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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
3章 ドゥユーワナダンス?
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3-10話 女装

少し前の話数のタイトルナンバリングが間違えてたので修正しました。失礼しました。

 

 アウルムとシルバが宿屋に帰ってくる時刻は、ほぼ同じくらいで軽く情報共有をする為、一つの部屋に集まる。


「シルバ、ダンスを教えてくれ」


「は? 唐突過ぎるやろ」


「お前、ダンス出来るよな?」


「そりゃ、親がダンサーやから『舞』なんて名前つけた訳やしな、素人よりは出来るで。でもなんで街で情報集めてたらダンス教えてくれってことになるねん?」


「勇者主催の仮面舞踏会が開かれる。その招待状を手に入れたから潜り込むぞ。だが俺はダンスが出来んから教えてもらう必要がある」


「仮面舞踏会!? ナイスや!」


 アウルムの発言は唐突だったが、シルバは仮面舞踏会に行けると知って元気が出た。


 仮面舞踏会、ある程度の匿名性を保ちながら金持ちのお遊びとして行われるパーティー。


 そのことから、表では話がしにくいような会話がされ、情報収集にはもってこいの場所である。


 しかし、シルバが喜んだのはそこではない。


 顔が見えない、身分も関係ない、とくると風紀は当然乱れることになる。そうなると、酒が回ればハメを外すことも出来る。


 娼館に行く資金も余裕が無くなってきたので、飲み食い出来て、女とも遊べる。それが仕事になってしまう。


 こんな最高なことはない。


 そういう理由で喜んだ。


「まあ、そういう事情なら貴族のダンスも多少は覚えがあるから教えたるわ。まず、男女の動きに違いがある……ラナエルちょっと相手してくれるか?」


「いや、俺と踊ってくれ」


「いやでもお前とお前がするのは踊っても女側の踊りになるで?」


「だからだよ……俺は女として出席する」


「はぁ!? お前……ついに女装趣味に……」


「違う! 男女ペアで行かないとダメで、仮面は白と黒の1セットしか手に入らなかったんだよ! お前が女装するか!? 無理だろうが! あんだけ女って間違えられる俺なら問題ないだろ!」


「女って間違えられるのは嫌やけど、女の格好してて女と思われるのは良いんかいな」


「これは仕事だ、遊びじゃないんだよ。やらなくちゃいけないなら女装だってやってやる」


「お前……マジか、エグいな。ダンス全く出来ひんのやっけ?」


「小熊族の踊りなら……」


「それは出来ひんのと同じや! じゃあ最初は軽くステップと手の置き方な……」


 シルバはアウルムの細い指をした手を取り、基本的な姿勢を教える。


「……なんか、これ見ちゃっていいのかな……」


「うん……変な気持ちになるね」


 向かい合ったアウルムとシルバの醸し出し異様な雰囲気にエルフたちは感じたことのない気持ちになる。


「はい、ワンツーワンツー、ワンツー……違う! タラララ〜タッタッ! タッタッ! のリズムに合わせろ! 遅れてるぞ」


「お前の一歩がデカ過ぎんだよ」


「ああすまんすまん、俺デカいんやった」


「全く……お前も練習しておいた方が良さそうだな。喋り方も上品にするんだぞ?」


「それは分かるけどさ、そもそもお前顔は女みたいでも声は普通に男やん。喉仏も出てるし、手もええとこの女にしてはマメとか出来てるし握ったらバレるで?」


「あっ、それでしたら首元まで詰めた服と、手袋で誤魔化せますよ!」


 服の見立てが得意なヨフィエルがカモフラージュの方法を提案する。


「でも声は?」


 ラナエルの質問に歌の得意なマキエルが答える。


「男性でも喉の使い方では高い声は出せますけど、アウルム様出来ますか?」


 マキエルの質問にアウルムは彼女を見て、実演する。


「こんな感じかしら?」


「ッ!? 凄い! 優雅な貴族令嬢のような透き通った声……」


「……? マキエル? アウルム様は今喋ってなかったけど?」


 驚くマキエルの反応に、何を言ってるのだと周囲がツッコミを入れる。


「俺の能力だ。1対1なら声を出さなくとも女の声を俺が出したと錯覚させられる」


「アウルム様私にも聞かせてください!」


「あっ、ズルい! 私も!」


 エルフたちはアウルムの女のような声を聞いてみたくなったのか、一人一人に能力を使って欲しいとせがみ出す。


「おいおい、今はダンスの練習やで。 でも、それって複数人と喋る時は使えへん手やろ?」


 アウルムの能力の欠点を知っているシルバは、現実的ではないと考える。


「いや、そうでもないさ」


「ッ!? 皆聞いたか今の!? どうやったんや!?」


 今度は全員に向けて目も合わせずにアウルムの声が女に聞こえる。


「風魔法の応用だよ。お前がエコロケーションを使ってたから風魔法である程度の音……つまり空気の振動も操れると思いついた。喉というごく狭い部分から発せられる振動の周波数を『解析する者』で微調整したら低いレベルでも実現可能だ。とは言え、これは俺にしか出来ないがな」


「そういう繊細な魔法の応用はお前の得意分野ってことか、それにしてもたまげたな」


「ええ、服を女性のものにしたら同じ女性でも分からないんじゃないですか?」


「あの〜これ、着てみてくれませんか?」


 ヨフィエルが女性ものの私服を取り出してアウルムの前に差し出す。


「まあ、日がないから今から仕立てるのは不可能だし、サイズの調整は必要だな。お前ら用によそゆきのドレス買っておいて正解だな。手袋と首元の飾りは入手はそれほど難しくないだろう」


「女性でしたらジュエリーがないと不自然ですよ」


「ジュエリーか……この中から見繕ってくれ」


 アウルムはアイテムボックスからジャラジャラと宝石のついたネックレスや指輪を取り出す。


「凄っ……」


「まあ悪さしてる奴らを懲らしめる機会がそれなりにあるし、そういう奴らは大抵金目のものは多少持ってるんだよ」


「これなら、大丈夫ですね」


 宝石や飾りの部分のクオリティを確認した目利きの得意なサラエルが満足そうにうなずく。


「夕食まで時間がある。試着して採寸を頼めるか?」


「「はいっ!」」


 ***


 アウルムは服を脱ぎ、採寸をされる。


 男性用のタキシードならキラドの街で1着拵えたのだが、使う機会がないのは勿体無いと思いながらも、仕事の為だと割り切る。


「こうやって見ると立派な筋肉なんですけどね」


 顔と身体のバランスが合っていないというか、ギャップがあり、不思議な感じがするとエルフたちはアウルムの肉体をマジマジと見る。


 ステータスによって力は変わる。これが見た目と力が一致しない理由なのだが、では筋肉が無駄かと言うとそうではない。


『解析する者』により、筋肉は隠しパラメーターとしてステータスに筋肉量に対して少しばかり計上されることが分かった。


 つまり、鍛えておいた方がステータスが上がることが判明してからはアウルムもシルバも筋トレは日課としていた。


「着替えくらいいつも見てるだろ、今更珍しがるようなものか?」


「意識してみると印象が変わって──アウルム様、下は履いたままで結構です。というか何故下着まで脱いでるんですか?」


「ん? ああ、下着も女性のものを着用した方が良いかと思ってな。性行為まではしないが勇者と寝床を共にすることがあった場合おかしいだろ?」


「それこそ、能力で女性の裸を見せればいいじゃないですか?」


「あっ……そうか」


 用意周到な性格ではあるが、変なところで間が抜けてる人だなとエルフたちは思った。


 ***


「完成です! どうですかシルバ様?」


 やり切ったと満足げな表情で汗を拭うエルフたち。


 採寸から仮留め、化粧とアクセサリーまで施されたアウルムは声さえ聞かなければ誰しもが女と思う姿になっていた。


 一度退出させられ、完成まで待たされていたシルバがアウルムを見る。


「……お前、女やったらめっちゃタイプやったわ……女にならへんか?」


「殺すぞ」


 シルバに向けてアウルムは怒気を放つ。


「いやっ、褒めてんねん。マジで凄いで、鏡で見たか? 背はちょっと女にしては高いけどヒールある靴やと思えばそこまで違和感もないし……いや、凄いわ」


 艶やか、と形容すればいいのかアウルムの女装姿には確かに色気を感じる。


 シルバはゴクリと生唾を飲む。


「これなら女として参加しても問題ないか?」


 白の仮面を被り、実際の仮面舞踏会の雰囲気を出しながら問題がないかを確認する。


「バッチリや、女っぽい喋り方さえしたら絶対バレへんと思うわ」


「なら良かった。腹が減ってきたな」


「あっ! そうやそうや、屋台で焼きおにぎり売ってたで! 醤油の味するから食うてみ!」


 シルバは思い出したかのようにアイテムボックスから焼きおにぎりを取り出す。

 帰ったらすぐにアウルムに食わせてやろうとしてたのを完全に突飛な話のせいで忘れていた。


「何……?」


 渡された焼きおにぎりをマジマジとアウルムは眺める。


「醤油と米は一体どこから手に入れてるんだ?」


「外国らしい。勇者が醤油作って輸出してるって屋台のおっちゃんは言ってたけど」


「言ってたけどって……そんな呑気な。米はともかく、醤油が作れるということの意味が分かってるのか?」


「え〜? 頑張らはったんやろ? 誰かが。そのおかげで俺らはこれが食べられるってわけや」


「違うぞ! 全然違う! 皆悪いが一旦俺はこいつを虚空の城に連れて行く」


「えっ!? なんで!? せっかく買ってきたのにお説教!?」


 ずるずると引っ張られてシルバは虚空の城の空間に連行される。


「醤油ってのはな、かなり製造に手間がかかるんだ。江戸時代でも、精製するのに人手も資金も専門の工房が必要なくらい技術もいるって聞いたことがある。

 つまりだな、考えられるパターンがいくつかある。


 1つ、勇者のうろ覚え知識で再現出来てしまうほど、外国でそれだけ科学が発展している。これは恐ろしいことだぞ、化学兵器や銃が台頭してきたら今のパワーバランスがぶっ壊れる。自然や人体に有害なものだって量産出来るってことだぞ。


 1つ、現代のものを召喚するような奴がいる。これもヤバい。スーパーにあるもの程度ならまだマシだが……なんでもってなると、大変なことになるぞ。貴族内で独占する訳でもなく、既に平民でも買えるほどに出回ってるんだからな。


 1つ、知識系のユニークスキルを持ってる奴がいる。これが一番ヤバいかも知れん。醤油の作り方を調べられるみたいな、ユニークスキルなら絶対醤油以外の知識も手に入る。これが核兵器とかなら……」


「おいおい、世界がめちゃくちゃなるで?」


「だから、事態の深刻さを理解してないから連れて来たんだ。知識系は危険過ぎる。人を殺してなくてもブラックリストに入れて抹消しなくてはならんかも知れんぞ。俺たちの国に起こった悲劇をこの世界で繰り返させるつもりはない。明日はこの醤油を作った勇者に関して出来る限り調べるぞ」


「調べたところでやな、外国行くにも船がいるわ。で、海はシーペント卿って海賊がおるんやから安全じゃない。知ったところで現状どうこう出来ひんで?

 迷宮都市にも行かなあかんのに。不利な海で無双出来るほどの能力はないやろ、俺ら。


 ヤバいって分かってても、取り敢えずは国内で出来る範囲のことやるのが優先ちゃう?」


「それでも、調べておいた方がいいのは間違いない。名前だけでも分かれば他の勇者に会った時に勇者の繋がりで紹介を頼む振りして、話を聞くことだって出来るんだ。とにかく、明日は醤油のことを調べよう。

 直接卸してもらえるならいくらか買ってもいい」


「あ、なんやねん、スケールデカい話してビビらされたけど、お前結局醤油欲しいだけちゃうの?」


「いや、醤油は欲しいだろ。でも危険性は別だよ。どのみち調査しないと」


「そうか……取り敢えず、皆待ってるし飯にしようや」


「ああ……そうだな」

3章も折り返しです。

ここまで面白かったら↓にてブクマと☆☆☆☆☆評価頂けると嬉しいです。

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