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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
7章 マニー,マニー,マニー
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7-27話 クラウン


 アウルムはシルバの肩をガシッと力強く掴み、それだッ!と叫んだ。何度も肩を叩いた。


「いや、分からん分からん、説明してくれ」


「説明は不要だ、お前はクラウンを全力で追いかけて時間を進行させてくれ、その間に俺はこのゲームを終わらせる。ミアもラーダンも合わせて全力で追いかけろ」


 アウルムは道路を指差して、シルバがやるべきことは全力で走るだけだと言う。


 あまりに雑で乱暴な説明にシルバはついに追い詰められておかしくなってしまったのかと、アウルムを見た。


「は……? ど、どういうことやねんッ!? 俺たちが動くことで時間は進むのは分かるッ! でもそれは死へ突き進んでいくってことやねんぞッ!

 こうやってなんぼ作戦練っても……いや、練ってても時間は進まんなら慎重に検討に検討を重ねて……ってなんでこんな政治家みたいなこと言ってんねんッ!?」


「いや、その『時間を進める』ってことが俺たちに有利に運ぶ。いいからやれぇッ!」


「……ッ! なんやねん、マジで……お前失敗したら殺すぞ!」


「どのみち死ぬだろうがッ!」


「信じてるからなッ!? 言っとくけど本気出したら捕まえられるとかじゃないからなッ!? これは……!」


「んなもん、分かってんだよ行け、良いから」


 アウルムはシルバをロードランナーのクラウン追跡に向かわせて荒野で1人になる。


 そして、上を、晴れた空を見上げて叫んだ。


「ナナミ・カタクラッ! テメェどっかで観戦者気取ってんだろうッ! 俺の声は聞こえるな出てきやがれっ!」


 返事はない。ただ、静かな荒野を風が吹き抜けるだけだった。


「……お前の弟の命は俺が握ってる。いや、弟の命を握ってるカメリアの命を俺が握ってる意味が分かるな? 今すぐ出てこい」


「ちょっとぉっ! それって反則じゃあないの〜!?」


 返事がなかったので、露骨に脅した。こればかりは無視出来ないと読んでいた。


 そして、アウルムの目論見通りナナミは姿を現した。カウボーイ風のふざけた服装をしてアウルムに怒鳴りつける。


「ふざけんな、そっちこそこんな出鱈目な世界に引きずりこみやがって……簡潔に話すが、ぶっちゃけこの戦いに双方にメリットはない。

 こっちはお前の弟だか、兄貴だか知らんがクラウンに話が聞きたいだけで、場合によっては殺す必要はない」


「あんのね〜、言っとくけど追い詰めてるのはこっち、殺すかどうかの判断もこっちがするんだよぉッ!?」


「いいや、外の世界で俺がカメリアに魔封じの枷をつけた。魔力を介した奴隷契約をクラウンがしている以上、俺が枷を外さなければクラウンは自由の身にはなれない。

 つまり、俺がここで死ねばお前たちは詰む。

 カメリアもボコボコにしてやったから放置してたら遅かれ早かれ死ぬ。

 分かるな? 俺もカメリアも死ねば、クラウンは連動して死ぬぞ」


 テメェがクラウンを解放する為にコロシアムで金稼ぎしてカメリアに横取りされたのは分かってるからな、と付け加えて更にナナミを脅す。


 そして、ナナミもクラウンも外の状況については何も知らない。ならば、今はアウルムの言っていることが唯一の外についての情報になる。


「それで、あの銀髪がいるなぁ? あいつは俺の相棒だ。一連托生のな。あいつが死ねば……例え俺だけが生き残れようと絶対にカメリアの枷は外さない」


「ちょっ……嘘でしょッ!? あいつ全力でヤクモ追っかけて……あああッ! 残機が後1つになってるッ!?」


 ナナミにとってアウルムの言ったことに関する真偽は不明である。


 アウルムの目的はこれ。ナナミを焦らせる為。深く考える為の時間を与えないようにする為にあえてシルバを死に近付けた。


 全ては生き残る為に……。


「決めろッ! 今だッ! お前がウダウダ考えてる間に俺の相棒は俺を信じて全力でクラウンを追いかけ回すッ!

 それを止められるのはお前しかいないぞッ!

 自分の家族が死んでもいいのかッ!」


「……ッ! ……クッソォォッ!」


 ナナミは慌てた。元々、飛び入りで会議に乱入してくるような人間に計画性などある訳がない。


 金を稼ぎ、オークションで買い戻すようなプランの人間にこの一瞬で的確な判断が出来るはずもない。


 アウルムの口車に乗せられて、追い詰められる。


 と、アウルムは分析し、これに賭けた。情報はまるで足りない。どう動くかも分からない。


 ただ、この状況を切り抜けられるとすれば、ゲームの外側の人間。

 メタ的な存在の、このふざけた世界の役割を演じていないナナミ・カタクラのクラウンを助けたいという感情を利用することが唯一の方法だった。


 これにアウルムは命をベットする。


 ナナミは腰に下げた銃を抜いた。アウルムに向けた……と思えば、それを空に乱射する。


「BEEP BEEPッ! 何ッ!? ナナミッ! それ非常用の銃って分かってんだよネェ!?」


「今すぐこの世界を終わらせてッ! じゃないとあんたが死んじゃうッ!」


「ええッ!? それマジッ!?」


「こんなことで冗談は言わないッ! こいつがこの金髪がカメリアの命を握ってるッ! こいつもこいつの相棒も殺しちゃったらヤクモも死ぬッ! 今すぐッ解除ッ!」


「ガビーンッ!? ヤバイヤバイヤバイッ! 解除ッ!」


 ロードランナーに扮したクラウンは顔を青くさせてナナミの言うことをそのまんま信じた。


 そして、指を鳴らしてユニーク・スキルの解除を宣言する。


 ***


「どぅおわああああっ!」


「きゃあああっ!」


「ムッ!?」


「成功したようだな……」


 シルバ、それに続き、ミア、ラーダン、そして最後にアウルムがテレビから放り出されて元の場所に戻った。


「よおおおおッ! 相棒ぅッ! お前流石やなあッ!」


「馬鹿、後にしろ全部終わった訳じゃないんだぞ」


 シルバは上機嫌でアウルムの背中をバシバシと叩く。


「解放したんだからカメリアの身柄をこっちに渡しなさい」


 ナナミはそんなアウルムを見て手を前に差し出した。


「……はて、そんな約束はしてないが」


「なんですってェッ!?」


「こっちが言ったのは俺たちを解放しないとお前たちが困るという事実だけだ。その後にカメリアを寄越すなどという約束は一言もしていない。

 人の話は最後まで聞くんだなガキ」


 アウルムの発言にナナミは激昂する。

 騙されたと叫び、クラウンはあちゃ〜と言いながら額に手を当てた。


 逆に、このナナミの短絡的な行動がアウルムたちを救う唯一の道だったのだから、もし少しでもタイミングが違えば今頃死んでいたのかも知れないと思うと、シルバはゾッとした。


「あーそう言うこと………やっぱ頼りになるなあ。よし、カメリアを解放してあげよう……ん? 俺今なんて言った?」


「まだカメリアのユニーク・スキルは働いてんのか。面倒だな、ミア、ラーダン、こいつが変な真似しないように押さえつけておいてくれ……いや、ミアはラーダンを見張ってろ」


 ラーダンの方をアウルムがチラリと見ると、今すぐにでも襲いかかろうとしているのが手に取るように分かった。


 これでは話が進まないとラーダンを制する。


「まず、聞きたいのはクラウン、お前、こいつの記憶を奪ったか?」


「へ? 俺こんなやつのこと知らんすけどぉッ……ちょっと待ったッ! よく考えると……やっぱ知らないねぇッ!」


「コイツッ!」


「わー! お師匠堪えて堪えてッ!」


 ミアはラーダンを羽交締めにしてなんとかクラウンを攻撃しないように努力をする。


「まあ、ザックリ説明するとこいつは記憶がない。だが、クラウンってやつのことを曖昧に覚えててな、どうやらその記憶喪失にお前が関わってると見て、記憶を取り戻す為にお前に会いに来たんだが……知らないとはな」


「嘘をついているに決まっているッ!」


 ラーダンはミアを引きずりながら、クラウンの胸ぐらを掴んだ。と思えば、ラーダンの手にあったのは花。


「ちょっ……こいつ何なのッ!? ヤクモに手出さないでよね」


 ナナミが何か能力を使ってクラウンと花を入れ替えるマジックのようなことをしたのが分かった。


「言っとくけど、記憶がないのはヤクモも同じだからね。そもそもヤクモはクラウンなんて名乗ってなかったのよッ!」


「何……?」


「どういうことや……?」


 ナナミから出たのは種でも仕掛けでもなく、予想外の一言だった。


 聞いてみると、ヤクモ・カタクラはある時期、急に姿を消した。


 この2人は双子であり、どこへ行くのも常に同じで魔王との戦いを生き延びてきた。


 ある日、突如ヤクモが姿を消してナナミはパニックになる。


 必死で捜索している途中、どこからともなくいきなり姿を現して戻った。そんなことが何回もあった。


 初めて失踪から戻ってきた時、ヤクモの様子は普段と違っていた。気力がなく、グッタリとして常に苦しそうにしている。

 体調に異常があるわけではなく、精神的な異常。


 常に明るくひょうきんだったヤクモが寝たきりに等しい状態になるなど考えられなかったが、様子から察するに鬱状態だとナナミは理解した。


 しかし、あることに気がつく。


『クラウン』と言う言葉を聞くと、シャキッとして本来の状態に戻り、1日1時間だけ使えるユニーク・スキルと同じだけのタイムリミットがあると。


「待て、それが真実だとして何故クラウンが合言葉だと分かった?」


「私も最初は分からなかったわ。でも、このヤクモの顔……これ、ペイントじゃなくて刺青なのよね戻ってきた時に彫られてたの」


 ヤクモの顔には如何にもな道化師風のメイクがされている。その下にある顔は整っており、かなりイケメンの部類だとシルバは思ったが、それが刺青と聞くと驚く。


 普通はそこまでしない。自分がやったのか……? と聞くも真相は不明とのこと。


「それで私が偶然クラウンって言葉を口にしたら……こうなってた。

 そもそも……ユニーク・スキル自体も以前は違って、何もかも変わってたのよ」


 更に、クラウンは、ヤクモ・カタクラは1度目の失踪以前の記憶がないという。記憶があるのは『クラウン』になっている状態の時だけのものであり、鬱状態の時の記憶はほとんど残らないらしい。


 ある日とうとう行方不明になり、探しているうちに何故かこのバスベガでKTの奴隷になっているという噂を聞きつけてナナミはやってきた。


「おいおい……風向きが変わってきたでこれ」


 クラウンを見つけ、脅すなりしてラーダンの記憶を取り戻す、シンプルにこれで解決出来ると全員が思っていた。


 だが、既にタイムリミットが切れて鬱状態になり、地面に寝転んでいるクラウンから話を聞くことも出来ないし、ナナミが言うにはそこまで長期的に記憶を奪い続けること自体、この能力では不可能だということだった。


「……殺すべきか?」


「いや、ハッタリにしても、やるべきじゃないだろうな」


 ラーダンは迷いながらアウルムに確認する。しかし本人も分かってはいるようで、今ここでクラウンと呼ばれている男を殺しても意味がない。


 むしろ、殺すことで後から何か分かったら取り返しがつかないと。


(だとすると……ラーダンの記憶の残滓は偽のものを埋め込まれていて罠だったか? しかし何が目的だ? ラーダンにクラウンを殺させること? 分からないことが多過ぎる嫌な感じだ……)


 アウルムの記憶回復させる前の懸念は当たっていた。どうにも仕組まれているような気がしてならない。


 何者かの筋書きに組み込まれて役を演じさせられているような違和感。


 そもそも、クラウンを一切自称しておらず、他者からの『クラウン』という合言葉で起動し、クラウンを演じさせられているヤクモ・カタクラは話を聞いている限り、被害者だ。


 だが、闇の神のブラックリストにはファイルNo.1として『クラウン』の名が乗っている。


 つまり、誰かが『クラウン』という犯罪者を作り上げた。


 ──ヤクモ・カタクラはクラウンに『させられて』いる。


 ユニーク・スキルも人格も変えてしまうことが本当に出来るのか? そういうユニーク・スキルがあるのか?


 分からない。だが、あり得る話ではある。


 というのが、現在予測出来ること。


「取り敢えず、お互い殺し合いはメリットがない。こっちもクラウン……ヤクモか? が死んだら困るってのは分かるなあ? だから、一旦カメリアはこっちで身柄預かるけど、奴隷契約は解除させる。それでええよなあ?」


 シルバが話をまとめてナナミに提案する。


 これしかない。現実的な落とし所だと全員が納得する。


 ヤクモ・カタクラが死なれては困るという事情を共有出来たのなら、ナナミはアウルムたちが奴隷契約を解除する前にカメリアを殺すことはない、ということが分かる。


「一先ず話は終わりで解散だ。2日後には契約解除した書類をお前たちに届ける。場所は丁度48時間後、この場所でだ」


「今回は嘘つかないでよ?」


「嘘はついていない、お前が勝手に勘違いしただけだ。それに今回は本当に契約を解除させるだけで終わりだ。今のところ争うつもりはない」


 ナナミはヤクモを背負いどこかへと一瞬で消えた。


「しかし……私はこれからどうすれば良いんだ」


 問題は手がかりが消えたラーダンである。これまでずっとクラウンを探していたが、そのクラウンに解決能力がないとなると記憶を取り戻す術がない。


 下を向いて露骨にガッカリしていた。取り敢えず、落ち込んだラーダンをミアが引き取りホテルへと戻って行った。


「フォガスト、話はついたか」


「ああ、話はついた。シャンシーは俺様のお友達だ。仲良くやっていけそうだ。今日から俺様がこのバスベガの王だ」


 ラーダンとミアが消え、アウルムがフォガストに話しかけると、フォガストは嫌がり顔色の悪いシャンシーと肩を組み、ニンマリと悪い笑みを浮かべて答えた。


「そうか、だが約束は守れよ。何の為にお前を王座に座らせたのか……忘れるな?」


「ハッ! 俺様をそこらのゴロツキ連中と一緒にするんじゃあないぞ若造がッ!

 ここでは薄汚い仕事しなくとも、普通にやってりゃ馬鹿みてえに儲かるんだ。俺様は馬鹿なことを考える連中を取り締まってるだけで良いんだよ!」


 アウルムとフォガストの契約。


 KTとカメリアを殺した後のこの街の統治についてであり、王として君臨させる代わりにちゃんと統治し、仕事内容を引き継ぐこと。


 フォガストは現代世界の倫理観、法律に当てはめれば反社会的な人物である。


 しかし、この世界においてはそれは実情とは少し異なる。


 手荒なところはあるが、道理、超えてはならない一線というものを理解しており、乱暴もこの世界において──上に立つ者においては常識的な範囲である。


 時に、この世界では暴力、恐怖という原始的な方法での解決がどうしても必要になる。


 フォガストはそんなこの世界的価値観に照らし合わせるのであれば、比較的まともである。


 シルバが言うところ、『筋は通す』が出来る人物。


 経営、指導者としての手腕は間違いなく、下手な人物に──カメリアやKTのような勇者に今後のバスベガを任せるよりはフォガストを王とした方が『マシ』という判断の元で、取り決めがされていた。


「そうか、では我々は行く。妙な真似はするな?」


「しねえよお、そうだロアノークによろしくな。その時は『3人』で飯でも食おうじゃないか」


「……ああ、近いうちに金は受け取らせる」


 アウルムはカメリアの頭髪を掴みながら、シルバと共に消えていく。


 ブラックリスト勇者──残り14人。変化なし。


 1名、討伐保留

 ファイルナンバー1『クラウン──片倉 八雲(カタクラ・ヤクモ)

 被害者数:???人


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