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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
2章 ヒートオブザモーメント
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2-2話 張り込み10日目


 その光景は周囲の人間には奇妙に映った。


「んだテメェゴラッ! ……はぁ? 何ブツブツ言ってんだぁ? もしもーし、聞こえてますかぁ〜?」


 酔っ払っているガラの悪い男が痩せっぽちで薄汚い青年に難癖をつけられていた、良くある光景のはずだった。


 ああ、可哀想にと周囲の人間は青年を憐れむが、助けたりはせず街の兵士が近くにいないかと、チラリと目線を動かすだけ。呼びに行くまではしない。


 関わるだけ損。見知らぬ青年を助けたところで得がない。


 そんなドライさのある人たちが彼らに興味を無くして、自分のやろうとしていた作業に戻ろうとする。


「な、なんなんだよっ!? 俺が悪いのかよ!?」


 えっ!?


 その情けない言葉は酒で焼けたしゃがれた声で聞こえる。異変に気付いた周囲の人間は再びその場に視線を戻す。


「ボクに難癖つけやがってぇ! このダボがぁっ! 謝れ! 謝りやがれ!」


 大人しかったはずの青年が酔っ払いを足蹴にして激昂している。立場が逆転している。


 ほんの一瞬目を離した隙に、一体何があったのか。そんな疑問が全員に浮かび強烈な興味を持たせる。


「わ、分かったからもうこんなこと辞めてくれ! あ、頭がおかしくなっちまう!」


「謝れって言ってんだよぉ!? 誰がそれ以外の言葉を求めたんだぁ!? 聞こえてますかぁ!?」


「わ、分かったって……悪かった……! すまねぇ! だから勘弁してくれ……!」


「さっさとそう言えば良いんだよ! どいつもこいつもボクを平和な生活を邪魔しやがって!」


 青年は唾をぺっと吐きながら酔っ払いを突き飛ばすと、酔っ払いはグッタリと倒れ込む。


 動かない。ピクリともしない。気絶か? いや、しかしいくら酔っ払っているからといって、突き飛ばされたくらいで気絶するほどヤワな体格ではない。


 変だ……。ジッと倒れた男に視線が集まる。


「ボクを誰だと思ってたんだ! 『リペーター』だ! 誰もがボクを恐れてボクに関わるんじゃあないっ! お前ら分かったなぁああああッ!?」


 イカれている。この青年に関わってはいけない。そこにいた者たちはサッと慌てて視線を逸らし、足早にその場を離れだす。


「なんで……なんでボクばっかりこんな目に……」


 ブチ切れていた青年が今度は涙を流す。


 フラフラと歩いていき、青年は姿を消した。彼がその後どうなったのか、どこへ行ったのかは誰にも分からなかった。


 ***


 朝の鐘と共に屋敷の召使いが清掃を開始する。

 煙突からは煙が立ち上り竈の火を起こし朝食を準備していることが伺える。


 しばらくすると、召使いのモナとペトラが2人で買い出しに出かける。隔日でメンバーが変わることから召使いの中でシフトが組まれていることが予測出来る。

 屋敷の裏口から出て、左の道を進み1時間程で帰宅。


 昼の鐘が鳴って少しすると商人が出入りする。服屋、宝石屋、家具屋など、決まった曜日と決まった時間に訪れる。


 夕の鐘で3日に一回の頻度で屋敷の正面口から向かって右側の道路から馬車が入っていく。

 屋敷の主人の友人の貴族が夕食とゲームをしにやってきているようだ。


 4時間ほど滞在して、日付が変わることを告げる鐘が鳴る前に馬車が来た道と同じ方角へ走っていき、友人の貴族は帰宅する。


 2時が過ぎる頃には屋敷から明かりが消え完全消灯となる。


 朝の鐘が鳴ると屋敷の人間が活動を開始する。鐘の前には召使いは起床しているようだ。


 この行動が毎日繰り返されている。


 領主の娘を殺した男を捕獲する為、キアノドの街に入ってから1週間、『不可侵の領域』内で貴族の屋敷の前を陣取り、アウルムとシルバは張り込みを続けていた。

 それぞれ、正面口と裏口を担当している。


 肝心の男は屋敷にいる事が確認出来た。名前はザナーク。職業は暗殺者と鑑定では表示されていた。


 慎重なのか、滅多に屋敷から出てこない。それでも2度ほど外出したので、行動パターンを把握出来るまでは時間の問題だろうとアウルムは予測をつけている。


 朝日が昇り始めて、アウルムは欠伸を噛み殺しながらメモに書き込みを加えているとシルバから念話が来る。


「あ〜眠い……そっちはどうや?」


「異常なし。そっちは?」


「……! アウルムそっちに行った女を見ろ! 9時の方向!」


「……フードを被った女か? どうした?」


「めちゃくちゃ巨乳やろうが!」


「はあ……何事かと思えば。そういえば昨日も同じ時間に通っていたか?」


 2日連続で目撃する人物、注意しなくてはとアウルムはメモをする。


「何事ってこんなクソつまらん仕事の唯一の潤いそれくらいしかないやろ! で、収穫はどうやねん?」


「俺はストーカーではないが、監視する側としては規則的な行動、習慣というのは規律を守る点において便利だが、脆いな」


 アウルムは屋敷に出入りする人間のリスト、衛兵の巡回の時間、あらゆる情報のメモを見ながら笑う。


「問題は、ここにイレギュラーが発生した時の対処やな」


 シルバは干し肉を齧る音をさせながら返事をする。


「確かに。絶対に行けると思った時に限って不測の事態が起こるということも考えておかないとな」


 フードの巨乳の女のようにある日突然変化が起きることもあり得る。


「こうやって観察してると、俺らも行動パターンが読まれんように敢えて不規則なルートで歩いたり、時間をズラしたりした方が良いって分かったな。

 最近はルーティン化した生活してたし」


 朝起きて、決まった道を決まった時間に決まった場所──冒険者ギルドに向かい、依頼をこなし、決まった道を通って宿に戻る。


 狙う人間がいれば襲撃しやすい事この上ない。


 シルバの指摘通り、アウルムもこの点については注意が欠けていたと反省する。


「逆にそうやって隙を作ることも出来るという考え方も出来るな」


「おびき寄せたいなら、それもありか……となると、今俺らが得たパターンも誘導されてるって考えといた方が良いんちゃう?」


「今日はヤケに頭が回るな、どうしたんだ?」


「この地獄から早く抜け出したいだけや。退屈して死にそうやからな」


 特に変化のない風景を眺め続けるというのは、なかなかに苦痛だ。


 流石のアウルムですら、目には隈がクッキリと浮かび疲労気味であることは否めない。


「10日観察したことだし、ここらで一旦休憩しよう。これ以上は集中力も続かないしミスが起こりそうだ」


「やっとか……一寝入りしたら遊びに行っても良いか?」


「いいが、また明日の朝から観察は続けるぞ? 遅刻、寝坊しそうならやめておけ」


「いや、体力より精神を回復させたい。それには遊びが必要や」


「そうか、俺は冒険者ギルドと酒場に顔を出して情報収集したら『虚空の城』の中で寝るから何もない限りは起こすなよ」


「了解、じゃ今日のところは解散で?」


「ああ、構わない……」


 さて、寝る前に一仕事済ませておくかと、ややふらつく足に力を入れて歩き出すアウルム。


 ここのところオーバーワークだったので疲労が露骨に出始めていることを自覚した。


本日は21時過ぎにもう1話投稿します

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