ、それにアウルムを見て、何もしないほど平和ボケはしていない。


 商人の自分たちがやるべきこと。それはプラティヌム商会を迷宮都市で出来るだけ大きくして発展すること。


 商売に関しては二人に任せられている。ならば、アイテムボックスや、『虚空の城』による転移。こんな反則級の力があって失敗するなんてことは許されない。


 むしろ、まともな商人であれば、失敗する方が難しい。


 だからこそ、許されない失敗をしないよう、細心の注意を払い、どのように出店した後運営していくのか、そういった会議を旅の途中で何度も行っている。


 この街、ササルカから、迷宮都市までは馬車でのんびり向かっても20日程。


 もうかなり近い。


 エルフとして、旅商人としての店を持つという夢、野望がすぐ近くまで差し迫っている。


 夢は現実となる。


 実現可能な現実として、リアリティを帯び始めている。


 亡くなった家族や同胞の為、そして、そんな彼らを無念を晴らすべく活動してくれている二人の為。


 最大限に知恵を振り絞り、6人は出店の計画を詰めていった。


 ***


 アウルムとシルバが眠りから覚めて、次の日は出発に向けて必要なものの買い出しと、馬車への積み込み作業となる。


「ふ〜、それにしても醤油が手に入って良かったな」


「これは商売用というより個人使用目的だがな」


 醤油、それに多少の米が入手出来、それらを馬車に乗せながら、シルバはニッコリと笑い汗を拭いた。


「そう言えば……舞踏会でお前はどんな情報仕入れたのか聞くの忘れてたな」


「ギクッ! ……なんてな、いやなんか王都の文化事情に詳しい子と仲良くなったんやけど割と耳寄りな情報があるんやわ」


「ほう? 成果を聞かせてもらおうか」


「ああ、例のエロ本の作者は女ってことが分かった。まあ、元の世界でも割と居たしそこまでびっくりすることじゃないよな。ペンネームは画狂少女卍って言うガッツリパロディやったけど」


「それは……どうでもいいな……」


 肩透かしを食らった感のあるアウルムがため息を吐く。


「そうか? 文化ってのは社会に大きな影響与えるもんやから、そんな軽視すべきもんとは思わんけどな。

 まっ、それはまだマシな方の話──髪染める薬が流通してるらしい……」


「おいおい、マジかよ……」


 ミストロール、リペーターが所持していた顔の人種をこちらの世界風に変える指輪。


 髪が黒であれば、日本人勇者だと断定しやすかった貴重な材料だっただけに、ピンクや緑、青などの元の世界では自然ではない色がこの世界に更に溶け込みやすくなるアイテムの存在は厄介だ。


「もう王都では金持ちの中では普通に出回ってるらしいから、止められへん流れや」


「クッソ……全員がヤヒコ・トラウトみたいなもんじゃねえか」


「どう言う意味や?」


「あいつは髪が元々黒じゃなくて茶色系で、顔立ちも東アジア系じゃないんだよ。どっかのハーフなんだろうな。それが勇者全員となると発見がかなり難しいぞ」


「そらいるよな、そう言うやつ。何となく日本人顔だけやと思ってたけど、今時珍しくもないもんな……後はそうそう、半年後に王国祭? っていうデカいイベントが王都であって、勇者カイト・ナオイと試合出来るらしいわ。

 事前の大会で優勝したやつが挑めるエキシビジョン的なやつ」


「それは軽く耳にしたな」


 アウルムが荷物をダンッと置きながら、シルバの方を見る。


 王国祭は勇者が召喚されてから5年という節目もあり、王位継承もそのタイミングで発表されるだろうと、かつてのない盛り上がりが商人の間では噂されている。


「俺、大会に出てみようかなと思うんやけど」


「冗談だろ?」


「勇者で一番強い奴と手合わせ出来る機会……勝ち残れんくても、この目で直接戦うところが見れるなんて滅多にないで?」


「わざわざこちらの手の内を見せて、勇者に注目されるリスクを負ってまですることか?」


「ユニークスキルは使わへん。単純に武力で勝負や。ヴァンダルとの戦いで、剣技にダンスの要素を組み込むって発想が生まれた。これは俺ならではの戦い方が出来そうで更に強くなれる予感がある。

 早く迷宮都市で腕試ししたいんや」


「いつからそんなバトル漫画の主人公みたいなキャラになったんだよ……」


「どのみち王国祭は顔出すべきやと思うで? 人が集まるならそれだけ情報も集まる。ブラックリストの奴だって見つけられるかもしれへん」


 シルバは少年のようにワクワクして目を輝かせる。


「それはそうなんだが……行くにしても、迷宮都市でやれるだけのことはやっておきたいな」


「そうやな。地力を上げとくのも大事やと思うわ。ヴァンダルの一蹴りで大ダメージ食らったからな、カイトはもっと強い……」


「マジで赤子の手をひねるようにやられそうだがな」


「でもエキシビジョンマッチなら殺されへんやろ? 無理でも見るだけ見ときたいわ」


「分かった分かった。状況次第だが、半年後に王都に行く。それで良いんだろ?」


「あざぁーっす!」


 シルバはペコリと頭を下げて喜びを見せる。


「頭を上げろ……そんな日本人丸出しの行動をするな」


「っと……癖ってのは、すぐに抜けるもんじゃないな。気をつけてるんやけど……」


 出来るだけこの世界に溶け込む。日本人らしい仕草は人前ではしない。


 そうルールとして決めているが、咄嗟の時には、やはり長年の癖が出てしまう。


 それがここでは命取りになりかねない。


 シルバは、しまったという顔をして、頭を上げる。


「関係ないねんけど、こんなん見つけたんや」


 シルバが話を変える為に取り出した一つの物体。茶色くて長い筒のようなもの。


「葉巻きか?」


「今日くらいええやろ?」


 元々、喫煙者だった二人は転生をキッカケに禁煙していた。単純に、体力勝負な冒険者として不要。臭いによる追跡のリスクも考えた。


 だが、一仕事終えたアウルムは今日くらいは良いかとそんな気持ちになった。


「まあ一本だけな」


「葉巻き一本は吸いすぎやろ! ちびちび吸わんと」


「じゃあ、特別な日にだけ吸うことにしよう」


「それええな……では……こういう時に火魔法使って吸うのカッコよくね?」


「馬鹿馬鹿しい……と言いたいところだが、気持ちは分かる」


 シルバは指先から火を発生させて、葉巻きを炙り出す。スパスパと何度かふかして、しっかりと火をつけ、煙の香りを楽しむ。


 それをアウルムに回す。アウルムも続いてスパスパと吸いながら、口内に煙を燻らせる。


「悪くない……」


「ふ〜……この世界の飯はそんなに美味くないけど、これはかなり質が高いな。昔キューバ産のやつ吸わせてもらったことあるけど、それに近い気がするわ」


「へえ……こんな感じなのか、ギャングのボスが吸ってるみたいなやつだろ? ギャングと言えば、サイコパスが多くてだな……」


「あ〜もうっ! 今日くらいは勘弁してくれや! これを純粋に楽しもうや!」


「……そうだな」


 どこまでも、仕事脳だなと二人で笑いながら、久しぶりの喫煙を楽しんだ。


 ***


「荷物の準備は終わりましたか?」


 ラナエルが馬車の最終確認にやってくる。


「今終わったところだ」


「さてと……じゃあ行こうか……迷宮都市へっ!」


 馬車はゆっくりと走り出し、ササルカの街を出る。


 目指すは迷宮都市。カブリというブラックリストがいると思われる場所へ……。

これにて3章のメインストーリーは終わりです。次話で間話を挟みます。


ここまで読んで頂きありがとうございます。面白かったらブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ