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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-4話 張り込み11日目?


「……っと、眠ってしまってたか」


 朝の鐘に反応して、張り込み中に意識が戻り背伸びをして眠気を覚ます。


「あ〜眠い……そっちはどうや?」


 シルバの定時連絡が入る。


「少し寝てしまっていたが異常なし。そっちは?」


「……! アウルムそっちに行った女を見ろ! 9時の方向!」


「お前……またかよ。昨日もそれやっただろ」


 アウルムはシルバの巨乳発見報告にうんざりとした声で返事をする。


「は? やってないけど?」


「いや、フード被った巨乳の女だろ。知ってるって」


「流石、アウルムこの街の情報はもう掴んでますってか」


「……?」


 微妙に話の噛み合わないことに違和感を覚えたが、それよりも疲労感の方が大きい。これ以上無駄な事に労力を割きたくもないのでスルーした。


「それよりも、もう張り込みして10日や。そろそろ休憩入れへんか?」


「休憩って、昨日しっかり休んだだろ? おい、まさかとは思うが遊び疲れて休憩で疲れたから休憩なんてふざけたことは言い出さないよな?

 それに11日だ」


「勘弁してくれや、夜の数時間の仮眠は休憩にはならんやろ。人間としての文化的な休息が必要やねんって」


 シルバは苛立ち混じりの声で如何に休憩が必要かを熱弁する。

 面倒だったし、これ以上反論したところで聞く奴ではない。空気が無駄に険悪になるくらいならば、二連休くらいは許可した方がマシだと判断した。


「大体、お前が寝落ちって珍しいことやで? 寝る体制に入らんと眠れんタイプやん、それが寝落ちってお前自身自覚出来てないだけで、相当疲れてるわ。今日はゆっくり休んだ方がいい」


「それもそうだな……ベストコンディションじゃないと何かあったら対応しにくいしな」


 シルバの説得にも一利ある。体調管理が出来ていなければお互いに迷惑がかかる。


 日課の冒険者ギルドと酒場へ情報収集をしたらしっかり休みを取ることを約束して連絡を終える。


「ステータスが上がって体力がある分無茶が出来るようになったのはいいが、身体の変化に鈍くなるのは困るな」


 アウルムは手を握り、開くことを繰り返し感覚を確認しながら冒険者ギルドへ向かう。


 ギルドの道に続く曲がり角に差し掛かると馬車と鉢合わせになる。

 狭い道では、人間が馬車に道を譲らなくてはならない。


 端によると、目の前に白い筋が上から下へ走った。


 水音が靴にしたので足元を確認すると鳥の糞がべっとりとこびりついている。


 見上げると家の屋根には昨日のカラスがおり、カァと鳴いて飛び立つ。


「また貴様かあああぁっ! 殺すぞッ!?」


 ドッと湧いた殺意をカラスに向ける。『現実となる幻影』でズタズタに引き裂いてやろうかとも思ったがカラスは既に飛び立ち目が合う事はない。


 カラス風情に本気でキレてもみっともないので、怒りを抑えながら水魔法で洗浄し、ギルドへ向かう。


 明日からは別の道にしよう。もしあいつを見かけたら確実に殺す!


 悪いルーティンが完成しては堪ったものではないし、シルバと昨日話した通り、決まった行動を繰り返すという危険性が身に染みた以上、気になってくる。


 違う方向を歩くことで気付いていなかった視点を得られることもあるだろうし、そろそろ変化が欲しいところだ。


 そんな事を考えているうちに冒険者ギルドに到着して依頼ボードの確認を行う。


「特に変化はなしか……」


 1日そこらで、劇的な変化がある方が問題だ。退屈ではあるがその方が良い。そう思っているとアウルムに声をかける男がいた。


「んー? お前見ない顔だな?」


「……ガストン昨日会っただろ、酒で記憶が飛んだか?」


「何言ってんだお前、俺はお前のことなんか知らねえよ? 知らねえから声をかけたんじゃねえか」


 坊主頭で無精髭の男、ガストンがキョトンした顔でアウルムを見ていた。


「ふっ、なるほど……昨日それで朝食を奢られたからって同じ行動に出たらもう一度奢ってもらえると思ったのか」


 株を守りて兎を待つ──過去の成功体験から、何もアクションを起こさずとも偶然を期待するという愚かさを表した言葉。


 株に偶然激突した兎を手に入れた者が株を見張るという馬鹿げた行為。


 ガストンにとってアウルムは株なのか、兎なのか、ともかく見えすいた、古典的な手法で話しかけてくるのだから苦笑いが禁じ得ない。


「お前……マジで何言ってんだ……? 酔ってんのか?」


 ガストンは困惑を見せた。そして、気分が悪いなら水をもらってきてやるがと、アウルムを心配する。


「どうなってる?」


 ガストンの反応からして本当に記憶がないかのように見えるアウルムは首を傾げ、眉間に皺を寄せる。


 ふと、冒険者ギルド内を見回す。


 受付に報酬の交渉をする青髪の男、それをあしらう茶髪の女、冒険に出発する若手のパーティの一人がするあくび、エトセトラ、エトセトラ……。


 この空間の中で起こる一つ一つの小さな出来事とタイミング、どれも既視感があった。


 なんか知ってる……この風景知ってるぞ……なんだ……?


 既視感(デジャヴ)の正体は過去の記憶と現在の記憶の類似性を脳が誤作動を起こしたものだ。とアウルムは知っている。


 ここ数日は単調で同じことの繰り返しで、その中からパターンを探すことが仕事だった。

 だから、デジャヴが起こっても不思議ではない。


 だが、自分の頭の中には確実にガストンと交わした会話の記憶がある。思えばカラスの行動が、シルバとの会話が、今日の行動の全てが経験している記憶と相違ない。


 それを実感した瞬間アウルムの背中からドッと汗が吹き出す。鼓動は速くなり身体は熱いのだが、毛穴からはヒヤリとした嫌な感覚が走る。


 得体の知れない恐怖、不安感、猜疑心、あらゆる感情が押し寄せる。


「あれは予知夢だったのか……そんなスキルが目覚めた……?」


 ある一つの仮説を元にステータスを開く。その中には予知夢や予知に関するスキルの記述は見られない。


 自身の状態についても疲労と睡眠不足と表記されているだけで、何の異常もない。


 ──では一体この現状は何なのか?


 ドッドッドッドッと高鳴る心臓のせいで気持ちまで波立ってしまう。落ち着かせる為に深呼吸をする。


 どうやら俺は昨日をループしてるようだな……俺の能力? 勇者の攻撃?

 いや、そんな兆候は一切無かった。


 落ち着け、今は現状を把握するんだ。本当に昨日と全く同じなのか検証しなくてはならない。


 ガストンに声をかける。


「すまない、少し眠気と酔いのせいで変なことを言った、心配させたようだから飯を奢らせてくれ、見ない顔なのは俺が最近この街に来たからだ。あんたはこの街に詳しそうだから色々教えてくれよ」


「本当に大丈夫なのか? まあ奢ってくれるってんなら、構わねえぜ?」


 食事処でガストンから同じように話を聞く。周囲を確認して何か変化がないな注意をしていたが、これと言って変化はない。


 食事を済ませて解散して歩いていたところ、帽子を被った青年が背後からぶつかってくる。そして謝られる。


 ここまで全く同じ。何一つ昨日と変わらない。


 嫌な予感は確信へと変わる。


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