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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-13話 炙り出し

 

「二人で狩りすんのも久しぶりやな」


「2週間以上間隔空いたからな……これとかどうだ?」


 エルフ達の世話や旅の準備なのをしているうちに戦闘をしていないことを思い出した。

 せっかく来たキアノドの街にて、一つくらいは依頼を受けておこうという話になる。


 Aランク冒険者はSランク以外の依頼を受けることが出来る。通常は自分のランクより一つ上までが受けることが可能だが、AランクとSランクの依頼には超えられない壁が存在するほど、難易度に差がある。


 Sランク依頼というのは国が依頼を出すレベルの高難度依頼で、滅多にない。


 Bランクの依頼を見つけたので、アウルムがこれにしようと提案する。


 世話をする人数もそれなりにいることだし、彼女たちには商売の方で活躍してもらうことを期待しているが、現状はまだ何もすることがない。


 よって、多少の金を稼ぎ余裕を持たせておきたい。


 依頼内容はジャイアントスネークの牙と毒袋、それに鱗は歩合であるほど良いとのこと。

 報酬は金貨7枚。まあ悪くない値段だ。


 この世界の平民の4人家族が1年間質素ではあるが、生活出来るほどの大金。命を落とすリスクを考えれば安いとも考えられるが、強ければそれなりに儲かる仕事でもあるのが冒険者というものだ。


 儲かると言っても、武器や装備、食事など経費もそれなりに飛ぶのが冒険者という生活なので、一般的な4人パーティならば一人頭金貨1枚と銀貨7枚と銅貨5枚。


 これに諸々の経費などを考えるとそこまで美味しくない。


 宿代、移動の馬の餌代、食品の維持代などが他の冒険者はアウルム、シルバに比べて多く必要になってくるので、人数が多いパーティはランクが高くとも案外経済的には裕福ではない。ということも多々ある。


「毒の耐性上げておこうぜ」


「効率良いからって毒飲むのは嫌やな〜」


 スキルポイントは練度に応じて加算されていく。レベルアップ以外にも日常的に魔法を使用したり、訓練をすることで得られる。


 耐性スキルがあれば、少しずつ毒を摂取することで毒耐性のスキルポイントも獲得出来ることにアウルムが気がつき、時々このような無茶な訓練を行っている。

ザナークの監視任務後、ガストンと酒を飲んで酔っ払いリペーターと遭遇した事に気付かず不覚をとった事もアウルムが毒耐性を上げることに熱心な一因でもある。


「耐性系のスキルはパッシブスキルなんだから取っておいて損はないだろ」


 スキルにはパッシブスキルとアクティブスキルが存在する。


 体質や耐性に影響するようなスキルはパッシブ。スキルの使用を意識せずとも常に発動し、所持者の一部となっている。魔力消費なども殆どない。


 一方、アクティブスキルは使用を意識して発動する。

 戦闘や魔法に関するものはこれにあたる。

 また、使用の際に魔力や体力を消費するものだ。


 例外として、技術や知識系統のスキルは魔力や体力を消費しないものの、常時発動するものではない。


「スキルっていうなら、もうちょい水魔法の練習しときたいなあ、この前のザナークとの戦いで消火手段がなかったから難儀したわ」


「でもお前は既に火、風に加えて最近闇まで使うようになったろ、これ以上は手を広げない方が良いんじゃないか?」


 アウルムはアクティブスキルを何でもかんでも獲得しない方針を取った。スキルポイントの無駄遣いであることに加え、器用貧乏になることを懸念している。


 一人暮らしを始めた時に調味料を揃えるが結局使うのはごく一部で腐らせてしまうことあるだろという指摘によってシルバは納得していた。


 調味料程度であれば、勿体無い。で済む話だが、ピンチの場面で工夫せず、手当たり次第に持っているスキルを試すのは時間と魔力の無駄になる。

 結果的にそれが敗因となる。慣れない武器を使う危うさがある。


 自分の得意とする戦闘法、ユニークスキルを起点とした戦いの運び方、勝ち筋の作り方を洗練させる方向で経験を積んでいる。


「っても、火と風で遠距離攻撃出来て、闇で行動阻害のパターンは戦いには向いてても人命救助とか火系のモンスター、人間と相性悪いねんな……」


「剣士なんだからそんなもんだろ。それに火なら空気を送らないように操作したら良かっただろ」


「あ……」


 アウルムに指摘されて、シルバは目から鱗が落ちる。


 風の刃や空気弾を飛ばす練習ばかりしていて、手持ちのスキルで苦手なことにも対応するという発想がなかった。


「言われてみればその通りやが、今のところそこまで繊細な操作は出来ひんなあ、えーと風魔法のスキルレベルは4か……あんなデカい火事消すなら属性相性から考えても6以上な気がするし」


 スキルレベルの意味。レベルごとに出力量、精密度が上がるというのが、アクティブスキルの基本的なルール。


 仮に魔力が100でスキルレベルが1という人間と、魔力が60でスキルレベルが3の人間がいたとする。


 レベル1ごとに出力が10上がるとする。魔力が多くとも魔法を10の出力で10回使用出来るだけで、出力30の魔法を2回打つ方が強く、精度も高いという結果になる。


 魔力の多さ=馬力の図式にはならない。


 魔力とは飽くまで容量であり、一度に放出するには相応の技術、スキルレベルが必要となってくる。


 だからこそ、あらゆるスキルを中途半端に持っていても、そこまで効果的ではないというのがアウルムの持論だ。


 自分たちが強くなりやすく、万能なスキル構成が可能という立場だからこそなんでも欲しくなる。


 異世界転生したのだから、全属性に憧れたりもする。


 最終的にはそれを目指す方が良いのかもしれない。


 しかし、時間も資源を限られている現状では手持ちの能力をやりくりする必要があり、ある程度の能力の『尖り』が重要になってくる。


 不足は互いに埋める。それでこそ、コンビを組んでいる意義があるというものだ。


 そう言われてシルバは渋々アウルムの説得を受け入れる。


「まあ、スキルというよりはマジックアイテムやエンチャントされた武器による強化はした方がいいだろうな。俺は技術系は調合、錬金術、マジックアイテム制作のスキルを上げるつもりだ。シルバは武器が好きなんだから鍛治、付与系のスキルを習得することを目標にしないか?」


「いいねえ、俺だけの武器を自分で作る……ファンタジーロマン溢れるワクワクする話や」


 自分だけの武器を作ることを想像してシルバは途端に機嫌が良くなった。


「そのあたりのスキルは迷宮都市で職人から学ぼうと思う。一度獲得してしまえば後は戦闘してスキルポイントを稼ぐだけでどんどん上がっていく俺たちのチートを活かそう」


「迷宮都市行くの楽しみになってきたな」


「ああ、実は俺も楽しみにしている。便利アイテムはいくらあっても良いし、金策にも役に立ちそうだ」


「まずは仕事してからな、そういう楽しい話は……」


「行こうか。メインの方がさっさと終わると良いが」


「結局人間が一番面倒くさいねんな」


 ギルドの依頼はついでの案件。メインはザナークの仲間が近くの森の小屋に潜伏しているのを討伐し、キアノドの騒動の禍根の一切を断つことだ。


 ***


 キアノドから馬で約2時間の距離にあるヴォイテガ森林の入り口に立つ黒い幹の大樹に馬を括り付けて、森へと入っていく。


「ここの危険度どんくらい?」


「平均はDランク。奥の方にはAランクの個体もいるそうだが、街の方には来ないようだ」


「俺らのステータス的には問題ないか」


「と思うがな。問題は他の冒険者との鉢合わせだ。ここはキアノドの冒険者の狩場だからな」


「そんな人の多いところにザナークの仲間が潜伏してるんか」


「だから、奥の方まで歩く必要があるだろうな……街から比較的近く、目立たない場所となるとここくらいしかないし、無理もない」


 足元には他の冒険者の足跡が残っている。それをチラリと見たシルバが、おおよその人数を数える。


「4人……いや5人か」


「4人組と3人組の計7人だ。4人の方は大柄な大人の男1人と3人はまだ子供だろうな……。3人組の方は中々ベテランだろう、斥候の踏んだ場所を的確に歩いている」


「それズルいやろ!? なぁっ! 『解析する者』!」


「だから、『解析する者』がないお前が観察眼を鍛えられるように答え合わせしてるんじゃないか。これくらい読めないとAランク冒険者として怪しまれるぞ」


 長い年月をかけて、磨いていく冒険者としての経験や技が急造のシルバとアウルムには欠けている。


 ユニークスキルや鑑定に頼らずとも、普通の冒険者であれば出来ることを同じように普通に出来るようになる。


 特に冒険者仕事をメインですることになっているシルバには必要な技術だ。


 アウルムの視界には足跡が人ごとに色が違って見えているので、こういった分析は簡単だが時々、自分の目と知識だけで推測する訓練も自主的に行っている。


「それで、ザナークの仲間も3人組なわけやが、こっちの方を追跡するんか?」


「いや、この足跡は女だな。ザナークの仲間は全員男だから違うだろう」


「でも、ザナークも詳しい場所は知らんのやろ? 尋問しても答えられへんようにって符牒が聞いたけどさ」


 ザナークだけに限らず組織で活動する者同士が分かる合言葉──符牒。


 現代日本においても、食品を扱う店ではトイレやゴキブリの出現の連絡、スーパーなどに置ける万引きの業務連絡やレジの応援など、身近なものである。


「小屋というもの、長期の滞在を考えればそうだろうという予測だからな。俺の考えでは冒険者に擬態していると思う……そこで、顔を合わせた冒険者には一応挨拶をする。符牒を混ぜた会話だ。ザナークの連絡係と思わせないとな」


「どのみち鉢合わせしたら挨拶するのが礼儀やしな」


 冒険者が狩場で顔を合わせた場合に軽く挨拶をするというのは常識だ。いざとなれば連携して戦い、獲物の横取りをしない配慮。


 山登りですれ違った人間と挨拶をするのに似ている。


「それで……手当たり次第に探すのは効率が悪いとしてどうするかやな」


「たまには自分で考えろよ。お前だってプロファイリングや追跡、捜査を一人でやらないといけない場面があると思うぞ?

 お前は相手の気持ちに立って考えるのが得意だから、行動、思考のトレースは訓練したら出来るはずだ」


「はいはい、分かりましたよ教官」


 アウルムは知識や情報を元に科学的な証拠を集めて帰納的な思考をする。こういう時に人はこうするだろうと考えるが、人は時として不合理な行動をすることがある。

 そういった心理まで考えることが苦手だ。


 そこにシルバが「いや、普通はこうするで?」という指摘をして、推理を修正することがある。


 よって、アウルムとしては現場の行動の再現などから行動予測をするのがシルバには向いていると考えている。普通の人としての行動を観察し推測するのもプロファイリングや捜査の手法の一つだ。


 別にシルバがアウルムに劣っているのではない。得意分野が違うだけ。シルバはその活かし方を知らないだけだ。


「え〜っと……長期間潜伏するなら水と食料が必要……普通はまずは水の確保……水場……川か」


「うん、水源を辿ろうと思う。他にも罠なんかがあれば警戒したいところだな」


「よし、お前は俺について来い。接近戦雑魚なんやから」


「馬鹿か? 能力的に俺の方が斥候に向いてるんだから俺が先行する」


「大丈夫やってこれでもAランク冒険者……痛ったぁっ!?」


 そう言いかけた矢先、シルバの足にはモンスターを捕える罠、トラバサミが食らいついていた。


「ステータスとユニークスキルなかったら大ダメージだぞ……」


「お前が先頭や……」


「油断するなよ、ここはもうモンスターの住む、冒険者が狩りをする森だぞ」


「勘が鈍ったかなあ……」


「単に注意不足なんだよ」


 シルバはトラバサミを力づくで外して『非常識な速さ』で怪我を治す。


 ***


「あそこか?」


 二人の眼前には枝でカモフラージュされている簡素な小屋がポツンと立っている。


「間違いないな、周囲に罠が張り巡らされてる。シルバ勝手に行くなよ、鳴子に繋がってる糸があるからな」


「あのなあ、俺は別にドジキャラちゃうで?」


「ドジではないが、俺の話を全然聞いてないことが多いからリスクマネジメントだ。そして俺が『だから言っただろう』と気持ち良く言える為の準備だ」


「クソやなお前」


「取り敢えず罠を解除してくる」


「気をつけろよ」


 アウルムは先行し、罠を解除していく。時間的に夜まで待ちたいのだが、ギルドの依頼も受けている為この仕事はそれほど時間をかけていられないので、手早く済ませたい。


 プツッ──。


 ピンと張られたワイヤーが切れる小さな音が聞こえる。


 今のところは順調。問題なく次々と罠を解除していく。


(モンスター用と人用の罠があるな……いやらしい仕掛けだ)


 流石暗殺者集団といったところか、奇襲の恐ろしさが分かっているらしく罠は一つ一つが連携しているもの、独立しているもの、攻撃用、警報用、あらゆるものが用意されている。


(おーいまだか〜?)


(今やってるだろ、気が散るから話しかけるな。爆発物処理班に催促するアホがいるか?)


 シルバの念話にイラつきながら答えるアウルム。


(それは悪かったな、でもお前の肩に割とデカめの虫が登ってきてるから一応教えたろと思ってな)


(ッ!? 嘘!? どこ!?)


(お、おいっ! 動くなよっ!? お前罠解除中やろっ!)


(無理無理無理っ! 俺は虫が嫌い──)


「おあああああああああああっ!?」


「アホンダラァッ!」


 アウルムは大声を上げ、解除中の罠を放り出して肩にいる虫を払いのける。


 カラカラカラカラカラカラッ!


 未解除の鳴子が音を立てて静かな森の中に響く。


 だが、鳴子よりもアウルムの声の方が大きい。


 シルバはアウルムの方に駆け寄り『不可侵の領域』を展開。


 雨のように矢や槍が降り注ぐ。


「俺がおらんかったらハリネズミやぞ!」


「……大丈夫だ、ハリネズミは足が速いから避けられる」


「ふざけてる場合かっ! それゲームのハリネズミっつうか、ヘッジホッグやろ!? ……言わせてもらうで、だから言うたやろ? 『気をつけろ』って」


「それより見ろ、やつら罠に気付いて顔を出したぞ。こっちの姿が見えないから奇妙がってるな。よし、3人いるな。数も情報通りだ」


「話聞けや」


 アウルムの注意は既に小屋の方に向き、シルバの話を無視して話し続ける。


「今から符牒使ったら信用するかな……」


「よく考えたら罠解除せんと、符牒で声かけたら良かったんじゃないの? 符牒の意味ないよな?」


「あ…………」


「おいおい頼むわ作戦担当様」


「うるさいっお前だって気付いてなかっただろうが」


「そうなると、もう戦闘しかないよな……」


「穏便に話して情報絞り出す方が簡単だったのに拷問かお前の能力で何とか縛るしかなくなったな面倒な……」


「殺さず無力化……やねんな? こっちのフィールドに誘い込んでデバフかけるか」


 シルバが結界の範囲を広げる為に四方を歩き回る。


 外の様子を警戒しているのか、ザナークの仲間たちは姿を現さないままだった。


「で、どうやって誘い込むかやけど」


「炙り出してやるよ、生木を焚べて煙を風魔法で運んでくれ」


「それ、炙り出してっていうか、燻してるんじゃないか?」


 アウルムの指示にシルバがツッコむが、周囲の木をナイフで切り落として無視をする。


「……良いから早く終わらせるぞ、もう昼過ぎだ。夕方までには帰りたいからな」


「へーい……」


 シルバはアウルムと同じように周囲の枝を切り落として集め出した。




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