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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
7章 マニー,マニー,マニー
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7-15話 カメリアの署名


 パルコスと別れて、調べれられる範囲で調べると約束をして、数時間後のことだった。


「クソッ……遅かったか……!」


「最善は尽くした。失敗ではない……だから、そうやって自分を責めるな」


「でもよぉ! 俺らがもうちょっと早ければ間に合ったかも……そうやろ!?」


「仮定の話をいくらしたところで意味がない。間に合わなかった。次に活かす、それしかない……」


 アウルムとシルバは布に包まれた男性の死体をゴミ捨て場で発見した。


 周囲には何でも食べる掃除役のスライムがウネウネと動いて、今も生ゴミや、排泄物を食べている。


 その周りにはブンブンと不快な羽音を鳴らすハエが飛び回る。


「──パルムーンではなかった、それがパルコスにとっては唯一の救いだな」


 悔しさを見せながらも布を剥がして顔を確認した時、アウルムとシルバは実はホッとしていた。


 その死体はパルコスの父、パルムーンではなかったのだ。


「現時点では、やろ? これが次はパルムーンになる可能性は高い。そうちゃうんか」


「さあ……それはまず、彼が何故死んだかを知る必要がある。この男がカメリアに殺されたと断定できるような証拠がなければ、これは謎の死体のままだ」


「署名的行動、か」


 署名的行動。犯罪の手口などに一定の法則性が見られ、その犯行が同一の人物、または組織によってなされたものと判断出来るような行動。


 同じ凶器による傷や、現場に残すもの、ターゲットの傾向、など署名と呼ばれるような行動は多岐に渡る。


「──で、カメリアって判断するだけの証拠、署名的行動はあるんか?」


「いや、実はない。何故ならば俺たちはカメリアによって殺されたと思われる人たちの死体や現場を今まで一度も見たことがないのだからな」


「ということは……カメリアかは分からんけど、この死体から分かる情報から、犯人のプロファイリングするところからやな」


「これは死体なだけで、殺されたと決めるのは早計じゃないか?」


「引っ掛けやな。試してんのやろ俺を……まあ見てろ。俺の推理を披露したるわ」


 シルバは革手袋をアイテムボックスから取り出して、はめる。そして、死体の検分を始めた。


「防御創なし、爪に残留物なし、頭部等に外傷もなし、鼻、口、に異変は認められへん。……毒でもないな。酒は飲んどったみたいやが」


 まずは服を脱がせて、腕や背中を見ながら傷がないことを確認、口元を嗅いで、毒物の確認をする。


「え〜目に点状出血もないから、窒息……絞殺もなし」


 瞼をこじ開けて眼球及びその周辺を確認。


「腹部、下半身にも出血はなし……となると、解剖せんといかんか」


 通常のナイフよりも小ぶりのものを選択。肋骨から腹部にかけて切り裂く。肋骨を大きめの鋏で折り、臓器を調べる。


 胃を取り出して胃の内容物を確認。


「結構食ってるな……肉、パン、野菜……この街で食えるご馳走や。食後に殺してることから長時間の監禁による精神的な拷問もなし……ザッと見たところ殺されたようには見えんけど……」


「お前、意図的に避けてる箇所があるな? カメリアつまり娼婦がらみの殺人ならば絶対に確認するべき箇所を」


「……チッ、分かってるわ。あ〜なんでおっさんのちんぽこ見なあかんねん滅入るわ」


 既に全裸となっている死体の陰部を口角をヒクつかせながら、シルバは調べる。


「最悪ッ……精液の匂いする……オエッ……自分以外のこれの匂い嗅ぐの無理過ぎる……」


「……ふん、これは妙なことを言うな? 俺からしたら娼婦の膣などその『自分以外の』精液で汚染されてるようなものだと思うが?」


 妻ならまだしも、不特定多数の男と寝ることが仕事の娼婦と遊ぶシルバが何を言うのだとアウルムは鼻で笑い、真剣に疑問に思った。


「それとこれは全然別や!」


「そうか? よく分からんな……」


「お前どんだけ女嫌いやねん」


「女も娼婦も嫌いな訳ではない。……『女』を売りにしてる人間やそれしか取り柄がない人間が嫌いなだけだ。あと性的な部分を利用して俺を操ろうとするやつもな」


「どうだか……さて、これはつまり『ヤッた後に』殺されてる。それもシャワーを浴びる間もなくということやが……肝心の死因が分からん……となると、脳か心臓がやられたと思うんやが合ってるか?」


 シルバが分かる範囲での考察はここらへんが限界だった。だが、アウルムは思っていたよりもしっかり見ていると感心する。


 実際、この男の死因は心臓麻痺であり、殆ど正解に1人で辿り着いている。


「心臓麻痺ィ? やっぱり毒盛られてるんか? それとも不健康な生活してるとか持病なだけで殺されてないってオチかいな!?」


「いや、おそらく……可能性の話だが……テクノブレイクだろう」


「ハァ〜ァッ!? テクノブレイクゥ〜ッ!? おいおい、あんなもんやろうと思ってやれるもんでもないやろうが!」


 テクノブレイク──過度なマスターベーションや性行為によって突然死することであり、日本では腹上死なとども呼ばれる医学用語ですらない、都市伝説のようなもの。


 一般的にはあり得ないとされる死に方ではあるが、ここは魔法があり、モンスターが住む異世界。


 ユニーク・スキルを持つ勇者がいるここではあり得ないと断ずることこそが、あり得ないのだ。


 飛躍した発想すらも時には求められる。


 様々な要素を考慮し、アウルムが出した答えは過度なオーガズムを繰り返したことによる心臓への強烈な負担によるもの。


 シャーロック・ホームズ曰く『全ての不可能を除外して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実である』


 この奇妙な事実が都市伝説で、医学的に根拠の見られないとされる『テクノブレイク』であっても、もっとも考えられる死因がそれだった。


「面白い……」


「おい、人が死んでるのに面白いは不謹慎やろうが」


「ああ……いや、実に興味深いぞこれは……これが可能なのはカメリアしか考えられないが女の殺人で性的サディズム……性的快感を感じての殺人、これは非常に珍しい……! セックスの後に殺す、またはセックスで殺す……それを可能とするのはユニーク・スキルか……」


 死体を前にしての興奮、娼婦とのセックスよりも、娼婦のセックスによる殺人に対して興奮する相棒に何と言葉を返せばいいのかシルバは分からなかった。


「おいっ! 聞いてるのか!?」


「あ、ああ……聞いてるけど、俺の未来がこれって思うとお前みたいに無邪気に笑えへんわ」


「……忘れてた! おいっ! マズイぞ……!?」


「『マズイぞッ!?』 ちゃうねん! ふざけんなお前。真面目にプロファイリングやろうや」


「ああ、すまないな」


 犯行の手口から興奮したアウルムは本気でシルバもこうなるかも知れない、という事実が頭から抜け落ちていたようで反省を見せる。


 いや、反省する真似でしかなかった。目が輝いているのだ。


「猿でも反省する真似だけやったら出来るぞ!」


「分かった分かった。まず、死体の捨て場所だが見ての通りゴミ捨て場だ。ここから、殺した相手のことをどう認識しているのかということも見えてくる」


「文字通りゴミのように思ってる……か?」


「だが、矛盾してることもある。服を着せて、布に包む。死体を傷つけることもせずに、扱い自体は極めて丁寧だ」


 性的な暴行が見られる死体は裸、半裸等で発見されることが多く、わざわざ服を着せているケースからは読み取れることも多いとアウルムは続ける。


「それってさあ、後悔の念があるってことか?」


「普通は後悔または自分の行いを恥じて、ということが多いんだが、その『普通』が女のシリアルキラーには当てはまらないんだよ。というか男基準で考えるべきではないだろう。


 俺はそうだな……例えばポテトチップの袋を畳んで捨てるような……ゴミはゴミとしか思ってないが、扱い自体は上品に。

 自分の犯行をまるで悪いことなどの感情を抱かずに処理した結果こうなった。そんな印象を抱いたな」


 ゴミの扱い一つでそこまで個性が出る。


「よく分からんな、混乱してきた。まず、セックスがストレス要因にはなってなくて、セックスはしてると。


 で、性器などに対する暴行がなく、快感を与え続けて負担をかけ、殺す。精神的な支配、快感が目的か?


 それとも……セックスが殺しの儀式……儀式的な殺しってあるんやろ? それか……いやでもこれって何かに似てるって言うか既視感があるって言うか……」


「儀式か……確かにある種の儀式的な要素はあるのかも知れない。丁寧に服を着せて、布で包みゴミ捨て場に捨てるという行為自体に意味があるのかもな……一度、何故彼がターゲットにされたのか、獲物の選定はどうやっていたのか、その辺りも考えないとだな」


「あ〜ッ! 分かった! カマキリのメスやッ! やった後に殺すってカマキリのメスやんッ! 食ってはないけどさッ!」


「カマキリのメス……なるほど、それは言い得て妙だ」


 突然のシルバの叫びにピクリと反応したアウルムだったが、そのシルバの『カマキリのメス』という指摘は参考になると同意した。


 カマキリのメスが交尾後にオスを食べる確率は15%前後とイメージよりは低く、その理由は産卵に消費する栄養、アミノ酸の摂取の為であるとされる。


 そこで、アウルムも引っかかっていたセックスをする理由。

 それも性的な快楽の為の殺人は女のシリアルキラーには基本的に見られず、殺人は手段であり、目的である確率が低い。

 にも関わらずセックスをしているという事実から、ある仮説が発生する。


「もしかして、カメリアは精液がスキルの栄養になってやがんのか……?」


「うわ、ありそうやでそれ。何の制約もないユニーク・スキルってまずないし、俺にキスとかしたのが魅了のトリガーやとして、その後支配し続ける為には精液の定期的な摂取が必要ってのは、おかしくない話や」


「いや、待て……カメリアは全ての寝た相手を殺してるわけではないんだ……つまりスキルを使う相手も、殺す相手も選んでいる……」


「それって同じことちゃうんか?」


「いや違う! 奴はイケメンだとか、権力者だとか、ボディガードを周りにおいてるだろ、そいつらは死んでないがカメリアが選んだ相手だ。ツキビトとか言われてるやつらだな。


 単に個人的なタイプって訳でもなく、割と実利の面を考慮してバランスを取った布陣だ。で、彼らを金銭で雇ってるのか? いや、魅力して裏切らないように対策したいはずだ。そこでスキルを持続して洗脳状態のままってのはあまりにも強力過ぎる。


 何かしらの対価が必要なはずだ……」


 時間や魔力、回数制限など何かしらのリソースを要求されるというのがユニーク・スキルの相場であり、発動条件が細かく、限定されているものもある。


 それがノーリスクで常時発動、キス程度で可能となるのは考えにくい。もしそれが可能なのであれば、アウルムとシルバはお手上げとなるほどにカメリアは強力なスキルの持ち主だ。


「それが精液かぁ〜? ってぇことはやで、もしそれが合ってたとしたら、パルムーンは殺しのターゲットじゃなくて手駒として生存してる可能性も出てくるよな?」


「だな……淡い希望ではあるが。しかしだ、そう考えると見えてくるものがある。カメリアは男を集めることによりパワーを感じている。その行動原理があるのは間違いないだろう。能力確認型の可能性もあるか……」


「しかし……結局のところ、それじゃあカメリアの動機、殺す方のターゲットの選定方法が分からんままやないか?」


 色々と分かって来たこともあるが、まだ確信には迫れず重要な情報がチラホラと欠如していることにシルバはむず痒さ、歯痒さのようなものを感じた。


「だから最初に言っただろ、俺たちは手がかりがこの死体しかないのだ、と。プロファイリングってのはこういう犠牲者が増えるほどにこちらが得られる情報も増える、あっちが動けば動くほどに有利になるもんなんだよ。

 そして十分な情報を得るのは、どこかのタイミングで先回りして次の犯行を止める為だ」


 時には待つしかない。


 基本的に事件が起こってから対応するという常に後手からのスタートとなるのは犯罪捜査という性質上避けられない。

 そこで慌ててしまえば捕まえられるものも捕まえられなくなる。


 俺たちには冷静さと忍耐力がもっとも要求される、とアウルムはつけ加えた。


「具体的に、今後どうするんや?」


「どうもこうもないな、待つしか。

 今カメリアの拠点を襲撃するのはリスクしかない。

 いるかどうかも不確定なパルムーンを救う為ではな……明日のオークション、そしてその3日後に開かれる三欲の代表者による決算会議がチャンスか」


「カメリアが表に出てくるとしたらそこか」


「だが、これらの犯罪が全てカメリアのものによるという確証、そして証拠までは得られていないところが問題だな……今となってはお前の手の甲に付着した唾液は洗い流すのではなくデータを取っておくべきだった。

 あれは俺の明確な失敗だ……」


「カメリアだけじゃなくてKT、クラウンにも注意しなあかんし、オークションで免罪符やっけ? それもゲットせなあかんよなあ。俺らも出品するし……これはキツイで……ハードなスケジュールになりそうや」


 シルバは指折り、今後やるべきことを確認してその多さ、前途多難さに頭を抱えた。


「後でもう少し調べてみる……見落としがあるかも知れんからな」


「おう、でも睡眠はしっかり取れよ?」


「分かっている」


 2人は死体を回収してゴミ捨て場を後にした。

いつもありがとうございます。今回で丁度7章の折り返しになります、後15話お付き合いください。


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