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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-14話 ジャイアントスネーク

 

 煙を小屋へ行き渡らせると我慢しきれず、咳き込みながらザナークの仲間が転がり出てくる。


「はい確保〜! 最初からこれで良かったやん、なんやねんあの罠解除の茶番は……爆発物処理班とかアホちゃうか」


 シルバは闇魔法で生み出した影を縄のように使い、拘束していく。


「……警戒するのに越したことはないからな。さっさと攻撃しない契約結ばせろ」


「おいコラ罪人どもっ! お前らは殺人のステータスついとるから俺らは殺せるけど、お前らが攻撃仕掛けてきたら正当防衛でボコボコにするからな?

 大人しく質問に答えたら痛めつけへんことは約束するわ。分かったら頷け」


「賞金稼ぎか……? 金ならある……いくら払えば見逃す?」


「おいっ! 俺は今分かったか聞いてんねんこのボケ! 『はい』か『いいえ』やろうがっ!」


 シルバは身動きの取れない男一人の髪を掴み、地面に顔を押し付ける。


「わ、分かった……質問に答えるっ!」


「よーし、アウルム終わりましたわ。後は任せます」


「手短に終わらせたい。無駄な質問、曖昧な回答は許さんぞ」


 ***


 結局、隙を見せると反撃しようとして『破れぬ誓い』が発動。ペナルティにより行動の自由は完全に奪われ命令に従う傀儡と化す。


「ふう……知りたいことは知れたし仕事は終わりか。便利なんだけど二度手間なんだよな……」


「犯罪者はこっちを出し抜いたろう、油断したら逃げ出せるって俺らのこと舐めるよな。まあ、そういう舐めた行動を許さんのが俺のユニークスキルなんやが、これ以上は心を読むスキルみたいなんがいるやろ」


「でも知ってる限りそんなスキル無いんだよなあ……催眠魔法で自白を促すとか洗脳するみたいなことは出来るけど、時間がかかるものらしいしな。まあ、あったらユニークスキル級だからな。勇者殺して偶然ゲット出来ることを期待するしかないんじゃないか?」


「でも、そんな敵と鉢合わせたらヤバくない? 俺らの秘密ダダ漏れやで?」


「いや、ユニークスキルと言っても万能じゃないみたいだからな、必ず制限とかデメリット、不便な点があるし、大丈夫……と言いたいが何かしらの対策は考えておかないとな」


「デメリットが使用したら疲れるとかの場合知らん間に記憶読まれてるってことになるしな」


「だから勇者の能力が分かるまでは極力近付きたくないんだが」


「あっちから近寄ってきたら防ぎようがないってか、気付きすらせんかもやしな」


「そういうマジックアイテムが作れる、もしくは手に入れられたら良いんだが……マジックアイテムの流通、制作のノウハウは迷宮都市が一番だから早く向かいたいんだよ」


「やっぱ王都は迂回か? 西のキラドから直線上に中央に王都、東に迷宮都市って感じでぶつかるけど」


「この国のシルクロード的なマジックロードが国を横断してるからその方が楽なんだが、王都って俺たちが本気出しても勝てないくらい強い奴がいる可能性高いから今は避けたいしな……」


「となると、北か南に向かうことになるけど」


「その話は帰ってからにしよう。ラナエルたちにも説明する必要があるし、旅商人の彼女たちからもアドバイスをもらった方がいいからな」


「あいよ。小屋の捜索してジャイアントスネーク狩って終わりやな」


 道中、ジャイアントスネークの巣穴は確認出来ているので帰りに寄るだけで済む段取りとなっている。


『虚空の城』のザナークを拘束している区画に仲間も放り込み、小屋の探索を開始した。


 小屋に入るとアウルムとシルバを強烈な悪臭が襲う。


「うわっ……この臭い強烈やなっウォエッ!」


「人間の嗅覚というのは刺激を受け続けると麻痺する。普通に鼻呼吸していれば大丈夫──ウォオオオオエッ!?」


「あかんやんけ! 慣れるまでが問題やろ!」


 悪臭の原因、それは様々な理由があった。


 長期間、籠った男たちの汗や尿などによる代謝由来のもの。


 狩ったモンスターの残骸による腐った肉や血、生ゴミ。


 そして運悪く小屋を発見してしまって殺されたであろう冒険者の死臭。


 近くに埋めたらモンスターが掘り返すという可能性を考慮してか、小屋の中の地面を一部掘って埋めようとしていた途中だったようだ。


「モンスターに殺される危険はつきものやが……人間の勝手な事情で殺されるってのはなんともな……」


「このまま食い荒らされるのもなんだから、荼毘にしてやれ」


「せやな……遺留品だけ回収して冒険者ギルドに提出か?」


「まあそれが冒険者の流儀というか、決まりだからな」


 冒険中に冒険者の死体を発見した場合、冒険者ギルドに報告する必要がある。


 荷物などの関係上、遺体を持って帰るのは難しい。冒険者のギルドカードがあれば回収して提出する。

 状況的に可能であれば、なのでそれをしなくても罰則はないが、放置するほど薄情でもないアウルムとシルバは服や荷物を漁って、ギルドカードといくらかの金銭を回収する。


「金はあるって言うだけあって、そこそこあいつら持ってやがったな」


 シルバが小屋から出て冒険者の遺体を火葬している間、アウルムは小屋の中を調べていた。


 中にはべっとりと酸化した黒い血のついた金貨まである。


「金貨24枚に銀貨17枚……後は装飾品や武器か。ジャイアントスネークより割がいいな」


「人を困らせて得た金やからなあ……金に綺麗も汚いもないけどネコババみたいで嬉しくはないけど」


「だが、拾った金は俺たちのものだぞ」


「分かってる。けど、元は別に悪いことしてないやつの金を分捕って蓄えたものやから、それを更に俺らがこいつら倒したからって何食わぬ顔でもらうのも筋通ってないというか……最低でもこの冒険者の遺族に渡すのが筋な気はするねんな」


「はあ……じゃあ金貨10枚はギルドにカードと一緒に提出して遺族がいれば返却で気が済むか?」


「こいつの武器もやな」


「お人好しが……」


「お前かて俺のもんや!って言い張らんねんから十分お人好しやで」


「俺はお人好しじゃなくて、なんだかんだお前に甘いんだよ」


「……甘いか? 耐性つける為に毒物ちょっとずつ摂取させようとしてたやつが?」


「それはお前の為を思ってだな……」


「実験材料にしてないって『誓える』か?」


「…………」


「おい」


「……」


「おいっ!」


「さ、日が暮れる前にジャイアントスネーク討伐して撤収だな」


 アウルムはそう言ってそそくさと荷物をアイテムボックスに放り込み、小屋を出る。


「こいつホンマ……」


 そこでキレずになんて奴だと思いながらも許してしまうのはシルバも同様に甘いのだと、自覚する。


 ***


 小屋を後にして、ジャイアントスネークのいる方角へと進んでいく。


 近くの大きな木に目印をつけていたので、すぐに場所が分かる。


 単調な景色が続く森の中では、こうしたちょっとした目印が道標になる。


「ジャイアントスネークは留守か……今のうちに卵と脱皮して残した皮を回収してと……あいつはどこにいる?」


 アウルムが30センチほどある黒い鈍く光る卵を回収していく。


「餌でも探しに行ったんちゃうか?」


「待て……人の声が聞こえるぞ」


 アウルムがシルバの言葉を遮り、耳をすませる。


「誰かーっ!」


「助けを呼ぶ声だ、先に森に入ってた冒険者が遭遇したか!」


「単体でBランクのモンスターやし、結構強くないと苦戦するんちゃうか?」


「だろうな」


「で、助けるん?」


 声のする方に走り出しながらシルバは対応を確認する。


「別に見ず知らずの冒険者を助ける義理はないんだが……それこそ自己責任の世界……いや、事情が変わった。助けるぞ」


 冒険者数人とジャイアントスネークが交戦中であることを確認。


「俺はええけど珍しいな?」


「話は後だ、食われちまう! 範囲凍結行くぞっ! 『フロスト』!」


 この世界の魔法は詠唱をする必要がない。詠唱がなくとも魔法は発動する。


 それでも詠唱する者は多い。言葉にこもった力によって魔法のイメージを固めやすいというのが大きな理由だが、現代の創作物を浴びるほど見ている二人からすればイメージというのはしやすいもので、むしろ詠唱が邪魔になってしまう。


 例外として一緒に戦闘を行う時は事故防止と連携のしやすさの為、魔法名を口に出すことがある。


 技の内容とタイミングを把握するのはこれが一番効果的で、当初は無詠唱が便利だと考えてそれぞれが好きなタイミングで発動させていた。


 パーティで活動している冒険者に何故詠唱するのかと聞くと、連携の為と言われて納得し、その後二人もそのシステムを採用している。


「蛇は変温動物だからこれで動きが鈍る!」


 急激に森の気温が下がり冷気が漂い始める。


「『風刃』ッ!」


 シルバが風の刃を魔法で作り出して、動きが鈍くなり回避出来ないジャイアントスネークを横から斬りつける。


「くそっ! ちょっと遠いか!」


 距離があったので、シルバの攻撃はジャイアントスネークを倒すまでには至らず鱗の表面に浅い傷をつける。


 それでもヘイトを買うことは出来た。


 ジャイアントスネークは黒と緑のマダラ模様の全身をグルリと動かしてこちらを縦に細い瞳孔で睨みつけ、シャーッと威嚇する。


「誰を睨んでんだお前?」


「シャッ!?」


 蛇に睨まれたカエルの如く、蛇はアウルムに睨まれる。


 ──『現実となる幻影』発動。


 ジャイアントスネークにはそれはそれは恐ろしい幻が見える。それによってピタリと動きを止めた。


 生き物が恐怖に直面した時、合理的に考えれば即座に回避行動に移るべきである。


 しかし、現実は身体が硬直し、目の前への恐怖への対処が数瞬遅れる。


「死ね……」


 アウルムはアイテムボックスから取り出していた槍を振るい、首を落とす。


 ジャイアントスネークの生命力はしぶとく、頭を落としても頭だけで噛みつくこともある。油断は出来ないのだが、水魔法の範囲凍結により噛みつくほどの元気が残っておらず、ノロノロとのたうち回る頭部の脳を槍で貫いて絶命させる。


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