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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
1章 バックインブラック
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1-21話 フレイとの約束

 

「なるほど、やはり一定数危険な勇者はいるのか。王宮内にいる勇者の方々は基本的にまともな方だと思うし、そういった発想すらなかった」


 アウルムとシルバの集めた断片的な情報からフレイは認識を改めた。


「私は彼らのことについて話せばいいのだな?」


「勇者に関する情報は全てだ。王国内のどの部署、どの貴族、どの派閥が勇者の世話をし、影響力があり、個人の人となり、能力、人相、全てを教えてもらいたい。そして、王都に帰ってからは情報を集め定期的に報告して欲しい」


「私に勇者の密偵になれと?」


「まさか、そこまで危険なことを頼むつもりはない。騎士として知っている範囲で構わないし、詮索する必要もない。ただ、これまでより意識的に勇者に関する情報に耳を傾けて欲しい。それだけだ」


「例えば、感知能力に優れた勇者に気付かれたら俺たちが危ないからな」


「しかし、私が知っている勇者は危険な人物ではないが、それでいいのか?」


「逆を言えば、危険ではない人物と判断する材料が集まる。そうすれば、勇者の名簿くらいはあるのだろう? そこから残ったものが危険な存在かもしれないと推量出来る。過去に問題を起こした勇者について知っていればそれも教えてもらう」


 条件から候補を絞り、怪しくないものは弾いていく。プロファイリングの手法だが、フレイに言っても理解出来ないだろう。


「そうか……まず、このミストロール。これは私の知っている方だ。名前はルリ・ツチミチと言ったはずだ……まずは一旦村長のところに戻って、続きはそれからで良いか?」


「ああ……なるほど、こいつは勇者に狂わされたのかもな」


 フレイは村長宅に歩き出す。アウルムはシルバに考えを伝える。


 ルリ・ツチミチ──この世界では貴族しか家名を持たず、名前が先に来る。日本の並びに直すとツチミチ・ルリ。

 詳しい漢字は分からないが、土路 瑠璃。のような漢字だったらどうだろう。


 トロルと読める。ミストロールはその名を呼ばれると激昂した。


 高校生……いや、子供特有の幼稚でくだらない、それでいて残酷で、よく考えたとある種関心する蔑称(ニックネーム)


 顔にコンプレックスのある人間を笑い物にするには丁度良い名前をしていた。そんな発想からミストロールなんて名前がついたのかとも思えてしまう。


 そんな通り名が、彼女を取り返しのつかない化け物にさせてしまったのだろうか。


「しょーもな、でも、そんなしょーもないことでも周りのやつらが面白がってたら本人は気にするわな。ミストロールの行動は肯定出来んが……こいつも被害者の一人やった……その結果と思うとなんとも浮かばれんなあ」


 標準語圏に引っ越した際、関西弁を馬鹿にされた経験のあるシルバはその光景を思い出していた。


 シルバのあだ名は『ヨシモト』。別に面白い話が得意なわけでも無いのに、お笑いを強要され、ステレオタイプな偏見を浴びていた。

 中には本当に苗字がヨシモトだと思って、先生にヨシモトと呼ばれたこともあった。その時のクラスメイトの笑い声が忘れられない。


「俺が揶揄ったクラスメイトを殴り倒さなかったらお前はヨシモトのままだったかもな。あいつらマジで救いようのない馬鹿だったな」


 アウルムも思い出したかのようにそう言う。


「お前の方が残酷やで? 本物のヨシモトの方が面白いっ! ってブチ切れたんやから。いや、お笑い好きなん分かるけど、それ俺が面白くないって言ってるのと同じやからな? ……そんでも停学喰らってまで守ってくれたのは感謝してるけどさ」


「俺の拳だって痛かったんだ」


「いや、俺の心はお前の拳よりズタズタにされたって」


 アウルムとシルバは笑いながら村長宅に戻った。


 ***


 ささやかながら、危機が去ったことを祝してマーダーウルフの肉を豪勢に使った料理を村人全員で楽しんだ。


 マーダーウルフは全て依頼主のフレイに渡され、シルバの予測通り、フレイから村に渡された。


 翌日の昼頃には村を出発する。


「アウルム殿、シルバ殿、今回はミストロールを討伐し村に平和が訪れました、村を代表し感謝します」


 村長は握手をする。


「私も村のものとして、子を持つ父として感謝しています」


「我々は依頼を遂行しただけだ」


「そうです、もう何回も言うてもろたし良いですよ。それにお礼を言うなら王都からかけつけて依頼する判断した娘さんに言うたってください」


「……そうですか……フレイ、元気でな」


「はいっ!」


 かたじけないとヴィンスは言うが、その顔は娘を誇りに思う父の顔だった。


「シルバありがとー!」


「おう、元気でなマルテ」


「アウルムもありがとー!」


「……ああ」


 マルテの屈託のない声にアウルムでも表情を崩した。それを見たフレイは何も言わない。言ったら仕返しされそうだからだ。


 村人全員に見送られ、馬車を走らせる。馬車の後ろからは姿が見えなくなるまで手を振る村人がいた。


「それでお二人はこれからどうするおつもりで?」


「旅を続ける。もう少しキラドに滞在し、その後は迷宮都市に向かうつもりだ」


 御者をしながらフレイは尋ねる。


「ならばこの国の東西を横断するのだな、中間地点が王都だが寄るのか?」


「そうだと思うが、長居はしないつもりだ。勇者のお膝元に近づくには実力がまだまだ足りんからな。最悪迂回するかも知れん」


「目つけられたらヤバいから、あんまり王都には居たくないな〜」


「私に用事があったらいつでも来てくれ。紹介状を街に戻ったら書いておこう……だが、無茶はしてくれるなよ、二人は村の恩人なのだから……死なれては目覚めが悪い」


 背中を向けて顔は見えないが、フレイの耳は赤くなっていた。


 それに気付いたアウルムとシルバはくすりと笑った。



 ***


 後日談。ミストロールから得たユニークスキルの破片について『虚空の城』の中で確認を行なっていく。


「ユニークスキルは分解されて普通のスキルになるんやっけ?」


「普通──といっても、所有率がかなり低いレアスキルに該当すると思うけどな」


 ミストロールのユニークスキル『処女の(ヴァージン)偽吸血鬼(ヴァンパイア)』は闇の神の力によって部分的にアウルムとシルバに引き継がれる。


 それによって得たスキルは以下の通りだ。


 アウルム:『霧化』

 ・魔力を使用して身体を霧に変身させることが出来る。霧になっている間は魔力が使用され続け、自分の意思で戻るか魔力切れになるまでは霧状態でいられる。


 シルバ:『吸収』

 ・触れたものの生命力、魔力を吸うことが出来る。使用した魔力に釣り合う量を吸収するが、比率は使用した魔力の半分程度しか自身に取り込むことは出来ない。


「お互いにコンセプトは違うが敵の攻撃を無力化する感じだな」


「お前はそもそもユニークスキルの防御性能が『虚空の城』くらいしかないしな。しかも、引き篭もりやから防御とも言えんし、戦闘で半分無敵状態になれるのは良いやん。俺は移動しながらでも、レジストしたり攻撃出来る手段が増えたって感じやな」


「てっきり、トドメを刺した俺が横取りで総取りかと思ったが等分なんだな」


「おいおい、俺身体に穴空いたのに何にも無しやったら泣くで?」


「近くにいたからとも考えられるけど、この点について詳しく聞いておけば良かったな」


「せやな、一人で戦ったら一人だけって可能性もあるし、経験値みたいに戦闘に参加してるかどうかっていう判断かもな」


「ああ、言われてみればそうだな……それにしてもお互いの需要や弱点を補完するような割り振りだな」


「魂由来のものやねんから、本人が必要としてるものを優先するんちゃうか? 都合の良い話やけど異世界やから何でもアリやろ」


「勇者と戦うほど強くなり、他の勇者を倒しやすくなるならば、それに越したことはないからありがたいな」


「おい、もっと勇者殺したいなとか考えてないやろうな?」


 アウルムの満足そうな顔を見てシルバが怪しむ。


「まさか……俺は戦闘狂じゃないぞ。便利なスキルが集まること自体は魅力的ではあるがな」


「なーんか嫌なフラグになりそうやわ……で、この指輪どうする? 使ってみる?」


 シルバはミストロールから回収したマジックアイテムの指輪を手のひらに乗せる。


「馬鹿か? こんな明らかに勇者用に作られたアイテムを装備して感知タイプの奴や作成者にバレたらどうする!? こんなものは日本人の顔してない俺たちには不要だし、アイテムボックスに封印だよ売って他所に出回るのも面倒だし、アシがつくだろ」


 アウルムはシルバから乱暴に指輪を取り上げてアイテムボックスに入れる。


 闇の神によって、ステータスやアイテムボックス、ユニークスキル所持などの要因による感知を防ぐ隠蔽の効果がかかっているので、そこに入れておけば安全のはすだ。


「でも、この顔で別の人種になる効果やってみたいやん? ほら、そういうアプリのフィルターあるやん?」


「俺は今でもふと自分の顔を見たらビックリする時があるからそれで十分だよ」


「顔は常に見てる訳じゃないからビックリする時はあるな。俺カッコ良すぎん!? ってなる」


「……まあ、整ってはいるな。人種とか関係なくバランスは悪くない。この世界では男らしい顔つきって感じだな」


「お前は女みたいな顔やで、イケメンって言うか綺麗とか美人……みたいな。今度女装してみてや、髪長いし女に見えるんちゃうか?」


「殺すぞ」


「俺の彼女やと思われたり、冒険者にケツ触られたん根に持ってんのかよ」


「当たり前だろ、知らん奴に勝手にケツ触られて喜ぶ男がいるかっ! 女でも勿論嫌だろうがな」


 アウルムは苦々しい記憶を思い出して眉間に皺を寄せた。


「女にケツ触って欲しいってことか?」


「何故そうなる、女でも男に触られるのが嫌だっていう意味で──」


「分かってるわ! 冗談やマジに返してくんなや」


「…………」


「ッ痛っ!?」


 アウルムはシルバの肩を殴り睨んでからどこかへ行ってしまった。

これにて1章は終わりです。間話を挟み2章が始まります。

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