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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
9章 ファミリー・アフェア

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9-18話 剃刀


 採寸室へ連れて行かれたシルバは両腕を広げて、メジャーで身体のあらゆるラインを計測される。


 その数値から、オーナーはシルバに合うサイズの服を何点か運び、選ばせる。


(へえ、オートクチュールが基本のこの世界で中古ではないプレタポルテも用意した高級志向の仕立屋か……ハンガーも木を十字に組んだ簡素なやつじゃなくて、肩が丸い前の世界のハンガーを採用してる……カモフラージュで店やってるって訳でもなさそうやな)


 この店が犯罪をする為の隠れ蓑であれば、店内は大したことがないのかも知れないという予想が裏切られて、本物の仕立屋以上のこだわりが随所に見られる。


 このオーナーが無罪なのであれば、シルバは常連になっても構わないとさえ思えるほど。


「如何ですか?」


「どっちが似合うやろうか? サイズは気にならんがズボンの丈を微調整して欲しい」


「それでしたら……こちらかと」


 目利きも確か。常識的に考えて正しい組み合わせを提案出来るあたり、真似をしているのではなく本当に仕立屋としてのスキルがある。


 シルバが服を1セット選ぶと素早くズボンの裾の長さをハサミと糸と針で調整し、それには3分もかからなかった。


「おひとり様の分でよろしかったので?」


「まあ、気楽な一人旅の冒険者やからな。俺の分だけで良いわ。次は友達とかにも紹介したいな……ちょっとよそでうまそうな話聞いてな、依頼主がお偉いさんやから新しい服が欲しかったところや」


 シルバは椅子に座り、顔に泡を塗りたくられて髭が剃られるのを待つ。


(ここらで仕掛けるか……揺さぶりッ)


「ところで……最近治安が悪いみたいやが、この店はちょっと無防備じゃないか? オーナー1人か?」


 剃刀を研ぎながら準備をしていたオーナーの手が一瞬止まる。警戒している。明らかにシルバに対してさっきよりも警戒を1段階強めた。


「あ〜荒れてるみたいですね〜全く迷惑な話ですよね……従業員はいますよ。まだお客様の前に立たせられない未熟者でして、接客なんかは私1人でやってます。

 まあ護衛業務の方が主なお客様と同じ元冒険者ですよ……ですので、ここは安全です。さて、始めますのであまり動かないでください」


 シャッと音を鳴らして剃刀を研ぎ、指先で切れ味を確かめてからシルバの首筋に当てる。


(さあどうするッ!? 俺が今ここで失踪しても誰も探さへんって情報は与えたで。お前もそれが聞きたくてウズウズしてたんやろ……!)


 ハイリスクな誘い。完全に無防備で、大動脈をいつでもスパッといけるこの状況でオーナーはどう動くか。


 シルバは見極める。生殺与奪の権利をオーナーに敢えて押し付ける。シルバが怪しいと思うなら今、ここで、行動を起こすべき。


 オーナーは嫌でもシルバの一挙一動に注目せざるを得ない。


 全てはアウルムが情報を収集する為の捨て身の博打。


 頸動脈がいつもよりも激しく脈打って動揺が悟られるのではないかと、気が気ではないこの状況。


 ──だが、動かないッ……!

 千載一遇のチャンスであるにも関わらず、オーナーは剃刀をシルバの頸動脈に滑り込ませない。


「痒いところなんかはありますか?」


「……いや、快適そのもの」


「そうですか……」


 不気味な静寂が続き、シルバの髭は綺麗に泡と共に落とされる。


「髪は傷んでいる部分を多少整えるくらいにしておいた方が良いでしょう」


「ああ、それで頼む」


 髪も同じだ。大きな鏡などない。シルバは後方を確認出来ない。無防備なまま、後頭部の安全をオーナーに委ねるが、何事もなく終わる。


(シルバ、地下室への入り口は見た限りない。店内にいる他の仲間は普通に仕立屋の仕事をしているだけだ)


(他に入り口があるとしたら……)


(お前のいるその部屋か採寸室だろうな)


(採寸室は見た感じ仕掛けが無かった。そんなに広くもないし、違うと思う。今俺がいるのは1階の入り口から左手の部屋。髪切ったり、髭剃ったりする場所や。もうそろそろ終わる。俺が店を出る時にオーナーは見送りをするやろう。そのタイミングで探れ)


(了解。それまで俺は陰に潜む)


 アウルムからの念話だ。入り口があるとすればこの部屋。シルバは眼球だけを動かして床を観察する。


 一箇所だけ、色が違ったり、物を動かした形跡だったり、埃の積もり方の差から入り口と思われる場所を探る。


「──動かないでください」


「……? 動いてないと思うけど?」


 耳元でオーナーがチョキチョキとハサミを動かす音と共に、囁く。穏やかでありながら、少し殺気が篭っていた。


(勘付いたか? いや、それで良い。普通は入り口を守るように動いたり、重心が傾く。無意識に身体が場所を教えてしまう)


「いえ、お客様動いていましたよ。刃物を扱ってるんですから危ないですよ……お怪我をさせたくありませんので大人しくしていてください。冒険者の方はジッとするのが苦手な方が多いのも分かりますがね」


「チッチッチッ……無意識に動いてしまってたか……悪い癖やな」


 やや強い力でオーナーはシルバの頭を抑える。シルバは自分を罰するような舌打ちをして素直に反省する姿勢を見せる。


 聞きようによっては脅しのように聞こえる言葉だが、オーナーはそれでも冷静に髪を切り続ける。


(俺が何者か気になって仕方ないようやな、でももう分かった。俺の真下が入り口や……アウルム、左から2番目の椅子の下や)


(分かった……もう無理はするな、大人しく髪を切られてから離脱しろ)


(はいよ)


 舌打ちによるエコロケーションで室内の音の反響から、構造を理解されたとは流石にオーナーも思わないだろう。


 シルバは平常心、かつ重心や意識などを下に向けないように極めてフラットな状態を維持することに徹する。


 程なくして、髪は切り終わり、手で持てる大きさの鏡で仕上がりを確認させられた。


「うん、ええ感じや……さて、日もすっかり暮れてもうたし、宿に帰って寝るか……勘定を頼む」


「はいはい、お疲れ様でした。お代の方は服と髭剃り、髪切りで、合わせて銀貨25枚……金貨があれば金貨でも構いません」


「あいよ、世話になったな。なかなか気に入った……また来るわ」


「そうですか、ありがとうごさいます。またのご来店をお待ちしております」


「ほな……って、あ〜忘れてたッ! 寒くなってきたから襟巻きが欲しかったんや。赤くてあったかい丈夫なやつあるか?」


「おや……では、こちらなどは?」


 時間稼ぎ。出来るだけ、オーナーを店の表側に引き留める小細工だった。


 シルバは2つほど試してから、そのうちの1つを購入する。あまり長くは考えない。せっかちな冒険者として普通の速さで選び、店を出る。


 シルバが見えなくなるとオーナーは看板を下ろして、店の前にいた広告の老人に金をいくらか握らせ、帰す。


 そして店の扉を施錠してから、髪を切っていた部屋に直行する。


「…………気のせいか」


「誰もいませんよ」


 シルバの会計をする際に店の奥にいた部下に対して連絡するマジックアイテムを起動させていた。


 その合図があれば、部下はすぐに地下室の入り口がある部屋へと向かう。


 しかし、部下は首を横に振り、異常なしと伝える。


「いや、まだ判断するのは早いでしょう……」


 オーナーは椅子の高さや角度を調節する部分を特定の順番に弄り、地下室の入り口を開く。


「開けた形跡も無しですか……」


 初見殺しの罠を仕掛けていたが、それに引っ掛かった様子もない。本当にあの客はただの客だったのか、と考えるが、慎重な性格の彼はその疑念を完全には拭えない。


 ただ、嫌な予感がする。


 計画、行動は全て緻密であり、アドリブなど絶対にしない、無策による迂闊な動きは自身を滅ぼす元となる。


 それが彼のルール。


「夜明け前に出払いましょう。目的の人材は確保出来たのでね」


 だが、今日は違った。計画通り動くことの方がリスクに思えた。理性よりも動物的直感が上回る。


 地下へ降りようと、足を一歩、進めた時、外でドンッと何かが爆発する大きな音が聞こえた。


「ッ!? 警戒しろッ……!」


 部下の2人がオーナーを守るようにして即座に反応した。


 ──アウルムの放った突入の合図だ。


 ***


 シルバが店を出る少し前、アウルムは目当ての部屋に潜入する。


(入り口を開ける為の仕掛け……こんなものどこで見つけてくるのか……)


 道具があるということはそれを作った者がいる。椅子に細工がされており、『解析する者』で鑑定すると高さや角度を調節するレバーが鍵の役割を果たしていることが分かる。


 そんなものをわざわざ自作したのか、それとも犯罪者向けに作る業者がいるのか、アウルムのデータに心当たりはなかったが、まずそこが気になった。


(……ッ!)


 誰かが来る気配があった。アウルムはすぐに自身の身体を霧にして、隙間から入り込む。


(誰も居ない……幸運だったな)


 床下には階段が続いており、そこで敵と遭遇する危険もあったが、真っ暗で人の気配はなかった。


 明かりはない。恐らくランプのようなものを持って普段は降りているのだろう。階段はそれほど長くなかったが、突き当たりに金属の分厚い扉があった。


(防音……それに外側から鍵ということは中からこっちに出られないようにする為か……となると、ここから先は監禁する為の空間と考えた方が自然だろう……)


 シルバほどの聴覚はないアウルムは金属の扉に耳をつけて、内側の音を聞く。


(無人か……?)


 特に物音はしない。誰かが話したり、動くような気配はないが、それは扉の防音性の高さゆえかもしれない。


 もし敵の仲間がいた場合、光と音で行動を麻痺させるような方法は使えない。上に聞こえてしまうだろう。


(いや、待て……上の奴らが降りて来た場合はどうしている? 扉が開いただけではまだ誰かは分からないだろう……ノックか?)


 決められたリズムのノックによる合図で敵味方の識別というのはありがちだが、覗き窓もないようで妥当なものだと思えた。


 しかし、アウルムはその合図を知らない。予測するのも無理がある。


(フッ……俺も多少慌てていたようだ……何を馬鹿なことを考えていたんだ)


 そこで、取るべき行動に思い至り、無駄な推理に自嘲気味に笑う。


「壁だ」


 土魔法で壁を崩壊させれば良いだけのことだった。扉に注意が向いていたせいで、そんな簡単なことにも気が付かなかった。


 壁を崩し、回り道をしながら進む。後方の崩壊した部分を修復しながら掘削するなどアウルには容易である。


 ある程度進むと土から石で出来た壁に突き当たる。


 壁にピンホール状のごく小さな穴を開けて中の様子を覗き込んだ。


 そこには薄暗いが光源があり、女が1人顔を袋で覆われて、手足を縛りつけられているのが見えた。


(当たりだな……見張りはなしか……最低でも後2人はいるはずだがどこにいる? 別の仕事に行ったか……)


 一先ず、部屋の中に入っても大丈夫だと言うことが分かり、アウルムは壁を破壊する。音は闇魔法で消音出来るので、問題はない。


 拘束された女は気がつく様子もなく、大人しくしている。


「ッ!」


「しっ! 大丈夫だ助けにきた。危害を加えるつもりはない。外してやるから大人しくしてろ、良いな?」


「……!」


 アウルムは女に近寄り口の辺りを手で抑える。いきなりのことで女は驚き身体が跳ねたが、それ以上暴れることはなく素直指示に従う。


 顔に被せられていた袋を取ると黒い髪が現れた。


「……ネネ・エスメだな」


「ありがとう……あなた誰?」


「俺は冒険者のアウルム。お前の姉に助けると約束した」


「お姉ちゃんが……?」


 ネネ・エスメは姉よりも背は高く168cmで日本人女性にしても大柄な方ではあるが、細身である為、実際の身長よりも背が高い印象があった。


 健康状態も悪くなく、普段から良い暮らしをしているのは一目で分かる。乱暴された形跡もなく、元気な姉に対して眼力も弱く大人しい気怠げな雰囲気だ。


「お前1人か?」


「少し前、男と女がここにいた。あいつらに連れて行かれた」


「どこに?」


「見えなかったけど、声はあっちの方に行った」


 ここは大きな空間であり、隅の方は暗くて何も見えない。光魔法で光球を飛ばすと、壁の色味が少し違う場所があった。


「隠し部屋の中に隠し扉か……念がいってるな……」


 その壁をほとんど無理やり開けると、遠くから水の流れる音が聞こえる。


「下水道と繋がってやがるッ……! そうか、オブスキュラ運河か……!」


 シャイナ王国を南北に縦断する巨大な運河、オブスキュラ運河。


 王都の城壁内にはオブスキュラ運河からの水が水道によって流れ込み、その排出先もオブスキュラ運河である。


 下水から運河まで舟を使えば行くことが出来る上に、王都を出るのも城門をくぐるより遥かに容易だ。

 この店のオーナーは勝手に下水道を改造して店の近くまで引き込んでいたのだ。係船柱まで用意されているが、そこには舟はない。

 つまり、夫婦は既に『輸出』されてしまった。


 もはや、追跡は不可能である。一歩遅かった。それに気がついたアウルムは思わず扉を殴る。


「出るぞ、ここは仲間が襲撃する」


 アウルムは切り替えて下水道を注意深く調べながらネネに話しかける。


「任せる、どうしたら良い?」


「歩けるか?」


「怪我はしてないからだいじょぶ」


 ネネはこの状況にも関わらず、足を動かしピースして見せる。ナナはあれほど動揺していたのに、妹がこの落ち着きようである。


 アウルムは思わず、ため息を吐いた。


「乗れ。落ちるなよ」


 アウルムは下水道に舟を作る。土魔法で作ったものなので、耐久度は大してない。本来の下水道には人が歩く場所があるので、そこに繋がるまでの一時的な舟だ。


「何してるの?」


「仲間に合図を送る。耳を塞いでろ」


 アウルムは天井を削り上の店の床が見えるまで掘り進めた。


 腕を上げて、床をぶち抜く火の球を発射する。それは床から天井まで更に突き抜け、地上の空に打ち上がり、爆音を発生させる。


「行くぞ、すぐに姉に会えるだろう」


「うん……ありがとうねアウルム……アウルム……? 聞いたことあるような……?」


「一応、そっちの店の商品は定期的に購入させてもらってる」


「ああ、思い出した、プラティヌム商会があなたなのね。今度お礼に私のユニーク・スキル一回使ってあげる」


 舟に乗り、大人しく座り込むとネネは指を立てて思わぬ提案をした。


「顔を変えられると聞いたが……俺には必要がない」


「別にあなたじゃなくても良い。顔や身体に怪我がある人を治しても良いし、顔を変えたい人がいるなら変えても良い。普通はお願いされてもやらないんだけどね」


「まあ、貴重な能力だ。断るというのも勿体無いかも知れんな……考えておこう」


 違法下水道を30秒ほど進むと、正規の下水道に合流した。キラドに報告して埋めないとまた犯罪に利用されるな、と頭の中でメモをしておく。


「掴まってろ」


「ん……」


「なんだ? ああ、ネズミか」


 下水道の端に人が歩ける地面が現れ、すぐそばには地上へと繋がる階段がある。


 アウルムはネネを抱き、舟から飛び降りようとしたが抵抗されたので振り返るとネズミを指差していた。


 アウルムからすれば、こういった汚い場所での行動は慣れているが、日本人の勇者で、その勇者の中でも比較的安全、衛生的、裕福な暮らしの彼女からすれば抵抗感があるのは理解出来る。


 被害者となり、表情にこそ出さないが疲弊しているであろう彼女に「ネズミくらいでガタガタ言うな」と叱りつけるほど、アウルムは意地が悪いわけではない。


 小さい石の弾丸を飛ばして、追い払ってやる。


 地上に出るとすっかりと日が沈んでおり、時刻は夜の8時。この時間帯に出歩くのは仕事をまだしている者か、遊びに出かける者、警備関係の者くらいだ。


 周囲の安全が確保出来たことをネネに伝えてから、地上に顔を出させる。


「お姉ちゃんどこにいるの」


「勇者の館に保護されている。これからお前もそこに連れて行き事件が片付いたら自由にして構わない……と言うか、俺に行動を命令する権限などないから推奨でしかないのだがな」


「従う。私たちに戦う力はない」


「なら、ついてきてくれ……それと、これは忠告だが助けてもらった相手でもあまり信用するな。お前を捕らえた奴らと仲間か、別の犯罪者という可能性もある」


「それくらいは分かってる。でも抵抗したら余計に危なくなると思う」


「そうか、なら一つ教えてやろう。そんな時は相手に名前で呼ばせるんだ。物ではなく、生きた人間であると認識させるだけで、相手に罪悪感を覚えさせやすい。多少は生存率が上がる。個人的なことや、家族のことを教えるのも有効だ」


「じゃあアウルムは私のことお前じゃなくてネネって呼んで」


「参ったな……これは一本取られた。ネネ、今から少し歩いた所に、馬車を待たせている。勇者の見た目は目立つからこれを羽織ってくれ」


 ネネの言う通り、アウルムは彼女のことを『お前』と呼んでいた。これは自覚的に相手と距離を作る為だが、この状況では確かにネネと呼ぶのが筋と思える。


 少し皮肉げに笑い、アウルムの着ていたフードつきのマントを渡す。


「……冒険者なのに何の匂いもしない」


「おい、嗅ぐなよ」


 スンッとネネは何故かアウルムのマントを嗅いで、首を傾げた。


「ごめん、でも仕事柄人の匂いは気になるから……アウルムの雰囲気に合いそうな香水、教えようか?」


「いやいらない。俺は嗅覚が敏感なんだ。香水は苦手だ」


「それでよくあの下水道平気だね」


「まあ仕事柄、酷い匂いは慣れてる」


「香水の良い匂いは嫌なのに? 変なの」


「確かに……変だな。行くぞ、離れるな」


 アウルムはネネを御者のビスタが待機している場所に連れて行く。こんな時間に女を連れて勇者の館付近まで行けと命令しても、ビスタは何も質問はしない。


 自分の領分を弁えて詮索はしない。故にビスタは御者という大して稼げない職につきながらも、中流の平民としては裕福な部類であり、妻と子供3人を養うことが出来ている。


 今回の事件の重要な情報もビスタからもたらされたものだった。手放したくない人材であり、アウルムはしっかりと多めに報酬を支払う。


「俺はこれ以上近付けない。大丈夫、ここから先は安全だ、もう行って良いぞ」


「うん……アウルム、ありがとう。お姉ちゃんと改めてお礼するから」


「俺はネネを運ぶのが仕事だったが、他にも動いている人間はいる。別に俺だけに特別な便宜を図る必要はない……いや、むしろそうするべきではない」


「分かった……でもありがとうは言っておきたい。仲間の人たちも今度紹介して」


「ああ、伝えておく。そろそろ行く」


「じゃあね……あれ、もういない……気をつけてね……」


 ネネが一瞬目を離した隙にアウルムは姿を消していた。彼女はキョロキョロしながらアウルムを探すが、行ってしまったのか、と理解した後は勇者の館まで1人で歩いていった。


 姿を見せていないだけで、無事に辿り着けるまでは監視している。ただ、勇者の館に近付くことがリスクである為、護衛の任務はここまでとなる。


 門をくぐり、完全に敷地内に入ったことを確認してアウルムは『虚空の城』を使い、仕立屋ネルの前に転移した。


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