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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
9章 ファミリー・アフェア
200/256

9-12話 王都で犯罪を遂行するには

200話到達しました!


 最後にデザートを食べている時のことだった。クレームブリュレのような表面を炙った硬いカスタードプリンに似ているものを食べ、フレイは目を輝かせていた。


「フレイ、勇者が来てからここ最近になって以前とは変わったと思うようなことはあるか?」


 アウルムは何となく、現地人フレイの視点で勇者の影響を聞いてみようと質問した。


「そうだな、色々変わっているとは思うが田舎出身だから、最初は何が王都で普通か、というのが分からなかった。だから文化などを聞かれても困る。

 だが、ここ最近明らかに変わってきていると思うのは貴族の子供の数だな」


「へえ、それは増えてんの? 減ってんの?」


「増えている。それも幼くして魔力量が多かったり、顔が整っていたり、貴族として優秀と認められる子供が増えた。これは勇者の知識によって死産になることが減ったことや、長く子宝に恵まれなかった家から子供が生まれるようになったこと、教育の改革があった影響もあると思うが仕事柄それを感じることが増えた」


「不妊治療に育児……か……」


 勇者の世界では常識となっているような知識はこの世界の貴族に広まっている。確か、出産や育児指導をしている女性教員の勇者がいたな、とその変化の理屈にアウルムは納得する。


「貴族の学校も2年後には魔法学校に変わるもんな」


「その辺りは結構未だに批判の声も大きいのだがな、他国の脅威を考えると致し方ない、というのが答えだろう」


「平民に門戸を開くとは言え、結局は爵位を金で買えるような金持ち商人や宗教関係者の子息子女だからな。そこまで数は増えんだろう」


「しかし、その提案をしたのがヒカル・フセと言うのがな……正直、裏切るつもりならそんなことしなくて良かったはずだ。あの男は何がしたいのかまるで分からないな。奪ったものも多いが、我々に与えたものが多過ぎる」


 ヒカル・フセは多岐に渡り日本の文化、科学、知識、あらゆるものを王国に与えて発展に寄与した。


 戦時中の武功もさることながら、国を豊かにする為に力を注ぎ、その知識は裏切り者でありながらも現在においてまで利用されている。


 手放すにはあまりに惜しい知識の数々。


 だが、何故それを自ら台無しにするようなことをしたのか?


 これについては未だに答えは出ていない。


「あいつは確かに知識を与えたが……与える知識は選んでるからな。何か狙いがあるのはまず間違いない」


 アウルムはヒカルがこれまで何を教えて、何を教えなかったのか、という視点で彼をプロファイリングした。


 活版印刷、教育、食事、軍隊の規律、多岐に渡る知識だが、火薬、ワクチン、電気、通信技術など敢えて教えていないと思われることもある。


 その中で、平民にも教育を施すことの意味。何となく見えてくるものがある。


「フレイ最近、犯罪の取り締まりで何か変に思ったことはないか?」


「……ある。規模の割に捕まるのが小物で手応えがなかったり、あまりに簡単に解決することが多いと感じる……肩透かしを食らったような空振りに近い感覚だ」


 アウルムは出来るだけ抽象的な質問をした。誘導するような質問にしない為だ。


 そして、ディラックの感じたものに近い何か妙なことが起きているという感触はフレイにもあるようだった。


「何か、あるのか?」


 そんな質問をされ、フレイはアウルムとシルバを見た。


「ああ、実はな──」


 シルバはディラックと会話した際のことを話し、それなりに大規模な捜査をする必要がある可能性を示唆する。


「だが、まだ確定ではない。本来、犯罪者の追跡は我々調査官の仕事だが、冒険者の統率はディラックに任せた方が良い。

 今情報を集めてもらっているところだ。もし何かが起こっていると確信出来るものが出たら動く」


「まあ、俺らは陰からアドバイスして操作の方向性を指揮する感じになるわ今回は。騎士、兵士の統率はこの場合誰がやることになる?」


「王都の地域にもよるな。地区ごとに担当している中隊長がいて、複数の地区を跨いだ犯罪なら大隊長が指揮をするはずだ。団長、副団長はよっぽどのことがない限り出てくることはない」


 王都と言っても広く、細かく担当地域が分割されている。その中でも地区をまとめるのが中隊長の役割。


 小隊長であるフレイの直接の上司は小隊長をまとめる中隊長であり、その中隊長をまとめるのが大隊長。


 団長、副団長クラスは王城、王族に危険が及ぶようなレベルの犯罪対処に出てくるが、基本は王族を守ることが任務である。


 小隊長は騎士と兵士を繋ぐ役割があり、特権意識の強い者はコミュニケーションに難がある為向かない。その点、フレイは平民出身である為、問題なく接することが出来る。


 平民出身にふさわしい仕事、などと馬鹿にされることもあるだろうが、騎士よりも兵士の方が数は多いので重要な役目であるのは間違いない。


 また、貴族の住むエリア、貴族街には兵士がいない。全ての仕事を騎士が行う。貴族の住む空間に汚らしい平民を入れさせたくないという考えが透けて見える。


「となると、ソリッド・ヴァスカビルか……」


「誰?」


「お前……騎士団の主要人物くらいは頭に入れておけ」


「いや、むしろすぐに名前が出てくる方が凄いと思うがな。私は名前を覚えるのに苦労した。

 ソリッド・ヴァスカビル大隊長は……その、気難しい方だ。正直なところ、平民と言うか、冒険者が関わる案件で上手くやれるかどうか不安だな」


「実力はまあ、相応だが出世欲が強過ぎる。今回のことがもし本当に何かあるとしたらデカいヤマだ。手柄欲しさに前のめりになり、現場を引っ掻き回される感はあるな。典型的な上昇志向の高いエリート騎士、と言ったところか」


「あ〜聞いてるだけでやりづらそうな奴やな」


 代々、屈強な騎士を輩出する名門のヴァスカビル家。現当主の長男がソリッド・ヴァスカビルである。


 実力、家柄ともに申し分ないが、次期当主としてのプレッシャーを感じているせいか、やや功を焦る傾向が見られる。それに少々純血思想が強い。


 と以前キラドが言っていた。


「恐らくだが、解決したとしても成果は奴に取り上げられるだろう。その辺りの根回しは最終的な責任者のキラドにしておく。これで『黒鉄』に恩が売れるな」


「俺らからしたら名誉とかより事件解決の方が優先度高いからどうでも良いけど、協力要請されてるクランからしたら面白くない話やからな」


「さて……そろそろお開きとしよう。フレイ、それとなく中隊長には話を通しておけ。今回は連携が肝だ、話が確定したら直接……は無理か、数日以内にこの件は上から話が回ってくるはずだ。言うまでもないが、夜間の警備、巡回は念入りにな。声をかけるだけでも抑止力になる」


「ああ、そうだな……しかし美味しい食事だった。素晴らしい時間を2人ともどうもありがとう」


「ええねんええねん、俺ら金は持ってるから! また飯食おうや」


「そうだな、まずはこの件が解決してからだろうが」


「……待て、服が少し汚れている。大人しくしていろ」


 話もある程度は落ち着き、フレイが立ち上がろうとするのをアウルムは止めた。


 フレイの服についた汚れを水の魔法で汚れを洗浄し、跡形もなく、生地も傷まないように消して乾かした。


「器用なものだな」


「おっと! フレイ、自分で立ったらあかんて、俺が椅子引くから」


「シルバ、馬車までエスコートしてやれ」


「言われんでも紳士として当然やん?」


「なんか……恥ずかしいんだが……」


「慣れろ。騎士とは言え、女として扱われることもこれからは増える。付け入る隙を与えるな。それらしく振る舞えば、それなりに対応してもらえる」


 服の汚れを落とし、椅子を引いてもらい、シルバの腕に掴まれと指示される。


 自分が貴族令嬢にでもなったようで、訓練以外にここまで男に丁寧に接され、近付かれることがなかったフレイはその新鮮な感覚に困惑する。


 馬車までエスコートされ、フレイは騎士の寮へと送り出された。


「やっぱあいつは特別やな。可愛げがあるわ」


「ヒューマンの中では俺たちについて知っていることが多いからな……宿に戻ったら少し散歩をしようか」


「散歩って言うか……現場検証やろ?」


「ああ」


 アウルムとシルバも馬車に乗り、滞在している宿に一度戻る。それから冒険者風の服装に着替えて街に繰り出した。


 ***


 夜の街、平民街にて屋台の立ち並ぶエリアを歩きながらアウルムはシルバに問う。


「さて、お前ならこの区画で人を攫おうと思ったらどうする?」


「1人か、お前もしくは誰かと組むかによるな」


「では、もしお前だけでそれが可能か? あらゆるユニーク・スキル、スキル、マジックアイテムを使用して構わないものとする」


「……無理や。殺すだけなら出来るけど誘拐は難易度が全然高い」


 シルバは顎に手を当てて、周囲を観察しながら答えを出す。


「では2人なら?」


「それでもまだ難しい。1人が馬車でスタンバイ、俺が押し込むにしても、周囲の状況確認が疎かになる」


「そうだな。つまり、この人がそれなりにいる王都で誘拐を成功させるには相手を一瞬にして制圧する役、それを見張る役、馬車を用意する役がスムーズに仕事をこなして初めて成立する」


「そもそも、暴れるやろうしな。1発でガツンと殴って気絶させて力の抜けた人間を運ぶなら2人がかりか、よっぽど力持ちの大柄な奴じゃないとな。力あっても小柄じゃ運ぶのが難しい」


 金目当てならば、命惜しさに抵抗せずに素直に渡すパターンもあり得るが、拉致されると分かれば絶対に抵抗はする。


「まず、ここから分かるのは移動手段に馬車を持つ人間でないと、誘拐はそもそも実行出来ないということだ。このことから、誘拐犯は馬車を扱うことの出来る地位にいることが最低条件となる」


「商人、それなりに金のある冒険者、貴族、貴族の遣い……あたりか。更に手口的に男じゃないと厳しいから、そこから更に半分に出来るな」


「例えば強引な手段ではなく、騙して……みたいな女を囮役に使う方法でも、夜に女が歩いていたら目立つしな」


 困った女に助けを求められて、と言った手口もまず使わないだろう。貧しい身なりならば、まず確実に犯罪の気配を感じて無視するはず。


 逆に身なりの良い女の場合でも、1人で困っていることはあり得ない。誰か近くに男がいる状況でなければ夜道においては不自然だ。


 王都はそれなりに犯罪も多く、住んでいる者は危険を察することが出来る。直感的に危ない気配がすることには近付かない。


 となれば、実行犯の最低3人組は男。男が馬車を使い、夜の街を移動していても誰も不審には思わない。


「では次に、『誰』を狙う?」


「それは目的によるな。でも、基本的には消えても騒がれんような家族のおらん奴にしておくべきや。単に誘拐して奴隷とする為の人体が欲しいのなら、旅人や孤児、浮浪者、立ちんぼ、そんなところやろう」


「それ以外の人間を誘拐とするとしたら? 家族がいる人間とか」


「う〜ん……家族ごと誘拐するしか無理なんちゃうか? バレて騒ぎになるのを嫌がるやろうし、家族がおらんくても、仕事を持ってる奴なら出勤して来んから仕事仲間が探すやろう。そういうリスクを犯すメリットが分からんな」


 そもそも、都会での誘拐は検問があるので成功率が低い。もし仮にそれを成功させるのならば、想像だにしないような盲点をつく必要がある。


 手段はいずれにせよ、馬車は必須。これはアウルムとシルバの共通の見解だった。


 それがユニーク・スキルを持つ勇者でない限り……だが。


「ホシノ領で見つかった死体だがな、骨の状態からして別に極端に貧しい人間ばかりが狙われていたってことはなかったんだ。そして、何故か老人と成人前の子供の死体は無かった」


「となると、誘拐すること自体リスクとなるようなターゲット、消えたら騒がれてもおかしくない独り者ばっかりを狙ってないのか。やっぱり、そこやな、リスクを負ってまで何を求めるかが謎や」


「あの死体と誘拐と王都の事件を全て結びつけるのだとしたら……だがな」


「誘拐に関する噂は殆ど聞かない。これは変だ。放火、殺人、強盗はそれなりに多い。一体どんな相関関係にある?」


 明らかに誘拐された後殺されたような死体が見つかったが、犯罪が発生していそうな王都ではそんな話は聞かない。犯人が王都にいないのであれば、探す範囲も絞れるが、そんな簡単な話とは思えない。


 アウルムは首を傾げる。


「さあなあ……そこら辺は共通した手口がないことには結びつけられへんやろうし、取り敢えずはディラックの報告待ちやなあ」


「そうだ、言い忘れていたがナナ・エスメに会った。お前のことも知ってたよ。話したいと言われてる」


「あ〜ナナ・エスメって勇者やんなぁ? なんで? てか、エスメって苗字ある?」


「うちはあっちの商品買ってるし、あっちもこっちの野菜なんかは買ってるからな。お得意先ってほどでもないが、関係はあるし、その程度の縁でも深めようとするのは商人として普通だ」


「はいはい分かったって。面倒くさいけど、行けばええんやろ。で? エスメって漢字でどう書くねん?」


「お前が気になるのはそっちかよ。エスメはエステ&メイクの略称でメスメ姉妹堂を屋号にしてるからその後家名を分かりやすくエスメに変えたらしい。元の苗字はサトウって思いっきり普通だ」


「へえ」


 シルバの反応にアウルムは違和感を覚える。いつもなら、女に誘われることに対してもう少しテンションが上がるはずだ。


 腹でも痛いのかと、心配をしたら、わざとらしくため息を吐いて鼻で笑った。


「ぶっちゃけどんな可愛い女でも、大して仲良くなれんこと確定してる勇者はイマイチテンション上がらんのよな。そりゃまあ、やたらと好戦的とか精神が崩壊しかけてる奴よりはマシやが勇者ってだけで気は張らんとあかんしぃ? 遊ぶ訳にもいかんやん? 誘われてところでなあ」


「極端だろ」


「デフォルトで薄ら女嫌いなお前にだけは言われたくないな〜王都来て飯とか会合とかそんなんばっかりで、退屈なスケジュールが増える一方やな」


「人に会う為に王都に来てるからな。そりゃそうなる」


「俺は迷宮都市の方が好きや」


「さっさと済めば良いんだがな……」


 2人は夜の街に消えて行った。

ネトコン12、残念ながら二次選考止まりでした。これからも面白いお話を書けるように精進したいと思います。9章もまだまだ続きがありますので、引き続きお楽しみください。

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