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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
10章 スムース・クリミナル

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10-5話 国家治安調査官たち


 朝の9時頃、死体が発見されてから1時間経った現場周辺は以前として野次馬で溢れかえっていた。


 兵士たちがバリケードとなり、死体に近づかせないよう下がれと怒鳴る声が響く。


「まあ娼婦なんかやってたらいつか死ぬわな」


「残酷な娼婦殺しって……ちょっと前に噂になってたアレか?」


「はしたない格好して殺してくれって言ってるようなもんだよ、自業自得なんじゃないのさ」


「見ない方がいいぜ、しばらく飯が食えなくなる……」


「おぇ〜ッ! 見ちまったよぉ〜!」


 遠巻きに眺める街の人間たちは好き勝手に殺人事件をある種のエンタメとして消費する。


 人はこの手の不幸を話題に適当なことを言うのが好きだ。


「通せ」


「あ? 横入りしてんじゃねえよ!」


「どけッ!」


 シルバに睨まれた男はさっきまでの威勢は嘘だったように大人しくなり、目を逸らした。


「止まれ! ここから先は一般人の立ち入りは禁止されている!」


 二人の兵士が槍をクロスさせてアウルムとシルバの侵入を防いだ。


「一般人ではない。国家治安調査官である」


 マスクをして顔こそ見えないが、冒険者や商人ではない服装、それに紋章入りの首飾りを見せられることで兵士の顔色は悪くなる。


 調査官とは犯罪に関する現場において、貴族並みの指揮権を持つ、状況によって貴族よりも優先される特殊な身分であり、その捜査を妨害することは厳罰に処される。


 平民の兵士と言えど、調査官の存在は新人の頃に叩き込まれており、その首飾りの実物を見ることは初めてでも見間違えることはない。


「こ、これは失礼しました!」


「しかし調査官殿が何故……」


 兵士たちは敬礼をして、槍をすぐにどかした。


「事件と聞けば、調査官は現在調査中の案件と関連があるかどうかを調べる必要が出てくる。そして、関係がなくとも犯罪捜査に関して、現場と連携し速やかに解決に尽力せねばならない。当然のことだと思うが?」


「はっ! おっしゃる通りであります!」


「責任者を呼び、挨拶をさせてくれ」


 調査官に強い権限があるとは言え、兵士の心情的には面白くない話である。彼らには自分たちが守っているとい自負、責任、矜持がある。


 上から横からあれこれと口出しを調査官にされるのは腹が立つ。事件が解決しなければ自分たちの責任。解決すれば調査官のおかげ。


 いずれにせよ、調査官の介入は基本的に歓迎されない。


 これは日本においても、アウルムが留学しているアメリカにおいても同じこと。警察官同士の捜査における縄張り争いというものがある。


 だが、事件解決の為にはそこを呑み込み、協力しなくてはならないのだ。


 礼儀として、この街の兵士たちを仕切る者に一声かけねば、動けない。


「調査官殿、御助力感謝します。兵士長のロベルトと言います」


 ロベルト兵士長は景気の良い迷宮都市ならではの、整えられた装備をしていた。年齢は40代半ばのベテラン。髪は深い青で長く、髭はもみあげから顎まで伸びているがしっかりと手入れがされている。


 恐らくは実家が貴族で次男以降なのだろうと一目で分かる。


「ロベルト兵士長、こちらは調査官故、名も顔も明かせなくて申し訳ないがその辺りについては察してもらいたい。だが、出来る限り知識と経験を提供し、事件解決に努力することを誓おう」


「……助かります。今回の事件は私どもには手に余りますので、普段なら正直なところ、あまり歓迎したくはないのですが、応援に駆けつけていただき頼もしく思います」


「いや、言いたいことは分かる。そちらに対して偉そうにするつもりはない。出来るだけ連携して解決したいだけだ。まずは現場と死体を見せてもらいたい。こちらには第一発見者と話をさせてくれ」


「はっ! ご案内を!」


「はっ! どうぞ、発見者はこちらで休ませております」


 シルバに任せたと合図をしてアウルムは封鎖されていた現場に足を踏み入れる。幕が下ろされており、周囲の目が気にならないのは助かると思いながら、状況を観察する。


「……何故死体を動かしていない?」


 まず、アウルムが驚いたのは死体が担架などに寝かせられ、布で覆われていないことだった。


 それに現場周辺の足跡からしても、ゼロではないが少ない。ほぼ理想的な現場保存がされていた。


 これは逆に奇妙である。現場保存という概念が普通の街の兵士にあるはずもなく、大抵は動かされ当時の状況のまま観察することは実質不可能なのだ。


 捜査するにあたっては助かるのだが、その奇妙さを指摘せずにはいられなかった。


「はっ……あまりにも異様な光景でありますので、死者の魂も浮かばれないと思い、神官様の祈祷を済ませてから埋葬するべきかと判断しました。それに……あの記号……神官様にも判断を仰ぐべきかと……動かしますか?」


「いや、捜査においては理想的な状況だ。神官の祈祷は待ってもらう」


 これだから信仰は……と、アウルムは的外れな配慮に愚痴の一つでもこぼしたくなった。信仰心を軽んじる訳ではないが、祈祷したところで解決にはならない。


 ケルト十字に似た記号はこの国で信仰される光の女神のシンボルでもある。神官が騒ぐのは目に見えてるが、何が出来るというのか。厄介な署名的行動だと苛立ちが募った。


 いっそ、全ての街で祈祷が済むまで現場を荒らすなと教会と掛け合った方がマシかもなと思いながら死体に近付く。


「調査官殿はこういった事件に慣れているのでしょうか?」


「それは興味本位の質問か? であれば答えるつもりはない」


「いえ、違います。言葉が悪かったですね……このような奇妙で異常さを感じる事件というものは、どのくらい解決出来るものなのか知りたかったのです」


 ロベルト兵士長は気まずそうに死体から、やや目を逸らしながら答える。こんなことが出来る人間がいるとは想像もしなかったと言いたげに。


「まず、言っておくぞ。この手の事件は捜査する人間が感情的になりやすい。それだけ衝撃的なものだからな。だが、上に立つ者が感情に振り回されてはいけない。恐れ過ぎてもいけない。その感情は伝播する。部下を落ち着けるように注意してくれ」


 熱意と冷静さのバランスが大事なのだ。ロベルト兵士長は死体を見て義憤に駆られているのか、声がやや大きく早口だった。アウルムは彼の胸をドンと叩く。


 その胸に伝わった衝撃でロベルト兵士長はハッとして、一度深呼吸をした。


「ふむ……」


 アウルムは手袋をつけて、死体の状況を観察する。


「化粧や衣類から見て路上に立つ娼婦か……性病持ち、栄養状態も悪く、生活は貧しい……酒の飲み過ぎ、麻薬には手を出していない……スン……僅かにタバコの匂いがするな。しかし指にヤニはついていない、ベビースモーカーではないか……兵士長、タバコの吸い殻は落ちていたか?」


「い、いえ……そういったものはなかったはずですが……ポケットなどに入っているかまでは分かりません。まだ調べていないので」


「そうか……ポケットには……タバコはないな。しかし金はある……少なくとも盗みが目的の殺人ではないことが確定したな。そして殺した奴は喫煙者だ」


「な、なるほど……」


 たった一瞬でもうそこまで分かってしまうのかと、調査官の実力を正直舐めていたとロベルト兵士長は痛感する。


「凶器はナイフだな。刃渡20cm程度……左利きか……いや、右手でも切っているな……2本使ったか? 持ち替えている? 体力はそれなりにあるな……死ぬ前と死んだ後の傷……時間はかけているが、ダラダラやっていたというのでもない……か……」


「しかし、この迷宮都市ならナイフを持っていたからと言って疑うのも無理がありますね……子供でも持っているような大きさです」


「身長は175cm前後で喫煙者の男が犯人だと言うことはもう分かった。ナイフも肌身離さず持っているだろう。この手の殺人犯は凶器に愛着があるからな」


「それならば! 探せそうですな!」


「ふん、まさか。その特徴を持つ者がこの街にどれだけいると思う? 軽く計算しても100人以上だ。その程度では参考にならない」


「そう……ですか……」


 ロベルト兵士長は顔がパッと明るくなった。どんどん捜査の方向性が見えてきて、その条件に当てはまる者を片っ端から探せば良いのではないかと気がつく。


 だが、100人以上と聞いて現実的ではないと落胆してしまう。


「落ち込むのは早い。それより、似たような事件がここ最近……そうだな、3ヶ月以内で発生していないか、部下に確認をとって欲しい。手口からして初めてではないだろうからな……さて、この腸を外すか……」


 アウルムは死体を検分しながら、ロベルト兵士長にやるべきことを伝える。兵士だからこそ出来る仕事を与えてモチベーションを保ってもらいつつ、必要な情報を集める為だ。


「あの……初めてと言うか……あのメッセージからしても例の娼婦殺しなのですから、初めてでないのは明らかなのでは?」


「兵士長、あなたが娼婦殺しだと思うということは、娼婦殺しというものは皆が知っているということで、単に真似をしているだけということもあり得るのだ。手口が似ているから、そう名乗っているから娼婦殺しの怪人シャイン・ドゥとは限らないものだ」


「ああ、たまにそういう話は聞きますが……これがそうだと? 因みに、ここ最近似たような事件があったとして何が分かるのですか?」


「手口の変化、一貫性、犯行の間隔、被害者の共通点、いくらでも考えることはある。もし、別人の場合はこの街に危険な人間が二人もいるということだぞ」


「ッ! ただちに調べさせます!」


 ロベルト兵士長はそれがどれだけ不味い状況なのか瞬時に理解する。こんなイカれたことをするやつが二人もいてはいけない。それが事件解決に繋がるのであればすぐに調べるべきだと、信頼出来る者を呼びつけて、指示をした。


「引き解け結び……スリップノット……? 外せというメッセージか?」


 アウルムが気になったのは口に巻かれた腸の結び方。最もシンプルな止め結びでも良かったはずだが、すぐに外れる上に止め結びよりも時間のかかる結び方をしていることから、そこに何かしらの思惑があると予測する。


 スリップノットは先端を引っ張れば簡単に解くことが出来る結び方であり、何かを強固に縛りつけることに向いていない。


 つまり、これは犯人からの腸を外せというメッセージ。


「やはりか……」


 思った通り、腸のロープを外すと封じられた口の中に紙が入っていた。


「それは?」


「メッセージだ。『誰かが誰かを捕まえて』と書かれている」


「うん? 犯人は捕まりたがっていると? なら殺さないか、自首すれば良いだけの話でしょう、全く意味が分かりませんな……それとも捕まえられるものなら捕まえてみろと挑発でもしているつもりですか」


 ロベルト兵士長は首を傾げて腕を組んだ。犯人を馬鹿だとすら思った。道理に合っていない内容だ。捕まえて欲しいならいつでも捕まえてぶっ殺してやるが、と言いたげに鼻を鳴らす。


「決めつけるには早いな。もう少し調べてからだ……さて、次は胃の内容物を……」


 その時、ちょうどシルバが戻ってきて現場に合流する。


「これは……酷いな。ここまでのは珍しい……」


 特徴のあるイントネーションを抑えて、アウルムに話しかける。それを聞いていたロベルト兵士長は、調査官でも驚くレベルかと、いくらか安心した。自分たちが騒ぎ過ぎてるのではないと分かったからだ。


「これ見ろ」


「次があるな……」


「ッ!」


 シルバは口の中から発見されたメッセージを見てすぐに答える。そこでやっとロベルト兵士長も理解した。


 そうだ、これで終わりではなくこのメッセージからは次の犯行を匂わせるような意図があるのだと。次から次へと出てくる発見に目を回して、その先のことまで俯瞰出来ていなかった。


 だが、もう一人の調査官もそれをたった一瞬見ただけで状況を理解していたのだ。


 これは無理だ。ベテランの自分でもすぐには思い至らないのであれば、こんな残酷な珍しい事件に兵士たちでは対応出来ない。調査官とはまるで自分たちと違う存在。


 考え方、物の見方、何から何まで違う。


 ロベルト兵士長は自分の偏見に恥入り、それでいて調査官を頼もしく感じる。邪魔してはいけない。そしてこれは自分たちがどうにか出来るレベルの話でもない。


 ただ、彼らが円滑に仕事を出来るサポートに回らなくてはならない。アウルムの5分にも満たない観察とシルバのたった一言で思い知らされる。


「で、目撃者の方は?」


「大した収穫はなかった。取り乱してほとんどパニックでな……ただ、身元はメグって路上で客取ってた娼婦ってところまでは分かったから、昨夜に見かけた者がいないか兵士に聞き込みを頼んだところ。彼女の普段の生活に関しての詳しい話は追々で……っと、誰か来たな」


「神官だろうよ」


「あ? 神官?」


「ロベルト兵士長が彼女の為に祈祷出来る神官を呼んだそうだ。街の人間もこれで多少は落ち着くだろう」


 何でそんな的外れなことをと、シルバが言いかけたことを察知して、アウルムはフォローする。


 ここで、ロベルト兵士長を責めたところでいいことは何も無い。結果的に現場保存は出来ていたのだ。文句はない。


 ……この後に起こる問題など、我慢すれば良い。現場は我慢しても元には戻らないのだから。


「神官様をお連れしました」


「ご苦労。神官様、朝早く申し訳ありません。お越しいただき感謝しております」


「構いません。全ての人は女神の産みし子たち。どのような職業であっても、死は何人にも等しく訪れるもの。哀れな魂の救済こそ、神に仕えし我々神官の務め。それで、ご遺体は……ウッ!? こ、これは……なんて酷いことを……」


 清潔な白い服を着た、ある意味世間知らずの神官の態度は浮いていた。ベラベラと高潔なことを喋ってはいたが、案の定死体から目を逸らし、怯えて吐きそうになっている。


 邪魔。時間の無駄。そんなことを言ってはいけない。アウルムとシルバは白い目で静観する。


「クッ……ハアハア……大丈夫です!苦しかったのは彼女の方。これしきのことで……通していただけますか……ハァッ、神よ……」


 神官はフラつき、顔面蒼白でありながらも死体と向き合い祈りを捧げる。


 10分間はただ、待つだけだった。やっと祈祷が終わったかと思った頃、神官は目の前にあるソレに気がついてしまった。


「な、なんと……これは……信じられない……! こんなもの……冒涜ですッ!」


「やめろ」


 顔を上げた神官は死体の背後にある壁にかかれた文字と記号を見てしまった。青かった顔はあっという間に赤くなり、怒り出した。


 教会のシンボルがこのような凄惨な現場にあるという非現実的な光景に理性が吹き飛び、正常な判断など出来なかった。


 そこで、彼が取った行動──壁に書かれた文字、つまり証拠の破壊である。


「なっ! 離しなさい! この不信心者が! このような形で神の象徴を穢したままなど許されません!」


 シルバが咄嗟に神官の服を掴み、動きを封じた。だが、暴れて叫び続ける。


(ほーら、こうなった。だから嫌やねん神官と関わるの)


 このまま首を締めて気絶でもさせてやろうかと、腕の中で暴れる神官を眺めながらシルバはため息をついた。


「このご遺体は教会で引き取ります!」


「ダメだ。まだ胃の中の内容物が調べられていない。他にも調べるべきことはある」


「このまま放置しろと!? 教会に逆らい、死者の肉体を愚弄するというのですか?」


 神官は信じられないとギョッとする。ただでさえ、酷い状態の遺体をこれ以上無闇矢鱈に触るのは倫理的にしてはいけないことだと説教というよりも脅しはじめた。


 それがいけなかった。完全にアウルムの地雷を踏み抜いたのだ。


「……愚弄? 愚弄だと? 死体には最大限の敬意を払い接しているつもりだ。粗末になど扱ってはいない。この犯人はまた次も同じようなことをするかも知れないのだぞ。貴様は貴様の言うところの哀れな魂がみすみす増えたとしても、自分たちが祈りさえすればそれで済むと思っているのか!?」


「そ、それは……」


 アウルムは神官の前に立ち、胸ぐらこそ掴まないが額がつくほど顔を近付けて威圧した。


「祈る、それが貴様の大切な仕事なのは理解している。だからこそ、祈祷中は何も言わずに邪魔をしなかっただろうが。こっちはこれ以上の犠牲者を増やさないように調べるべきことは調べる。それが仕事だ。それとも何か? 教会の意思として、人がどれだけ死のうと構わないと言うのか? それはお前個人の意見か? それとも教会の総意なのか? 選べよ? 言葉をッ!」


 アウルムの前世、金時 理人の父、及び祖父、親族はほとんどが医師か医療関係者である。


 尊敬している父から、アウルムは教わっていたのだ。解剖時における、死者に対しての扱い方、医に携わる者としての倫理、感謝、あらゆることを。


 アウルム自身は医者にはならなかった。祖父は精神科医で、父は脳外科医。


 犯罪心理学というものに興味を持つのは自然なことだったのかも知れない。医者にはならなかったが、少し共通した部分はある。


 一般には公開されていない、犯罪の被害者の情報を学問の為に特別に見たと父に話した時、教えられたのだ。


 初めて、父に大人として扱われたと感じた。アウルムにとっては特別な記憶。


 仕事の為に、死体を解剖したり、墓を掘り起こすことはある。別に好きでやっているわけでは無い。だが、どうしても必要なことだ。


 日本ならば、犯罪なのだろう。それも分かっている。


 だからこそ、遺体に関しては敏感であり、出来る限りの敬意を払って接しているのである。この神官にいちいち言われなくとも、しっかりと一線は引いているのだ。


「…………非礼をお詫びしたい。あまりにも見慣れない光景に少し気が昂っていました。未だ精進する未熟な身……こちらに対する敬意、配慮……それに対してあまりにも無礼な発言でした。どうか、謝罪を受けて入れていただけませんか? そちらの仕事が完全に終わり次第、ご遺体は責任を持って弔います。これは神に誓います」


(お? 狂信者特有のイカれっぷりかと思ったけど、こいつ……まあ、若いしな……22歳か……)


 神に誓う。これは神官にとって、最大限の謝罪だろう。シルバに対する誓いとはまた異なる系統のものだが、信頼出来る発言だ。


 彼らにとって、神に誓うという言葉の重みは計り知れない。アウルムに怒鳴られ、気圧されたこともあるだろうが、自らの過ちを過ちと認めて、するべきことをすると誓う。


 神官は面倒だと思っていたが、個別に考えるべきだなとシルバを感心させた。


「……受け入れる。怒鳴って悪かったな。お前にも聞きたいことはある。キツい現場だろうが、少し辛抱してくれ」


(お? アウルムも大人な態度やな、珍しい。皮肉の一つでも言うかと思ったが)


 アウルムも謝った。公の場でアウルムが謝罪することなど滅多にない。自分の言ってることが正しいと周囲に認識させるパフォーマンス的な発言を考えてするタイプであるが、あまりにも素直だった。


(いや……利用する気満々か……それだけこの事件に本気ってことやな)


 付き合いの長いシルバには分かる。何か今の発言に怒り以外の思惑があったことが。

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