1-18話 苦戦
本日いつもより早めの投稿です。
くっそ……速い……いきなり霧の中から出てきたと思ったらまた消えよる!
これはユニークスキルというよりステータスの高さからくる素早さかっ……。
シルバはミストロールの攻撃に翻弄されていた。お互いに決定打となる攻撃が当てられず、状況は拮抗していた。
「でも、俺に攻撃するのが無意味と分かったら逃げる……よし、どうしたぁ! トロールよぉ! そんな攻撃じゃ俺に傷一つつけられへんでぇええっ!? それにお前の攻撃してくる時の顔キモ過ぎるわっ!」
「私をトロールと呼ぶなあああああああっ!」
ミストロールはシルバの挑発を受けて激昂する。
「へえ……トロールって呼ばれるのがそんなに嫌か」
ミストロールには聞こえない程度の声で呟く。良い事を聞いたとシルバは笑う。
「キレんなや、子供を狙う卑怯モンの化け物風情がっ! シィッ! 外したか……」
姿を見せたと思ったらまた消える。ミストロールは徹底してヒットアンドアウェイの戦法を取り、シルバの結界内からの攻撃をヒラリとかわす。
更に挑発を続けて相手のミスとアウルムの到着を待つ。
「ラァッ!」
ガキッ!
シルバの剣が命中する。段々と攻撃のリズムは掴めてきた。しかし、切り裂くような手応えがない。まるで鉄の板を殴りつけたような反発だ。
「硬っ!」
手元の剣を見ると僅かに刃こぼれしている。何度も繰り返せば大した傷を負わせる事も出来ず、武器が破損していく。
「チッ……『非常識な速さ』」
これで武器を復元する事は可能。だが、切れ味がこれ以上上がることはない。
いっそ俺だけの『不可侵の領域』に入れて殴り合うか……? いや、相手の能力が分からんのに同じ土俵に入れるのはリスクが高い。
ステータス差を貫通するタイプの攻撃くらったら終わるか……。
俺の能力は基本的に迎撃、反撃型。それが確実に決まる相手なら強いが、こっちから攻撃するとなると決定打に欠ける……!
それにこいつらとの間合いを気にしながら戦うのもキツい!
シルバは背後にいるヴィンス、マルテ、ニナを意識する。
「お前ら、この結界から出るなよ!」
そう言ってシルバは家の外側に火の壁を作る。
その中に飛び込み、コインをばら撒いて自分用の結界を新たに展開する。
『不可侵の領域』〜絶対領域〜
結界の範囲は1メートル。剣を振れば、足運び次第で結界の外側まで攻撃が届く。これが本来の間合い。
結界によって死角からの攻撃をカバーし、防いだ際の音で反応が出来る。
対人、集団を一人で対処する場合の無敵の空間。
この空間でシルバは負けた事がない。
「負けへんけど勝てへんかもなあ……これじゃ……」
今は俺に注意を逸らせたらそれで良い。でもその後は?
この霧の深さ、あいつの速さじゃアウルムが『目を合わせる』のはキツイ。
この霧がとにかく邪魔。連携すら取れへん。困ったな。
(シルバ、家が見えてきた、どこにいる)
(その家の入り口側や、気をつけろ近くにいるぞ……家の横に穴が空いてるんやが、その家の中には村人がおる。そこは結界張ってるから取り敢えず入れ)
(分かった……よし、入ったぞ。状況は?)
(不利、やな。決め手に欠ける。めちゃくちゃ硬いわあいつ……この霧をなんとかしてあいつの動き止めたらお前の『現実となる幻影』でやれるか?)
(いや……恐らくやつは俺と目を合わせないだろう)
(お前が合わせられへんのではなく、合わせない?)
(ああ……俺の考えではミストロール奴は本来若い女だ、お前がお婆さんと言っていたが歳で言えば俺たちより歳下だろう)
(歳下!? 学校ごと転移してるんやから先生とか掃除のおばちゃんで予想裏切って来たなあって思ってたんやが!?)
アウルムの予想外の答えに思わず、家の方を見る。
「うおっ……っと、ビビらせやがって」
注意がそれたシルバの結界をミストロールが殴りつけるのに驚く。
「ヒヒ……ここまでの強度の結界……いつまで持つかなぁっ! 吸い尽くしてやるっ!」
「キモいねんお前っ!」
(いいか、戦いながら聞いてろ。今あいつが情報をこぼしただろ……これで確信に変わった。森の中を探したら干からびたミイラみたいな子供の遺体が見つかった。そいつは子供の精気のようなものを吸い取って若返っていると考えられるんだ。それに子供だけじゃない若い女もやられてた。
元々、老け顔だったことがコンプレックスだったからこそ、そういうユニークスキルが手に入ったんだろう。
そして、いきなり知らない世界に連れられ、魔王との戦い、同級生の死、高校生には計り知れないストレスだ、更に老け込むことだってあり得る。
そいつは美しさ、若さに異常なまでに取り憑かれている!
犯行を繰り返すのはスキルの効果が一時的なものなのか、コンプレックスのあまり強迫観念に囚われているのかは分からないが、殺すまで絶対に止まらない)
(そんなアホなっ!)
(どれだけ整形しても満足出来ない人間だっていただろう)
(ああ……いや、でもそれで人を殺すのはイカれてる!)
(そうだ、そいつはとっくに壊れてる。人に見られるのを極端に恐れて人里離れた場所を転々とし、そのくせ誰に見られる訳でもないのに、美しさに固執する……矛盾してるんだよ)
(そんなもん……なんで……自分の姿が目に入らんようにして一人でひっそり生活する選択肢だってあったやろ……!)
尋常ではないミストロールの行動原理を聞き、絞り出すように言葉を探す。
それで、コンプレックス抱えるのは分かる、自分が嫌いなんも仕方ない。でも……そんな勝手な理由で、あんなマルテや村の子供を何の躊躇いをなく殺すって言うんか……。
まるで理解出来ない、想像の何倍も狂ってしまっていた勇者。同じ世界の人間として同情のような怒りのような、なんとも言えない気持ちがシルバに溢れる。
(自分の姿が目に入らない……ああ、そういうことかミストロールのユニークスキル。大体分かったぞ)
(何なんや!?)
(恐らく、ユニークスキルは吸血鬼──ヴァンパイアの力が使えると言ったところか……考えても見ろ吸血鬼は霧に変身出来るし、血を吸ってはいなかったが本質はエナジードレイン。それにマーダーウルフの襲撃……吸血鬼は狼を使役出来る言い伝えがある。そこで村に入り込み、お前の戦力を測ったのか、殺そうとしたのか。
決め手は奴がいたと洞窟だ。子供が鏡を持っていたと言っていた)
(……吸血鬼は鏡に映らない……)
(ああ。常に映らないのではなく、ユニークスキルを使っている間は映らないんじゃないだろうか?
だから、美しくなった自分の姿を客観視出来ない。不安だけが残る。これじゃ壊れるのも無理はない)
(何がユニークスキルは神の祝福やねん……呪いや、そんなもん)
(それが魂の形をユニークスキルに変える。という事なのかもな……)
(それでっ! 倒す方法は!)
(そいつの種族が吸血鬼になってるんじゃない。ユニークスキルで吸血鬼の能力を得てるだけだ。それに殺す方法なんて普通に人間にやっても死ぬだろってものばかりだし言い伝えはマチマチだな)
(……あっそ、ったくこれじゃあ埒が明かんな……悪いけど捨て身の攻撃させてもらうわ後は任せた)
(は? おい、何するつもりだシルバ!? おい!)
念話終了。
さぁてと、今のところ勝てる方法はこれしかないよな……お〜こわっ。
シルバはある事をする覚悟を決めた。