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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
7章 マニー,マニー,マニー
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7-20話 三欲会議


 オークションの3日後、このバスベガを支配する金、暴力、SEXによる三欲が一堂に介する。

 今回のオークションの収益に関する報告、会議が執り行われ、これから先のバスベガの運営方針や発言権などに影響が出る1年の中で最も重要な会議である。


 会場はオークションが行われたのと同じ建物。その中には会議に出席する代表とその護衛のみが出入りを許され、建物の外には厳重な警備がされる。


 警備はとある傭兵団。どの勢力にも加担せず、完全な中立を保つ外部の組織。これはオークションの運営と同じである。


「あ〜らお久しぶりね、会頭さん」


「これはこれはカメリアちゃん……相変わらず眩しいほどの美しさねぇ〜……あら、それ私がプレゼントしたドレスじゃない? 似合ってるわ〜」


「まあ! ありがとうこれ手触りが良くって気に入ってるのよ。それにして相変わらず凄いファッションね」


「マイブームなの」


 既に会議室に到着していたカメリアが声をかけたのは、東の大国ジンクァ及びその周辺国にて最大の勢力を誇る商人組合の会頭、シャンシー。


 煌びやかなドワーフ製の宝飾品と薄い布を羽織り、上半身は透けた布を肩から掛けている。

 その中でも特徴的なのが、乳首に宝石を埋め込み、そこからプラプラと2本の金のチェーンを垂らして1本はわざと短く上側でやや窪んだカーブを描き、1本は長めで深いV字を描き、胸の間にハートの形を作っている独特のファッションである。


 弁髪のような両サイドを刈り込み、三つ編みにした髪型で、顎ヒゲもまた三つ編みにされており、髪とヒゲの先端が結ばれて顔の横に二つの輪が出来ている。


 ヒゲ、ということはつまり、シャンシーは男である。それもラーダンよりも巨体で2mを超えている大柄な男であるが、仕草、口調は女性的で彼が大商人ということを知らなければ変態であると人々は思う出立ちである。


「あらKTちゃんの方はまだ来てないのね? 風の噂で聞いたんだけど、あそこはゴタゴタしてるみたいねえ。やぁねぇ男って乱暴で……」


「でも彼は面白いものをオークションに出品してくれたからお礼を言いたいわね」


「その後ろにいる子ね? 護衛にしては物騒な鎖ねぇ」


「僕の噂話ですか?」


 KTはいつの間にか、会議室の壁にもたれかかり姿を現した。


「ほ〜ら来た♡ 噂をしたら来ると思ったのよ。じゃあさっさと会議を始めましょうか」


 開けた空間の無駄遣いとも思えるほど、机と椅子が並べられた会議室の中心。そこに三人は着席した。


 ***


「ふぅん……そろそろか。ちょっと待て、なんだそいつのふざけた変装はッ!」


「……私か? 顔を隠せという指示があったから手頃な布で目を隠しているのが何か問題か?」


 フォガストはラーダンの奇妙な格好に気がつく。


「馬鹿ッ! 布が薄過ぎて布の奥の目が丸見えなんだよッ! 意味がないだろうが……! もはやただの変態だ! オイレ大丈夫なのかこいつは!」


「戦闘力は本物だ。どうせ誰も生きて返すつもりはないのだから同じことだ」


「もう良い、こんなことで一々腹を立てても始まらん」

 

「……それで、あの厳重な警備を掻い潜って会議で大立ち回りする方法についてはついぞ、喋らなかったが何か策はあるんだろうな?」


「ハッ! この俺様が奈落から抜け出して真っ直ぐこの街に向かわなかったのにはちゃんと理由があるのさ、何の準備も無しに乗っ取られた組織を取り返せるわけがないだろうが!」


 フォガストはネクタイを締め直し自信満々にアウルムに笑いかける。


 そして、指を弾いた。


「あのクソガキのせいで損した奴らとお友達になったのさ。奴をぶっ殺す計画があると言えば皆鼻息荒くして乗ってきた」


 フォガストが指の合図をすると同時に商人や冒険者の装束をしていた者が次々と現れ武装をしている。


 気配察知に優れたシルバ以外のメンバーはこの集団に気がついていたが、念の為の確認としてアウルムは質問していた。


「止まれッ! 現在会議中でありこの建物には関係者以外立ち入ることは出来ないッ!」


「止まらなかったら?」


「死んでもらう」


「なあ、ダイン……ダインだよなあ? 手間をかけさせないでくれ。さっさとそこを退いてくれたら悪いようにはしない。なんなら小遣いもくれてやる」


「な、何故俺の名前を……いやッ! 待てッ! その顔……フォガストか!? 何を考えている! 我々の戦闘力は知っているはずだ!」


「ああ、知ってる。鉄血傭兵団のことはもちろん知っている。というか知られ過ぎている。だから、お前たちを確実に無力化出来る頭数を揃えることも俺様にかかっちゃ、そう難しくないんだよ」


 フォガストがニヤリと笑い両手を広げると建物をグルリと囲めるほどの人相の良くない連中が集まりだして、武器を構えた。


「な、なんだ……この人数は……」


「合図一つだ。俺様がもう一度パチィンと指を鳴らしたらお前ら全員皆殺し。ちょっと手間だが邪魔をするというなら仕方ない。

 まあ、ここで投降したら名誉とか信頼は地に堕ちるだろうが、死ぬのだから心配する必要もあるまい。

 俺様なら、ここは諦めてまた次の機会を狙うがなあ。あのシャイナの秘密の監獄にぶち込まれてこうやって舞い戻った俺が言うのだから説得力はあるだろう?」


 フォガストは左手を顔の前に出して、いつでも指を鳴らしても良いんだぞと傭兵団の団長であるダインにアピールをした。


「…………俺たちの仕事はこの建物に侵入する者を許さないことだ……ただ、元からネズミが侵入していて、そのネズミが中にいる者に牙を向いた時、守るのは護衛の仕事だ」


「話が早くて助かる」


 傭兵団は道を開けてフォガスト一行が通ることを黙認した。


「こういう時は勇者の言葉で『開けゴマ』なんて言うんだったかなハハハハッ! ああ、そうだ……苦しませずにそいつらを殺せ」


 通路の先で振り返ったフォガストが指を鳴らした。


「ッ!? フォガストッ! 話が違うぞ……!?」


 ダインは目を剥いて血相を変えながら叫ぶ。


「悪いようにしないってのは拷問したりはしないって意味だ。約束するなら内容をちゃんと確認しておくべきだったなあ」


 目撃者を生かして置くわけがないだろうと笑いながらフォガストはアウルムたちを連れて会議室へと向かった。


 ***


「なんだか外が騒がしい気がするのは私の気のせいかしらぁん?」


「ほぼ間違いなく僕のお客さんでしょうね。いやあ、まさか鉄血傭兵団の警備を強行突破するとは思いませんでしたよ」


 シャンシーが外の戦闘による叫び声に気がつき、KTは呑気に笑う。


「KTちゃん、他人事みたいに言ってるけど笑えないわよ?」


「仕方ないじゃないですか、ここ最近僕の手足も耳と目も潰されてまるで外の情報が掴めないんですもん。

 変なのに追われ続けるのも気持ち悪いですし、下手にウロつくよりここに来た方がまだ安全かと。

 露払いしてスッキリした状態でこの街を出たいですからね。目当てのものは手に入りましたし」


「あんた! 私たちを裏切るつもり!?」


「いやだな〜僕たち仲間じゃないですか? 裏切ろうだなんて心外だなあ。協力して敵をやっつけましょうよ!」


「ふざけんじゃないわよ!」


 シャンシーが立ち上がり、腕力で机をぶっ叩いたことで、机は真っ二つに割れた。


「シャンシー、確かにこいつはふざけてるわ。でもそうは言っても敵がここに乗り込んでくるのは時間の問題。フォガストと揉めているのは分かってるし、彼が私たちを見逃すとも思えないわ。

 大体、会議を潰されたら私たちのメンツも地の底まで落ちるもの、やるしかないんじゃない?」


「カメリア……あんた……」


「その為に私たちは大金払って世界中から腕利きの護衛を雇っているんでしょう? 数なんて問題ないくらいの腕利きをね。正直、あなたが異性愛者なら私のペットにしたいくらいだわシャンシー」


「あら、ありがとうカメリア。はあ……行きなさい」


 シャンシーは顎で護衛たちに侵入者の排除を命令する。


 それとほぼ同時だった。扉が開いたのだ。想定していたよりも侵入者の来るタイミングが早かった。


「やあ諸君ッ! 少し遅れたようだな?」


 フォガストが鷹揚に会議室に入ってきて、やや間を溜めてから挨拶をする。


「あ〜ら、フォガスト本人が来ちゃったのね」


「シャンシー、相変わらず訳の分からん格好をしているなお前はいっそ道化師の連中に仲間入りした方が良いだろう」


「そっちこそ、まだガキみたいなチビのまんまなのね」


 フォガストとシャンシーは互いに挑発をして互いの見た目を笑う。


「たった5人……その後ろにいる人たちが僕の組織をぶっ壊したんですね。何者なんですかフォガストさん」


「顔は変えてるがその舐めた喋り方は変わらんようだなKT。こいつらが何者かはどうでも良い。こいつらが何をするかが問題だ」


「僕たちを殺しに来たんでしょう?」


「勝手に巻き込まないでくれるかしら? 僕たちじゃなくて、あんた1人でしょうがっ!」


「いや、この際面倒だからお前らは全員この場で始末して街の大掃除を俺様の復活記念とさせてもらおう」


 膠着状態。フォガスト、KT、シャンシーは睨み合い、しばらくの間無言による静寂が続いた。


 その静寂を破ったのはカメリア。


「じゃあ私は上の階でお客様をお待ちしているわね。私には関係のない話だもの」


「あなたは高いところが好きねえ」


「それじゃあ皆様頑張ってくださいまs──ッ!」


「ヤクモを返せこの腐れビッチがぁッ!」


「あの子ッ!?」


 ミアと一度戦った奇術師が突如現れてカメリアの背後を奇襲した。

 護衛の1人がすぐに反応して身を呈してカメリアを守る。


「おおっと、これはもうめちゃくちゃですねえ。ナナミさんまで乱入とは」


 ナナミ・カタクラ、それが奇術師の本名であり、クラウンことヤクモ・カタクラの双子の姉である。


「落ち着いてよ、ナナミちゃん。彼はもう私の所有物……でも、今そんなことは言ってられないでしょう? 私が死んだら彼も死ぬ契約をしてるからね。あいつらをぶっ殺したら正規の方法で無料であなたに差し上げるわ。どうかしら?」


「チッ……やっぱり契約魔法使ってるのね」


「もちろんあなたが血眼で彼を奪い返すのは分かりきっていたから対策はするわよ。さあ、ナナミちゃん、『クラウン』、侵入者を排除して」


 カメリアがクラウンに装着していた拘束を解除する。そして、クラウンと呼ばれた瞬間傀儡のように目が虚ろだったヤクモ・カタクラの瞳に生気が宿るのを感じた。


「させるかッ!」


 ラーダンはクラウンが戦闘モードに入ったことに誰よりも早く反応して急接近し、拳で弾き飛ばした。


 壁に激突して、煙をもうもうとあげながら見えたのは人型に綺麗に凹んだ壁と、ペラペラの紙のように薄くなったクラウン。


「おーいおい、いきなり慌てちゃってさぁ〜どったの〜センセイ? ありゃ、ペラペラになっちゃってらぁ! ちょっとタンマ〜!」


 クラウンは親指を口に入れて風船のように自身の身体を膨らませた。


「なんだコイツはッ!? まるで手応えがなかったぞ」


「じゃ、後はよろしくね〜」


 カメリアは笑いながら螺旋階段を登って上の階へと足を進める。


「させないわよッ!」


「あんたの相手は私ッ! 今回は本気で行くよッ!」


 カメリアを追おうとするミアを奇術師のナナミが邪魔をする。


 ラーダンとクラウン、ミアとナナミの戦闘が始まった。


 対して、その状況を静観していたのはフォガスト、アウルム、シルバ、KT、シャンシーである。


「おや……君、カジノにいた商人では?」


「ほう、私の変装を見破るとはなKT。貴様の相手は私だ」


 KTがアウルムに向かって話しかけた。


「わざわざ孤児院まで見学に来たのはそれが理由でしたか……ま、それは彼らが許すならばって話でしょうね」


 アウルムの背後から同時にシャンシーの護衛が攻撃を仕掛けた。


「俺の相棒が話してる途中や」


 シルバがその攻撃を剣でガードする。


「カズア、こいつらは良い。カメリアの方に行け」


 アウルムはシルバを偽名で呼び、1人だけ安全な場所に移動したカメリアを追うように指示をして、シルバは離脱した。


「彼らは全員S級の冒険者ですけど大した自信ですね」


「笑ってられるのも今のうちだ、タクマ・キデモン」


「では今のうちだけでも笑っておくとしましょうか」


「言ってろ。すぐにその顔は恐怖で歪む」


 アウルムはシャンシーの護衛に囲まれて、その先でユニーク・スキルで鎌を取り出したKTに槍を向けた。


「……さあ、シャンシー、俺様たちはどうやら暇なようだが」


「何なのよこれは……話を聞いてたらカメリアちゃんとKTちゃん狙いじゃない! 私全然関係ないじゃない!?」


 その状況を呆然と見ていたシャンシーにフォガストはポーカーでもするかと、ポケットからカードを取り出しながら声をかけた。


 シャンシーは完全なとばっちりだと声を荒げる。


「あの小僧が無茶苦茶した裏で手助けして、散々甘い汁を啜った野郎が被害者ヅラか? せっかく俺様が育てた縄張り……土壌に塩を撒くような真似をしておいて知らんというのは無理があるとは思わないか?」


「言っとくけど、私を殺しても得はないわよ……じきにあなたたち全員死ぬけどね」


「あんな雑魚相手に俺様の助っ人がやられると思っているなら、商人として必要な素養の目も曇ったということか……ヒューマンの老いる速度は速いな……悲しいが引退するべきだろう。さっ、それまでの間遊ぼうじゃないか」


「……話をしましょう」


「ハハァッ! ヒューマンは老いるのも話も早くて助かる」


 フォガストとシャンシーは部屋の中央、壊れた机のある場所に座り込んで話し合いを始めた。

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