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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
3章 ドゥユーワナダンス?
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3-18話 踊り舞う


 空がどんどんと明るくなる。後数分で夜明けだ。


 街の方にもチラホラと明かりがつき始める。


「言っとくぞガキ……俺にダンスやリズムを語るなぁッ!」


「はは、怖い怖い……踊りなぁッ! ア〜イウィルア〜イウィル……キルユゥッ!」


 ダンッ! ダンッ! ガイィィーンッ!


(お前のリズムは見切ってるんや。ワンパターンやねん。攻撃のBPMは100程度がマックス。それがお前の勝利の方程式なんやろうが……音楽で俺に勝負するなんてな、愚かな……)


 何度も何度も使われた攻撃から、シルバはすでにヴァンダルの攻撃のパターンを学習していた。


「クッ……何故当たらない!?」


 途端に攻撃が当たらなくなったヴァンダルは動揺を見せる。


(エースの癖にメンタル脆いやんけ)


「くそっくそっ! なんでだ!?」


(俺の名前は白銀 舞。ダンサーの親が名付けたその名の通りに『舞』わせてもらうでっ!)


「どうした? リズムに狂いが見えるな?」


「ち、調子に乗ってんじゃあないぞぉ〜ッ! 貴様ァッ!」


「調子? 確かにな、俺はまさに今、『リズムに乗ってる』!」


 タッタッと軽やかにステップを刻み、全ての衝撃を回避。


 攻撃を回避しながら、徐々に距離を詰めていく。


「オラオラオラッ! クソッ! なんなんだテメェ!? 俺の崇高なる計画を邪魔しやがって!」


「崇高? 関係ない人の生活拠点を破壊して甚大な被害を出しておいて、何が崇高やねん、筋通ってないんじゃあっ!」


 シルバは怒鳴りながら、ダッシュでヴァンダルに急接近する。


「馬鹿がっ! その距離は俺の得意の射程……ッグハァッ!?」


 足を振りかぶり、近付いたシルバをボレーシュートのように蹴り抜こうとした。


 しかし、その蹴りは空振りッ!


 タイミング合わずッ!


 シルバはその隙を見逃さず、ヴァンダルの両腕を斬り落とすことに成功したッ!


「休符、からの裏拍の攻撃や」


 一般的に、日本人はリズムを取る際、表の拍で取る。


 リズムに合わせて手拍子をしてください、言えば大抵の人間はメロディラインに合わせてリズムを取り、手を叩く。


 音楽に多少理解のある者であれば、ドラムやベースの音を聞いてタイミングを掴むことも出来るが、慣れていなければ、ベースに至っては聞き取ることも難しい。


 小学校から高校に至るまでサッカー漬けで文化的な教養の乏しい、サッカーが得意である以外は普通の高校生である、ヴァンダルにはその知識すら無かった。


 ただ、自分が気持ちよく。サッカーの応援で使われるような簡単なリズムしかボキャブラリーがなかった。


 これがバスケットボール選手であれば、結果は違ったかも知れない。


 バスケットボールのドリブルは非常にリズム的な素養が必要になり、理解も高い。


 裏拍──表拍とは違い、タンウンタンウンのリズムとは逆で、ウッタンウッタンと、裏から入るリズム。


 シルバは、表拍でタイミングを取り攻撃をするヴァンダルのパターンを分析、ダッシュの後、風魔法でほんの僅かにタイミングをズラした。


 そして、目論見通りヴァンダルはタイミングを外し、空振り、腕を落とされる。


「言うたやろ、俺にリズムを語るなって」


「て、テメェ……良くも俺の腕をッ!」


 ヴァンダルはボトボトと血を撒き散らしながら、シルバを睨みつける。


「人間は腕が無かったらバランスも取れん。試合終了やな」


「……だだ……まだだ……まだアディショナルタイムだぜっ!? この手は美しい勝利には程遠いがッ……勝たなくてはそれどころの話じゃあないッ! 諦めたらそこで試合終了ッ諦めなければまだホイッスルは鳴らないッ! 食らえッ!」


 ヴァンダルは大きく息を吸い込む。


 ────ギョワアアアアアアアアアア〜〜〜〜ッ!


「ッ!?」


 ヴァンダルは口を開き大音量で叫ぶ。


 まるでそれは死にかけのモンスターが出す断末魔のような叫び。


 増幅され、シルバに向かって至近距離で発生した強烈な衝撃波は10メートル以上後方に吹き飛ばすほどの威力で直撃した。


「ハアハア……クソッ! クソッ! この俺にダセエ真似させやがって! お前だけは殺すッ! 頭蓋骨を蹴り砕いてやるッ!」


 大の字に倒れるシルバに向かい、血を垂らしながらヴァンダルはヨロヨロと歩く。


「チクショオ……腕がッ痛えッ……ふざけやがって……気に食わねえ……お前のその銀髪も、赤い目も……何もかもあり得ねえだろ……なんでそんな意味分かんねえ人間が普通に歩いてんだこの世界は……獣人だとか、エルフとか、そんなファンタジーになんで俺が付き合わなくちゃいけないんだ……俺はサッカー選手として日本代表に選ばれる運命だったはずが、どうしてこんな……」


 歩きながら、この世界の全てに対して恨み言を吐くヴァンダル。


 アイテムボックスからポーションを取り出して、地面に這いつくばりながら飲み干し、出血はなんとか止まる。


「手がないのは不便だな……だが、これだけは便利だけどな……ポーション持って日本に戻ったら怪我の心配のない最強の選手に……ん……? なんだ……この違和感は……」


 ゆっくりと歩きながら、シルバに近付くと何か変だと、感じ足を止めるがその正体が分からない。


 周囲を確認しても、何の異変もない。ただ、光の女神のシンボルの形をした、十字架と墓が整然と並ぶだけ。


 地面に生えた草もサワサワと揺れるだけ。生物の反応もない。


 異常なし。全くもって、正常な風景。


 大きな銀髪の男が倒れている以外は……。


 ガチャと、足鎧を鳴らしながら倒れているシルバに近付く。


「ッ!? 足が……重いッ! 血を流しすぎたか……!?」


 ズンと、重力がヴァンダルにのしかかるのを感じて、足元がふらついた。


「まあ、いい……腕がなくたって、こいつを殺して次の街に行く。俺は誰にも止められ……」


 そこまで言って、ヴァンダルは言葉を失う。


 シルバが目を開けて、ニンマリと笑っていたのだ。モロに攻撃を喰らったはずの男が何のダメージも感じさせない余裕を見せていた。


「だから言ったやろ、俺にダンスを語るなって……お前は俺にまんまと『踊らされてた』ってワケ」


 シルバは、ヴァンダルが来る前に『不可侵の領域』を自分の後方に展開していた。


 好き放題暴れるヴァンダルが、自分の思う方向に移動するとは限らず、拠点防衛向きのユニークスキルでは、攻撃が出来ない。


 だからこそ、万が一の時の為に後方に展開し、何かあればそこに逃げ込み、誘い出す予備のプランを用意していた。


 そして、衝撃で全身に深刻なダメージを負ったが、リペーターより獲得した『再設定(リセット)』で全て回復。


 後は『不可侵の領域』内に足を踏み入れるのをただ待つのみ。ヴァンダルの感じた違和感──それはこれほどの激しい戦闘にも関わらず、シルバの後方では地面に一切の荒れが無かったこと。


 ナルシストで、勝ち方にこだわる。そんな奴なら最後は自分の手で直接殺しにくる。そこまで分析した上での満身創痍に死に体のフリ。


 勝ち方にはこだわらない。ダサかろうが、なんだろうが、確実に勝利を呼び込むシルバの精神がヴァンダルの上を行く。


「ッシッ!」


 シルバは寝たままの状態でブレイクダンスのように回転し、ヴァンダルの足に蹴りを入れる。


 ボギィッ! と激しく音を鳴らしてヴァンダルの足の骨が砕ける。


「グワッ!?」


 ヴァンダルはバランスを崩して地面に這いつくばる。


「もうジタバタ地面を踏むのも無理やなあ? 諦めたらそこで試合終了? 馬鹿かお前ッ! これは試合ちゃうんじゃ! 死合いやッ! 諦めんでも死ぬんやッ!」


 ステータス9倍差に引き込む『不可侵の領域』内では、もはや、シルバに有効打を与えることは不可能。


 更に無事な方の足も蹴り飛ばされて骨が砕かれる。


「お前にはちょっと、聞きたいことがあるんや……大人しく質問に答えたら、今すぐは殺さんわ。それだけはクズのお前にも誠意を持って約束する」


「やめっ……やめてくださ……言いますッ! なんでも答えますからっ!」


 怯えて震えながら命乞いをするヴァンダルをシルバは見下ろす。


(こいつ、まだ目が死んでない……油断したら叫ぶつもりやな……なるほど、投降するような性格ではないってのも当たりや。プロファイリングって凄いわ)


 わざと、背中を見せて少しヴァンダルから離れる。


「馬鹿がっ! 油断して背中みせやがっ……!?」


 ヴァンダルの身体は動かない。声も出せない。


 そう、約束に同意した以上、『破れぬ誓約』のペナルティが発生し、行動の自由が奪われる。


「油断? するはずがない。お前は更に俺に『踊らされた』」


「終わったようだな……一人で勇者に勝ち切るとはやるじゃないか」


『隠遁』で気配を消していたアウルムが決着がついたことを確信して姿を現す。


「お前かて、一人で勝ってるし、そろそろ俺にも美味しい場面があってもええやろ? まあ、お前の情報があったから上手く運んだんやから、完全に一人とは言えんけどな」


「俺たちは二人でやってんだから、別にそれで良いんだよ。一人で勝つことにこだわる必要がない。ルールのある試合じゃねえんだから、反則だってなんだってアリだ」


「せやな。ま、今回は俺一人でケジメつけさせたかったってエゴもちょっとあったけどな」


「分かってる。だから、尊重して引っ込んでただろ?」


「ありがとうやで」


「さて……お前、エルフの森で会った追放者と呼ばれる勇者や他の勇者について知ってることは洗いざらい喋ってもらうぞ」


 ***


 アウルムの尋問が終わり、欲しかった情報は一通り入手することが出来たが、追放者については驚くほどヴァンダルは知らなかった。


 たまたま出会した勇者で、他の勇者たちを恨んでいたという一点において一時的に意気投合し、互いの名前と通り名を知る。


 エルフの森では、森を破壊したくなったヴァンダルと、エルフを仲間にしたかった追放者とで、意見の食い違いにより決裂。


 良く分からない理由で追放者が激昂して、戦闘になり、森に火をつけたことで、そのまま会っていないと。


 追放者の名前は『レイト・ニノマエ』。追放者、または自らを『ゼロ』と名乗っていることは聞けたが、ユニークスキルについては不明だった。


「くだらん……もういい、死ね」


 シルバはヴァンダルの首を刎ねると、超高温の火魔法により、肉体を消し炭にした。


 細かな灰と、炭になった塊を雑に足で砕き、その残骸は風に乗せられ消えていった。


「ボケが、何の大義もない理由で無駄に人殺しやがって気分悪い。後は追放者、KTの二人。俺が特に許せんクズはこいつらや。まだ終わりじゃない」


「ああ、そうだな。だが、今は帰って皆に報告をしよう。心配してるはずだ」


「せやな……帰ろう」


 すっかりと日が登り、太陽が眩しく差す光剣の丘では、小鳥がチュンチュンとさえずり、街は漁から帰った漁師が競を始め活気のある声が聞こえてくる。


 何でもない、ササルカの日常的な風景。


 シルバの活躍により、その何でもない風景が今日もまた無事に繰り返される、そんな朝が訪れた。


 その後、シルバは自身の魔法の効果を底上げする『増幅』を獲得した。

 アウルムは魔法の指向性を操作する『照準』を獲得した。


 ブラックリスト勇者──残り19人。


 1名、討伐成功。

 ファイルナンバー16 『ヴァンダル』

 被害者数:死者43名 負傷者692名 行方不明者 71名

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