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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-16話 引き渡し

 

「おい、ここで大丈夫なんか?」


「大丈夫だ」


「なんか最近臭い所ばっかり行ってんな俺ら」


 アウルムとシルバが現在いるのはキラドの街の地下。虫やネズミの走る下水道だ。


「そろそろ悪臭耐性も獲得出来るかもな」


「お前まさかとは思うけど、その為に下水道に来てるんちゃうやろうな」


「違うって。ここが待ち合わせなんだよ。指名手配犯とその仲間を街中で引き回して領主の館に連行出来る訳ないだろ。無数に張り巡らされた地下道の一本が領主の館の地下牢に繋がってんだよ」


「案内役はまだか!? 鼻が壊れるし、病気になりそうや」


「お、来たようだ。話は俺がするからそいつらを見張っててくれ」


 ザナークとその仲間を縄で数珠繋ぎにしているその先端の部分をシルバに握らせアウルムはそう言う。

 ザナークたちはシルバの『破れぬ誓約』によって、完全服従及び、アウルム、シルバの個人情報を一切口外することを禁じられており、大人しくしている。


 敵対心を抱くことすら禁止され、奴隷以上に奴隷的な存在になっている。


 ランタンを片手に持ち、目元にシワのある青髪の陰気な中年が近づいてくる。


「……『ネズミはどこへ向かう?』」


「『ネズミは狼の首領に供物を持参し巣穴へ向かう』」


(暗号……符牒か?)


 シルバはアウルムと男のやり取りを黙って聞いている。


 ネズミとは自分たちのことで、狼はキラド家の家紋から、狼の首領というのは領主トーマス・キラドを指す。

 供物は何か手土産を、巣穴というのは領主の屋敷。


 内容自体は聞いていればごく簡単に推測出来るが、言葉を間違えたらアウトなのだろうと青髪の男の反応に注目する。


「……ついてこい」


 鑑定ではファドという名の男に案内され、迷路のような地下を歩き回る。


(なんかグルグル回ってない?)


(恐らく、領主の屋敷に続く道を隠蔽する為だろう。俺たちの現在地が把握出来ないように複雑なルートを行ってるんだと思う。『解析する者』があるから無駄だがな)


(いつでも地下から忍び込めるようになったってことか。意味ないから普通に向かってくれって言ったらあかんか? はよ出たいんやが)


(やめとけ、見るからに偏屈で警戒心の強い男の心象を悪くするな)


(へいへい)


 念話をしながら、長い地下の移動の時間を潰す。


 実に1時間以上かけてファドの案内で地下を歩き回らされ、その頃には二人の嗅覚も麻痺していた。


「……ここだ、旦那様を呼ぶ、しばしここで待て」


「まだ待つんかい」


 ファドは地下道の壁面に突然現れた鉄格子にかかった鍵を開けて、通路側から見える階段を登っていく。


「長いって、会うまでが」


「貴族と謁見するんならこんなもんだろ。領主だし、非公式な場だから警戒も当然だ」


 シルバの愚痴をアウルムは聞き流しながら待っているとファドが戻ってくる。


「用意が出来た、階段を登ると牢屋に続いている。そこで旦那様が発言を許すまで跪き顔を下げていろ」


「あんたは?」


 階段に登り牢屋へ向かうシルバたちの後ろから鉄格子の鍵を閉めて地下道を歩こうとするファドをシルバは引き留めた。


「俺はここまでの案内が仕事、同席することは許されていない」


 そう言って、姿を消す。


 カビ臭い灰色の大人の男一人が通るのがやっとの細い壁の張られた階段を登ると、薄暗い牢屋の中に繋がっている。


 牢屋の鉄格子を隔てて通路が見え、その壁側にはゆらゆらと松明の炎が瞬きを見せる。


 カツン、カツンと硬い靴の音が壁に反響することで、領主の到着を感じすぐさま跪き、言葉を待つ。


 足音が止まる。香油か、香水か、下水の匂いを嗅ぎ続けたせいかとても良い匂いがする。

 視界は地面に占領されて、聴覚と嗅覚が情報を集めようとする。


「トーマス・キラドである。本日は非公式ながら、重要な犯罪者の確保に成功したとのことで、この場を用意した。

 表を上げ、名乗られよ」


 震えている。


 領主らしく、上級貴族らしい口調で、視線を落とした先に見える質の良い靴や服の裾から感じられたのは裏腹に、声と足の震え。


 顔を上げると、50代後半の白髪が混じった茶髪の青い目をしたトーマス・キラドが立っている。

 表情からは緊張が伺え、口を一文字にキュッと結んでいる。


「失礼致します。お初にお目にかかりますアウルムです。私どもの願い聞き届けて頂く恐悦至極です」


「シルバです。お会い出来て光栄です。高貴な方と話す機会の少ない平民故、作法に失礼があるやも知れません」


「良い。本日は非公式で私的な場である。よって、貴族的な礼儀など必要ない。早速だが、ソレを確認させよ」


「「はっ」」


 アウルムとシルバはザナークたちをトーマスの前に連れてくる。


「こちら、領内にて指名手配されておりました暗殺者ザナークとその一味です」


「……手を出させよ」


 トーマスはそう指示して懐から何かしらのマジックアイテムを取り出して、ザナークの手に触れさせた。


「……アウルムとシルバと言ったな? 大義であった。報奨金の金貨1000枚を支払うことを娘の名誉にかけて約束する」


 マジックアイテムから得られた反応を見て確信を得たトーマスは一度拳をギュッと握りしめた。

 そして、深呼吸をしてから声を出しアウルムとシルバを褒める。


「「ありがとうございます」」


「キアノドの屋敷に匿われており、街の騒ぎで調査が入ることを危惧し証拠隠滅の為放火したところを確保した。というのは事実か?」


「はっ、事実でございます。こちらのシルバが現場を目撃し、尋問によって本人からの証言を得ています」


 事前に確保した経緯はメッセンジャーに報告してある。


「奴らが焼け死んだと思うと何とも愉快だが……あのザナークが証言を……?」


「既に『しつけ』が終わっていますので、従順に質問に答え、命令通りに動きます」


 トーマスがザナークが素直に喋るとは思えないと訝しんだ。


「では問おう。ザナーク、貴様は我が娘を殺したか?」


「はい、殺しました」


 一言も言葉を発さなかったザナークが答える。


「一体コレに何をした?」


「ですから『しつけ』です。何でも聞きたいことは答えるように教育されてますので、ご自由に知りたいことを聞く為など煮るなり焼くなり出来ます」


「そうか。コレらはここに置き、私の部屋に来て話をしよう。私の悲願を叶えた者は友として歓迎する」


 トーマスは上へと続く階段の方に身体を反転さて、ワインレッドのマントをふわりと浮かせた。


 ザナークたちを牢屋に放り込んだまま、トーマスに同行して階段を登り屋敷の地上に出た。


「おお……凄いな……」


 屋敷の中は豪華絢爛。この世界に来て初めて『文化』を感じさせる建築物及び、調度品の数々に圧倒される。


 シルバは雪のように白く高い天井を見上げながら感嘆の声を上げる。


「旦那様……」


 一人の執事が近寄る。


「私の友人に茶の準備を。その後は退出しているように」


「かしこまりました」


 執事は部屋の扉を開けて、一礼してからすぐに出て行く。


「座りたまえ」


「「失礼します」」


 トーマスに促されてモンスターの革が張られたソファに座る。


 雰囲気から察するに応接室なのだろう。アウルムは調度品や部屋にあるマジックアイテムを片っ端から鑑定していきデータを蓄積させる。


 すぐに執事が入室し茶と菓子の用意をしてまた出て行く。


「二人は最近活躍しているA級冒険者と聞いたが?」


「はい」


「賞金稼ぎではないのだろう、何故ザナークを捕まえようと思ったのだ? 一体何者……いや何が目的だ? ザナークを土産に持ってきたのは私に近づく口実だろう……ああ、これは別に責めているのではない。


形や正体がなんであれ其方らは恩人だ。恩人が求めるものを与えたいと思っただけで、答えたくのいであれば構わん。

 貢献はそれだけのことに値すると評価している。ということを伝えたいだけなのだ」


 流石は大領地を経営する国の重鎮。行動の思惑というものを探る手腕がある。アウルムの企みの一部を見抜いていた。


「まず、ボルガ団を壊滅させたのは私どもです。その際にザナークを街から出す手引きをしていることを知りました」


「ほう、あれも其方らのやったことか。あれは厄介な男でな、街の膿を排除出来たことに喜ばしく思っていたが、あの変わりようは不気味でもあったが……ザナークと同じことか」


「はい。方法は秘匿させて頂きますがそうです」


「冒険者が手の内を隠すのは当然だ。アレを手中に収められた。それだけで満足している。

 それはそうと、茶を飲みたまえ」


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