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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
11章 ナイト・ムーブス

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11-16話 魔探知


 ラーダン、ミアと合流した二人は砂浜で野営をしながら近況の報告、情報交換をする。


 ヒカルの居場所を見つける手段として、千里眼のような能力を持つ龍人の話は興味がそそられた。もしヒカルがどこにいるかが分かれば、それは二人にとっても都合の良い話。


 協力するメリットは十分にあるが、やるべきことは他にも多い。


「その龍人の女が要求してるお宝やが、夜明けの赤涙か? そもそもその勇者が持ってるとは限らんやろ」


「む……」


 ラーダンはウンコマンとタカちゃんの足取りを追跡したいという考え。その為にアウルムとシルバを呼んだのだが、一通り話を聞いたシルバは追跡という選択に懐疑的な姿勢を示す。


「勇者はアイテムボックスのスキルを持ってるが、容量は知れてる。根無し草の放浪生活に近いことをしてる奴らなら、持ってること自体がリスクの……言ってしまえば使い所が限定されるただの魔石を持ち歩くとは思えん」


「シルバに同意する。奴らは盗むこと自体が目的で、赤涙が欲しくて仕方なかったということはないだろう。売り払ったか、捨てたか、どこかに戦利品(トロフィー)として保管しているか。手元に置いてあるという確証はない」


「最悪、戦闘になって殺したら手元になくて場所はそいつらしか知らん。なんてことになったらいよいよ見つけられんやろうな」


 犯行の記念品として、現場のもの、被害者の身につけていたものを持ち帰る犯罪者はいる。


 服、指輪、腕時計、メガネなどの装飾品。


 髪の毛、爪、性器などの人体の一部。


 家の中にあった置き物、家族写真、現場で自分で撮影した写真。


 トロフィー・コレクターなどと呼ばれる人種は犯行の象徴となるものを集め、記憶の反芻をするキッカケとする。


「ねえ、彼らにとって役に立たないものを危ない真似してまで盗んで、それをお金にも変えず集めて……一体何の得があるの?」


 であれば、ミアは勇者たちの目的、より専門的な言い方をすれば『動機』の部分が分からないと言いたげだった。


「さあな、今はまだ情報が足りないから何とも言えんが……それが勇者ならばユニーク・スキルの条件というような可能性も視野に入れなくてはならない」


「そうか……ユニーク・スキルには特定の行動をすることによってその恩恵を得られるものがしばしばあると聞いたことがある。ユニーク・スキルによって行動を支配されるという発想はなかったな」


 アウルムの指摘によりラーダンは蒙を啓かれたような感覚に陥り、膝を打った。


「勇者と戦う時は動機にユニーク・スキルを利用しているのか、ユニーク・スキル由来の動機なのかを見極めなあかんのや。どちらのパターンにせよ、そこから奴らの戦い方やスキルの中身が見えてくる」


「なるほど、シルバ、アウルムやはり君たちを呼んで正解だったようだ。私には無い視点の意見が次々に出てくる」


 それなりに知識が豊富だと自負するラーダンだが、二人からは思いつきもしなかったような、考え方の土台が違う意見が出て頼もしく思った。


「それで……どう動くべきだ?」


「そう慌てるな。人員や時間は限られている。動き方を間違えれば無駄も多く、俺たちは何も得られないというリスクもある。一旦整理しよう」


 ウンコマンとタカちゃんの調査。犯罪組織を怒らせたようなので、上手く利用出来るかも知れない。


 ルイ様の調査。正体不明だが、勇者である可能性も考慮し、脅威度なども分からないことから無視は出来ない存在。


 カイトの動向。カイトもサウィンを捜索しているので、サウィンの場所と、カイトの目的を調べる必要あり。


 謎のドラッグの生産、流通についての調査。犯罪組織ならば知っている、もしくは生産元である可能性あり。


 現在分かっている事実を一つ一つまとめていく。


「犯罪組織とウンコマン、タカちゃんに関しては一緒に調べられそうやな。動きも派手そうやし、裏の社会じゃ懸賞金なんかも出てるはずやから、賞金稼ぎって形で探りが入れられると思う。となると……俺がやるべきやな、人種的特徴や話し方的に目立ちにくい」


 まずはシルバが手を挙げた。


「カイト・ナオイだがアウルムとシルバは顔を見られているのだから、追跡はやめておいた方がいいだろう。気配を辿り追跡するだけなら私が適任だ。何かあった時も一番生存率が高く、純粋な武力と戦えるのは私だ」


 そして、ラーダンもその中から自分に出来るとすればカイトの対応だろうとシルバに続いた。


「アウルムはどうするの?」


「俺はルイ様の情報とゾンビの情報を並行して街で聞き込みをする。カイトの行く先が正しいとも限らないし、無駄骨に終わるリスクもあるからな。シルバとラーダンが街を出るのなら、俺が残るべきだ」


「そうだね、じゃあ私はシルバの手伝いをしようかな。私は顔見てるし、シルバが見つけても特定できないかもでしょ?」


「ああ、それはそうやな。勇者の顔立ちやからってそれがウンコマンたちかどうかは分からんわ。範囲もやることも多そうやし、相棒がいると助かるな」


 アウルムは残り、ミアはシルバとペアを組む。現状考えられる中でもっとも理にかなった割り振りだろう。


「でもなあ、皆バラバラとなると何かあった時に合流するには一旦この街に戻らなあかん……で、また皆で集まってから目的地に向かうってのは結構な時間の無駄じゃ無いか?」


 シルバはアウルムの方をチラ見しながら言った。その視線の意味をアウルムは理解した。金の糸で出来たような、まつ毛を揺らしながら目を閉じ、こめかみに指をあてて数秒考える。


「どうなんや、アウルム。そろそろ良いんじゃないんか?」


「……?」


「何の話をしているんだ、シルバ」


 ラーダンとミアはシルバの言っていることが分からず、何か言外のやりとりが彼らの中であったのだと気がついた。


「シルバはお前たちの移動のロスをなくす為に俺の恩寵を使えと言っているんだ」


「しかし、君はそれを私たちに明かしたくないのだろう?」


「基本的にはそうだ。だが、シルバの『そろそろ良い』の意味はそろそろ、お前たちを信用して能力を開示しても良いのではないか、そういうことだ」


「それで……開示してくれるの?」


 ラーダンとミアはアウルムに信頼していないと言われてしまうのではないか、一瞬だけ不安を感じだが、それは杞憂に終わる。


「闇の使徒同士でもなかったら考えるまでもなく拒否していたが……王国祭、バスベガ、そして今回の情報提供……俺はずっと観察していた。心配するな、信頼に足ると思っている。良いだろう、見せよう俺の恩寵を」


 アウルムはフッと優しい笑みを浮かべた。シルバはようやくかと、目元を緩める。

 そして、アウルムが空中に手をかざすと半透明のドアが出現した。


「「ッ!」」


「説明するより見た方が早い。ついてこい」


 アウルムがドアを開き真っ暗闇の空間へと入っていく。砂浜からアウルムの姿が突然消えたように見え、ラーダンの魔力を感知する龍眼、ミアの透視出来る龍眼を通してもその暗闇の先はどうなっているのか分からない。


「何してんねん、行くで」


「「……」」


 ラーダンとミアは互いに視線を交わし、うなずいた後シルバに続いてその中に入った。


「これは? 何もない闇だが……姿は昼間のようにハッキリと見える……」


「不思議な恩寵ね……」


「俺の能力に関する質問は受け付けない。見たまま、事実をお前たちに解釈してもらう」


『虚空の城』により、何が出来るかを知れば十分であり、詳細な説明はラーダンとミアの意思とは関係なく漏れるリスクを考慮したアウルムの最大限の譲歩。


 暗闇の中にまた半透明のドアが現れた。今度はドア越しにまるで違う場所の景色が切り取られたかのように浮かび上がった。


「これが俺の力だ」


 ドアを開け、アウルムは『外』に出る。シルバ、ラーダン、ミアも続くようにしてドアから足を踏み出した。


「ここは……馬鹿な、シャイナの王都なのか?」


 そこは路地裏。視線の先には行き交う人々や馬車、そして聞こえてくる言葉。入ってくる情報からヤザザではないとすぐに分かったが、まさかシャイナ王国なのかとその現実をラーダンは疑った。


「転移してるってこと……だよね? あ、あ〜……なんか、今までの行動色々腑に落ちた。なんで奈落からの脱出にあんなに自信あるのか不思議で仕方なかったんだよね。そりゃ自信あるよこれは……」


 ミアはアウルムの謎が氷解し点と点が繋がったとスッキリしたような気持ちと脱力感を覚えて何とも言えない表情をしていた。


「これは……シルバの治療にも劣らん馬鹿げた恩寵だ。隠すのも納得だ」


 一同は来た道を辿り、ヤザザの砂浜へ戻った。


「まず俺はラーダンに同行し、入り口を作ってからヤザザに戻る。その後はシルバ、ミアに同行し、また入り口を作りヤザザに戻る。特別にお前たちも自由に出入り出来るようにしておくから、何かあれば避難したり休憩に使ってもいい。ヤザザにもすぐに戻れる」


「ありがたい! 別行動をした場合の無駄が大幅に削減される。ああ、君の能力に探りを入れたい意図はないが……時差は発生しないのか? 転移系の能力は長距離の移動をした場合珍しくない現象だが」


「時差はない。俺の空間の中にいくら居ようと外の世界と流れる時間は同じだ。ラーダン、カイト・ナオイを追跡するにはあいつの居場所を把握する必要があるが、可能か?」


「ああ、ここから離れていった気配にも意識は向けていた。今も同じ方角に気配があるからおおよその位置は分かる。移動すれば追跡を始める」


 ラーダンは視線でカイトの現在地を示す。街の方へ戻ったようだ。アウルムの蜜蜂で尾行も出来たがカイトならば気がつく可能性もあったので、追跡はしていなかった。


 レーダーのような龍眼は便利だなと思いながら、その眼球ジッと見る。


「龍眼がなくとも、鍛錬すればある程度は似たようなことが可能だ。まあ、魔力の波をぶつける仕組みだから勘の良い奴には気が付かれるのが欠点だがな。実演してみせよう」


 そう言うとラーダンは走り、アウルムとシルバから距離を取った。約200mの距離。


 そこからラーダンは龍眼ではなく魔力を使った索敵を行う。


「なるほど」


「へえ、今のか。俺の『タンコ』による索敵は音が出るから使い分け次第では便利かもな」


 風のようなものが自身にぶつかるのを感じたアウルムとシルバは反応をみせる。ラーダンはデモンストレーションとして敢えて分かりやすく魔力をぶつけたのだろうが、その違和感は普通の者なら無視してしまう程度の微弱なもの。


「ねえ、シルバ、タンコって何?」


「ああ、俺は耳が良いから魔力の代わりに舌で音鳴らしてその反響から索敵が出来るんや。好きな数、指立ててみ」


「こう?」


 ミアの質問にシルバが笑いながら答える。そして目を閉じて舌を鳴らす。タァンと破裂するような音が鳴り、そんなことで指の数まで分かるのかとミアは訝しんでいたが……。


「3本。右手人差し指と、左手中指、薬指」


「うわ、凄いね……私たちはさっきの技術を『魔探知』って呼ぶけど、シルバの『タンコ』の方が魔力の消耗がない分便利なんじゃない?」


「馬鹿言うなミア。こいつの聴覚や、反響する音から空間を把握する能力は特殊だ。基本的にシルバしか出来ない再現性のないものだ。技術とも呼べん」


 真似出来ないのであれば、技術ではなくシルバ固有の能力と言った方が正しい。単に聴覚を上げれば出来るものでもないとミアに釘を刺す。


「チッ……チュッ……あれ〜上手くいかないね」


「どうだ、慣れれば便利だろう……ミア、何をしている?」


 戻ってきたラーダンはミアが舌を鳴らす練習をしているのを見て困惑した。丁度シルバに向かってキスをしているように見えたからだ。


「あ、お師匠これできる?」


「シルバ、彼女に何を教えた?」


「おい、変な勘違いしてないかお前。舌鳴らして音で索敵する方法や」


「ああ……そう言えば君は時々やってたな。私は魔力を使う方が慣れているから必要ないが」


 ミアに変なことを吹き込んだのではないかと、ラーダンは一瞬鋭い目つきになるが、シルバは呆れながらその威圧を軽く受け流す。


 結局、ミアは舌で音を鳴らすことには成功しなかった。


 ***


 合流してから、カイトには動きがなく待つ時間も無駄なので先にシルバとミアが行動を開始した。

 アウルムはシルバとミアに同行し更に西のランスロー王国へ向かい、ラーダンはヤザザで待機。


 目的地のボララへ到着するなり、ラーダンに与えていた魔道具に反応があり、呼び出しを受けるアウルムは一度ヤザザに戻った。シルバとミアはアウルムが戻るまでは街で調査をしながら待機となる。


「ようやくカイトに動きがあったか?」


「アウルム……カイトの近くに2人、強い気配がある。恐らくは勇者の仲間だろう。女だな」


「それは恐らくカイトのパーティメンバーであるシズクとカナデだな……カイトを追っていたが連絡が取れて待ち合わせをしたってところか」


 パーティ間での連携や心境に変化があったことをアウルムはそこから察する。


「街から出たが……馬車などは無い。徒歩で移動か?」


「いや、シズクはモンスターを召喚するユニーク・スキルがあるからそれで移動だろうな。追跡出来るか?」


「時間はかかるが、転移でもされん限りは追える。問題ない」


「なら、コイツらをお前に預ける」


「蜜蜂か」


 アウルムは蜜蜂の入った籠をラーダンに持たせた。恐らくここからワイバーンにでも乗って移動するカイトたちを追跡するラーダンの移動速度にはアウルムではついていけない。


 だが、ラーダンの位置が分かれば後から追いかけることは出来る。蜜蜂を道中に目印代わりに置いておけば、アウルムはそこからラーダンを辿れる。


「ハチミツもつけてやろう。栄養価が高く保存食にもなるはずだ。お前なら現地調達は余裕だろうが無いよりはマシだろう」


「助かる。急いで追跡して欲しい時はまたコレを使えば良いんだな?」


「ああ」


 指輪型の発信機をラーダンとミアには持たせている。これは迷宮都市にいる主要な仲間にも持たせているものと同じで、魔力を込めることで指輪の石が光り、簡易だが連絡が取れる。


 性能としてはポケベル以下だが、やり取りの内容を第三者に盗み取られるリスクもその分低い。


 親機となるアウルムの指輪は誰からの発信かが分かるようになっており、いくつも指輪を装着する必要はない。


「勇者のように念話が使えれば良いのだがな。恩寵まではいかんが、本来は希少なスキルだ……君とシルバは使えるようだが」


「俺たちの場合はペアで行動する性質上必要不可欠だ。その代わりにお前たち龍人ほどは長命でもないし、龍眼もないし、身体能力も知れている。まだ見せてないだけで他にも俺が知らん能力はあるんだろう?」


「ないものねだり、というやつかな。だが、能力から使命の内容を逆算するということも出来るのでは、と今思った」


「俺とシルバに与えられた力はペアで行動し、使命に向いているものが多いからな。自分に出来ることから自分が何者で、何を求められているのか……探していたものを見つける手掛かりになるかもな」


「面白い、やはり君たちと出会ってよかった。これも闇の神の思し召しだろうか」


「さあ、それは神のみぞ知ることで一介の使徒に過ぎん俺からは何とも言えないが……記憶が戻ると良いな」


 アウルムは気を使ってそう言ったが、ラーダンは本当に記憶が戻って良いのか、少し悩んだ。


 過去の行いを断片的に知って、何となくの見当もつけられたが今の自分と過去の自分が同一と言えるのか。記憶が戻れば違う自分になるのではないか。


 漠然とした不安が記憶をする旅を続けていくうちに生まれてきた。


「む……本当にワイバーンが出たな……移動を始めたようだ。では私はここから追跡する」


 ラーダンがピクッと反応をする。数キロ離れていてもロックオンすれば移動が分かるという能力の方が念話よりよほど便利なのではないかとアウルムは思ったが、何も言わずに走り去るラーダンを見送った。


「シルバたちが隣の国に到着してから車を貸してもらった方が良さそうだな……速過ぎる」


 シズクたちと合流してワイバーンで移動するとは思っていなかった。

 カイトは単独行動をするというプロファイリングが外れたのだ。


 移動速度の遅い馬での追跡では、時間がかかる。何より、ラーダンを追いかけている間は他のことが出来ない。それならば、後から高速で移動出来る車を使いその時間をショートカットする。


 ラーダンが追跡している間はシルバたちと共に車に乗り、移動距離を稼いでおいたた方が効率的だ。


「そういえばヤヒコ・トラウトはどこにいる……? あいつも合流か? あいつは行く先々で邪魔をしてくるから出来れば関わりたくないな……トラブルを運んでくる気がする」


 思えば、アウルムは度々ヤヒコ・トラウトに邪魔をされてきた。カイト・ナオイも十分掴みにくい男ではある。その仲間のシズク、カナデも厄介なトラブルメイカーの素質が見えた。


 だが、チームとして行動するのならば、経験豊富な彼らがそこまで常識外れな行動をするとは思えない。同行者がいれば、行動は制限される。


 アウルムがシルバとミアの方へ、ヤザザへ、ラーダンの方へと駆け回るのも同行者がいるからこその不自由。


 唯一、姿が未だ見えないヤヒコ・トラウトという存在を思い出し、嫌な予感がしたのだった。


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