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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-18話 タイマン前編

ブクマ10いけました〜! ありがとうございます!


「なあ、シルバ」


「あん?」


 トーマス・キラドから国家治安調査官の身分を保証する首輪をもらってから、旅の準備もあらかた終わり、後は細々としたものを買い足す程度で、いつでもキラドを出発出来る頃だった。

『虚空の城』内でくつろいでいるところにアウルムは唐突に提案する。


「タイマン、やろうぜ」


「はあ? 急やな? どうしたいきなり、俺なんか悪いことしたか?」


「いや、そうじゃなくて今まで模擬戦闘みたいなことはやってたけどしっかり戦ったことないだろ? これから先もドンドンヤバい勇者を倒さないといけない。

 俺たちだって実力的にはAランク相当の強さがある。中々訓練する相手も見つからないし、ある程度同等の強さのはずだ。

 普段は相手の傾向を掴んで戦うのがセオリーだが、万が一の時の為に、お互いの弱点がバレているという状況でどう対応すべきかっていう洗い出しを改めてやっておこうと思ってな」


「危ないやろ、どう考えても。俺の回復頼りの提案やんな?」


「まあ、寸止めって言うか、シャレにならん怪我をしないように注意するべきだが、やっておいて損はないと思うぞ」


「んー……お前と喧嘩するのあんまり気が進まんな」


「アウルム様、出来ればやめて頂きたいのですが……」


 ラナエルが二人の会話を横で聞いて止めに入る。他のエルフたちも心配そうな顔をして頷く。


「お二人が戦うところ、怪我をするかも知れないというのに……」


「せやで、ラナエルの言う通りやろ。というか、タイマンなら俺の方が圧倒的に有利やぞ」


「勇者と戦ったら大怪我では済まないのだから、その大怪我を避ける為に多少の怪我くらい仕方ないと考える」


「こいつ……ヤバいな」


 アウルムの思考は読めない時はあるが、それでも半殺し合いをしようという考えは理解に苦しむ。


 言ってることは分かるが、普通それはやらんだろということをいつものすました顔で言うのだから、どう反論したらいいかシルバは迷う。


「ビビってんのか、腰抜け」


「そんな安易な挑発で、よっしゃやったるわ! ってなる性格ちゃうの分かってるやろ……」


「ふむ、では……」


 アウルムはアイテムボックスから一冊の本を取り出す。


「なんや?」


「これはとある勇者が出版した書物だ。事情があって発禁となり、今は市場では出回っていない。そんな書物闇のルートで入手したんだが……中身は聞いて驚くな……お前の好みの絵柄で描かれたエロ漫画だ。タイマンやるなら見せてやろう」


 アウルムはわざとらしく遠めで表紙を見せてパラパラと中身をめくる。


「エロマンガ? とはなんですか、アウルム様?」


「よっしゃやったるわ!」


「シルバ様!? なんなのですかシルバ様の意見が真逆に翻るエロマンガとは!?」


 ラナエルはシルバの代わりようと、アウルムが取り出した本の意味が分からず、視線をいったりきたりさせながら不安そうな顔をする。


「こいつはこういう性格なんだよ。誰よりも分かってる」


 ***


 アウルムとシルバは人気のない、開けた草原に場所を移す。この世界に転送されて初めて目にした光景だ。


「俺らが戦うなんて、最終章やと思ってたけど?」


 シルバはストレッチをしながら戦う準備を始める。


「自分を主人公だとでも思ってるのか? 気持ち悪いぞ」


「異世界に送られてエルフ美女と旅してチート能力もらってる時点で主人公待遇やろ。お前セットやけど」


「残念だがハーレムなんて作れると思うなよ。彼女たちの商売が軌道に乗ったら俺たちは勇者探しの旅だから俺と二人だ」


「でもさあ、勇者倒した後なら良いんやろ? 夢くらい見させてくれ」


「寝言は寝て言え」


「じゃあ、ルールの確認やけどユニークスキルなしで、戦闘にガッツリ影響出る怪我か降参宣言までは継続でええねんな?」


「俺は遠距離型だから最初の間合いは遠目からでいいか? お前が空に火の玉を上げたら合図ってことで」


「真昼の決闘なんて西部劇みたいやわ」


「お前はガンマンって言うか、ソードマン……刃物狂だがな」


「いや、俺はエロマンガ欲しいマンや!」


「……始めるぞ」


 アウルムはシルバのギャグを無視して背を向ける。50メートルほど距離を空けてから、向き合った。


「シャアッ! 行くでぇッ!」


 ヒュンッ……ボンッ!


 シルバの放つ火球が空中で爆発して音を立てる。


(距離を詰めるまでにあいつの攻撃を捌き切れるかの勝負!)


 シルバは風と火の魔法を併用して爆発を後方に起こして推進力でアウルムに突進する。


(そうくると思った……氷槍ッ! 凍結ッ!)


 アウルムはシルバの進行方向に対して地面を凍結させ、ビキビキと音を鳴らす。


 加えて氷で生成された槍を飛ばす。


(こっちに直線的に飛んでくると分かってるなら……!)


 シルバは剣で氷の槍の進路を逸らす。氷が張られた地面に足を取られかけるが、風を利用した足場で宙に浮き、対処する。


 その間に更に氷の槍が飛んで来た。


(またそれか! 弾幕で圧倒するつも……!?)


 氷の槍を弾こうとする刹那、シルバは目を細める。


 アウルムの光魔法によって視界が悪くなる。


「お前は戦闘機パイロットかっ!」


 太陽を常に背にする戦い方で、槍の弾幕のいくつかがシルバの皮膚を掠める。


 既にアウルムとの距離は25メートルを切った。


「邪魔くさい!」


 シルバは炎の壁を生成して氷で出来た槍を蒸発させる。


(やはり、水魔法と言えど氷はあいつの手持ちの技と相性が悪いか……風のバフもかかって火力もレベル以上になっている……)


 炎で氷による攻撃をレジストされたアウルムは絶え間なく槍を射出。ついでに溶かされた地面に水分を加えて泥を増やす。


 徹底的に地面を蹴り、切り伏せるというシルバの戦闘スタイルに付き合わない為の準備をしていた。


 シルバもその事には気が付いている。いくら風で足場を作れるとは言え、硬い地面に比べれば不安定なこと、この上ない空中戦は不利。


(魔力切れまで待ってたらあいつの作戦通りやな)


 魔法攻撃を主体としたアウルムはシルバよりも保有魔力が多い。相性的にはレジスト可能だが、全ての攻撃をレジストしているのではこちらが先に魔力切れになる。


 そもそも、剣士という戦い方が長期戦には向いていない。本来勝負は、ほんの一瞬でつく。


 魔法をメインとした相手には猶予を与えてはいけない。


「その邪魔な光は吸収させてもらうで!」


 野球選手が目の下に黒いテープを貼り、眩しさを軽減するのと同様、シルバは闇魔法でアウルムの視界を見えにくくする光を吸い取る。


 10メートル。魔力を温存していてはアウルムの小細工に長々と付き合うと考えて、レジストを繰り返しながらシルバの足が止まることはない。


 ドンドンと距離を詰めていく。


「ラァッ!」


 シルバはブーメランのような形状をした風の刃をアウルムに投げつける。


「ッ!」


 お互いに持つ魔法の飛び道具の中では風魔法によるものが最速。反応に遅れたアウルムは土の壁を自身の正面に立ててガードする。


「そりゃガードするよなぁっ!」


 だが、ガードの代償にアウルムは正面の視界を失われる。


 シルバは作戦通りと唇を歪ませる。


 乱打する風の刃に火魔法を使って着火する。


 ボンッ!


 シルバの引き起こす爆発による炎はアウルムが立てた壁の内側まで回り込む。


 衝撃で弾け飛ぶ土の壁にはアウルムの影が見える。


 5メートル。シルバのダッシュ力であればこの距離は既に間合い。


「シィッ!」


 ガキッ!


 振り下ろした剣に硬い感触が伝わる。


「何ぃッ!?」


 シルバが斬ったのはアウルムが氷で作った彫像。


「デコイかッ!? どこやっ……」


(さて、どうしたものか……)


 アウルムは土魔法により氷の彫像の少し後の泥の中に潜り込んでいた。


 アウルムにとって普段の攻撃は、全て『現実となる幻影』を決めるための段取りであり、その途中で倒せれば儲けたと考えている。


 今回のルールに従い、自身の攻撃の根幹となる幻術なしで、正面から戦闘能力が自分よりも高い相手と戦うケースにおいて、中途半端な攻撃は全て力押しされてしまう。


 氷と土は形がある魔法の攻撃。つまり、相手の攻撃力の方が高ければ脆い。


 自身の攻撃力を上回る硬さを持つ相手の決め技としての『現実となる幻影』。それが使えない。


(ユニークスキルなしでもここまで実力に差がついていたか)


 不意打ちや準備をしてから戦うことが得意なアウルムは、正面からの戦いに思っていた以上に苦戦していることに歯噛みして、次の一手を泥に塗れながら考える。


 一方シルバはアウルムを索敵する。


(あの壁は俺の目眩しでもあったんか……『不可侵の領域』なしで不意を突かれたら一歩遅れるな……アレを試してみるか)


 シルバは自身の周囲に風を発生させる。薄く広げた風の膜から、魔法により増強された反射する音で居場所をエコロケーションの様に探そうというのだ。


(……ッ! 水は空気よりも何倍も音を反射させるんやでぇっ!)


「オラァッ! 忍者にでもなったつもりか! 出てこいッ!」


 音の反響により、地面に潜むアウルムを発見したシルバは泥に向かって叫ぶ。


 泥に近づいたその瞬間、シルバの少し泥に沈んだ足元が凍結されていく。


(近づくなってか? 泥の中に籠るなら茹でたるわ……)


 シルバは火の玉を発生させ、氷と泥でぐちゃぐちゃになった地面の温度を上げていく。


 ジュウジュウと水蒸気を発生させながら、氷は溶けていき、泥の水温も次第に上がる。


(レジストに結構魔力使ったから結構ギリギリやが出てきたところを叩くっ!)


 地面に意識を集中させ、僅かな変化も見逃さないとシルバは剣を構えた。


(……結構我慢しよるな? まだか? え、大丈夫? 死んでないよな?)


 地面がブクブクと沸騰してもなお、アウルムが顔を出さないことで心配になってきたシルバは泥の中を覗き込もうとして踏み止まった。


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