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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-11話 闇の神の紋章

 

「皆腹減ってるか? 飯作るわ」


 アイテムボックスから鍋や材料を取り出しながらエルフたちに話しかける。


「い、いえっ……お構いなく……!」


 ラナエルは代表して遠慮するがその言葉に反応したのかエルフたちの中から腹の鳴る音が聞こえる。


「腹減ってるんやろ、食材切る事くらいは出来るなら手伝ってくれ。俺料理はあんまりやねん」


 どちらかと言うと、お菓子作りの方が得意なシルバは包丁を一つラナエルに渡す。


「は、はいっ……」


 簡単な野菜スープを作るつもりなので、8人分の材料を次々取り出して渡していく。


 野菜のカットを待っている間に鍋に水を入れ、火を起こして沸騰するのを待つ。


「ところで……質問していいでしょうか?」


「ええで」


 鍋を見つめるシルバが返事をする。エルフの誰かが発言したのだが、リーダー格と思しきラナエル以外の区別がつかない。

 鑑定すれば名前は分かるが、それをすると一生覚えない気もする。


 アウルムの『解析する者』によるメモ機能が羨ましくなった。


「シルバ様は空間魔法の使い手ですか? あの結界といい、この空間といい、何もないところから物を取り出す……勇者のアイテムボックスに似ていると思うのですが」


「あー、結界は俺のやが、この場所はあそこで寝てるアウルムって奴の能力やな。勇者のアイテムボックス知ってんのか?」


「ええ……この目で何度も見ていますので……シルバ様は……その……勇者…………なのですか?」


「勇者ね……いや、俺は俺らは真逆の存在やな」


「真逆の存在?」


 緊張しながら質問したラナエルだったが、予想外の答えに目を丸くして言葉をそのまま返した。


「ま、後で説明する……かも知れん」


 アウルムに事情を説明してから話した方がいいと判断して今は回答を保留する。


 野菜を鍋に放り込み、塩胡椒で味付けし、野菜がクッタリと柔らかくなった頃には美味しそうな匂いが漂い始めた。


「……どうなってる……これは……説明してくれ……」


「起きたんか!? 大丈夫か!?」


「ああ、どのくらい寝てた?」


 目を覚ましたアウルムにペットの犬が尻尾を振りながら走り出すかのようにシルバはアウルムに近づく。


 この反応からシルバにとって、あのアウルムという人物がとても大事な仲間だと認識した。


「丸々半日以上やな」


「ショートスリーパーの俺が半日以上か、寝過ぎたな……」


 普段ならば5時間もすれば目を覚ますアウルムにしては長時間の睡眠だが、158日間の戦いに10日間の張り込みの疲労を考えれば、それでも短いくらいだ。


「ところで、何故上半身裸なんだお前は……それにあの女たち……まさか……」


「多分やけど、思ってるのとは全然違うって先に言うとくで? 結論から話すとザナークの確保に成功。屋敷は全焼して、エルフ6人を保護した」


 アウルムの邪推を遮り報告をするシルバ。どうせ女を連れ込んだのかと嫌味を言うつもりだったのだろう。


 いくらなんでも、この場所に呼ぶことはないと断言する。


「は……? 半日の話……なんだよな?」


「ああ、こっちも色々あったんや」


 ***


「なるほど、そんな事が……」


 事情を理解したアウルムは目を細め今後のプランを練る為頭脳が高速回転し出す。


「飯食えるか? お互いボロボロやからまずは腹ごしらえや」


 椀をアウルムに差し出してシルバはスープをすする。


「皆も食うていいから、おかわりもしていいから」


 恐縮するエルフたちに無理やりスープを進める。これくらい強引じゃないと聞いてくれないのだ。


「なんで俺あんなにビビられるっていうか、偉い人みたいに扱われてるんや?」


「助けたからでは?」


「いや、それにしても大袈裟っていうか逆に気味が悪いというか……」


 感謝。では説明のしきれないような忠誠を感じ、どうにもむず痒い。


「それで、彼女たちをどうするつもりだ? 捨ててこいとは言わんがノープランだろ?」


「そこはお前が考える担当やろ」


「おい……」


「いや、これは無責任とかじゃなくて俺も考えるけど得意な奴に任せた方が間違いないっていう俺の処世術やから」


「結果的に丸投げしてるじゃないか!」


 シルバのヘラヘラとした態度にアウルムはツッコミを入れる。しかし、本気で怒っているのではない。シルバとはそういうやつだとアウルムは元から知っている。


「あの、お話中口を挟んで申し訳ないのですが……アウルム様の胸を見せて頂けますか?」


「あ、あ〜……ラナエル? こいつ女顔やけど男やからな?」


「胸が膨らんでいるか確認したいのではありません……」


 検討はずれのシルバの発言にラナエルは困った顔をする。


「これでいいのか?」


 意図は分からないが服を脱いで胸を見せる。


「やはりそうでしたか……あなた方が使徒様なのですね。お目にかかり光栄です」


「「は?」」


 改めてエルフたちは畏まりながら跪く。意味がわからずアウルムとシルバは揃って声を上げる。


「あ……もしかして闇の神の紋章が見えるのか?」


「仰る通りです」


 ラナエルは頭を下げたまま、アウルムの質問に回答する。


「そう言えばそんなこと言ってたなあのお方」


 シルバは思い出したと手を叩く。


「!? 闇の神に直接お会いになられているのですね!?」


 ラナエルたちの目の色が変わり、狂信めいた顔つきになる。


 闇の神の紋章──転生する前に闇の神が二人に授けた闇の神の使いである証。


 光の神を信仰する人間には見えない。闇の神を信仰する人間以外の種族、一般的に亜人と呼ばれる者たちの中でも光の神、及び勇者に対し強い敵意を持つ者にしか見えないとされる紋章。


 二人だけで勇者たちと戦うことは難易度が高く、人間と親密になると光の神に情報が筒抜けになるリスクがある。

 そうなれば亜人サイドを味方につける必要が出てくる。


 しかし、亜人からすれば人間であるアウルムとシルバが闇の神の使いと言っても信用されない。


 そこで、闇の神の一部の信徒にのみ証明する機能、身分証、印籠として与えられた紋章が二人の左胸に刻印されている。


 ラナエル達がシルバを信用したのは、火事で焼けた服から見えた紋章を確認したからだと言う。


 だからこそ、闇の神の使徒な上に命の恩人であるシルバ達を裏切ることなどあり得ないと断言する。


「で、アウルムよどうすんの?」


「結局こっちに丸投げなんだな……だが、裏切る心配がないなら味方として引き入れておくべきだろう。勇者を殺すのに資金やコネ、人材やいくらあっても足りないからな……」


「ちょっと待ってください、今なんと仰いましたか?」


「あ〜、俺らの使命は調子乗り過ぎた勇者を殺して光の神の力を削ぐことなんやわ。既に二人殺した」


「「「「「「ッ!?」」」」」」


 エルフ一同は固唾を飲み、表情が明らかに変わる。


「是非っ! 是非我らをお使いくださいっ! 何卒ッ! 何卒勇者を殺す手伝いをっ! 戦えと言うならこの命を捨てます! 鍛えろというならば寝食忘れ鍛えますのでっ!」


 地面に頭をつけ、土下座の形で懇願しだす様子をシルバとアウルムは言葉を失いながら眺めた。


「何か事情がありそうだな……」


「私たちの村は勇者によって焼かれ、同胞は殺され、違法な手段で奴隷にされました。仲間の敵を討てないまま朽ちていくのだけは……! 耐えられませんッ!」


 中には涙を流し、嗚咽を堪える者もいた。並々ならぬ想いが伝わってくる。


「流石勇者……悪いことばっかりしとんな……」


「目的が同じであれば、その言葉も信用出来るな」


「アウルム、決まりやな?」


「良いだろう」


「皆これから俺たちの仲間や、よろしくな」


「その勇者について詳しく聞かせてくれ」


「おいっ……それは後でいいやろ」


 情報収集を最優先したがるアウルムをシルバは嗜める。こういう気の利かなさをシルバがフォローするのは毎度のことだ。


 ***


 食事を済ませて、一息ついたところで真面目な話を切り出す。


「まず……お前達は何が出来る? 職業は?」


「私たちは旅商人をやっていました。今となっては資金も資材もないのでお役に立てそうにありませんが……魔法は私だけDランク冒険者程度には使えます。しかし皆使えても生活魔法だけで戦闘能力はほぼありませんのでお二人の足手纏いになるでしょう」


「そうだな、まずお前達を勇者との戦闘に参加させるつもりは毛頭ない。邪魔だし、はなから期待していない」


「言い方あるやろ……悪いな」


「いえ、事実ですので構いません」


 ラナエルはシルバの謝罪を流す。


「そもそもエルフが旅商人というのは何故だ?」


「私たちはヒューマンではありませんので、ヒューマンの国で商店を持つ事が出来ません。村に住むエルフは農民か狩人か何かしらの職人になるか、冒険者になるか、旅商人くらいしか職につけません」


「その理屈は分かる。だが、旅商人と言えど護衛を雇う資金力、または武力。それに旅の水場に関するルートやツテが必要なはずだ。どこで商売に関する知識やツテを手に入れた?」


 村人ならば、その話はおかしいとアウルムが疑問を呈する。

 そう言った知識は教えてもらおうと思って教えてもらえるものではない。


「それは勿論、親から引き継がれています。エルフというのは寿命が長く、世代交代が他の種族よりも遅いのです。よって、村の人口は減るよりも増える方が多く老人の数が増えます。

 そうなると、村の維持が困難になるので一定数は村の外に出て生活し、時々村に帰るという生活をしています。私たちの親は旅商人の担当で、それを引き継ぎ旅をしていました。

 久しぶりに故郷に帰った時……勇者に襲撃を受けました……」


 ラナエルは唇を噛み、悔しそうに当時の情景を思い出す。


「少し話は前後するが、お前達は女だけだ。男はどうなっている?」


「若いエルフの男は村での貴重な労働力であり、武力ですので、外に出るエルフは女ばかりです……その武力はたった二人の勇者によって蹂躙されてしまいましたが……」


「え? 勇者って二人組なんか?」


 てっきり単独の頭のおかしい勇者の仕業だと考えていたシルバは口を挟む。


「二人組ではありません。説明が難しいのですが、異なる理由で村にやってきた勇者がそれぞれ村を荒らしたのです。一人は村を焼き、一人は私たちを拉致しました。私たちは言い争っている場面を目撃しましたが、勇者の世界の言葉だと思うのですが……内容は分かりませんでした」


「ふむ……それはこのような言葉か?」


 アウルムはシルバと『日本語』で会話をしてみせる。


 エルフたちは聞き覚えのある忌まわしき音の響きに汗が噴き出す。


「まさか……お二人は……」


「…………」


 アウルムは何も答えなかった。答えるべきか、迷いを見せた。


「同郷のモンのケジメつけさせるわ」


 それ以上の説明はしなかった。が、シルバの一言で間接的にではあるしろ、アウルムとシルバの正体の一端が彼女たちにも垣間見えた。


「それで、そいつらの名前は分かるか?」


「村を焼いた方は分かりません。私たちを拉致した男は『追放者』と自ら名乗っていました。私たちもそう呼ぶよう指示されていました。後もう一人は追放者が『バンドー』とかそんな響きの言葉を……」


「アウルムッ」


「ああ、こいつだな……自分の名前を隠す程度の知能はあるか……それとも……」


 ブラックリスト ファイルナンバー0 『追放者』


 闇の神から渡されたブラックリストの一番初めの男。説明には始まりのブラックリスト勇者と説明がされている。


 1からのナンバリングではないのは、闇の神の感知によって認識したブラックリストのファイルナンバー1よりも以前から行動をしていたことが明らかになったと説明がされている。


「次から次へと繋がってくるな」


「……そういう因果、なのかもな」


 二人はブラックリストのファイルナンバー0と書かれた紙を睨みつけた。

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