2-15話 戦利品
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ありがとうございます、頑張ります。
「た、助かったぜ……俺はガストンって言うんだ。新人たちの指導してたもんで普段ならこいつくらい倒せるんだが、守りながらは難しくてな……」
アウルムが普段とは違う行動をとった理由。それは襲われていた者の中にガストンがいたからだ。
リペーターと遭遇してから何度も何度も同じように声をかけられ話をした。世話焼きで事情通のガストンは街の情報に詳しく、アウルムは彼から有益な情報をいくつも集めた。
そうやって得た情報の中から冒険者の騒ぎ、その際の街の警備を呼ぶ為の鐘の鳴るシステムとタイミング、そういったものを組み合わせてリペーターに謝罪をさせない。
デジャヴを繰り返さない対策を編み出していた。
158日目はガストンと会話をせず、火種を起こす小細工をしていたので、彼からすれば面識はない。
ただ、それでもやはりガストンの情報なしには勝てなかったアウルムは恩を感じていた。
「俺はアウルム、こっちはシルバだ。緊急なので割り込んだが倒したのは俺たちだし、こいつは元々依頼のモンスターだ。死体はこっちで回収していいな?」
「ああ、勿論だ。助けてもらっておいて分け前寄越せなんてダサい真似言わねえよ。それは構わねえけど……」
「どうした?」
「お前……どっかであったことあるような……初めてだよな? よその冒険者か?」
「ッ! ……いや、初めてだ……」
アウルムは動揺した。100回以上ガストンと会話をして、その度に見ない顔だなと言われ続けて、毎度同じ会話をして関係性を構築した相手に初めて違うパターンの最初の会話が発生したのだ。
「おかしいな、どこかで見たことあった気がするって言うか……」
「他人の空似じゃないか?」
しらばっくれるが、アウルムの内心は穏やかではなかった。
(どういうことだ? これまで何回も俺の顔を見て同じように見ない顔だと言っていたのに……繰り返すループの中に僅かに残った記憶の残滓……みたいなものがあって完全には記憶が消えていない……?
だが……これはこれで悪くないな……)
ガストンは良いやつだった。飯や酒を奢れなんて口では言うが、自分の分はしっかりと払うつもりだったことは分かっている。
単に初めての街で困ることもあるだろうと親切にしてくれていただけだ。
何度も会話するうちに友達のようにも感じてくる。だが、1日が終わるとそれもリセットされてしまう。
これがループを繰り返していくなかで少しばかり辛かったのがアウルムの本音。
今更にしてリペーターへの勝利の証のようなものを感じて口角が上がりそうになるのを抑える。
「ところで、ポーション持ってたら売ってくれないか? 持ち合わせが切れちまっててよ……あいつらに使ってやりたいんだ」
ガストンが親指でクイッと差した方向には、まだあどけなさの残る質素な装備をした若者が3人いた。傷だらけだ。
世話焼きのガストンのことだ、どうせ格安で冒険の指南でもしてやっていたのだろう。自分だって負傷しているのに、他の者に気を回している。
「ほらよ、別に余ってるから構わない」
ポケットから取り出すフリをしてアイテムボックスに入っているポーションをガストンに手渡した。
「おお、助かる! お前ら、ちゃんとお礼言えよ!」
「「「ありがとうございますっ!」」」
怪我をした新米冒険者たちがガストンに言われて慌てて礼を言う。
「支払いだが、今日の戦利品をギルドで換金してからで構わないか?」
「それも構わないが……荷運びをする元気は残ってるか? 鱗は歩合で持ち帰れるほど良いんだが……」
「おい、マジで言ってんのか? それって……」
「ああ、全部は剥ぎ取れないから余った分は好きにしたら良い」
「ありがてえ! お前ら! 鱗を剥ぎ取れ! いっぱい取ったらその分は好きにしていいってよ!? 日が暮れちまう前に終わらせるんだ!」
「「「はいっ!」」」
冒険者たちは笑顔でところどころ刃の欠けたナイフで一生懸命にジャイアントスネークの鱗を剥ぎ取る。
「これでポーション代が払えてあいつらに良い装備を用意させられる……アウルム、ありがとうな。でもなんでそこまでしてくれんだよ?」
「借りを返しただけだ」
「借りぃ? 俺ら初対面だよな……?」
「覚えてなかったらそれで良いんだ。こっちが一方的に恩を感じてるだけだから、気にしないでいい」
「そうか……? でもやっぱり礼は言っとくぜ! ギルドに戻ったら一杯奢らせてくれよ」
「分かった……」
ガストンから奢る。これもまた体験のした事のない変化だ。
「そういうことか。お前マジで俺のこと言えんくらいお人好しやん」
「……うるさい。筋を通しただけだ」
「ホンマにぃ〜? 鱗分けたるのはやり過ぎちゃう〜?」
ニヤニヤとシルバはアウルムをおちょくる。こんなイジれる機会は滅多にないとここぞとばかりにアウルムの行動の指摘をした。
「ほっとけ」
アウルムはぶっきらぼうにそう言ってそっぽを向いた。
***
日が沈みきる前に冒険者ギルドに戻り、依頼の達成報告、死亡者発見の報告とその手続き、換金作業を終える。
牙と毒袋に加えて卵、脱皮の残骸、鱗などを合わせると報酬の合計は約金貨28枚となった。
今日だけで、ザナークの仲間から奪った金から冒険者への見舞金として金貨10枚を引き金貨43枚の利益となる。
毒の一部も確保してあり、毒耐性が上がるオマケつきで、戦果としては十分過ぎるほどだ。
先日の服の出費分も回収出来たし、懐は温かい。
「強えと思ったけどAランク冒険者だったのか」
「まあな」
アウルムのギルドカードを見たガストンは坊主頭を撫でながら驚きの声をあげる。
「まあお前らAランクからしたらこんな街の報酬なんて小遣いくらいかも知らねえけどよ、駆け出しのあいつらからしたら、おこぼれでも大金だ。俺もベテランで若いのに世話を焼いてるが装備の金までは出してやれねえから助かったぜ……そんじゃあ飯行こうか? 約束通り奢らせてくれや」
「分かった、ご馳走になろう」
「俺は先帰るわ」
空気を読み、シルバは参加を遠慮する。
「おいおい、あんたにも奢ろうと思ってたのに遠慮することねえぞ?」
ガストンはシルバを引き留める。
「いや、ちょっと疲れてるんや。ありがたいけど実際助けたんはアウルムやし別に気にせんでええし、楽しんでこいや」
「良いのか?」
「ああ、ええんや」
アウルムもシルバに確認するが、今日の乾杯の酒に水を差すほど野暮なことをするつもりのないシルバは冒険者ギルドを先に出ていく。
「俺はラナエルたちを助けて感謝もされた。ザナークも俺が捕まえたから、目が覚めたら何もかも終わってみたいな気持ちになったやろうな……お前かて頑張ってたんやから楽しんだらええねん……」
ハメを外す。人間が人間らしくいるのに必要な行為でシルバはどちらかと言えばそういうのが得意だ。
だが、アウルムは必要なことを優先しがちで、ハメを外すという行為自体関心が薄く思えるほど真面目だ。
時には勝利の美酒に酔いしれる時があっても良い。
アウルムには聞こえていないが、そんな意図があるのだと、シルバは薄暗い冒険者ギルドの前の通りを歩きながら呟いた。
次の朝、アウルムは二日酔いで頭を抑えながら青い顔をして帰ってきた。
「昨晩は随分とお楽しみだったようで」
「お前は朝帰りを咎める妻かよ……」
「回復したろか?」
「頼む……いや、やっぱ良いわ。今日は寝とくからほっといてくれ」
「はいよ」
アウルムがシルバの回復を拒む。シルバには何となくその理由が分かった。
この二日酔いも含めて飲みを楽しんだ。この頭痛と気分の悪さも含めてアウルムにとっての経験、思い出、戦利品なのだろう。
アウルムの寝顔は実に気分の良さそうなもので、珍しく大きなイビキを立てて眠っていたのを見て、シルバは微笑んだ。