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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
3章 ドゥユーワナダンス?
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3-2話 把握しているブラックリスト後編

「さて、ファイルナンバー13『KT』。こいつは厄介だぞ。地下犯罪組織で仕事をしている何でも屋……まあ暗殺が多いんだが、地下では有名というか……伝説みたいな奴だ。

 俺もその手のやつと関わるノウハウを手に入れたが、名前だけはやたらと聞く。だが、尻尾が掴めない。慎重な奴なんだろう。

 捕まえるのはかなり難しそうだ」


「ケーティーって、ケイティ、例えばケイトって名前の愛称みたいやな」


「その線も考えた。外国ならケイト、ケイティなら女の名前だが、日本語のケイトなら日本人的には男の名前だな。

 単にイニシャルかも知れんがな。慎重な行動をしているのに自分のイニシャルで活動するって他の勇者に感知されるから、仮にそうであった場合は賢明ではないな。その点の矛盾が気になるな。キラーなんとかって意味かも知れんがな」


 そこに本人的に大きな意味があるのだとしたらプロファイリングも進むのだが、今は大したことは分からんとアウルムは首を振った。


「今ある程度情報が集まっている最後の人物はファイルナンバー16『ヴァンダル』。こいつも無茶苦茶だ。というか、殆ど暴走していると言っても過言じゃないだろう」


「ヴァンダルってどう言う意味や?」


 英語が苦手なシルバは、聞き覚えのないの言葉にすかさず質問をする。


 知ったかぶりをしたら、伝達に齟齬が出る。別に知らないこと自体を恥ずかしいとも思わない性格だ。


「世界史でヴァンダル人って習っただろ? そこから破壊行為を表すヴァンダリズム、ヴァンダリストという言葉が生まれた。つまり、『破壊』だ。


 その名の通り各地の文化的なものや自然を破壊しまくっている。最初はそれぞれ単発のモンスターや自然災害だと思っていたが、情報を整理していたら繋がった。

 現在も各地を移動しながら破壊活動を行なっている」


 アウルムは簡易的なシャイナ王国の地図に時系列順に刺したピンを糸で結んで、行動のパターンを示したものをシルバに見せる。


「迷惑なやっちゃなあ……異世界観光名所破壊されてたら悲しいわ。落ち着いたらのんびり回りたかったのに」


「だが、こいつは少々変わっててな。殺人が目的というよりは破壊が目的で、行動の結果として被害が及び、人が死んでいるという感じなんだよ。

 まあ、その分歩く災害みたいな奴だから被害は甚大なんだがな……」


「なんていうか、遺跡を破壊するテロリストみたいな……いや、これはどっちかと言うと……放火魔か?」


「そうっ! 仕込んだ甲斐があった、よく気がついたな! 偉いぞ!」


「俺は犬か、撫でようとすんな」


 ワシャワシャと、ペットを褒める飼い主のようにシルバに近づくアウルムの手を払う。


 やはり、アウルムは徹夜明けでおかしくなっているとシルバは鬱陶しそうに顔を歪めた。


「いや〜、自力でそこまで推理出来るようになって俺は嬉しい」


 シルバはアウルムに犯罪に関する知識を定期的に叩き込まれて、別に知りたくもない残虐なシリアルキラーの犯行手口や、捜査の方法を知識として身につけ始めていた。


 特に、共感能力の高いシルバがアウルムよりも能力を発揮したのは、現場の再現だった。


 冒険者としての経験も活きており、その場で一体何が起こったのか、その時に人は、モンスターはどう動くのかをイメージすることが得意だと発覚した。


 これはアウルムでは難しかった。目の前にある証拠や痕跡から辿ることは出来るが、その時の非合理的な心理状況や、咄嗟の動きなどを読み解くことがシルバには出来た。


 物を紛失した際に、自分の行動を遡り、ここに置いたはず……と目星をつけて捜索するのに似ている。


 シルバはキレやすいという性格ではあるが、それ以外はアウルムに比べて極めて一般的である。


 逆にアウルムは特殊な思考回路の為、普通の人ならこうするはず、という共感に基づく推理が苦手なのだ。


「放火魔は、火を使って人を殺すというよりも、火を見ることに快感を覚える……やっけか? ってことはサイコパスの可能性高い……んねんな?」


 シルバは持っている知識から、一つの推論を導く。


「惜しいな、サイコパスではなく連続殺人犯。それも凶悪なやつに見られる三大要素の一つだ。放火癖、動物虐待、夜尿症の三つだ。幼い時期にこういう行動が見られると予備軍とされることもあるだろう。後は虐待の過去、窃視症……覗き行為だな、薬物、精神疾患、兆候は色々あるが、これは今度教える」


「あ〜っと……? 改めてサイコパスの定義教えてくれるか?」


 詰め込まれた知識が混乱を起こしたシルバは一旦専門的な用語の解説を求めた。


「よし、復習は大事だからな。まず大概のアホ共が勘違いしているサイコパスという言葉だが、猟奇的殺人と、シリアルキラーとは別物だ。ごっちゃにしてるアホはぶん殴りたくなる」


「自分の詳しいこと間違って使われてたら腹立つのは分かるな。俺もラップ好きやから、それラップじゃなくてただのダジャレやろ。みたいなんがラップって言われてたら腹立つしな」


「サイコパスとは、簡単に言うと反社会的な性質を持った精神病質のことだ。先天的な者をサイコパス、後天的な者をソシオパスと言ったりもする。


 反社会性とは、暴力的であったり、法を軽視したり、人の感情を蔑ろに行動するといったことだ。


 シリアルキラーには大脳辺縁系に異常が見られ、感情のコントロールや共感に関する能力が欠如している場合がある。

 そういった人間はサイコパスと分類され、共感能力が欠けているからこそ、殺人というタブーを犯す可能性が高くなる。

 更には猟奇的な殺人も行う。


 だから、サイコパスとシリアルキラーと猟奇的殺人というのは関連があるが、同じ言葉ではない。


 そもそも、サイコパス……反社会的傾向があったとしても、サイコパスと断じるのは難しくかなりグラデーションがある。それこそ捕まったシリアルキラーは何人もの専門家に精神鑑定をされてやっとサイコパスであると認められる。


 そんな安易に「こいつはサイコパスだ」と素人が断じることは乱暴だ。だから、そういう傾向がある人間がどうするか、という推測をしていくのに利用するのに留めておけ」


「う〜頭がパンクしそうや……」


 シルバは詰め込まれた情報の多さに頭を抱えて唸り出す。


「じゃあ、共感能力に欠けた行動をする奴をサイコパス傾向のある人間と考えて、そいつが何をするかを想像する。くらいにしとけ」


「あ〜じゃあさ、よくネットとかにあるサイコパス診断って言うのは……?」


「あんなもん、サイコパス風(笑)のトンチ大喜利だよ。馬鹿馬鹿しい。

 サイコパスは自己中心的だから、普通に考えたらこうする、というのを一般人では理解し難い、独自の理論で行動しているという特徴を面白おかしくやってるだけだ。

 そして俺たちはその異常で自己中心的な行動を理解出来ないものとして、扱うのではなく、理解に努めて行動を予測して分析するのが仕事だ」


 アウルムはサイコパス診断に思うところがあるようで腹立たしげに鼻を鳴らした。


「トンチと来たか。なるほどなあ確かに、ああいう診断の答えってトンチやんけって思うことあるなあ」


「あんなもん邪悪な一休さんだよ」


「なんて乱暴な物言いや……」


「話を戻すが、ヴァンダルは放火魔……シリアルキラーというよりは、犯行の冷却期間が極めて短く、殆どスプリーキラーに近い。


 この世界の交通手段が大して発展していないから動きが遅いだけで、割と手当たり次第に大なり小なり犯行を繰り返していると見ている。


 ただ、ヴァンダルの場合は放火魔的ではあるが、個人的な快楽の為というよりは、何らかの理由があって儀式的な犯行をしているんだと推理している。破壊すれば自分の中の妄想が叶うと信じ込んでいるような……そんなところかもな」


「犯行の共通点は有名な場所とかってだけか?」


「そこだ、共通点だ。有名な場所の話が目立つのは単に有名だからで、それ以外での破壊活動は特に目立つものでもなく、それがヴァンダルによる被害なのか分かっていないというパターンもあり得る。


 まだ分からないが、ヴァンダルが何を基準に破壊する対象を選んでいるのかについて、見当がつけば行動と考えも読めてくるはすだ」


 ここで、シルバはある事に気がつく。アウルムがヴァンダルについてやたら詳しく話したがっているのだ。


「なあ、ヴァンダルについて何か思うところあるんか? シャインドゥとか、追放者よりも熱心やが……」


「ああ、言ってなかったな。エルフの故郷を焼いたのはヴァンダルでほぼ間違いない。彼女たちに話を聞いた時バンドーがどうとかって聞こえたと追放者と言い争いをしていた時に耳にしたと言っていたが──」


「日本人の苗字のバンドウじゃなくて、ヴァンダルってわけか。てっきりそういう名前の勇者かと思ってたけど」


「そいつの名前が本当にバンドウかも知れんが、追放者とその男は一緒にエルフの故郷にやって来たらしい。


 その道中で何かしらの利害が一致して行動を共にしていたなら、名前も便宜上、通称でも明かすだろう。追放者がそいつをヴァンダル、ないしはバンドウと呼んだこと、犯行の手口や目撃談から、ヴァンダルはエルフの森を焼いた男でほぼ間違いない。

 案外、バンドウって奴が自分の行動と文字ってヴァンダルって名乗ってるか、追放者がヴァンダルって名付けた、なんてオチかもな。


 そして、ヴァンダルの移動経路と、俺たちの旅路が丁度かち合う。今のところ、ヴァンダルの遭遇率が高いんだよ。行動も派手だから目立つし発見も出来る可能性が高い。

 だから、こいつには注意だ。絶対に逃したくない」


「ああ、皆の悲しい顔見てられへんからな。ケジメはつけさせるで」


 アウルムとシルバはエルフたちの顔を思い浮かべる。夜中に堪えながらも涙をこぼす者もいるのだ。


 絶対にヴァンダルを逃すわけにはいかないと、二人は目を合わせて頷く。


「よし! 今日の講義はここまで!」


「……お前は取り敢えず寝ろ」

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