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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
3章 ドゥユーワナダンス?
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3-1話 把握しているブラックリスト前編

3章始まりました。今後は隔日投稿していきます、よろしくお願いします。


「おい、散らかし過ぎやろ、なんやねんこれ。しかもそれ、どこで買ってきたんや?」


『虚空の城』内にて、アウルムは地面に乱雑に木札や殴り書きをした紙を散らかしていた。


 大きな木で出来たボードを立てて、そこにブラックリストをピンで留めて、あちらこちらにメモサイズの紙と糸を張り巡らせていることをシルバは指摘する。


「自分で作った。各所から集めた情報をまとめて、勇者に繋がるかを視覚的に理解出来るようにな。どちらかと言えばこれはお前の説明の為のものだ。

 メモだけなら『解析する者』で済むからな。まあ、実際に紙や糸で立体的にした方が分かりやすいからな……と言っても雰囲気作りだ。捜査っぽくてテンション上がるだろ?」


「言わんとしてることは分かるけど、もうちょっと整理整頓せんとぐちゃぐちゃ……」


「だーっ!」


 地面に落ちている紙をシルバが拾おうとして屈む。そのにアウルムが大声を上げるのでシルバはビクッとした。


「うお、びっくりした!?」


「俺なりに整理してるから勝手に動かすんじゃあねえ!」


「もー、なんやねんデカい声だすなや、どこが整理やねん散らかしっぱなしやんけ……」


「いいか、この赤い線が時系列で、青い線が事件の関連だ」


「話聞いてや」


「いや、お前が俺の話を聞け! ちょっとずつ勇者の情報が集まって来てるんだからお前にも聞いておいてもらわないと困る!」


「徹夜明けでテンションおかしなってるやろお前」


「どこが!? 俺はいつも通りだが!?」


「声デカなってるって。目もバキバキで怖いわ。まあ話は聞くから落ち着いてくれや。茶でも飲みながらゆっくりしよう」


 シルバはアイテムボックスからティーセットを取り出して茶の準備をする。


 美味しいお茶の作り方なんて分からないので、市場で買ってきた茶葉を沸騰したお湯で濾すだけだが、何となくその動作は落ち着くもので時々自分でお茶を作ってはアウルムに振る舞っていた。


「さ、どうぞ」


「ああ、サンキュー」


 アウルムはシルバの作ったお茶をズズッと空気を混ぜながら口に運ぶ。


 徹夜明けの身体に沁みたのか、目を閉じてフウと息を一つ吐いた。


「さて、改めてブラックリストについて分かっていることの整理から行う」


「はーい」


 地面にあぐらをかいて座りながらシルバはアウルムのブラックリストの講義を聞く姿勢を取る。


「おい、俺の講義中は飲食禁止だぞ?」


「どこの面倒くさい教師やねん! ええやろうが!」


「まあアイスブレイクはこの辺にしておいて……」


「俺とお前の仲でアイスブレイク要らんねん、お前やっぱりテンションおかしなっとるな?」


「いいか、闇の神様から得たブラックリストの情報は断片的で穴だらけだ。通称だけ分かっていたり、犯罪の内容だけとか、どっちも分からないけど一人の人間がやってるということは分かるからリストに入っているとか、あんまり当てにならん。

 そもそも22人いるのかすら怪しいもんだ」


「えーと、ブラックリストの勇者殺したらブラックリストの原本の方に反映されるんやっけ?」


 シルバがこれまで分かっていることを改めて確認する。


「そうだ。ミストロールとリペーターには大きくバツが浮かび上がった。その辺りの仕組みは知らんが、後からでも、ブラックリストとの照合が出来るので便利だ。

 現在、通称だけ、または罪状だけ分かっている勇者から各地の事件の情報を照らし合わせて目星がついている勇者の発表を行う」


「なるほど、どうぞ!」


 シルバが手を前に差し出して、アウルムは一度頷く。


「ファイルナンバー0『追放者』。こいつはラナエルたちの因縁の相手だ。罪状は少なくとも誘拐、殺人、奴隷の違法所持、窃盗。情報は少ないが、恐らくナンバー0が『追放者』だろう。名前は分かっていなかったが、奴隷の違法所持という点でな。間違ってるかも知れんが……」


「ナンバー0ってのは、なんなんやっけ? そもそもの話やが普通1からちゃうか?」


「ファイルナンバーは勇者の堕ちた順番だ。だからナンバー1が最初に罪を犯した……と闇の神様は思ってナンバーをつけたが、後から判明した。ということなんだろう。これは前も言ったけど、もう忘れたのか?」


「すんませんな……てことはやで? 追放者はかなり序盤に追放されてるんやろ、追放されるのって結構後から見切りつけられた……とかやと思うけど」


「まず、通称は自己申告の可能性もあるから大してアテにならん。ただ、ラナエルたちが言うには、自ら追放者と名乗っているということは、追放された事実をある意味誇りに思っているような奴、自己を正当化する為にそう名乗っている……と考えている。


 こいつに一体どういう目的があって、今何してるのかは分からん。エルフたちに聞いても発言が終始支離滅裂で会話が通じなかったと聞いているし、錯乱か精神疾患か……なんにせよ、あんまり頭は良くないだろうが、強いのは強いと思う。

 もし初期の状態で一人で旅して今まで生き残っていたのだとしたら、戦闘向きのユニークスキルを持っていると考えていいかもな」


「なるほどなあ……要警戒やな。じゃあ次お願いしますわ」


 シルバは頭の中に追放者は注意とメモをする。


「ファイルナンバー4『シーペント卿』。またの名をキャプテン・シーペント。こいつは海賊だ、無敵艦隊とかふざけた名前を名乗ってる海賊の首領だな。有名人だから最初から分かってたが、これから南の港町に向かうから出くわす可能性もある」


「聞いたことあるな。でも確かシーペント卿って若者じゃなくて、まあまあ歳いってるって話やん?」


「教職員だろ、そうなると。ミストロールみたいに老けてたなんてオチがもう一回来てたまるか」


「それもそうやな」


 意外にも、話を集めていくとシーペント卿という名前があちこちで耳にする。外国からの輸入品などを載せた船を襲うので、彼のせいで物価が変動し迷惑だと言う。


 しかし、海には巨大なモンスターもいるので討伐することが難しい、指名手配されている勇者の筆頭がシーペント卿だ。


「ファイルナンバー19『怪人シャインドゥ』。娼婦殺しは多分──つーか、絶対こいつだ。自信がある。こいつも舐めた名前しやがって……個人的には一番ぶっ殺してやりてえ! 最近調子に乗って犯罪の後に手紙を置いて『怪人シャインドゥ』を名乗ってるらしいカスみたいな劇場型犯罪者だ。


 変身する『怪人二十面相』と、この国で最も普通の男の名前が『シャイン』。つまり誰でもない。いや、誰にでもなれると言いたいのかもな。


 名前もシャインってのは名無しの権兵衛みたいなもんで、ジョンドゥってのが身元不明な人間に使われる便宜的な名前で、要するに匿名って意味だ。元ネタはジャックザリッパー……要するにパクリだ。

 犯行の手口も中途半端に真似してオリジナリティ出してるのがムカつくぜ。


 というか、大して知らんのだろうな。一番有名な殺人犯ってことで適当に真似してる感じがある。ジャックザリッパーは判明しているだけで5人殺したがそのうち娼婦は2人しかいない。リサーチが甘い。他にも雑に真似してるっぽい事件にも目星はつけてるから、こいつは模倣犯なんだろう。だが、雑な模倣はシリアルキラーマニアとしては許せねえ。絶対に殺す」


 アウルムは『シャインドゥ』とボードに貼り付けられ書かれた紙にナイフをぶん投げる。


 これも雰囲気作りをするポーズでしかないが、シルバとしても思うところがある相手なので、続いてナイフを投げる。


「ああ、こいつは俺も間違えられたし絶対殺すわ。迷惑やねん」


「こいつのせいで娼館通い代などという無駄な経費も発生してるしな」


「ちょちょっ! そいつ殺しても情報収集の為に必要やって話になったよな!? 予算打ち切りとかあかんで!?」


 シルバはアウルムの一言にあからさまに動揺を見せて慌てる。


「だが、この先娼館に通わずとも情報が集められるネットワークが構築したら無駄金だろ?」


「俺の心の平穏の為に打ち切らんといてくれ! ……分かるやろ? あんな美人のエルフに囲まれてる生活やで、手出すわけにもいかんねんからそこは認めてもらわんと……!」


「ったく……」


 エルフたちの中には故郷を失い、貴族に乱暴をされ、心に傷を負っている者もいる。普段は明るく接しているが、それでも傷は癒えていない。


 アウルムとシルバが相談を受けたり、パニックになった時に落ち着くように細心の配慮を行っている。

 だからこそ、エルフたちに性的な目を出来るだけ向けないように注意している。


 だが、シルバも健康な若い男なので、美しいエルフを見て何も思わないわけではない。


 以前よりも一層、娼館通いによるガス抜きが必要不可欠と考えている。


「次はファイルナンバー12『カブリ』。迷宮都市に潜伏していると思われる人食いだ。統合失調症の中にごく稀に血を飲む必要性に駆られる妄想なんかはあるが……ガッツリ人を食うってのはかなり異常だな。カニバリストになったのが精神の問題なのか、ユニークスキル由来なのか動機については分からん。

 ダンジョンにいる正体不明のモンスターと冒険者には思われてるが、ブラックリストによると勇者だ」


「人間が人間食ったら頭おかしくなるんやっけか? でも、食おうとしてる時点で頭おかしいよな。飢えて必要にかられたのがキッカケとか?

 ──にしても『カブリ』ってのは人に『かぶりつく』、のカブリなんかな? ガブリとか、ガブの方がしっくり来るけど」


「ガブって言うと絵本のオオカミを思い出すな」


 アウルムはシルバの一言から、日本では有名な絵本をイメージした。


「ああ、ヤギと友達になったけど、食べたくなる……みたいな話か。例えばオオカミに変身するみたいなユニークスキルがあって、それのせいで食人鬼になってるって可能性もあるよな」


「まだ分からない事が多いが、アメリカの先住民の伝承に出てくる『ウェンディゴ』とか『ライカンスロープ』、『狼男』みたいな感じかも知れないな。ウェンディゴは諸説あるが取り憑かれて人を食う人間になるみたいな伝承だが、そこから『ウェンディゴ症候群』なんて、人を食う精神疾患の名前があるくらいだし、ビタミンなどの栄養の欠乏由来なんかも考えられそうだ」


「この世界の食事じゃ栄養は偏りやすいからなあ」


 保存の為に塩漬けされたものが多く、新鮮な野菜や魚などが入手しにくい地域では、やはり食事の内容が偏りがちになる。


 時々農民から新鮮な野菜を直接買い、時間の進まないアイテムボックスに入れてはいるが、それでもやはり不足することの方が多い。


 人数も増えたし、相当美味い野菜なら専属農家との契約なんかしたいところだとアウルムは言う。



*1/31シャインドゥのファイルナンバーを7→19に変更しました。

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