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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
3章 ドゥユーワナダンス?
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3-11話 殺人現場



「今日は冒険者ギルドで依頼の確認しとくか」


「そうやな、迷宮都市行ったらしばらく依頼受けへんやろうし、更新期間の延長が出来るならここらでしときたいわ」


 Aランク冒険者であれば、依頼を受ける間隔に多少の余裕があるとは言え、旅をしながらでは、どうしても間隔が空くし、腕も鈍る。


 今は国家治安調査官という肩書きもあるが、冒険者から始まったのだし、貯金も出来るだけ欲しい。


「そういう事だから、今日は『虚空の城』の中で大人しくしててくれるか?」


「構いません。昨日のうちにこの街の相場はおおよそ掴んでるので、出発前に必要なものを買えばいいだけです。アウルム様の空間は宿屋よりよっぽど安心出来ますから」


「あっ、でも舞踏会用の衣装でいくつか買い足しておくべきリストを作っておきます」


 ラナエルとヨフィエルと少し話してから宿屋を出る。


「二人きりで出掛けるのも久しぶりやな。馬車の移動は皆ずっと一緒やし」


「あいつらは嫌いじゃないんだが、やっぱりお前と二人の方が何かと気楽だよ」


「まあ、そうやけど、迷宮都市についたら基本的には別行動なんやろ? そうなると、今の生活が恋しくなるかもやで」


「かもしれんが、正直、気を使うしな……それに俺たちとずっと一緒にいるのは危険だ。あっちで多少自衛が出来る程度までダンジョンでレベリングさせてからは、店を開かせて自立するようにしてもらいたい。


 最初は俺たちのアイテムボックス頼りの商売になると思うが、最悪、俺たちが死んでもなんとか生きていけるくらいのお膳立てをしたら、離れた方がいいんじゃないかと思う」


「俺らの目が届く範囲に置く方が安全やと思うけど? どっちみち、プラティヌム商会名義やねんし俺らとの関係は調べたら分かることやん。それより手出せへんほど俺らが名上げて、商会もデッカくする手助けの方が良いやろ」


「いっそ、探索者を引退したい奴を護衛として雇うってのもありかもな。腕はあっても死と隣り合わせの生活から抜けたいって奴はいるだろ」


 アプローチは違えど、アウルムもシルバも自分なりにエルフたちの平和な生活の方法を考える。


 一度拾った命で、勇者とも縁があるし契約もしている。無責任に突き放すことはしないが、それでも関わることのリスクは付き纏う。


 大切であるが故に弱点にもなる彼女たちを抱え、巻き込みたくないアウルム。

 一度仲間と決めたら弱点だろうが、最後まで付き合う、リスクとリターンも共に抱えるべきと考えるシルバ。


 より遠ざけるか、より近づけるか、現時点ではどちらが正しいとも判断出来ないので、この手の話は毎度平行線のまま終わる。


 今は二人で出かける際、閉じこもっておいてもらう生活を強いている現状には、罪悪感を感じている。これは両者ともに一致している。


 ***


 ササルカの冒険者ギルドで依頼を確認する。冒険者の連中は今まで旅した街の人間よりも日焼けしている印象が強い。


 この辺りは南国のような気候で暖かく日差しも強い。海に出て、漁師の護衛というのも多いようで、冒険者も漁師のように真っ黒に焼けている者が多い。


 武器も剣よりは銛や、槍が多い。


「土地が変わると依頼も冒険者も全然違って面白いな〜」


「冒険者兼漁師が多そうだ。海産物って言ってもモンスターだからな、半分くらいは。ただ、馴染みのない俺たちが依頼をこなすのはちょっと難しそうだな……見てみろよ」


 アウルムが親指で示した方向には漁師風の男と冒険者風の男が挨拶をして、依頼内容の確認を行っている様子が見える。


 依頼者も、依頼に同行するという性質上、他の街よりも信頼がものをいう社会なのだと分かる。


「陸地の依頼もあるみたいやけど……初心者向けのが多いなあ。やめとくか?」


「だな、下のランクの依頼をA級の俺らが取ったら印象も悪くなる。絶対に依頼を受ける必要があるってこともないんだし、需要と供給のバランスの確認と、情報収集したら帰ろうぜ」


 仮面舞踏会を主催する勇者や場所、会場までの馬車の手配をして、冒険者ギルドを出る。


 馬車の手配はラナエルに言われていたことだ。


 アウルムとシルバは平民であり、腕もたつ冒険者なので見落としていたが、金持ちや貴族は徒歩移動をしない。


 というか、出来ない。危な過ぎる。まず、服すら金貨を巻き付けて歩いているようなもの。


 変装が完璧でも、徒歩で会場まで来たら、かなりの変人だ。悪目立ちする。だから、馬車の手配はしておけと言われていた。


 当然、エルフの御者も目立つので、普通の人間に依頼するのが無難だ。


「はぁ〜……」


 ぐぅ〜ぎゅるぎゅる……。


 ギルド前の階段で頬杖をつきながら、腹の虫が随分と賑やかなシスターの少女が、ふとシルバの視界に入る。


 最近やっと、見た目と年齢の感覚が掴めてきて鑑定を使わずとも何歳くらいか分かるようになってきた。

 彼女は14歳くらい、成人前のシスター見習いと言ったところか。


 鑑定すると、リーナ 14歳と表記されている。


 光の女神の教えを説く教会、女神教のシスターらしく、ウィンプルと呼ばれる白と金の頭巾を被っている。


「なんでこんなところにシスターが?」


「よせ、一々構うな」


 シルバが立ち止まったことで、アウルムは数歩先で振り返り、彼の行動を咎める。


「……お嬢ちゃ──シスターさん、どうしたんや?」


 これが、現代日本であれば、女子中学生に声をかける不審者として目撃情報が回されるであろう。


 幸いなことに、異世界ではその程度では犯罪者予備群扱いはされないが、光の女神と敵対している立場である以上、シスターと関わるのは感心しないと、アウルムは顰めっ面になる。


「か、神の恵みをどうか……お願いします……」


 彼女は震えながら手のひらを差し出して、喜捨を求めた。


「えーと、お腹減ってるんやんな? これ、良かったら食べてや。後、これも……これで食べもん買うんやで」


「あ、ありがと……ございま……あなたに神の祝福があらんことを……」


 感謝しながら祈りを捧げる彼女にシルバはパンと、銅貨を3枚握らせる。


「あげ過ぎだ」


「俺の小遣いからやし、ええねん。ほっとけ……こんな子供が飢えてるのに見て見ぬフリは気分悪いやろ。偽善でもなんでも、やらんよりはマシや」


「……あげるにしても、その金額に命をかける馬鹿だっているんだ。逆に危ないって。食いもんを買ってやるとか、その程度にしておかないと彼女はガラの悪いやつに殺されるぞ」


 それに水もないと、喉が渇くだろうが。とアウルムは彼女の腰に下げた皮の水筒を取って、水魔法で水をつくりいれてやり、その場を去る。


「お前も大概お人好しやわ」


「俺はタダだから良いんだよ」


「いやいや……普通は喜捨するより貴重な魔力で飲み水やる方が変な奴やからな?」


「あの程度の魔力なら後10分もしたら勝手に回復する」


「ひねくれた優しさやなあ」


 フンとアウルムはそっぽを向きながら、歩くがシルバの見えない方向で満足げに笑う。


 なんでもはしてやれないが、困っている人間に多少の施しをするくらいには良心があるアウルムとシルバだった。


 ***


「騒がしいな……?」


「なんかあったんかな?」


 街の兵士が笛を鳴らして他の兵士たちを呼ぶ。それに反応した兵士が笛の音の方へ走っていく。


「行ってみよか」


「一応な」


 騒ぎのある方向へ二人は移動する。


 場所は商人の館。そこそこ立派な館の前には野次馬と兵士でいっぱいになっていた。


「何があったか分かるか?」


 アウルムは野次馬の一人に声をかける。


「殺しだってよ。強盗じゃねえかなあ? 最近商人が結構殺されてんだ、物騒だよなあ」


 アウルムとシルバも遠巻きに館の外側から様子を探っていた。そこに昨日少し揉めた門番をしていた男がいるのを見つけた。


 門番の男もまた、アウルムを発見して目が合う。


「あ〜、面倒くさいことになりそうだ……」


 門番の男はアウルムの方に駆け出して、野次馬たちに道を開けさせる。


「調査か──いえ、あの〜少しお時間頂いていいですかな?」


 昨日勝手に身分を明かすなと言われたことを思い出したのか、男は声を落としてアウルムに話しかける。


「お前と出かけたら毎回何か起こりやがるな」


「俺のせいかいな?」


 シルバも連れて、人をかき分けて現場の中に入る。


 どさくさに紛れてスリを働こうとした奴の腕を捻り、そのまま館の門をくぐった。


「それで、なんだ?」


「いえ、調査官殿がいらっしゃるのですから、お力添え頂けないかと思いまして……このところ、同じような事件が続いており、学のない我々では犯人の尻尾が掴めんのです。

 商人ギルドからの突き上げも厳しく、なんとか解決したい所存で……あっ、私はガルと申します!」


「ふむ……連続の事件か。良いだろう、こいつも同僚だ。現場の指揮は俺たちが取っていいんだな?」


「はっ! 私が兵士長ですのでその権限はあります!」


 シルバは首輪をチラっと見せて身分を明かす。


「ところで、お二人は何ゆえこの街に?」


「知らなくて良いことだ」


「失礼しました!」


「犯行現場に案内しろ。それと、関係者を別室に隔離し、現場のものは一切触らず動かすな」


「はっ!」


 ガルは部下に行けと命令して指示を伝える。


 犯行現場に案内されると、それは凄惨なものだった。


 血は壁にまで届いており、そこら中に血痕が。


「被害者はこの館の主人、ギブンス殿でこの通り喉がパックリと……」


「……彼は発見された時、この状態だったか?」


「いえ、この状態で放置というのもなんだったので、こちらに寝かせております」


「戻せ?」


「は?」


「この場のもの、椅子や机の角度、発見されていた状態に全て戻せ。今すぐだ」


 写真がないんだから現場保存くらいしろと怒りが込み上げてきたが、言っても仕方がない。とにかく元の状態に可能な限り戻し、発見当時の再現に努める。


 泥だらけのくつで兵士が館の中をうろついたせいで、現場は荒れている。せめて泥くらい落としてから入れよ。と、アウルムは聞こえないくらいの声で文句を垂れる。


「では、兵士は全員この場から退出せよ。その間、館にいた人間や周辺の目撃者から聞き込みだ。聞く時は必ず一人ずつだ。口裏を合わせていないか、情報の食い違いに注意せよ」


「「「はっ!」」」


 兵士たちは駆け足で犯行現場となっている書斎を出た。


「さて、始めるかシルバ。情報屋から殺人事件の話は聞いていたんだ。勇者とは限らんが一応調べておこう」


「おう、昨日なんか言うてたな」

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